コラム
【11.01.29】薬害イレッサ 国が和解協議を拒否
政府の「すりかえ」は許されない
肺がん治療薬イレッサについての裁判。
東京地裁、大阪地裁が、所見を示し和解協議を原告と国によびかけていました。
ところが、28日、国は和解拒否を表明。昨夜から今朝にかけてたびたびニュースが報じられています。
昨年からたびたび原告団・弁護団の方々が、資料をもって国会を訪ねてくださいました。
この1週間も、何度もみなさんとお会いし、激励し、そして国への働きかけを私たちもしてきました。
「副作用がほとんどない夢の新薬」と承認前から宣伝が大々的に行われていました。
日本で世界に先駆けて、輸入承認が異例のスピードで行われ、しかも短期間に800人もの副作用死亡者が出てしまった。
これまで、小池あきらさんが何度も国会質問でとりあげていたのを、私も「赤旗」報道で読んでいました。
致死性の副作用は、間質性肺炎。肺がすかすかの状態になって機能しなくなる、致死性の高い重篤な病気です。
イレッサの添付文書には、副作用情報として、まず下痢や湿疹について書かれ、間質性肺炎についてはずっと後ろに記述があるだけ。致死性の高い副作用という注意喚起にはなっていませんでした。
処方した医師も、処方を承諾した患者も、重大な副作用への知識を得ないまま、短期間に他のガン治療薬にもみられないほどの副作用死が起きてしまったのです。
裁判所の所見と和解勧告は、致死性の高い副作用であるとの情報提供が不十分であり、国と輸入販売したアストラゼネカ社はその責を負うべきと判断した内容です。
原告団の代表の近沢昭雄さん。娘さんが犠牲になりました。
「服薬の承諾書には、風邪のような症状が起こることがあるが、服用をやめれば治るという説明だった。ところが服用してすぐに間質性肺炎になり、壮絶な苦しみの中で娘は死んでいった。私たちは命尽きるまでガンとたたかう決意をしていた。死ぬためにイレッサを服用したのではない」
重大な副作用の危険性を知っていれば服用をしなかったかもしれない、また知らされていて副作用が起きても自分を納得させられたかもしれない…
その悔しさはどれほどのものでしょうか。
おそらく原告の多くが、「なぜイレッサがスピード承認されたのか」「十分な治験があったのか」(欧州では治療効果はきわめて限定的との治験が出されています)、真相を追究したい思いでしょう。
けれど百歩譲って、重大な副作用情報が、その内容にふさわしく情報提供されなかった問題を問いかけたのです。
裁判所の和解勧告も、情報提供があまりに不十分であったことを、製薬企業(アストラゼネカ社)と国に指摘する内容となりました。
ところが、原告団が和解協議に応じると態度を決めても、政府は協議に否定的姿勢をとり続けています。
「副作用がすべてわからなければ承認できないとなれば、新薬承認が遅れる」
「副作用情報の順番まで問題にされると、新薬開発に支障をきたす」
裁判所の所見・和解勧告の内容をゆがめ、すりかえてまで、和解協議を拒否する、なんということでしょう!
ガンをふくめ、難病のみなさんにとって新薬開発は最も切実な要求です。
イレッサ原告団も同じです。それを新薬開発の妨害者として原告団を描き出す、絶対に許されないことです。
「情報提供の不十分さ」、それすら認めることができないのか。
「治療が困難な肺ガン患者は、いずれ寿命が尽きるのだから副作用で死んでもかまわない」と切り捨てるのでしょうか。
院内集会、議員会館前での抗議行動、連日、原告団は「最後まであきらめない」と国に和解協議に応じるよう求め続けています。
かつて薬害裁判で、国が和解協議を拒否したことはありません。
判決を待てば、東京地裁・大阪地裁とも、明らかに国と製薬企業の敗訴でしょう。
和解拒否は、控訴を意味しています。原告にまだ苦しみを強いようというのでしょうか。
イレッサは提訴によって使用説明書の内容が大きく変わりました。
後ろのほうにあった間質性肺炎についての記述が、文書の冒頭になり、「致死性」という言葉が赤い文字で何度も記されるようになったのです。
情報提供に不十分さがなかったのならば、なぜこれだけの記述の変更が行われたのか。
命をかけた裁判があったからです。
1月21日には、高橋千鶴子衆院議員と、厚生労働省の政務官にあって「和解に応じるべき」と求めました。
質問の機会がまだないだけに、原告団を励まし、水面下で動くことしかできない、それが悔しい。
政官業の癒着を断ち切るのが、政権交代の目的ではなかったのか。
製薬企業とともに和解協議をけとばすような政府を、国民は選んだのではありません。