【12.08.28】厚生労働委員会――高年齢者雇用安定法案
65歳まで希望者全員雇用の「例外」について質す
○田村智子 日本共産党の田村智子です。
労働者の年金支給年齢引上げによって、来年四月以降、六十歳で定年退職し給与収入が途絶えると、一年以上にわたって無収入、無年金になる場合が生じてしまいます。さらに、二〇二〇年四月以降に六十歳となる労働者は全員、六十五歳になるまで厚生年金は一円も受け取れないということになります。
国策でこのように年金支給年齢を引き上げた以上は、六十五歳まで雇用継続の施策を講ずるのは最低限度の政府の責務であって、継続雇用の対象者の選別を可能としてきた基準を廃止するというのは当然のことだと考えます。一方で、労働政策審議会では、使用者側から例外を認めるべきだと強く要望がされて、そのことは報告の中にも意見が明記をされました。
政府提出の法案では、このような労政審の建議を踏まえた上で、基準の廃止を行うだけで例外規定を置かなかった。その理由について、簡潔にお答えください。
○小宮山洋子厚生労働大臣 この度の改正では、年金の支給開始年齢の引上げに対応して雇用と年金を確実に接続をさせるため、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止して、希望者全員の六十五歳までの雇用確保を図ることにしています。ですから、新たに例外を設けることは適当ではないというふうに考えています。
また、労働政策審議会の建議で、就業規則における解雇事由又は退職事由に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当であるとされましたが、これはほかの年齢でも適用できる解雇・退職事由を定年時にも利用して、その場合には継続雇用しなくてもよいことを確認的に示したものであるために、法案には盛り込まなかったということです。
○田村智子 そもそも、解雇事由に相当するような労働者が定年まで働いているということ自体がなかなかに想定しかねる事態なんですね。
修正提案者にお聞きします。
なぜ希望者全員の継続雇用に対してわざわざ想定も困難なような場合を考慮して例外規定を置くことが必要だったんですか。
○修正提案者 岡本充功衆院議員 まず大前提として、新たな例外規定をこれ作っているわけではない、設けているわけではありません。
今回、修正案では、政府の労政審の建議で、労使協定による対象者基準は廃止することが適当であること、それから就業規則における解雇事由又は退職事由に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当であること、また対象者基準廃止後の継続雇用制度の円滑な運用に資するよう、企業現場の取扱いについて労使双方に分かりやすく示すことが適当とされていて、この分かりやすく示すことが適当だということを踏まえ、今回の修正案を提出をさせていただいたと、こういうことでありますので、御理解をいただきたいと思います。
○田村智子 希望者全員というのは大変分かりやすいんです。それに対してわざわざ希望者全員でなくてもいい場合というような中身を求めて修正を行っているわけですから、これは私は事実上例外があるということを法律の中で書いているんだと言わざるを得ないというふうに思うんですね。
こういう法律に抜け穴をつくるということは、やっぱり労働者にとって非常に重大な問題をもたらしかねないと思います。しかも、現在の基準というのは労使協定によって定めますが、今後は、大臣が指針を定めて、使用者がその運用を判断するというのが、現場でそういうことになっていくわけですね。そうすると、使用者側の恣意的な判断がなされないよう、指針では、継続雇用とならないというような場合は本当に極めて限定的であると、希望者全員なんだということがはっきりと分かるように示すべきだと考えますが、大臣、いかがでしょうか。
○小宮山洋子大臣 一月六日の労働政策審議会の建議では、継続雇用制度の対象者基準の廃止を適当とするとともに、一つは、就業規則の解雇・退職事由に該当する人について継続雇用の対象外とすることもできる、この場合、客観的合理性、社会的相当性が求められるということ、また、継続雇用制度の円滑な運用に資するよう、企業現場の取扱いについて労使双方に示すことが適当である旨示されています。
この度の修正案は、雇用と年金の確実な接続という今回の法改正の趣旨を堅持をしながら、労働政策審議会の建議も考慮して高年齢者雇用確保措置の実施運用指針を定めることとしたもので、おっしゃるような事業主の恣意的な判断を認めるものではないというふうに考えています。
厚生労働省としましては、高年齢者雇用確保措置の実務運用に関する留意点について、この労働政策審議会の建議や国会での御議論を考慮しながら、今委員が御指摘のような御懸念がないように所定のプロセスを経てしっかりと策定をしていきたいと考えています。
○田村智子 私が大変危惧をしますのは、今でも企業側の身勝手な論理で現に深刻な解雇やリストラが行われているということなんです。
その解雇の理由についても、社会的に通用する常識の範囲なのかどうかと、これを争う裁判が幾つも起きています。例えば、日本IBMでは二〇〇八年から、相対評価で成績が低いとされた下位一〇%の労働者に対して退職勧奨、私はこれは退職強要だというふうに考えますけれども、退職するよう求める面談が繰り返されています。相対評価の結果で成績が思わしくないことが解雇事由に当たると言うに等しいやり方を現に行っているんです。
一般的に、相対評価で下位一〇%の労働者は解雇などという解雇事由は許されないし、六十歳定年時においても、相対評価という指標をもって労働者を継続雇用しないというような判断を企業が行うことはこの法案によっても認められないと思いますが、確認をしたいと思います。
○西村智奈美厚生労働副大臣 解雇の有効性につきましては、まず就業規則にそのような解雇事由を定めることが労働契約法に規定されている就業規則法理に照らして合理性を有すると認められるかどうか、そして、ある労働者がその解雇事由に該当し、その労働者を解雇することに客観的に合理的な理由があると認められるのかどうか、また、実際にその労働者を解雇することが社会通念上相当と認められるかどうか、例えば成績の改善の見込みの有無ですとか配転、降格などによる解雇回避の手段の可能性、そして能力を発揮する機会が十分に与えられていたかどうかなどの諸事情がそれぞれ個別の事案ごとに判断されることとなるものと考えております。
また、この度の改正で継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されたにもかかわらず、御指摘の退職勧奨の対象とする勤務成績の基準を新たに継続雇用の対象者基準として設けることは、この度の改正の趣旨に反すると考えております。
個別の事案については裁判所で判断されることになりますが、継続雇用の際に現行の対象者基準と同様のものを設けている場合には指導等をしっかりと行っていきたいと考えております。
○田村智子 このIBMですね、ボトムテンだといって、もう退職勧奨の対象にしちゃっているわけですね。こういう事例が現に起きているんだ、解雇事由に値するようなことだというようなやり方を企業が行っているということ、これ是非よく理解していただきたいと思います。
食品メーカーの明治屋でも、労働組合の委員長が規定の基準C以上を満たさないという理由で、希望したにもかかわらず雇用継続がされない、こういう事案が二〇一〇年に起きています。
今の御答弁にあるように、こうした勤務評価は会社側の一方的な判断で行われてまともな説明なされないことは多々あるんですけれども、継続雇用の基準としては今後はならないんだということは確認できたと思います。
それだけではなく、私が大変危惧をしていますのは、継続雇用を希望させないという圧力、こういうことも現に起きている。これをなくしていかなければならないというふうに思っています。例えば、東北大学生協では、パート労働者が六十歳になると職種変更や事業所の変更、時間帯変更を行って、働き続けることが困難にされてしまうと、こういう環境がつくられてしまうと聞いています。
このような継続雇用を希望できないような労働条件の変更、あるいは継続雇用を希望しないよう多数回に及ぶ面談を繰り返すと、こういうことがあってはならないと考えますが、いかがでしょうか。
○西村智奈美副大臣 継続雇用制度で労働者を定年後に再雇用する場合には、新たな労働契約を締結することになるため、勤務場所や職務内容などの条件は労使の合意で決まるということであります。継続雇用をする場合に事業主が提示する労働条件については、労働者が納得するようなものまでは求められておりませんが、法の趣旨を考慮した合理的な裁量の範囲内のものであることが必要と考えられます。
また、裁判例について申し上げますと、具体的状況に照らして極めて過酷で勤務する意思をそがせるようなものというものは、高年齢者雇用安定法の目的に反するという裁判例もございます。
厚生労働省としては、厚生労働大臣の告示によって高年齢者雇用確保措置を実施する上での留意事項を示しておりますが、この措置が各企業で労使の十分な協議の下に適切かつ有効に実施されるように指導を行ってまいりたいと考えております。
○田村智子 厚生労働省の資料では、継続雇用を希望したけれども基準に該当しないことを理由に離職した労働者は希望者の二・三%、定年到達者の一・八%という数字は示されています。しかし、どのような場合に基準に該当しなかったのか、離職を余儀なくされたのかと、こういう中身は分かってこないわけですね、この数字だけでは。また、継続雇用を希望しなかったという労働者も一定割合いるわけです。これも、なぜ希望しなかったのか、一〇〇%労働者側の理由によるものなのかどうかと、これもこの調査の中では分からないわけです。
今、リストラの嵐が本当に吹き荒れている。退職強要のようなやり方、昨日、決算委員会でも取り上げましたけれども、これが吹き荒れている。同様に、六十歳の定年のときに、継続雇用をするかどうかというときにも同じようなことが行われているだろうと、これ容易に推測ができるわけです。
そこで、是非厚生労働省にお願いをしたいのは、今後、労政審が審議をする、大臣が指針を定める、それに当たっては、これまで希望をしても継続雇用とならなかった事例にどのようなものがあるのか、あるいは継続雇用を希望しなかった理由にどのようなものがあるのかと、こういう具体的な調査も行って、その内容を公表すべきだと思うんですけれども、御検討いただきたいんですが、どうでしょうか。
○西村智奈美副大臣 JILPTが調査を実施しております。これが、高齢者に関する調査によりますと、継続雇用制度の基準の内容については、健康上支障がないこと、これが九一・一%、働く意思、意欲があること、九〇・二%、出勤率、勤務態度、これが六六・五%、一定の業績評価、五〇・四%などがございまして、基準に該当せず離職した一・八%の人についてもこのような基準に該当したものというふうに考えられます。
また、継続雇用を希望しなかった方について、希望をしなかった理由を見ますと、再雇用、勤務延長の賃金が安過ぎるからといった御意見や、他の会社に転職したかったから、また、趣味やボランティア活動に打ち込みたかったから、健康上の理由からなどというふうになっております。
このように、継続雇用を希望しない理由は多岐にわたっておりまして、このうち、高年齢者に係る基準を労使協定で定めている企業において、当該基準に該当しないと考えてあえて継続雇用を希望しなかった方がどれくらいおられるかについては、残念ながら把握できておりません。
なお、法改正により基準制度を廃止した場合、基準制度の廃止によって、基準を設けている企業の継続雇用率が希望者全員の継続雇用企業の継続雇用率まで引き上がると仮定いたしますと、一万人から五万人程度継続雇用の対象者が増加することになります。
○田村智子 この基準をめぐっては裁判などでも闘われておりますので、やはりそうした具体の事例を是非踏まえていただきたいということを重ねて要望したいと思います。
修正された法案の第九条第三項には、心身の故障のために業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いという文言が入りました。継続雇用をされない理由として、心身の故障ということが今後具体的に例示されるのではないかというようなことが考えられるわけです。
神奈川県の自動車学校、三栄興業株式会社が経営する自動車教習所では、今年八月十五日に六十歳の定年を迎えた労働者が継続雇用を拒否されました。会社は書面で理由を示すことを拒否していますけれども、口頭では、一つに過去に目まい症で休職したことがある、二つに糖尿病を罹患している、三つに教習生からの苦情が過去二回あった、たった二回です、四つ目に三、四時間の残業命令に対して一、二時間の残業しかしなかったというのが理由だとされました。
この残業について言えば、健康管理上、食事時間を一定にしなくちゃいけないとか運動をすることが必要だと、残業時間を短くせざるを得ないという事情があったわけですね。私、これは重大な事例だと思います。医師は通常勤務であれば十分堪えられると判断しているのに、慢性疾患があって残業が十分にできないなどが理由にされて継続雇用を拒否されるようなことがあってはならないと思います。
六十歳という年齢は当然二十代、三十代と体力的にも身体の状態も異なるのは、これは当たり前のことです。慢性疾患抱えながら体調管理に努め勤務してきた労働者が心身の故障を理由に六十歳での退職を今後も余儀なくされると、こういうことになれば、医療費どうするのか、生活費どうするのかと、こういう事態にもなりかねないんですね。是非大臣の見解をお聞きしたいと思います。
○小宮山洋子大臣 御指摘の心身の故障のため業務の遂行に堪えない者、これは通常働けないと考えられる場合の例示で、業務の遂行に堪えない者等の等というのは、就業規則で解雇・退職事由に該当する場合が想定をされます。
ここで言う業務の遂行に堪えない場合に継続雇用しないことについては、通常の解雇と同様に客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であるということが求められています。したがいまして、今お話のあったような慢性疾患があるという理由だけで直ちに継続雇用されなくなるというものではないと考えています。
○田村智子 これは後でももう一度聞きますけれども、慢性疾患プラスどういう働き方をするかというのがセットなんですね、残業前提みたいに。非常にこれは重大な事例だと思いますので、大いに注視をしていただきたいと思います。
これは慢性疾患だけではないです。例えば、定年を前にして病気や事故で入院や休業が必要になったと、こういう場合も当然起こり得る、想定できるわけですね。回復できる、六十五歳まで十分働けると、そういう見込みがあるのに心身の故障を理由に離職を余儀なくされると、こういうこともあってはならないというふうに考えますけれども、いかがでしょうか。
○西村智奈美副大臣 今回の法案では、継続雇用制度の対象者を限定する仕組みを廃止することで定年後の雇用を希望する者全てを継続雇用制度の対象者とするように求めているものでございます。
業務の遂行に堪えない場合継続雇用しないことについては、通常、解雇と同様に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるということが求められておりまして、単に定年時にたまたま休職しているという理由だけで直ちに継続雇用されなくなるものではないと考えられます。
いずれにいたしましても、お尋ねのようなケースでは、労使間で十分に協議を行いつつ、再雇用の手続の中で当事者同士十分に話し合っていただくことが重要であると考えております。
○田村智子 解雇の事由に当たるということとか、あるいはその業務に堪えないということなども、本当に繰り返しますけれども、裁判例が後を絶たないわけですね。だから、例外があるかのようなことは法律の中に書かずに、希望者全員ということをすっきり法律で定めることが私は重要だったというふうに思うんです。
この業務の遂行に堪えないという判断が事業者の勝手な運用にならないようにするためには、私、幾つか提案をしたいと思います。
一つは、その疾病のある方あるいはけがをしている方、当該労働者の主治医の意見を尊重するということ、あるいは業務というのの範囲が残業や休日出勤などを含んで考えるものではないということ、通常外の業務を含まずに業務というのが判断されなければならないということ、それから六十歳以上の方の労働条件であるということが配慮されるべきであること、慢性疾患などの病気や障害を抱える方が排除されることのないようにすること、これらは最低限求められることだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○小宮山洋子大臣 労働政策審議会の建議では、就業規則における解雇事由又は退職事由に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとして、この場合、客観的合理性や社会的相当性が求められる旨示されているということは繰り返し答弁をさせていただいているところです。修正案では、建議に示されたような限定的な例外も含めて、企業現場の取扱いについて労使双方に分かりやすく示すために指針を定めることとしたもので、あくまで継続雇用の例外は限定的なものだと考えています。
厚生労働省としては、指針の策定に当たっては、この労働政策審議会の建議ですとか国会での御議論を考慮しながら、委員がおっしゃるような御懸念が生じないように、指針に注意事項を盛り込むなどして正しく理解をされるように配慮をしていきたいというふうに考えています。
○田村智子 終わります。