日本共産党 田村智子
コラム

【11.06.26】イラク発の映画「陽光のバビロン」

荒涼とした風景を見つめる大きな瞳

週末、映画館に足を運ぶ時間がありました。
「これを観よう」と決めていた映画があったわけではありません。
こういう時は…「この映画はよかった〜!」という経験のある映画館(ミニシアター)の情報を探します。

昨年夏「Mao's Last Dancer」を観たことがきかっけで、シネスイッチ銀座が、今の私のお気に入り。
(この映画、日本語タイトル「小さな村の小さなダンサー」ですが、この訳はちょっといただけません。原題を直訳すれば「毛沢東の最後のダンサー」。これでは日本人には「うけない」と思ったのかもしれませんね。文化大革命やその後の中国の複雑な事情のなかで、大成するバレエダンサーの実話です。)

東京でも数か所でしか上映されない映画を観ることができます。
全席自由、ふと思いついて、上映時間ぎりぎりにチケットを買って、ということが通用するのも私には好都合。

さっそく携帯で検索すると、イラク映画「陽光のバビロン」が7月1日までの上映とのこと。
これは行かねば!

初めてイラクという国の映像をじっくりと観ました。
見渡す限りの砂漠に続く1本の道、町のあちことに黒煙が立ち上るバクダッド、爆撃で瓦礫と化した街。
主人公の少年と祖母が、殺伐とした風景のなかを歩き続けます。

少年の父親は、湾岸戦争時に軍人になり、10年の時が過ぎても帰ってこない。
母親の死をきかっけに、二人はクルド民族が暮らす町を出て、父親探しの旅に出る。

言葉の通じない米軍による道路封鎖、爆撃された建物と足元にころがる人形、12歳の少年は「ここは怖い」と祖母にしがみつく。
訪ねても訪ねても父親の行方はわからず、悲しみと苦しみにうちひしがれる祖母の姿に、少年は泣きながら「ぼくがおばあちゃんのそばにいる」と叫ぶ。

共同墓地で行方不明の夫や息子、兄弟を探す女性たちの姿。
掘り起こされる墓地、次々にあらわれる白骨。
数十万人が今も行方不明という現実。
祈りのようにも聞こえる女性たちの悲しみと怒りの歌。

ラストシーンで映し出されるのは、夕日をバックにしたバビロンの遺跡。
その荘厳な美しさは、息をのむほどです。
この美しい遺跡と文化が息づいていたイラク。破壊された町とのコントラストはあまりに残酷です。
主人公の少年の大きな大きな瞳。悲しみのなかに希望をみるのには、どれだけの時間を必要とするのかと、厳しい現実をつきつけられます。

イラク人の監督が、政治的圧力を受けずに自由に創作した記念すべき作品との解説。
祖国への愛情が貫かれた映像は、残酷で悲しい現実を伝えながら、それにとどまらない何か温かなものを残してくれます。

アメリカが撮影したもの、日本のニュースで流れる映像、そしてファルージャでの虐殺を告発する現地ジャーナリスト撮影のビデオ。
これまで観たどの映像とも違う、思いの深さは、人によりそい撮影された映画だからでしょうか。

「イラク戦争に賛成だ」と、一言の批判をすることもなく、後方支援を続けた日本政府。小泉首相(当時)の「戦争支持」表明の記者会見は今でも脳裏に焼き付いています。
この日本でもっと上映の場をもってほしい映画です。
私達の国は何を支援してしまったのか、直視しなければならないはずです。
この日の上映、映画館はガラガラの状態でした。
日本の映画上映は、メガヒットとそれ以外でこんなに落差がつくられてしまうのですね…。

ところで、本編上映前の予告で、要チェックの映画も多数ありました。
中国映画「海洋天童」、イタリア映画「人生、ここにあり」、これはどちらも絶対観ようと思っています。
自閉症の青年とその父親(余命わずか)、精神病院の閉鎖によって社会に出ることになった元患者たち、ノーマライゼーションをテーマにした外国映画が続けて上映されることになります。
時間をつくって観に行くぞ!