日本共産党 田村智子
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【12.07.31】厚生労働委員会――労働契約法「改正」法案

法改正を理由にしたシャノアールの「雇い止め」を告発

○田村智子 日本共産党の田村智子です。
 この労働契約法案については、各労働団体やあるいは日本弁護士会など法曹界からも抜本的な修正を求める意見あるいは本法案の撤回を求める意見、多数寄せられています。これからの働き方というにとどまらず、日本社会全体に大きな影響を及ぼすこういう重要な法案を僅か2時間程度の審議で採決をしてしまうと、このことにまず強く抗議をしたいと思います。
 法案審議の前提として、まず大臣にお聞きいたします。
 日本の雇用の在り方について、私たち日本共産党は、正規雇用、期限の定めのない雇用が基本であり、有期契約というのは合理的な理由がある場合の例外的な雇用形態であるべきだと考えています。ところが、現在、国家戦略会議フロンティア分科会では日本のこれからの経済や雇用の在り方について議論が行われていて、その中では、今後の日本の雇用は有期雇用を基本とすること、あるいは40歳定年制などが主張されています。
 労働行政の責任者として、大臣は正規雇用が基本であるという立場をお取りになるのかどうか、お答えください。

○小宮山洋子 厚生労働大臣 先ほどもお答えいたしましたけれども、やはり雇用の在り方の基本は期間の定めのない直接雇用であるということだと思っています。また、どのような働き方であっても公正な処遇が受けられるということが大事だと思っています。
 今回の法案は、もちろん理想の形ということからすれば一歩ということかもしれませんけれども、無期転換のルールですとか不合理な労働条件の禁止ということを盛り込んでいますし、そういう意味では、その処遇の改善や正社員に向けたステップアップとして一歩前進できる内容だと思います。
 そして、後段でおっしゃいましたフロンティア分科会の報告ですけれども、これはいろいろなところで多少やはり誤解を受けている、政府としての発表の仕方ももう少しそこはきめ細かに丁寧にやるべきだったのではないかと私も思っていますけれども、これは各界を代表する有識者からの提言ということで、有期を基本とした雇用契約、それからまた先ほどおっしゃった40歳定年制というのも、あれは75歳まで働くことを前提にして一つの在り方として考えられるという表現だったと思いますが、様々な角度から有識者の見識として問題提起をしていただいたものだと承知していますので、これが直ちに政府の方針となるわけではありません。これは、2050年の日本のあるべき姿ということで、個々の考え方を自由に述べていただいたものだと思っています。
 厚生労働省としましては、現在の有期契約労働者が置かれた状況から、この無期転換ルールなどを内容とするこの法案を提出をいたしましたので、まずはその一歩としてこの成立に御理解をいただきたいと思っています。

○田村智子 15分しかありませんので、短めにお願いします。
 無期直接雇用が望ましいというのであれば、有期雇用を限定的にする法制度、これどうしてもつくらなければ駄目なんですよね。しかし、その決定的な施策であるいわゆる入口規制、これは労政審では労働者側と企業側の意見が対立したままで法案に盛り込まれなかったと。
 衆議院の審議で大臣は、入口規制は有期労働の在り方を考える上で重要な論点だという認識を示しました。一方で、この法案は、見直しは施行から八年後だと。このままでは、有期雇用は更に拡大しかねないというか、していきますよ。これにどう歯止めを掛けるつもりなのか、八年先のことでいいのか、どうしようとしているのか、端的でいいですから、お答えください。

○小宮山洋子 厚生労働大臣 これは、入口規制というのは大事な論点だということは先ほども申し上げました。ただ、今回、先ほども幾つか理由を申し上げましたけれども、労働政策審議会の中では今回盛り込むという結論に至らなかったということなので、今回はその建議に基づいて法案を提出をいたしました。
 8年が長いということは、結局、5年たったら契約、今度は無期に転換というので、それがスタートするのが五年後なんですね。それから3年後の見直しということなので8年ということになっていますが、その間にも何もしないということではなくて、必要なことはしっかりと対応していきたいというふうに考えています。

○田村智子 やってもらわなければ困るんですけれども、何がやられるのか全く分からないんですね。
 有期雇用の期間5年を超えて雇用契約が結ばれた場合、その契約の終了までに労働者が申し出れば無期雇用に転換すると、これは確かにこの法案の核心です。この無期雇用への転換までに何年掛かるのかということが大変重要な条件になるわけですね。衆議院の議論では、何で5年なのかと問われて、やっぱり労政審で五年だったからと、これしか示されない。労働者にとって大変重要な問題です。
 法律にする以上は、5年とした根拠をもっとまともに説明すべきだと思いますが、いかがですか。

○西村智奈美 副大臣 無期転換までのルールの要件を通算契約期間が5年を超える場合といたしましたのは、有期労働契約の反復更新による濫用を防止する必要があるというその一方で、有期労働契約が雇用機会の確保などに一定の役割を果たしていることとのバランスを慎重に考慮したものであります。
 労政審の議論では、具体的な年数については、これは委員御指摘のとおりいろいろ議論がございました。労側からは1年から3年、使側からは7年から10年との意見がありましたけれども、最終的には、公労使一致の建議として五年で合意がされたものでございます。

○田村智子 まるで折衷案で5年だと言わんばかりの法案なんですね。こんなことに労働者の人生、左右されたらたまらないと思います。
 雇い止めの裁判などを闘ってきた労働組合からは、有期雇用の上限が5年というふうにされれば、企業はますます労働者を使い捨てしやすくなるんじゃないかと、こういう指摘があります。今は、判例などから、3年を超えての雇い止めは裁判に訴えられたら負けるかもしれないと、それで企業は2年10か月とか2年11か月での雇い止め、こういうケースがたくさんあります。しかし、これは企業にとっても、3年足らずで雇い止めにすると、せっかく仕事の技能を身に付けたところでいなくなっちゃう、言わば悩みの種でもあったわけですね。それが5年になれば、仕事を身に付ける、それなりの成果も上げる、更に次の労働者に技能や知識を伝授するということまで可能になってしまう、5年というのはそういう期間なんですよ。
 となれば、これからは5年で労働者を入れ替える、これスタンダードになる。こういう事態を起こさない歯止めはどこにあるんですか。

○西村智奈美 副大臣 今回は、雇い止め法理が法律に明記されるということになります。使用者が合理的理由のない雇い止めを回避する行動を取ることがこれによって促進されるほか、その趣旨を考慮した労使の話合いが促されると、これも十分期待されることであります。企業の実情に応じた無期転換の自主的ルールの整備が進むことも期待されます。
 改正法が成立した際には、法律に明文化されたこの雇い止め法理の趣旨と内容について周知徹底を図っていきまして、現場の労使にしっかりとそこは浸透させていきたいと考えています。

○田村智子 これ、雇い止め法理って強制力はないわけですよね。
 それで、これもう既に起きているんです。
 株式会社シャノアール、これ、シャノアールやベローチェ等の喫茶店を全国展開している企業ですけれども、全国のチェーン店で約五千人の非正規雇用の労働者が働いています。このシャノアールは、今年3月、突然、社内通達で、有期雇用の労働者に対して契約期間3か月の更新は15回を上限とすると、入社契約時から通算で4年の勤務をもって満了という方針を全ての店舗に徹底しました。現在4年を超えて働いている方々は、全て来年3月で雇い止めにするという方針です。
 7年以上働いてきたAさん、直接お話をお聞きしました。これまでは更新の上限はなかった、なぜ来年3月までなのかと管理職に問い合わせたと、そうすると、法律の改正に伴うものだと聞いていると、こういう説明をしているんです。Aさんは、お店の立ち上げから働いて、いいお店にしたいと意欲的に働いてきて店長代理にまでなっていると、自分は働き続ける意思だからこの不更新条項は認めないということでサインしていない、だけど、サインしなかったら仕事を失うかもしれないと泣く泣くサインをしている同僚を目の当たりにしているわけですね。
 大臣、この労働契約法が変わるということで、既に五年を超えないように雇い止めをするという新しい動きが起こっています。法施行後5年の話じゃないんです。8年の話でもないんです。こういう企業の対応は看過するわけにはいかないと思いますが、いかがですか。

○西村智奈美 副大臣 これは裁判例の一般的な傾向を申し上げるわけですけれども、一旦労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていた場合に、使用者が更新年数あるいは更新回数の上限などを一方的に宣言したことによって労働者の雇用継続への合理的な期待が失われることにはならないということだと裁判例の傾向からは申し上げることができます。
 また、あらかじめ設定された更新上限に達した場合でも、他の労働者の更新の状況など様々な事情を総合判断して雇い止めの可否が決せられるというのが、またこれ裁判例の傾向であるというふうに考えております。
 ですので、不更新条項を入れさえすれば雇い止め法理の適用が排除されるといった誤解を招くことがないように、従来の判例法理が変更されるものではないということを解釈通達などを通じて周知徹底を図ってまいりたいと考えています。

○田村智子 現に新しい動きで、今まで不更新条項なんか入れていなかった企業がこうやってやっているんですよ。
 例えばこのシャノアール、労働者が労働局などに訴えていったら、これ指導できるんですか。どうですか。

○金子順一 労働基準局長 個別のことでいろいろ御相談があれば、これは民事ルールでございますので我々の労働基準監督機関として指導するという性質のものではございませんが、総合労働相談コーナーなど、そういったことへの対応に当たって、労働局や労働基準監督署に窓口を設けておりますので、そういった相談があった場合には適切に対応していくことになると思います。

○田村智子 これ、労働基準法違反だったら労働基準監督署が捜査権を持って会社に入ることもできるんですよ、是正指導を強く行うことできるんですよ。だけど、非正規の労働者はそういう範疇にも入っていない。
 今回雇い止め法理を法制化したと言うけれども、これはどういうことかといったら、裁判で訴えたときに有利な条項が一つ法律の中にできましたよというだけのことなんですよ。今言ったみたいに、個別に訴えれば相談に乗ります、あっせんはやります。強い指導さえできないんですよ。私たち、入口規制もない、しかも5年だけじゃない、2年11か月の雇い止めを止めることもできないと、これで何で一歩前進と言えるのかということを大変怒りに思うわけです。
 もう一つ、クーリングの問題についてもお聞きします。クーリング、有期労働の契約期間を5年超えさせないために、5年たちそうになったら半年間期間を置いてまた有期契約やると。これを繰り返すということは自動車産業などで何回もやられてきたことです。マツダ自動車などでは、同じ作業をしているのに、有期の直接雇用、次には請負、それから派遣会社と転々と労働者を移転させて転籍させてまた戻すと、こういうやり方やられてきました。トヨタでも、2年11か月で一旦雇い止めは当たり前と。労働者は、次に雇ってもらえるというときに連絡欲しいから、労働者から往復はがきを会社に出して、会社側も経験者は使い勝手がいいからと、半年ほど期間が空いたらそろそろ来ませんかとその往復はがきが戻ってくると、こんなこと繰り返しているんですよ。まさに労働者の使い回しです。
 一体、このクーリング期間、無期転換を回避するためにやっては駄目だということですけれども、じゃ、企業が無期転換を回避する目的でやっているのかどうか、そうじゃなくて合理的な理由があるのかどうか、一体誰が判断するんですか。労働者はどこに告発とか申告とかできて、労働行政の側はどういう是正指導ができるのか、お答えください。

○西村智奈美 副大臣 雇い止め法理の適用を回避するために有期労働契約の反復更新の上限を設定するといったようなことは違法ではありませんが、継続的な能力形成を進める観点からは可能な限り避けていただくことが望ましいと考えております。
 今回の改正を契機として、まずは有期契約労働者の雇用管理の在り方について労使でよく話し合っていただいて、無期転換を含めた社内制度への改善への取組が進むことを期待しておりますし、また、先ほど局長が申し上げましたように、個別の事例になりますれば総合労働相談の窓口等々で対応をさせていただきたいと考えております。

○田村智子 ということは、労働者が訴え出るということはできるんですか、できないんですか。誰が判断するのか、もう一度お答えください。
 このクーリング期間の置き方は無期を回避するためだと、無期転換を回避するためだと、これは誰が判断するんですか、お答えください。

○金子順一 労働基準局長 最終的に紛争になった場合の最終的な判断ということになりますと、裁判での判断ということになろうかと思います。その前の段階で紛争が生じたことをできるだけ防止するために、いろいろな指導、助言でございますとか、そういったことに関しましては総合労働相談コーナーなどにおきまして適切に対応してまいりたいと考えております。

○田村智子 非正規労働者の皆さんはいっぱい裁判で闘っているんですよ。闘って闘って、物すごい苦労して、だからこういう裁判が、法律に生かしてほしいんだと、こういう思いで闘っている方いっぱいいらっしゃる。結局裁判で闘えと、私、これでは一歩前進なんてとても言えないと。
 まだまだ質問したいことを私半分残しているんですよ。全く時間足りない。こんなんで採決すべきじゃない。主張して、終わります。

労働契約法一部「改正」法案への反対討論

○田村智子 日本共産党を代表し、労働契約法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
 非正規労働者は、今や日本の労働者全体の三人に一人を占め、その生涯賃金は正規雇用の労働者の半分にしかなりません。この劣悪な雇用条件の根本に有期契約の問題があります。正規雇用と同様に基幹的、恒常的な仕事をしても、時給はほとんど上がらず、一時金も退職金もない、改善要求をすれば契約期限を盾に雇い止め、この不安定な有期雇用が広がれば、日本経済の発展が阻害され、社会保障制度の安定的な運営にも重大な支障を来すことは明らかです。
 増え続ける有期雇用のどこに問題があるのか、実態をつぶさに分析し、議論することが本法案の審議で求められていました。ところが、衆議院では三時間余り、参議院では更に短い二時間余りという僅かな時間で、労働者の意見も聞かずに採決、これでは本委員会の責務を放棄するに等しいと言わなければなりません。

 法案に反対する理由の第一は、有期労働契約の締結事由に関する規制、いわゆる入口規制の導入を見送ったことです。
 今日の有期雇用の広がりの根幹はここにあります。基幹的、日常的な業務を多くの有期契約の労働者が正規雇用の代替として担い、人件費抑制のためという企業の都合で低賃金、不安定な状態に置かれ続けています。今こそ無期雇用を原則とし、合理的理由のない有期契約を禁止するルールを確立すべきです。

 第二に、無期雇用への転換が実効性ある規定となっていないことです。
 五年を超えて有期労働契約を反復更新し、かつ労働者が申し出た場合というのでは、実質六年から七年、それ以上と掛かり、余りにも長過ぎます。契約更新回数に上限を定めた不更新契約の防止策もなく、五年未満での雇い止めが当然となりかねません。有期労働契約の更新の間に六か月間のクーリング期間を置けば雇用期間を通算しないとする条項は、使用者側に無期転換を回避する手法を与えるようなものです。また、無期転換の際、従前と同一の労働条件というのでは、無期雇用となっても処遇の改善につながらず、正社員とは違う低賃金の新たな非正規雇用を生み出すことになります。
 一年を超えれば無期雇用とみなすこと、無期転換の回避に歯止めを設けること、無期転換後の労働条件は当該正社員と同一とすることこそ求められています。

 第三に、均等待遇原則については、不合理と認められる中身が曖昧であり、職務の内容や配置変更の範囲等を考慮との規定では、対象となる労働者が極めて限定される懸念が大きく、実効性に欠けるものと言わざるを得ません。
 法案には多数の問題点があります。人間の使い捨てをやめさせる、安定した雇用によって労働者の能力を育てることこそ日本の経済社会の行き詰まりを打開する道である、そのための雇用のルールの確立こそ必要であることを主張し、反対討論を終わります。