【10.11.16】労働者派遣法の抜本改正を――厚生労働委員会
専門26業務派遣の実態 三菱東京UFJ銀行の事例
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
質問に入る前に、前回取り上げました出産育児一時金直接支払制度について一言要望させていただきます。
先ほど御答弁あったように、昨日の社会保障審議会医療保険部会で厚生労働省は、医療機関への支払期間が短縮され、医療機関の事務手続も簡素化されることを認めて、受取代理払い制度の復活案を示されました。これは産科医の要望にこたえるものです。しかし、年間分娩数二百件以内に限るということですと、これは全体施設の八%が対象になるだけなんです。資金繰りで苦しむ産科医療機関、助産所を広く対象にすると、こうなるように検討を引き続き要望いたしまして、今日は派遣労働法について質問いたします。
派遣法の改正はいつ審議されるのかと、早く徹底審議をと、これは連日のように要望が寄せられています。
今日、資料でも表紙と目次だけお配りしましたけれども、これ、自由法曹団が編集をしました派遣黒書、これ本当に派遣労働者の使い捨てが生々しく告発をされているんですね。
例えば、第二集の目次の最初の方にあります三菱電機名古屋製作所。母子家庭のお母さんまで契約期間の途中で雇い止めに遭った。中学生の子供と二人暮らしの母子家庭だと。解雇された後に子供に会社に行けなくなったことを電話しましたが、子供は電話の向こうで無言になり、泣き出してしまうほどでしたと書いてあるんです。
また、自動車部品メーカーのジヤトコ京都工場。労働局が偽装請負の是正を指導したにもかかわらず、ジヤトコは直接雇用を拒否しました。電気代も払えず、子供がお年玉をもらって貯金していたのを引き出して生活費に充てているんだと。こういう苦しさはどれほどのものかと思います。
派遣切りは今も続いています。派遣法を見直すんだと、この姿勢をはっきりと示すためにも、大臣、違法行為を告発している派遣労働者から直接話を聞くという機会を是非持っていただきたいんですが、いかがでしょうか。
○大臣政務官(小林正夫君) 派遣労働者の切実な声をしっかり聞くべきだと、こういうお尋ねだと思います。
私たちも、様々な調査をしたり、また御意見をいただく中で派遣労働者の声を把握するように今でも努めております。また、御審議をお願いしている労働者派遣法改正案も含め、労働者派遣制度については、労使の代表から構成される労働政策審議会で御審議をいただき制度改正等行っているところでございます。
そして、先ほどお話があった労働者派遣法の関係ですけれども、これは行き過ぎた規制緩和を適正化して労働者の生活の安定を図ることが大変重要であり、そのための内容を盛り込んだ労働者派遣法改正案については今臨時国会で速やかに御審議をいただき早期の成立をお願いをしたい、このように強く思っているところでございます。
また、現時点でも、派遣労働者からの申告があった場合は、事実関係を調査した上で迅速な対応に努めているところであります。派遣労働者に不当、違法な扱いを強いる事業主に対しては指導等を行っており、今後とも引き続き適切な対応を図ってまいりたいと、このように思います。
○田村智子君 やっぱり法案に責任を持つ大臣に、この法案で使い捨て雇用が根絶できるのかと、これ、やっぱり実態をよく見て、法案の徹底審議を私たちも是非やりたいと思っていますので、是非機会はつくっていただきたい、ここで要望しておきます。
今、こういう違法だというふうに提訴している例ももう今六十を超えているんですね、分かっているだけで。労働局が是正指導しているものもたくさんあると思います。こうした違法派遣の事例の中でも、専門二十六業務にかかわるものというのは多数あります。
以下、専門二十六業務に焦点を当てて質問をさせていただきます。
この専門二十六業務というのは、派遣期間の制限がない、何年同じ職場で働いても派遣のままでよい、政府の法案ではこれをよしとしていますし、また、身分が不安定だと批判を浴びた登録型派遣についても専門二十六業務は禁止の例外としています。なぜ専門二十六業務は規制の対象から除外するとしているんですか。
○大臣政務官(小林正夫君) 平成二十年の秋以降、特にリーマン・ショック、この以降ですけれども、派遣先が派遣元の契約を途中解除する、いわゆる派遣切りが多発をして、登録型派遣についてはその雇用の不安定さが大変問題になりました。
このため、今回の改正法案においては、派遣労働者の雇用の安定を図るため、常時雇用する労働者以外の労働者派遣を原則として禁止をすること、このようにしてございます。改正法案においては、機械設計や通訳、こういうものなど、いわゆる専門二十六業務については専門性が高く雇用の安定が期待できる、こういうことから登録型派遣の原則禁止の例外としております。この内容については、労働政策審議会において労使が現場の実態を踏まえて精力的な御論議をいただいて合意したもの、このようなものでございます。
○田村智子君 つまり、専門二十六業務は派遣切りに遭いにくいと、雇用の安定が見込まれると、こういう認識だと確認できると思います。
実態がそうなのか。三菱東京UFJ銀行で起きている事例を紹介したいと思います。
ここで派遣で働いていたAさん、これは銀行の一〇〇%子会社であるUFJスタッフサービスの派遣社員。Aさんは元々は東海銀行に直接雇用されていたパート労働者でした。しかし、銀行合併が進む中で、本人にはまともな説明がないままにUFJスタッフサービスに身分を移されていたという。これ自体異常なんです。このAさんは、パート社員としての直接雇用で三年、派遣に身分が変わってからも六年十か月同じ職場で勤務をしていました。これは当然一年を超えて、三年も超えてということなんですね。ところが、直接雇用の申出もないまま雇い止めに遭っている。
銀行やスタッフサービスの言い分は、Aさんは専門二十六業務の財務処理に当たるから直接雇用の申出は必要ないんだというものだったんです。では、その財務処理というのはどういう専門業務なのか。これも資料を今日付けさせていただきました。
施行令で財務処理とは賃借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務と定めていて、さらに業務取扱要領で、次のような財務関係書類の作成その他財務の処理の業務をいいますと。一、仕訳、仕入帳・売上帳・勘定科目別台帳等の会計帳簿の作成。ちょっと略しながら言います。二、保険証券の作成、三、社会保険料・税金の計算及び納付手続、四、医療保険の事務のうち財務の処理の業務、五、原価計算、六、試算表、棚卸表、賃借対照表、損益計算書等の決算書類の作成、七、資産管理、予算編成のための資料の作成、八、株式事務とあります。
専門二十六業務の財務処理、この基本的な考え方はこの業務取扱要領で示しているとおりだと確認してよろしいでしょうか。
○大臣政務官(小林正夫君) 御指摘のとおり、専門二十六業務については政令で定めており、その内容については労働者派遣事業関係業務取扱要領に定められているところでございます。
○田村智子君 じゃ、Aさんの仕事はこれに当たるのか。Aさんの仕事というのは銀行窓口の後方業務なんですね。お客さんとの直接のやり取りはありませんが、預金者のお金の出し入れや振り込み、通帳の記帳などの事務処理を行ってきました。これはどう見ても先ほど私が読み上げた業務取扱要領の一から八には該当しないと私には読めます。
ところが、厚生労働省は、実はこの業務取扱要領以外に局長通達で専門二十六業務に関する疑義応答集というのを出されています。これも今の業務取扱要領の下に資料として載せました。ちょっと抜粋しながら読みますけれども、ここで、銀行における業務としては、後方事務が専門業務に当たるかという設問をして、後方業務は迅速かつ的確な実施に習熟を要する業務に当たる場合は該当すると。よく分からないんです、何が言われているのか。
そこでお聞きしたいんですけど、この迅速かつ的確な実施に習熟を要する業務というのは具体的に何を指すんですか。
○政府参考人(森山寛君) お答え申し上げます。
この専門二十六業務の範囲、これ、今先生御指摘されましたように政令で定めておりまして、その具体的な解釈につきましては、先生今お話しされましたように、労働者派遣事業関係業務取扱要領の中で示しているところでございます。
一方、この疑義応答集でございますけれども、これは実際の現場におきまして、この専門二十六業務に当たるか否かにつきまして企業等からの個別の問い合わせに対しましてこれまで回答してきた内容を整理し取りまとめたものでございまして、二十二年の五月二十六日に発出をしたものでございます。
今言われましたその中の迅速かつ的確な習熟を要する業務でございますけれども、これは現金等の預金の入金あるいは支払取引業務、あるいは振り込み業務等の財務処理の業務のうち、専門的な知識、技術又は経験を要するような業務が挙げられておりまして、ある業務で、例えば今先生おっしゃいましたように後方業務と整理されていましても、実態が単なる現金あるいは手形等の授受、あるいは計算や書き写しのみを行うような、その業務の処理について特に習熟していなくても平均的な処理をし得るような業務、これは含まないというものでございます。
なお、具体的に、このある業務が迅速かつ的確な実施に習熟を要する業務に該当するか否かにつきましては、これは都道府県の労働局が調査を行って、実態を見た上で具体的に判断をしていくということになっております。
以上でございます。
○田村智子君 これ本当にすり替えというか拡大解釈というか、専門性というのと習熟というのは全く違う概念だと思うんですね。
例えば、この要領の一から八に示された業務というのは、これは派遣される前に時間を掛けた教育訓練が必要だなとこれ読めばだれでも分かると思います。また、一つの会社で派遣期間が終了する、それでも自分のスキルやその獲得した、教育訓練を受けた結果を生かして別の会社への派遣が見込まれる、だから専門業務だというと思うんです。
一体、銀行窓口の後方業務のための教育訓練というのがあるんでしょうか。そういう事例聞いたことがあるでしょうか。また、銀行で派遣期間が終了した、そのとき全く別の会社でその専門性を生かすことはできるんでしょうか。もう一度お答えいただきたいと思います。
○政府参考人(森山寛君) 後方の業務につきましては、単なる預金等の現金の授受、これのみを行うようなものだけではなくて、様々な例えば商行為に伴います財務処理、これを必要とするものが持ち込まれるわけでございまして、それを迅速かつ的確に処理していくというためには、先ほど申し上げましたように専門的な知識あるいは技術あるいは経験等を要するわけでございまして、先ほど私申し上げたような形でこれは該当するわけでございます。
いずれにしましても、しかし、その実態を見た上で個別に判断をしていく必要があるというふうに考えておるところでございます。
○田村智子君 迅速かつ的確にやるために幾らかの経験、習熟が必要だというのは、これはもうどんな仕事についても言えることで、こんな解釈をされてしまったら、これは拡大解釈に厚生労働省が手を貸している、厚生労働省自身の拡大解釈で、言ってみれば専門だと言われている方々のこの身分を非常に不安定にしてしまう。こんなことに手を貸したら駄目だと思うんです。
大体、先ほど確認したように専門二十六業務というのは、これは期間の制限がないんです。いつまでたっても派遣のままなんです。それと、原則一年、最長で三年と、こういう制限がある働き方とをごっちゃごちゃにするような、本当に労働者の身分にとって重大な問題で、このような拡大解釈は、これはいかがなものかと思うんです。
大臣、今の局長とのやり取りを聞いていて、大臣の見解を是非伺いたいんですけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(細川律夫君) 今、労働者派遣法の改正案を国会に提案をいたしておりまして、その審議を政府としてはお願いをしているわけでございます。
この法案が成立をさせていただいたら、六か月以内に施行することと、施行される事項に関する政令、省令の内容について、まずは審議会などで御審議をいただくということになっている。そこの場で、私も専門二十六業務については、これは時代の流れで変わるというようなこともありますから、これは僕は見直していかなければいけないというふうに思っております。
それをいつどこでそういうことをするかということについて申し上げたんですけれども、このまずは法律案を成立をさせていただいて、そこでその改正の施行をするときに審議会などでやらせていただけたらというふうに思っております。
○田村智子君 業務取扱要領は確かに労政審などで審議をしてというふうになるんですけれども、この疑義応答集というのはそういうことを全然やっていないんですよ。省内で検討して局長通達で出して、それが銀行で働く労働者の身分に本当に深刻にかかわってきているんですね。だから、この疑義応答集は法改正を待つことなく、法改正ももちろんすぐに徹底審議やりたいんですけれども、ただ疑義応答集にいかがなものかという点があれば、これは見直しを是非やっていただきたいというふうに思います。私は、事実上、こんなことを出しているから常用代替が激しく銀行業界で進んでいると思うんですね。
最後の資料にお付けしたのは、三菱UFJ銀行の労働者の雇用の在り方やそれから経常利益についての資料なんですけれども、三菱UFJ銀行は、非正規職員の比率はリーマン・ショック前、四割近かった。その約六割から七割は派遣労働者でした。リーマン・ショックが起きて後、派遣社員は二年連続で年間二千人以上切られているんです。まさに派遣切りです。一方で、二千億近い赤字だったものが、たった一年で四千億円の黒字に転化をしている。派遣労働者の常用代替、そして派遣切りが激しく行われてきた、これがこの数字に表れていると思うんですね。
もう一度初めに聞いたことに戻りたいんです。専門二十六業務は雇用の安定が見込まれる。じゃ、Aさん、そうだったのか。Aさんは、実は派遣切りに遭う前から専門業務の労働者としての扱いも受けていないです。銀行窓口での計算ミスがあると、お客さんからのクレームに対して、正社員がやったことであっても、この派遣のこの人がやったことだからと、正社員じゃないこの人がやったことだから済みませんねと、こういう扱いなんです。私たちはいつも低い扱いを受けてきたと訴えておられます。
しかも、業務日誌に、こんなクレーム処理のやり方は銀行の窓口業務の質を落とすんじゃないかと、こうやって意見を書いたんです。そうしたら、上司からのパワハラが始まって、ついに契約期間を二か月残して雇い止めに遭ってしまった。雇用の安定どころではないんです。
労働基準局長に確認しますが、有期雇用の労働者の場合、契約期間途中の解雇は正社員の解雇以上に厳格でなければならないはずですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(金子順一君) お尋ねの有期契約労働者につきましては、労働契約法第十七条によりまして、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中に解雇することができないとされております。
こうした契約期間中の解雇につきましては、一般的には、期間の定めのない労働契約の場合、正社員に典型的に見られるものでございますが、この場合よりも解雇の有効性は厳しく判断されるものと考えます。
○田村智子君 そうした現行法さえもう無視されるような、現行法で守られるべき権利さえもないがしろにして捨てられていると。
Aさん、何で裁判に訴えたかと。これまで二度の銀行合併という困難も乗り越えて、銀行のために十年近く頑張ってきたんだと、そういう自分の人格や人生を否定するような扱いに黙っているわけにはいかなかったと、こう言っているんですね。
この派遣黒書の中に同じように専門業務の扱いだといって切られた方いっぱいいます。東京の横河電機、全く一般の事務で働いていた方が、あなたは専門二十六業務なんだって言われて、いや、私は、さっきの財務処理とか書かれているから、こんな仕事やっていませんよというふうに派遣会社に言ったら、派遣会社は今度は専門二十六業務の別の業務を次から次へと持ち出して、一般的な事務をやっているのに専門二十六業務と言い募って派遣労働者として使い続け、挙げ句、派遣切り。
日産自動車でも同じような事態が起きています。デザイナーで働いてきたその人が、実は専門二十六業務の事務機器、これ扱うんだというふうに扱われていた。で、やっぱり派遣切りですよ。
全く、専門二十六業務を規制の対象から外すのは雇用の安定性見込まれるんだと、常用代替になるおそれがないんだと、そんなことに全くなってない。
大臣、最初に手を挙げていただいたようなので、やっぱりこうした生々しい実態を大臣に聞いていただきたいんです。労働局に申告してやっぱり是正したようなものであれば、これすぐに情報入ると思います。そういう意見を聞く場というのを是非設けていただきたいんですけれども、もう一度いかがでしょうか。
○国務大臣(細川律夫君) 私も、この労働者派遣法を国会に提案する前に、いろいろな派遣労働者の皆さんからいろんな事例も含めてお話をお聞きをいたしました。今日、委員が言われているようなことについても、私としても、そういうこともあるんではないかというようなことも、それは想像もできるところもございます。
私としては、もう既にこの法案は提案をしているところでありますから、私としては、是非国会の中で早く審議をしていただいて成立をさせていただきたいというのが私の気持ちでございます。
○委員長(津田弥太郎君) 時間が来ております。
○田村智子君 最後、一言です。済みません。
やっぱり専門二十六業務というのは派遣切りの隠れみのになっているんですね。是非、政府法案、まだ足りません、派遣労働者の雇用の安定が客観的に保障される真に専門的なもので、労働者の交渉力があるものに厳しく限定をすると、これやらなければ、常用代替も派遣切りも止まりません。
私たちも、是非法案は徹底審議をして早く使い捨てが根絶できるようにしたいと、そのことを申し上げて質問を終わります。
ありがとうございました。