日本共産党 田村智子
コラム

【13.02.28】「世界一」を叫ぶ安倍総理の演説

施政方針演説の先にみえる日本社会の姿は・・・

安倍総理の施政方針演説に、こんなイメージがうかんできました。
「立身出世」「富国強兵」こそ価値があると信じる志士が、民衆に説教し、民衆を鼓舞(扇動?)しようと大声をあげている。

「世界一」という言葉があまりに耳についたので、あとで演説原稿をチェックしてみたら、7回も使っていました(「世界で一番」を含む)。

「世界一のイノベーション拠点」
「世界で一番企業が活躍しやすい国」
「世界一を目指す気概」
「今こそ、世界一を目指していこうではありませんか」
「なぜ、私たちは、世界一を目指し、経済を成長させなければならないか」
「世界一安心な国」、「世界一安全な国、日本」

その他にも――
「世界トップレベルの学力を育むため」
「世界トップレベルとなるよう、大学の在り方を見直します」
「世界最大の海洋国家である米国と、アジア最大の海洋民主主義国家である日本」
「世界の大国にふさわしい責任を果たしていきます」

違和感を感じます。
競争に勝ち抜くことこそ繁栄の道というのは、シンプルだけど、深みがない。
演説の途中から、頭のすみで「世界で一つだけの花」のメロディーが響いていました。

世界一になるかどうかはおいといて、日本の経済や学問・教育にたくさんの問題があって、活力や勢いを失っていることに、私も強い問題意識を持っています。
その停滞や低迷ともいえる現状の原因は?

労働者を育てるのではなく使い捨ててきた大企業と、目先の利益追求に拍車をかけた政治の責任は?
国立大学の運営交付金を毎年減らし続け、基礎的研究の存続さえ危うくした責任は?
競争と学力テストで、「あきらめる」子どもを生みだしてしまった責任は?

経済発展、企業活動の停滞の理由に、エネルギーの安定供給への不安をあげるなど、お角違いもはなはだしい。
原発再稼働しなければ、企業活動は活性化しないとでもいうのでしょうか。

農業も「攻めの農業」「強い農業」を強調し、TPP参加をほのめかしているように聞こえました。
ちょうど前日の27日、共生社会・地域活性化に関する調査会で、「穏やかな農業」という言葉に感動したばかり。

早稲田大学教授の宮口侗廸(みやぐち・としみち)氏の意見陳述です。
日本の棚田、だんだん畑、里山と農地の共生が、土地とともに生きてきた人間によって歴史的に築かれてきたもの。
地方の農村の価値とは、多様な生き方を人間に与えること。
「強い農業」と言われるが、日本の農業は本来「穏やかな農業」ではなかったか。

総理の演説の終盤は、怒り爆発でした。
私達議員にむかって、「初心に立ち返れ」と説教し(あなたに言われる筋合いはない!――と田村の不規則発言)、
あげく「憲法審査会の議論を促進し、憲法改正に向けた国民的な議論を深めようではありませんか。」とよびかける。

これには腹の底から叫びました。
「立場がわかっていない。憲法遵守義務を投げ出すのか」
総理大臣は、いわば、憲法によってその権力をしばられる立場です。
憲法改正は国民の要求によって行うのであって、憲法遵守を義務づけられている内閣の側が仕掛けるのは、本末転倒も甚だしい。
一昔前ならば、この一言だけで国会審議は大混乱となるでしょう。

議場は騒然、自己陶酔ともいえる総理と自民党席。
抗議の声をあげる野党席。
総理演説の先に日本社会の荒涼とした光景が浮かんで仕方ありません。
多様性、共生、世界の国々との共存共栄――新しい可能性に満ちた日本社会を目指したい。