日本共産党 田村智子
コラム

【12.09.21】電機リストラ 神奈川労働局に申し入れ

人権侵害の退職強要に労働行政あげて対策を

横浜のみなとみらいの対岸に赤レンガを模した堂々たる建物。
国の出先機関が入る横浜第2合同庁舎、このなかに神奈川労働局があります。
午前10時、畑野君枝さん、党神奈川県委員会のメンバーとともに会議室に入りました。

労働基準監督署、ハローワークなどを管轄する神奈川労働局の方々が、すでに会議室の前方に一列に並んでいました。
電機リストラ13万人、私が決算委員会で質問した8月終わりには12万人と言われていましたから、さらに新たな大規模リストラ計画が進行中ということです。
厚生労働大臣が、退職強要が疑われる場合には調査が必要、と答弁したからには、現場に積極的に動いてほしい、その申し入れを神奈川の日本共産党として行なうことになったのです。

大規模リストラが、労働者、家族、そして地域経済にも大きな影響を与える、この認識で労働行政にあたっているという説明。
一方で、企業への直接の調査・是正指導の権限をもつ労働基準監督署が、リストラ・退職強要については、一歩ひいた行政とならざるをえないという説明。
なんとも歯がゆい。

雇用契約は民間と民間の対等な契約、労働契約法はそういう法律です。
自民・公明政権のもとで、労働行政を弱めるような「規制緩和」が強行されましたが、労働契約法も、その「大きな成果」といえるでしょう。
雇い主と労働者が対等な関係であるはずはないのに…。

賃金負払いとか、残業代が払われないとか、法律で定められた安全確保の措置がとられていないなどの場合には、労基署は企業にのりこんで証拠物件をおさえることができます。
是正指導を強力に行なうこともできます。
指導に従わない企業には罰則が科せられることもあります。
それなのに、労働者にとってもっとも深刻な、解雇・退職強要については、こうした権限を持っていない――悔しい限りです。

しかし、明らかな人権侵害に対して無力であっていいはずはない、知恵を出して労働者の権利を守るために何ができるか、率直に意見交換もしたい。
私たちの意見に、労働局のみなさんもうなずいていました。

神奈川県には、私が国会質問でとりあげたNEC、現に退職強要が進行中と思われるルネサスなど、大手電機・半導体の工場がいくつもあります。
リストラ・退職強要について相談がよせられているかを聞くと、多くはないとのこと。
事態は相当に深刻、しかし、相談窓口もわからないまま、多くの労働者が苦しんでいることは想像に難くありません。

実は私の事務所にも、「面談のやり方があまりにひどい。録音した。労働組合に持ち込んでみるがまず何もしてくれないだろう」と、思い余ってという様子の電話がかかってきました。
私の質問を報道した日刊ゲンダイの記事を読んでのことだと思われます。
こうした実態も伝え、要請に同席した電機・情報ユニオンの方からも具体の事例が紹介されました。

「監督や是正指導はできなくても、助言という指導や啓発はできる。何もできないということではなく、できることを半歩でも踏み込んでやっていきたい」
労働局のみなさんも、真剣な面持ちでした。

この要請で一つかちとれたのは、労基署もハローワークも労働局も、リストラ・退職強要の相談窓口になると、確認したこと。
労働局は各県に1ヶ所です。労働基準監督署は敷居が高い場合があります。
ハローワークでも相談できる、たらいまわしにせずに相談し、労働局が組織的に対応する、それができれば労働者が1人で苦しむ事態を少しでも解決できるのでは。

「こういうところに相談しようと、私たちも宣伝したい」
「ぜひ相談をよびかけてほしい」
よし!と内心、小さなガッツポーズ。「労基署だけでなくハローワークでも相談にのります、1人で悩まずに。私たちも支援します」――こういう宣伝を大規模にできるのです。

この申し入れの時、1人の労働者の顔が何度も思い浮かびました。
NECで執拗な退職強要にあい、それでも「やめません」と返事をしたために、今、隔離ともいえる差別的な待遇に耐えているTさん。

先週日曜日(16日)、電機・情報ユニオンの第2回定期大会に来賓として参加しました。
そこでTさんの発言を聞きました。
おとなしそうにみえる男性です。まじめにこつこつ働いてきたことが、話していて伝わってくる人です。
発言も激することなく、冷静に、たんたんとしたものでしたが、その内容は過酷すぎるものです。

「やめる」というまで面接を繰り返すと公言しての面接。
希望退職の募集が終わって、辞めなかった労働者を配置転換し、みせしめにするやり方。
残業代をつけるなという圧力。仕事の都合で早朝出勤すると「職場に入れるわけにはいかない」と追い返そうとする。

「こうしてまだ生きています」――Tさんがさらりと言った言葉。
NECは本社で自殺事件も起きました。労働者の精神をずたずたにし、生きることさえ嫌になるほど追い詰める。それが経営方針だという、異常です。

国会でとりあげて、労働局がなんらかのアクションを起こしてもなお、こんな人権侵害が止まらない、それが悔しい。
そのままにしておくわけにはいかない。
そんな企業に未来があるのかと、国民的に包囲したい。
私たちのたたかいはこれからが本番です。