【14.05.15】 内閣委員会 NIH法案について 参考人質疑
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
今日は、大変この法案についての考えを深めることができるお話を聞かせていただきまして、ありがとうございます。
医薬品、医療機器、再生医療を成長戦略に位置付けて、実用化までの研究開発を国策として進めると。そうなっていくと、臨床研究や治験ということが今まで以上に大規模に行われていくことになるんだろうと思っています。その点で、お三人とも、倫理の確保の問題とか、これが人体実験であってはならないということをお話しいただいて、是非これは、法案が成立すれば司令塔となる総理大臣とか大臣にこそ聞いてほしい話だなということを改めて思ったところですが、今日は武村参考人に、まず、こうした先行事例ともなっている神戸のことでお話をお聞きしたいと思うんです。
神戸で進んでいることというのは、大阪、京都、兵庫が関西圏医療等イノベーション拠点、チャレンジ人材支援の国家戦略特区として指定をされて保険外併用療養制度の範囲も拡大をされていると、そういう中で進んでいることだというふうに理解をしています。先ほどのお話では、中央市民病院が臨床研究の窓口になっているとか、臨床研究の過程で発生する救急患者の受入れを期待されて、その近くに移転がされているというお話で、これはちょっと衝撃を受けてお聞きをしていました。やはり患者の側や国民にとって何がもたらされるのかということを法案審議の際にもよくよく見ることが必要だというふうに思っています。
今後、この神戸市の取組というのは先行の経験として教訓化されて、更なる規制緩和を可能とするスーパー特区につなげていくということが考えられます。一方で、先進医療の拡大とかあるいは選択療養制度ということも、これはトップダウンで今政府が検討を始めていると。そうすると、国家戦略特区で臨床研究を大規模に行える、これは混合診療の拡大ということにつながっていくと思うんですけれども、このことについて武村参考人の御意見をお聞かせください。
○参考人(武村義人君) おっしゃるとおり、医療産業都市、二〇〇三年、先端医療特区として申請を行って、高度先進医療制度の弾力的運用と、要するに具合よう使いなはれということでやったということでありますが、今、神戸医療産業都市、この度認定された国家戦略特区の中で保険外併用療法の拡充を行う、これははっきりと混合診療であります。
混合診療はかつて二つありまして、選定医療と評価療養というのがあります。選定医療というのは、差額ベッド代とか料理がええのが出てくるとか、そういうアメニティーの問題ですけれども、評価療養というのは、保険収載、安全で有効性が確立すれば保険収載するという前提で行われて、結構今は一定の枠がはめられていますので、比較的、何というか、無制限に広がることはなくて、たかだか百億、二百億、そのぐらいの費用ですかね、の中で進んでおります。
それではなかなか進まぬということで、もっと弾力的な運用ということでこの度出てきていますのが選択療養制度ということで、これの特徴は、患者さんと医者が相談して、これがええということになれば、その部分だけを混合診療として認めると。これが行われますと、非常に無原則かつどこまでも広がってしまうということで、混合診療の完全解禁ということになろうかと。その中では、安全性と安全性でないものということの二つが分かれるんですけれども、その安全性をどうやって担保するのか、誰が判断するのか。
安全性で有効であれば保険収載すればいいわけです。安全だけれども効かないやつ、これは横行するやろうと思います、何か訳の分からぬまやかしの医療が。安全ではないけれども効かないというやつは、これはもう傷害罪ですね。安全ではないけれども効くかもしれぬというのは、これはちょっとギャンブルみたいなもので。それからちょっと、いずれにしても、こういう選択療養というのは規制がある程度掛からないと、これはちょっとかなり大きな問題を起こすやろうというふうに思います。
混合診療の一番の問題は、やっぱりお金がない人がその治療を受けられないということが問題であります。それと、混合診療が認められますとその部分の保険収載がなされない。ということは、それは自費診療がずっと続くということで、保険診療の幅がだんだん狭くなっていくということですね。
あとは、混合診療は、今、さっきも言いましたけれども、安全やけど効かへんとか、安全でないけれども効くかもしれぬという、そういうややこしいやつが横行して、いわゆる信頼のある医療という、安心、安全の医療を担保できなくなるということが、これは一番危惧されることでありますし、今後、今の法案の中で弾力的な運用が行われるとするならば、その面がかなり加速するんではないかと。そうすると、国民皆保険、我々が担っている医療制度というのは信頼が崩されるんじゃないかというふうに思います。
以上です。
○田村智子君 今の点で濱口参考人に関連でお聞きしたいんですけれども、先ほどのお話の中で最後に日本の医療研究の信頼はがた落ちであると研究倫理についてお話をされて、ちょっとショックを受けました。この点、もう少し補足してお話しいただけないでしょうか。
○参考人(濱口道成君) やはり今の論文の信頼性の問題がかなり出てくると思うんですね。ここは、踏み込んで発言するのは大変ちゅうちょするんですが。
歴史的に見ると、私どもが研究者になった七〇年代というのは、日本の論文というのはなかなか通らなかったんです。それは、日本という後進国でどれぐらいフェアな研究がやられているのかということがありましたが、たくさん研究者が育って、余り有名でない雑誌にしっかりした論文が通るようになって、日本というのは割としっかりしたことをやっているという評価があって、八〇年代、九〇年代ぐらいからビッグジャーナルにどんどん通るようになってきた。そこがもう一回根幹が揺らぐ可能性があるなということを実は実感しております。
これは、実はアメリカにもそういう時期がございました。八〇年代ですが、私がアメリカにおった頃にロックフェラー大学におりましたが、私が帰った後、デビッド・ボルティモアというノーベル賞学者が学長になりましたが、その部下のイマニシ・カリという人がやっぱりデータの改ざんがありまして国会に呼ばれるという、そういう厳しい試練を経てアメリカの研究というのは公正であることが保たれていると。
日本も、今ちょうどそのフェーズを迎えているんであると、大変苦しいんですが。ここで、個人の責任に任さないきちっとした審査体制あるいは評価体制を全ての分野で確立する、ピアレビューを原則とするということをやる中で私たちはこの困難を越えていかなきゃいけないと、そういうふうに現状認識しております。
○田村智子君 そうしたチェック体制の問題というのは、本当に今回の法案の中でも私なかなか見当たらないんですよ。加えて、今の選択療養というような話が規制改革の中でどんどん出てくると。私、そういう中で実用化、応用化ということが非常に重点化されるということにちょっと実は危惧を持っているところですが。
次の問題で、もう一度武村参考人にお聞きをしたいんですけれども、私がそういう懸念を法案審議のときにも言いますと、官房長官からは、いや、この法案は国民の健康増進のためなんだ、最高水準の医療を提供していくんだということなんですが、神戸市における医療クラスター、本当に医療や研究機関をごく一部の地域にぎゅっと集約している。こういうやり方が医療特区で行われていって、果たしてそれが市民にとって、あるいは県民にとっての医療水準の向上であるとかあるいは経済への効果であるとか、特区ですからね、そういうのがあるんだということも宣伝されるんですけれども、それはどのように現れているのか、あるいは逆に問題があるならばお聞かせください。
○参考人(武村義人君) 確かに、神戸市ポートアイランドに医療産業都市のクラスターとして非常に集積しています。ちょっと油断していたと言うたらいかぬですけど、地震があったときやっぱり人工島はちょっとアクセスがあかんようになりまして、そこに重要なものを一遍に集めるのは、これはいかがなものかなということであります。それと、やはりいろんな実験が行われています。バイオハザードという問題がありまして、いろいろ病原菌がどのように広がっていくか、これもやっぱりノーチェックに今なっております。
経済の問題でいきますと、研究成果を市民にいち早く還元し、市民の健康、福祉の向上ということを掲げています。神戸市のホームページを見ますと、健康が楽しめる町づくりというのがずっと十年間変わらずにあります。神戸に行こう、神戸に行けば病気が治る、神戸に行ったら健康になる、こういううそみたいなスローガンがいまだに飛び交っておりまして、これはちゃんとあります。そこにはSTAP細胞も使おうということも載っております。
そういうことですけれども、今やっていることは骨、血管の再生、下肢の足の血管、ASOというんですが、あと膝の軟骨の問題、先ほど言いました網膜の再生の問題、これも全て臨床研究や治験の段階です。それが神戸市民とか兵庫県民でなければ受けられないという医療などではないわけでありまして、そういうことのために市民病院の患者さんの利便性が損なわれておると、救急受入れが少なくなるというデメリット、こっちの方が大きいんじゃないかなということです。
経済効果につきましては、ちょっと調べてみました。神戸市は、二〇一〇年度の経済効果について一千四十一億円、約一千億円としていますが、これはあくまで推計であって、これまで国や市が投じた千三百億円との関係で、果たして大きな経済効果が上がっているかは難しいと。企業進出が増えたと言うていますが、日経新聞、二〇一〇年ですが、この十年間で進出した医療関連企業の三割が撤退したということで、神戸市が強調するほどのものではなかろうと。国の補助金も含めて二十二億円を投じまして研究ラボを、レンタルラボを造ったんですけれども、一年もたたぬ間に倒産しまして、そこも市の外郭団体が引き取らざるを得ぬような状況になっておるというのが実情であります。
それ以上に、神戸市の福祉、医療、福祉の問題ですね、生活保護も含めて。市民に負担というのは非常にどんどん掛かってきておるということで、この十年間で市民負担は累計で二百七十六億円になるとも言われているということで、経済効果は一部の住民しか恩恵を受けられない神戸医療産業都市に巨額の市税を投じるよりも、やはり市民生活に密着した医療・福祉政策が重要かなというふうに思いますし、行政はもう少し丁寧に親切に真実をやっぱり市民に伝えるべきであろうというふうに思います。
以上です。
○田村智子君 そうした医療特区の実態というのもよく見て今後の政策を考えていきたいというふうに思います。
続いて、永井参考人にお聞きをしたいと思います。
先ほど、基礎研究が臨床研究につながっていくと、そこで終わりじゃないと、また新たに基礎研究にフィードバックをして発展的なサイクルがずっとつながっていくんだというお話は大変勉強になりました。この法案の前の日本版NIHというのが言われたときに、やっぱり基礎研究の部分がどうなるかということが相当に危惧をされたと思うんです。利根川進博士がやはり相当に異議も唱えて文科省の予算、科研費は確かに別建てになったと。しかし、その他では予算は増えたか、橋渡しの部分を強化するとか予算や人を強化する、体制を強化する、予算が膨らむということではなくて、その他は寄せ集めたというのが予算上は形だと思うんですね。
そうすると、重点化が行われるとやっぱり基礎研究部分が薄くなることが生まれてくるんじゃないかということを私はやっぱり危惧せざるを得ないんです。また、永井参考人のお話をお聞きすれば、維持すればいいのかと、文科省の科研費も維持されるかどうかも危惧があるんですけど、そうではなくて、そうやってフィードバックしてまた基礎研究ということになれば、本来、基礎研究部分も拡充が求められていくのではないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
○参考人(永井良三君) おっしゃるとおりだと思います。基礎研究は極めて重要でありますし、基礎研究なくして実用化研究というのは、私はあり得ないと思います。
ただ、これは時代によって随分その割合は変わっていくのではないかと思います。最初にお話ししましたように、三十年前は日本は基礎研究ただ乗り論と、基礎研究していないではないかということで、この三十年にわたって充実が図られたと思います。
しかし、今考えてみますと、臨床現場から出る問題、それに対する回答の仕方、技術というものが今度は逆におろそかになってきた。あるいは、当時は良かったとしても今は国際基準から許されないという、そういう時代になってきております。また、臨床現場から出る研究が今度基礎研究にフィードバックするということもございますので、これは時代を見ながら当面はここをまず強化しましょう、また四、五年たったときにはこうしましょうというようなことをこの機構の中で考えていくべきではないかと思います。
○田村智子君 最後に一点、濱口参考人にお聞きしたいんですが、その基礎研究といったときに、そうはいっても科研費や、今度集約されたのは競争的資金であって、独立行政法人の大学や研究所の基盤のところの予算というのはやはり運営費になると思うんですね。それがずっと削られ続けている。競争的資金は、どうしたって研究者を雇うときには、プロジェクトですから、三年とか五年とか長くても十年というような雇い方になってしまう。果たしてこれで人が育つんだろうかと。やっぱりその基盤のところの予算の拡充が求められていると思うんですが、いかがでしょうか。
○参考人(濱口道成君) 大学の現場を預かっている者として、今の御指摘は二つの側面がございます。
一つは、持続的に効率化係数を負荷されてカットをされることによって現場は大分疲弊をしております。特に、運営費交付金というのは、これは言わば大学のお米でございます。主食でございました。ただ、今は人件費払うだけでもうほとんど手一杯、それも払えない大学も増えていると。これはかなり危機的な問題がございます。
一方で、日本の十八歳人口がまた減ってきます。この現状と、それから膨大な借金をしている現状、これに対して大学の現場がどういう責任を果たすべきかというところで、我々もう少し工夫をしなきゃいけないという現実もございます。これはもう少しお時間をいただきながら、現場の努力を理解していただけないかなというふうには思っております。
○田村智子君 ありがとうございます。終わります。