日本共産党 田村智子
コラム

【12.07.31】これでは雇い止めは止まらない

たった2時間の労働契約法審議

この国会、厚生労働委員会は4月以降、ほとんど開かれてきませんでした。
やっと開かれるとなると、わずか2時間ほどの審議で重要法案を採択するという――こういう議会運営が何度繰り返されてきたか。

今日採決されたのは、労働契約法の一部「改正」法案です。
雇用契約は、会社と労働者が対等な立場で契約を交わしている、という前提で、労働に関する契約の基本的なルールを定めた法律です。
(そもそも、雇う側と雇われる側が対等なはずがありません。資本主義社会の根本的な問題ですね。)

有期雇用の契約のルールを定める、というのが「改正」の内容。
・3か月契約、半年契約などが何度も更新され5年を超えた場合、5年超えた最初の契約が終了するまでに労働者が「無期雇用にしてほしい」と申し出たら無期雇用とする。
これが、法案の最大のポイント。
期限のある雇用契約で働いてきた労働者が、これで安定した雇用になる、というのです。

なんというお気楽な、現実をみない政策なのか!
これまで、裁判で、3年を超えて同じ仕事についていたら、その後も働き続けることができるという期待感を労働者に与えることになるとして、雇い止めを無効とする判決が何度か出されてきました。
それを受けて大手企業が何をやっているか。3カ月や半年の契約を繰り返すけれど、契約更新は2年10カ月あるいは2年11か月で打ち止め――こんなことが当たり前になっているのです。

今度は5年を前にしてさらに徹底した雇い止めが起こる、この法案をみた労働組合のみなさん、弁護士のみなさんは一斉に声をあげました。

質問もこの点が焦点。契約更新に上限を設けることを禁止するなどルールが必要なのに、何の手だてもとってない。
もっと根本的には、有期契約そのものを限定的にしなければ「使い捨て」は止まらない。

指摘したい問題点はたくさんあるのに、私に与えられた時間はたった15分。
法案の問題点とともにとりあげたのは、現に、この法案を先取りした雇い止めが始まろうとしていること。

喫茶店を全国展開している株式会社シャノアール。店長以外はすべて非正規雇用の労働者で経営されています。
これまで3カ月の雇用契約は、基本的には本人の希望で何度でも更新できました。5年、7年と働いている人は大勢います。ところが、今年3月突然、「契約更新は15回まで」「現時点で4年以上働いている場合、来年3月で全員契約終了」という方針が、すべての店舗に徹底されたというのです。

質問直前に、雇い止めを言い渡されたAさんに直接会って話を聞きました。
7年働いて、店長代理もしている女性。店の立ち上げから関わり、よい店にしたいと熱心に仕事をしてきた、それなのになぜ…。
彼女は勇気を出して店長に聞いたそうです。なぜ来年3月までなのか。
「法律が変わるからだと聞いている」という答えに、「一体、どんな法律が…」と彼女は自分でインターネットを駆使して調べ、この法案にたどりついたと言います。

Aさんは労働組合に入り、雇い止めは納得できないと、会社との交渉を始めています。
彼女が立ちあがってくれたから、私達もこの重大な動きをキャッチすることができました。
けれど全国には、なぜ雇い止めにされるのかもわからず、泣き寝入りしている非正規雇用の労働者がどれだけいることでしょうか。

この法案を理由に理不尽な雇い止めが起ころうとしている、厚生労働省はどうするのか。
質問で詰め寄りました。
法案では、過去の判例を、合理的な理由のなく労働契約を打ち切ることは社会通念上認められないという主旨の条文にしました。
それでは、これでシャノアールのような問題は解決するのか。労働局は指導するのか。
答弁は「相談にのる」。

結局、裁判で闘うしかない、裁判で争う時に根拠となる法律の条項ができたというにすぎないのです。
もちろん、現に裁判で雇い止めを無効としてたたかうみなさんの力になることは大切です、
けれど、裁判をたたかうみなさんも切望しているのは、法律によって理不尽な雇い止めを止めてほしいということではないのか。

運よく5年後も契約が結ばれて、これで無期雇用になった場合も、それはイコール正社員ではありません。
法案では、賃金などの労働条件は有期契約の時と同じとすると明記してしまったのです。
正社員と同じ仕事をしていても、スタート地点が有期雇用だったら、給料もボーナスも全く違ってしまう、それでいいというのです。
これは時間切れで質問することすらできませんでした。たった15分、本当に怒りがこみあげます。

派遣労働法の時と同じように、傍聴席は満席になりました。
昨日昼に突然決まった今日の審議。それでも多くの労働者の方々が、審議を直接見届けようと集まってくれた。それなのに2時間で終わりなのか。

採決を終えて、議員面会所で行われた集会。
怒りの声と、法の見直し(施行から何と8年後!)まで待つわけにはいかない。
現場の実態をどんどん告発して、労働行政を動かそうと、決起集会のような発言の場となりました。
シャノアールの実態を知らせてくれたAさんも、涙をこらえながら発言してくれました。

働き続けることができる、それなくして日本の経済の発展はない、社会保障を安定的に支える保障もない。
日本の社会や経済がどうなろうとも構わない、自分の会社が利益を上げればいい、そんな経済界にはもう政治のオピニオンリーダーの資格はありません。
道理は我にあり。暑さに負けず、粘りづよく、連帯と団結をひろげて、労働行政を立て直す決意で。