【12.07.11】本会議――社会保障と税の一体改革法案への代表質問
「自立・自助」の押しつけは憲法25条の放棄
○田村智子君 日本共産党を代表し、民主、自民、公明の3党合意による消費税増税と社会保障制度改悪を許さない立場で社会保障の基本的な問題について質問いたします。
社会保障制度改革推進法案は、社会保障の目指す方向として、自助、共助、公助の組合せ、家族相互及び国民相互の助け合いを掲げています。これは、社会保障の土台を自助努力、家族などの助け合いに置き換え、憲法25条に基づく社会保障への国の責務、役割を縮小するものではありませんか。事実、法案では、医療、年金、介護は社会保険制度を基本とし、国や地方の負担は補助的なものとすることを明記しています。
改革の基本方針を見ても、第6条、医療保険制度では、これまでの政府方針文書に必ず記されていた国民皆保険の文言はなく、療養の範囲の適正化とあります。日本医師会は、国民皆保険とは、医療保険加入だけでなく、医療の公的給付の範囲を守り、混合診療の解禁や営利企業の参入を許さないことだと本法案への懸念を表明しているではありませんか。
第7条、介護保険制度では、給付の対象範囲の適正化、介護サービスの効率化、重点化を図るとしていますが、介護サービスを新たに取り上げるのでしょうか。生活保護についても、非正規雇用の増大、無年金・低年金問題など、貧困の要因はそのままに、給付額、給付対象の削減をあからさまに求めているではありませんか。
提案者にお聞きします。国民皆保険、介護の社会化、最低生活の保障など、国民の努力で確立してきた原則が、なぜこの法案にはないのか、健康で文化的な最低限度の生活を全ての国民に保障するという国の責務はこの法案のどこに体現されているのか、お答えください。
かつて、小泉政権も、持続可能な社会保障制度を掲げ、自律自助を強調し、2002年から8年間、社会保障費の自然増を毎年2200億円削減し続けました。医療費3割負担による受診抑制、介護サービスの取上げ、障害者自立支援法による1割負担導入などがどれほど深刻な事態をもたらしたか。同じような給付抑制を消費税増税と併せて行えば、国民にはこの比ではない激痛が襲いかかることは明らかです。
総理及び3党の各提案者にお聞きします。この小泉政権の政策が日本社会に与えた影響をどう評価しているのか、この法案は同様の社会保障費抑制につながるのではないか、明確にお答えください。
本法案は、社会保障の国と地方の財政負担は消費税及び地方消費税の収入を充てるとしています。これでは、社会保障に使っていた一般財源が他の支出に回され、国民は常に消費税増税か社会保障切捨てかを迫られることになります。そもそも、逆進性の強い消費税を社会保障財源とすることが問題です。社会保障財源は応能負担原則で賄うべきではないのか、お答えください。
こうした改革の具体化は社会保障制度改革国民会議で検討するとしていますが、衆議院の審議では、3党協議の合意の努力の後に国民会議の中で更に詳細なことを決めていくとの答弁もありました。これでは、3党の協議、合意がまずあって、それに批判的意見を初めから排除することにはならないのか、国会軽視も甚だしく、これが国民的な議論と言えるのか、総理と提案者の見解を求めます。
我が党は、消費税に頼らずに社会保障拡充の道があることを提案し、国民的な対話に取り組んでいます。3党のみの合意で消費税増税と社会保障大改悪の道筋を敷くなど言語道断です。法案を廃案とし、各政党が堂々と国民に日本の将来像を提示し議論すべきである、このことを主張し、質問を終わります。(拍手)
野田総理および法案提出者の答弁
○野田佳彦 内閣総理大臣 日本共産党、田村議員の御質問にお答えをしてまいります。
私には3問のお尋ねがございました。
まず最初に、小泉政権の社会保障政策の評価と改革推進法案についてのお尋ねでございます。
小泉政権における、いわゆる骨太方針2006により、社会保障関係費については、2007年から5年間で1・1兆円、毎年約2200億円の伸びの抑制が機械的に求められました。あわせて、制度の持続可能性を高めるため、自己負担増などの改革が行われる中で、セーフティーネット機能の低下、医療・介護サービス提供体制の劣化、少子化への取組の遅れといった問題が顕在化したと考えております。
政権交代以降、このようなゆがみに対応してまいりましたが、今回の一体改革では、必要な社会保障の重点化、効率化と併せて、子育て支援の充実や現行年金制度の改善を行っています。今回の3党で合意した改革推進法案は、受益と負担の均衡が取れた持続可能な社会保障制度に向けて改革の基本方針等が盛り込まれたものですが、これが小泉改革と同様なものとは考えておりません。
続いて、社会保障財源の在り方についてのお尋ねがございました。
日本の社会保障制度では、サラリーマン等には所得に応じ御負担をいただく一方、自営業者等を対象とする国民年金等は定額保険料の負担をいただいております。この定額保険料は、低所得者に対する免除や軽減措置により逆進性を緩和をしています。また、社会保険方式を基本としながらも、税も財源として組み合わせています。社会保障費用が増加する中で、その負担を将来世代に先送りしている状況にあり、社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を図ることが必要であります。その財源としては、世代を通じて幅広い国民が負担する消費税が適当と考えております。
次に、社会保障制度改革国民会議についての御質問をいただきました。
国民会議においては、改革推進法案に規定されているとおり、幅広い観点に立って、法案に盛り込まれた基本方針に基づいて審議することとしており、あらかじめ特定の意見を排除することにはなっておりません。
なお、3党協議と国民会議の関係については、法案の規定や参議院での審議、提案された3党の御意見をも踏まえて対応したいと考えておりますが、いずれにしても、信頼され、安心できる社会保障制度の構築に向けて国民的な議論を深めていく必要があると考えております。(拍手)
○長妻昭 衆議院議員(民主党) 田村議員にお答えをいたします。
総理と同時に法案提出者に聞いていただいた質問もございますので、ダブる答弁もあるかもしれませんが、御容赦いただきたいと思います。
まずは、第1問目としては、この推進法案が憲法25条に基づく社会保障に対する国の責務、役割を縮小するものではないかというお尋ねであります。
今回、3党で提出した推進法案においては、社会保障制度改革の基本的な考え方として、自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していく旨が明記をされております。
家族相互の助け合いとは、例えば子育てなどにおいて家族が果たすべき役割を指しております。国民の自立を家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じて支援するということは、自助、共助、公助の適切なバランスに留意しつつ、家族相互の助け合いを含めた自助を社会全体の連帯の仕組みである共助や公助によって支援するというものであります。
他方、自助を引き出すための共助や公助を行うというスタンスは何ら変更がないことなどから、憲法25条に基づく社会保障に対する国の責務、役割を縮小するとの指摘は当たらないと考えております。
次に、国民皆保険、介護の社会化、最低生活の保障について御質問をいただきました。
この推進法の第6条には、医療保険制度に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、必要な改革を行うと、国民皆保険の維持を明記をしております。また、推進法案の第2条には、自民党、公明党にも大変な御理解をいただいて、協議の結果、自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつというような基本的考え方が明記をされております。
御指摘の介護の社会化、最低生活の保障は、こうした改革推進法案の理念と軌を一にするものと考えております。
そして、健康で文化的な最低限度の生活について質問をいただきました。
この法案による社会保障制度改革の基本的な考え方はさきに述べたとおりですが、自らの収入や資産等、あらゆるものを活用してもなお生活に困窮する方に対する最後の安全網としての生活保護制度があります。
この生活保護制度については、いわゆる貧困の連鎖を断ち切る取組、働ける人の就労の促進や不正受給対策の強化をする必要はあると考え、それを附則に規定していますが、こうした見直しを通じて制度に対する国民の信頼を維持するとともに、真に支援が必要な人に着実に支援を実施されるようにしていく考え方には変わりはありません。
生活保護は、文字どおり最後のセーフティーネットであり、受けるべき人が受けられない場合には死が待っているとなりかねないことにも十分肝に銘じて取り組んでまいります。
そして、次に、小泉政権の社会保障政策への評価について質問がございました。
小泉政権における社会保障関係費、2007年から5年間で毎年2200億円を抑制をするというものであります。これは、毎年機械的に社会保障の伸びを2200億円ずつ定額で削減する手法には疑問があります。いわゆる医療崩壊と言われる医療サービスの低下を始め、様々な問題が生じたと考えております。
政権交代後は、機械的削減をやめ、医療でいえば、診療報酬を10年ぶりにネットプラスにして医療崩壊に歯止めを掛けました。社会保障の適正化は必要ですが、細部や現場の状況をよく見て実施しなければならないと考えております。
そして、この同様の小泉政権と同じような社会保障抑制にこの推進法案がつながるのではないのかと、こういう御懸念についての質問がございました。
今回、3党で合意した社会保障制度改革推進法案は、社会保障の重点化と効率化を行いながら、受益と負担の均衡が取れた持続可能な社会保障制度に向け、改革の基本方針等を盛り込んでおります。その中では、必要な医療・介護サービスの確保や、子育て支援の強化等も行っていくことになっているところでありまして、機械的な抑制策につながるものではないと考えております。
そして、社会保障財源の在り方についての質問がございました。応能負担原則で賄うべきではないのかという質問でございます。
日本の社会保障制度では、サラリーマン等には所得に応じ御負担をいただく一方、例えば、自営業者等を対象とする国民年金等は定額保険料の負担をいただいております。この定額保険料は、現状でも低所得者に対する免除や軽減措置により逆進性を緩和をしております。また、社会保険方式を基本としながらも、税も財源として組み合わせております。社会保障費用が増加する中で、その負担を将来世代に先送りしている状況にあり、社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を図ることが必要であります。その財源としては、世代を通じて幅広い国民が負担する消費税が適当と考えております。
最後に、この国民会議についての御質問がございました。
先ほど総理からも御答弁があったところでありますけれども、国民会議においては、推進法案に規定されているとおり、幅広い観点に立って、法案に盛り込まれた基本方針に基づいて審議することとしており、あらかじめ特定の意見を排除することにはなっておりません。
なお、3党協議と国民会議の関係については、法案の規定や参議院での審議、三党の御意見も踏まえて対応したいと考えております。
いずれにしても、信頼され、安心できる社会保障制度の構築に向けて国民の議論を深めていく必要があると考えております。
以上、答弁を申し上げました。(拍手)
○加藤勝信 衆議院議員(自民党) 田村智子議員にお答えを申し上げます。
3党提案者それぞれということで、自由民主党の提案者として答弁をさせていただきます。
まず、小泉政権の社会保障政策への評価ということでございます。
小泉政権においては、例えば、いわゆる骨太方針2006では、2011年度のプライマリーバランスの黒字化を目指して、社会保障、そしてそれ以外の分野についても、全体の歳出歳入改革により財政の健全化を図ろうとしたところであります。社会保障分野では、全般にわたる見直しにより、社会保障給付費の伸びの抑制が図られたわけでありますが、こうした様々な取組の結果として、例えば、プライマリーバランスは2007年にはGDP比1・2%にまで、国債発行額は2007年には25・4兆円まで縮減するなど、改善が図られたところであります。
他方、その間において、社会保障分野では、社会経済情勢の変化などの中、例えば、へき地医療や救急医療などでの医師不足に伴う問題など、喫緊に解決すべき課題も出てきたものと認識をしております。
なお、社会保障制度改革推進法案についての御質問がございました。
今回、3党で合意したこの法案においては、法文上もありますように、社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化を同時に行いながら、受益と負担の均衡が取れた持続可能な社会保障制度の確立に向けてその改革を総合的かつ集中的に推進すると合意しているところでございます。(拍手)
○西博義 衆議院議員(公明党) 田村智子議員にお答え申し上げます。
公明党に対しまして二つの質問がございました。初めに、小泉政権の社会保障政策への評価ということで御質問がありました。
小泉政権では、消費税増税を行わず財政健全化に取り組むという方針の下、社会保障分野でもその抑制が求められ、自己負担増による保険料負担の抑制など、社会保障制度の持続可能性を高める改革が行われました。その一方で、少子高齢化の進行などの社会経済情勢の変化を背景に、セーフティーネット機能、医療・介護サービス提供体制、少子化への取組といった面で新たな課題が出てきたことも事実であります。このため、今回の一体改革では、必要な社会保障の充実を重点化、効率化と併せて行うことにしており、具体的には、子供や子育てへの支援の強化、医療・介護サービスの保障の強化、貧困・格差対策の強化などを行うことにしております。
続きまして、社会保障制度改革推進法案についての質問がございました。
今回、3党で合意いたしました社会保障制度改革推進法案では、安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡が取れた持続可能な社会保障制度に向け、改革の基本方針等を盛り込んでおります。その基本方針の中では、必要な医療・介護サービスの確保や子育て支援の強化等も今後行っていくことになっているところでございます。
以上です。(拍手)