コラム
【10.10.22】金型、配電、溶接、建築…ものづくりの学校へ
雇用・能力開発機構 神奈川センターを視察
金型をつくる、電気回路をつくる、一軒の家の一部屋部分をつくる、コンピューターのプログラムをつくる…
1クラス20人〜30人ほどの教室は、どこも真剣な表情にみちていました。
全国に61ヵ所のポリテクセンターとよばれる職業訓練学校。
その一つ、横浜市の施設を視察しました。
花田統括所長は説明をできるだけ「短く」して、授業終了の3時過ぎまでにできるだけ現場をみてくださいと、教室を次々と案内してくださいました。
最初に訪ねたのは、金型をつくる教室。置かれている機械は、私が大田区などの中小工場でみてきたものと同じように思えます。
プラスチック樹脂や金属を型に流し込んで、様々な製品や部品をつくる、その型を3次元的に設計して、コンピューターで図面を機械にいれる、四角いアルミの塊が3次元的に切られていって型がつくられる。
型のどこを始点にして形成をはじめるのか、切るときの断面は平らなの溝があるのか、微妙な凹凸で金属に模様をきざむのか…。すべてオリジナル設計です。
最終的に思い通りの形になったときの感動は、どれほどでしょうか。ものづくりの醍醐味に満ちた仕事だといいます。
「自分で製品のデザインを描き、型をつくる、これを経験すると、ものづくりの楽しさを体感できる」と施設長さん。
この体感が、就職活動でがんばり、就職してからも働く意欲につながるとのこと。なるほど…。
説明しながら、訓練生の作品を次々と紹介する職員のみなさん。
まるで自分が作ったもののように嬉しそうに、手にとり説明する姿は、職員のみなさんにとっても働きがいが実感できる職場なのだと思えてなりませんでした。
建築の教室では「職人さんを養成するわけではありません」とのこと。
それでも体育館をつかった教室には、建前をみるような、木の骨組みがいくつも置かれています。
受講期間は半年ですから、職人というわけにはいきません。
建築会社の社員として、職人さんと顧客の橋渡しになる仕事についたり、インテリアコーディネーターになる方が多いとか。
家がどのようにつくられるのか、設計の段階から基礎を一通り学び、現場での組立作業なども経験することで、職人さんが作業しやすい仕事の発注、段取りができるのだそうです。
ポリテクセンターの受講料は基本はテキスト代のみ。
ハローワークなどでこの学校を知って申し込むという人が多いそうです。
「派遣で働いていた若者が、安定した仕事につきたいと、入学することもありますし、中小企業が現職の社員の技能向上のために訓練を申し込むこともあります」
東京都でも、生活費を支給しながら無料の職業訓練を行う制度をスタートさせていますが、専門学校の座学が中心。
インテリアコーディネーターの講座で、家の組み立てを経験するなんて聞いたことがありません。
ポリテクセンターや、職業訓練の講師を育てる職業能力開発総合大学校は、「独立行政法人 雇用・能力開発機構」が運営しています。
この独法を廃止して、別の独立行政法人に統合する、これにともなって都道府県に譲渡できるポリテクセンターは手放そう、という計画がすすめられています。
独法廃止の法案として厚生労働委員会で審議することになります。独法を減らさなければならない、という「改革」のもとで、現に大きな役割を果たしている機構をなくしていいのか、大変な財産を失うことにならないか、憤りのような疑問がわいてきます。
「ポリテクセンターなどの機能は維持する」と、厚生労働省は説明します。
ところが、今の職員は全員いったん解雇と同じ。都道府県が譲り受けた場合には、都道府県の職員として新たに採用されなければなりません。
また、統合する独法に移る場合にも、いったんは「整理」してからの任用になるという。なぜそんな乱暴なことを…。
「国民から、『私の仕事館』などへの批判が強かったから」だそうでう。
税金の無駄ではといわれた施設をつくったのは、現場で働く職員なのでしょうか?
そのうえ、独法のもとに残しても、ポリテクセンターの職員数は減らすという方針。
それで、今のカリキュラムを維持できるのか…
職員のみなさんは、クラスの連帯をつくったり(励ましあって技能を身につけ、就職活動にのぞむにはクラスの雰囲気が重要なんだそうです)、就職のための様々な支援をしたり、卒業生で就職の報告がない人はときに家庭訪問もして、状況をつかみアドバイスなどしています。
卒業後6ヶ月以内に、7〜8割の就職率。しかもその多くは正規労働者としての就職だといいます。
戦後直後の職業訓練学校の歴史をうけつぐ神奈川のポリテクセンター。
「私たちには財産もノウハウも豊富にある。それぞれの地域の産業に根ざした職業訓練のあらたな開発も可能。全国のポリテクセンターで職員の異動もあり、経験交流や、『こういう講義があらたにできないか』という要望にもこたえられる」
話をお聞きするほどに、そして現場をみるほどに、本当にかけがえのない役割を現に果たしていることがわかりました。
求職者支援、就職支援というのなら、1人ひとりに知識・技能をどうのばすのか、1人ひとりに向き合った支援にもっと本腰をいれるべきでしょう。
ポリテクセンターの機能は、ハードよりも、ソフト、とくに職員の方々の経験と実践があってこそです。
就職支援にとどまらない、日本のものづくりの未来がかかった問題として、私もとりくまなければと、帰りの坂道を下りながら気持ちが昂ぶりました。