日本共産党 田村智子
ニュース

【11.08.11】予算委員会――保育の規制緩和では子どもの命は守れない

子どもの死亡事故から「新システム」の問題点を追及

○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
 震災から今日で五か月目、改めて犠牲になられた皆様に哀悼の意を表したいと思います。
 この大震災の下で保育所が果たした役割、大変大きいものがあったと思います。津波被害に遭った陸前高田の保育園では、お昼寝中の子供たちを起こして身支度をさせて、乳児をおんぶして、保育士の皆さんが必死の努力で子供たちの命を守り抜きました。交通機能が麻痺した首都圏でも、翌日まで保育士の皆さんが子供たちに寄り添って保護者の帰りを待ち続けました。
 この震災を経て、改めて、保育は子供の命に直結をする大変責任のある仕事だという思いを私は強めていますけれども、総理、いかがでしょうか、認識をお伺いしたいと思います。

○内閣総理大臣(菅直人君) 私も、子供を、親御さんがなかなか遅くなって、あるいは深夜になってやっとたどり着いたときに保育所の皆さんがしっかりと守ってくれていたという、これは東京の例でありますが、そのお話もお聞きをいたしました。
 そういった意味で、今、田村議員がおっしゃることは私も全く同感であります。

○田村智子君 この大切な保育の制度を、今政府は子ども・子育て新システムで大きく変えようとしています。多くの保育関係者が、これは保育の質の低下につながるのではないかと、こういう危惧の声を上げているんです。
 問題の一つは、株式会社、NPO法人、その他多様な事業者をどんどん保育に参入させて保育施設の数を増やしていこうと、こうしていることです。今は非営利で公共性が高いところが保育を運営するというのが原則です。都道府県が保育を担うにふさわしいかどうか判断するということもできます。この大原則を変えようと。そして、保育の経験もない事業者とか利益重視の事業者がどんどん保育に参入してくる、こういうことが進みますと、私は、子供の命にかかわるような事態が起きてくるのではないかとやっぱり危惧をしているところです。
 今でも残念ながら保育所での死亡事故、これ毎年起きているんです。二〇〇四年四月から二〇一〇年十二月までの六年九か月で六十一人の子供が命を落としている。厚生労働省の発表文書には専門家として医師のコメントも載せられていますけれども、こういう指摘があるんです。保育体制の不備や観察不足があったと考えられる、そういう事例もあるんだと。
 厚生労働大臣にお聞きします。この現状を直視すれば、保育事業への参入のハードルを今よりも低くする、これはやるべきではないと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(細川律夫君) 子ども・子育て新システムにおきましては、今多くの待機児童が存在をいたしております。そういう中で、保育の量的な拡大を図るとともに、利用者がニーズに応じて多様な施設や事業を選択できるという、そういう仕組みを取るべきだということで、多様な事業主体の参入を認めることといたしております。
 その際、委員御指摘のような事態はこれは避けなければいけないということで、質の確保ということが必要でございますので、これは客観的な基準を定めまして、その基準を満たす、その満たしたところを都道府県がそういうところを指定を受けさすと、こういう参入の要件というのをいたしまして、さらに、数年ごとには指定を更新することで継続的に保育の質を担保していくということにいたしております。
 今回の子ども・子育て新システムは、全ての子供に質の高い幼児教育、保育を保障することを目的としておりまして、新しい制度によりまして保育の質が下がるようなことがないように引き続き検討を進めてまいりたいと、このように考えております。

○田村智子君 質が本当に保障できるかどうか、具体的な事例も示してちょっと聞いてみたいと思うんですね。死亡事例の一つです。
 二〇一〇年四月、川崎市。生後十一か月の飯山拓斗君が保育室に通い始めて六日目に突然死をしました。御両親は元気だった拓斗君がなぜと疑問を持って、うつ伏せ寝にして放置したことが突然死につながったのではないかと施設長に聞くと、施設長は、うつ伏せ寝ではない、それは腹ばいだと、こう繰り返したといいます。御両親、納得いかずに川崎市に情報開示を求めて、この保育園が十年前にも死亡事故を起こしていたこと、この数年間、保護者からの苦情が多数あって何度も川崎市が立入検査をしていたこと、これが分かったんです。保育士が足りない、子供をどなる、たたく、園長が痛みを分からせるためだと子供の腕にかみつく、こういう事実を川崎市は確認をしていた。しかし、児童福祉法に基づく勧告、公表、事業停止など一度も行われずに、口頭指導、文書指導で終わらせてきたと。そして、本来、一件も起こしてはならない死亡事故を繰り返し起こしてしまった。今でも行政が適正に指導監督ができずにいるんです。
 これで、参入のハードル下げられて、もっといろんなところが入ってくる、死亡事故繰り返される、こういうことも考えられるんですね。この現状を厚生労働大臣、どう考えるか、もう一度お聞きします。

○国務大臣(細川律夫君) 子供の命を預かって、そして健やかな生活を保障する、そういう日々の保育の基本的なそういうところで死亡事故が保育所で起こるということは、これはもう決してあってはならないというふうに私も思います。
 今委員からいろいろと御指摘がありました。こういうことがあってはならないということは、これはもう当然でございます。保育所においては、子供の心身の状態を踏まえつつ、保育所の内外の安全の点検、そして安全対策のための体制を図るというようなことによって保育中の事故防止に努めるべきだというふうに考えております。
 厚生労働省としましても、保育所におきます事故防止のためには、その方法あるいは配慮事項などにつきまして都道府県にいろいろと通知なども通じまして指導をいたしておりますが、なお徹底して、先ほどのような事例もございますので、適切な保育が実施されるように取り組んでまいりたいというふうに思います。

○田村智子君 これ川崎市だけではないんですよ、死亡事故を繰り返しているのは。福島県郡山市、二〇一〇年、一歳の津久井りのちゃんが、泣いているのを無理やりうつ伏せ寝にされ頭の上まで布団をかぶせられ、その上におもしまで乗せられた状態で死亡すると。この経営者は名称の違う保育園で過去二度も死亡事故を起こしていたことが分かりました。大阪府でも、株式会社が運営する保育所で二度の死亡事故が起こっています。特殊な事例ではないんです。
 沖縄県では、二〇〇八年、四百人を超える子供を受け入れていた、四百人です、認可外保育所で生後七か月の男の子が死亡しました。母親が、二度と繰り返してほしくないと、こういう思いで県に閉鎖命令を出さないのかと尋ねたら、閉鎖をしたら四百人の子供はどこに行けというのかと県の担当者が答えたというんですね。
 今、待機児童、増え続けています。そういう下で、もっと多様に様々な意図や目的を持った事業者がどんどん保育に参入できるようにしてしまう、国が参入していいよと旗を振る、それで子供たちの安全が本当に確保できる、そう断言できるのかどうか。これ、少子化担当、新システムの担当の大臣の与謝野さんにお聞きしたいと思います。

○国務大臣(与謝野馨君) 少子化対策担当大臣としても、子供が安全に健やかな生活を送る場である保育所において御指摘のような事故が発生したことは極めて遺憾であると考えております。
 現在検討を進めている新システムは、全ての子供に質の高い学校教育、保育を保障することを目的とするものであり、この新しい仕組みにおいて質の確保が図られること、このことが重要であり、保育中の事故防止が図られ、引き続き適切な保育が実施されるよう、今後とも検討を進めてまいりたいと考えております。

○田村智子君 現実に事故が起きているんですね。それで、もっと参入を広げてしまって、保育の経験のないようなところもどんどんやってくださいと、そうやって保育の施設を増やして待機児童を解消するんだという、この大きな路線が新システムの路線に敷かれているんですよ。それで命を守るという保障がどこにあるのかと、このことを聞いているんです。
 これ、誰かお答えできる方いらっしゃらないんですかね、お聞きをしても答えが返ってこないんですけれども。これ、総理、いかがでしょうか、厚生労働の委員会も担当されていたというふうにお聞きしていますので。どこに子供の命を守ることが担保できるのかと、参入を規制緩和して。そのことをお聞きしたいと思います。

○国務大臣(与謝野馨君) 先ほど厚労大臣が答弁されましたように、質の確保のためには指定制度を導入して、やはり参入する者が質的な面で一定の水準に達しているということを確認した上で参入をさせるということを厳格に行うということによって、先生の御懸念のことを何とか取り除きたいと考えております。

○田村智子君 指定なんですよ。今認可という制度があるんです、ここはふさわしくないと思ったら認めないという、その制度を指定に変えちゃうんです。
 それに、今だって、これから参入してくる企業だって、最初から参入するときに保育士の数が足りないような状態で申請するような企業はないですよ。それ書類でチェックして、大丈夫だと認めたらもう保育の参入、こうやらざるを得ないんですよ。だって保育の経験も求めていないし、もっと多様でもっといろんな事業者が入っていいですよという路線なんですから、私は、これは大きな誤りを犯してしまうんじゃないかと。その後もずっと立入検査やればいいとかと言うかもしれませんけれども、いろいろ窓口広げていろんな事業者が入ってきて、そのうち一つや二つ問題のあるところがありましたと、これは保育では絶対に許されないんです。命が懸かっているんです。
 入口のところで子供を守る担保をしっかり取らなければいけない、そう思うんですけれども、菅総理、いかがでしょうか。

○内閣総理大臣(菅直人君) 私は、今御指摘された議論は、そのこと自体は全く正しいと思います。ただ同時に、非常に待機児童がなかなか減らない中で、どうすればもっと、つまり保育サービスの提供ができるかという中で、そういった子供に対する安全性と並行してそうした保育サービスの拡大をどう両立させるかという問題だと思います。
 いろいろな具体的な事例の中で、お聞きをしておりますと、もちろんそういうことは許されることではありませんので、そういう者に対してきっちり、排除といいますか、そういう者は認めない、あるいは許さないということを、現在の制度がまだ不十分だとすればもっと強めなければならないわけでありますが、一概にこれまでのルールの中でのみ、新たなルールによる参入を全て駄目だというのは、私は、今の状況を考えますと、その両立を求めていくというのが求めるべき行政の姿ではないかと思います。

○田村智子君 この間、待機児童が多いからといって国は何をやってきたかと。定員を超える保育所の入所を推進する、保育室の面積の基準の緩和も認めると。公立保育所への直接の国庫補助を廃止をして、公立保育所の数は減っています。その一方で、株式会社の保育参入をもっと拡大しようと。そのためには、保育所運営のための補助金を保育以外に使うことまで認めようと、こんなことまで検討されているんです。企業が株の配当にその補助金を使ってもいいようにしようじゃないかと、こんなことまで検討されているんですね。本来、保育士の人件費や日々の保育の実践に使うべきものですよ。これを企業の利益、企業会計の方に回していいなんて、こういうことを検討すること自体が大問題だと思います。
 保育についての規制緩和は、これはもう絶対やるべきではない。新システムの撤回を求めて、質問を終わります。