日本共産党 田村智子
コラム

【10.11.19】「TPPに乗り遅れるな」のごまかしを暴く

市田書記局長の質問に会心の「そうだ!」

参議院予算委員会、法務大臣の失言や尖閣ビデオ問題でたびたび会議が中断。
市田忠義書記局長の質問予定時間がなかなかきません。
国民のくらしや経済の深刻な実態とかけ離れた論争に、いらいらが募ります。

午後4時半前、委員会室に傍聴に入りました。
待ちに待った質問の開始。
TPP問題にしぼり、これが農業だけでなく日本の地域経済、産業に大きなダメージを与えることが、一つひとつの質問ではっきりとみえてきました。

「日本農業も世界に負けないように大規模化すればよい」
この間、管首相の演説やニュース解説で何度も聞いてきた主張です。
「北海道の酪農農家の規模は、アメリカ、EUと比較してどうか」
農水大臣が数値をあげてこたえます。

農家1軒あたりの乳牛飼育は、すでにEU平均を超えている!
肉牛ではなんとアメリカの平均をも超えている!
ところが今でさえ、輸入牛肉の方が値段は圧倒的に安く、すでに市場を席巻しています。
(アメリカ産牛肉はなんでこんなに安いのか、ちょっと怖くなります…)

すでに欧州、アメリカ並みに大規模化させられてきた北海道でさえ、TPPで農作物の関税が撤廃されれば壊滅的な経済損失を受けるのです。
棚田や段々畑が広がる中間山地では、大規模化など不可能ですから、耕作放棄地が急増しかねません。

「農家の高齢化がこのままでいいのか、農業の改革が必要」と強弁する首相。
「食べていかれないから跡継ぎがいなくなる。輸入自由化で価格を下落させた政治の責任だ」
一喝する市田さん。「そうだ!」と心から声をあげました。他党の委員席からも「そうだ」の声がたびたび起こります。

例外なき自由化をすれば、労働力も規制なしに流れ込む。
アジアの賃金水準とあわせることになれば、労働者の賃金引下げに一層拍車がかかり、日本の産業も経済も大混乱になることは必至。
考えれば考えるほど、背筋が寒くなります。

「TPP参加国、参加を検討している国は何カ国か」と市田さん。
検討を含めてもわずか9カ国。世界の流れに乗り遅れるなという主張が、いかにでたらめなものかが鮮明に暴かれました。
しかも、この9カ国のなかで、日本が2国間での自由貿易協定を結んでいないのは、アメリカとオーストラリアだけ!

さらに「国連人権規約」の「食糧主権」の規定について、反対、もしくは保留している国はどこかをただされて、外務大臣は、
「反対したのはアメリカ、保留はオーストラリア」と答弁。
農産物の輸出大国が、どこかの国の農業がつぶれようとかまわないという態度で国際社会に挑んでいるのです。

こんな流れに「乗り遅れる」のを問題にするとは! まさに亡国の政治です。
質問時間は片道(質問者が使う時間)12分。
自民党などと比べるとあまりに少ない。けれど、この質問にどれほどの国民の要求と、政治のおおもとの問題があふれていることか。

会心の拍手を送りました。
結局、首相は「APPECに参加した海外の閣僚も、日本料理をおいしいと評価した。日本農業には可能性がある」と、政策にもならないことを述べただけ。
日本農業のレベルの高さは言われなくてもわかっています。
そのすばらしい仕事に見合う価格も保障せず、さらに厳しい価格競争を強いるなど絶対に許せません。

傍聴を終えて国会の自分の部屋に戻ると「テレビ生中継が、市田さんの質問が終わってすぐに終了したんですよ」と秘書さんが教えてくれました。
よかった…。どうか多くの方々が、特に不安をかかえる農業・林業・水産業の方々に届いていてほしい。
国会の中と外の連帯がこんなに求められているときはありません。