日本共産党 田村智子
コラム

【12.10.02】年収をどう証明? 「日雇い派遣」の規制

労働者派遣法とその政省令の改定について

10月1日から、労働者派遣法の改定条項が施行となりました。
(違法派遣だった場合に、派遣先企業が直接雇い入れたものとみなす、という条項はまだ2年半先延ばしですが…)

今年4月の法案審議で「具体的には政令、省令で示す」という事項がいくつかありました。
どのような政令、省令となったのか、厚生労働省の担当局から説明を受けました。

「日雇い派遣の原則禁止」――当初の政府案は2カ月未満の派遣を原則禁止としていたのに、民・自・公の3党修正で、なんと1カ月未満にまで切り下げられました。
しかも、例外(つまりは「1日だけの派遣でもよい」)規定を、業種だけでなく、「特に雇用の機会の確保が困難な者」にまで広げてしまいました。

専門業については、短期間の雇用契約でも、専門性を生かして自らの交渉力で他の事業所で働くことが可能――こんな理由で、「日雇い派遣でもよい」という。
専門とは何か、専門性が高ければ短期間、間接でよいという理屈が成り立つのか、これまでも裁判含めて、現場から批判が相次いでいます。

それに加えて、仕事の中身ではなく、人によって「日雇い派遣でもよい」というのは、原則禁止を事実上なし崩しにするに等しいものです。
「学生、主婦、高齢者」を想定しているのだと、国会での質疑では答弁がありました。

省令で定めた内容を聞いていくつもの疑問がうかびます。
主たる生計者が年収500万円以上、あるいは自分の他の職業での年収が500万円以上であれば、生活が安定しているから、「日雇い派遣」で働いても不安定雇用にならない。

アルバイトとか、副業であって、「日雇い派遣」での仕事で生活しているわけではない――それならば雇用と生活の安定が確保できる、という考え方のようです。

ここで疑問がわきます。年収500万円以上をどう証明するのか。
「前年の源泉徴収や確定申告を出すということですか?」と聞くと、
「そういう証明を求めることにします。しかし紛失しているとか、源泉徴収は確定申告で提出したという場合などは、本人の申告と虚偽申告ではないという誓約書の提出を求めて、後日、証明できる文書を示してもらうことになります」
「日雇い派遣で、後日、わざわざ文書を示すというのは、非現実的ですね」
「そうですね…」

これでは違法があった場合、その責任は労働者側にされて、雇い入れた事業者は「知らなかった」ですまされるでしょう。
一体なんのための規制なのか…。

また、契約期間「1カ月以上」であれば「日雇い派遣」ではないはずなのに、「派遣受け入れの日から終了まで31日以上あればよい。31日間のうち、週2日(土日だけ)という働き方もありうる」というのです。
わざわざ厚労省が「Q&A」で、「初日と最終日」「31日間のうち1日だけ」というのは規制の対象と説明。裏返せば、31日のうち3日だけの就労でもよいということでしょうか。
不安定雇用を規制するのが目的だったのに、これでは事実上の「日雇い」状態です。

そのうえ、たびたび問題になってきた「専門26業務」を政令で、いっそう拡大していたこともわかりました。
「専門26業務」は派遣期間の上限がありません。3年をこえて同一業務に派遣された場合、派遣先が直接雇用する義務が生じますが、「専門26業務」の派遣労働者は何年、何十年働こうが派遣のままでよい。
企業にとって実に使い勝手の良い人件費抑制策です。

それだけに、26業務をもっと限定的に、給料も正社員並みかそれ以上に保障されるような業務に限定すべき(本当は、派遣労働全体がそうでなければなりませんが)です。
ところが、今回、下水道処理や清掃、産廃処理事業などが「専門業」に加えられたのです。

「では、専門27業務ということですか」
「いえ、業務をふやしたのではありません。もともと26業務に入っていた建設機器操作という業務のなかみを増やしただけです」
建設機器の操作というのは、法令では、第15号の専門業務。
その規定を読むと、これまではわざわざ、下水道処理や浄化槽の運転については「除く」とされていました。
なぜこれまでは「除く」だったのか、「除く」規定を除いたのはなぜか、説明を求めてもその場では答えてもらえませんでした。

ことは、労働者の権利、身分に関わる重大事です。専門業派遣をめぐっては、いくつも裁判が闘われています。
それが、国会でも審議はまったくないままに、法改定にともなう政令改定にまぎれさせて拡大される。
労働法制の闇を見ているようです。

先日、同じ厚生労働省が、正規雇用を希望する非正規雇用の労働者が、正社員として雇われれば、その経済効果は6兆円、という試算を公表していました。
政治がやるべきことは明らかなのに、進んでいる方向は正反対。ゆがみをこのままにしておくわけにはいきません。