【11.06.14】参院厚生労働委員会−介護保険法改正案について質疑/反対討論
大都市における介護サービス不足について追求
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
今回の制度改定では、二十四時間対応の定期巡回・随時対応サービスの創設が掲げられています。おおむね中学校区域ごとにサービスの提供体制をつくろうというものです。例えば、寝たきりの方の褥瘡を防ぐためには夜間にも身体介護は必要で、家族の負担を思えばこうした支援策は必要なことだと思います。
同時に、これが絵にかいたもちにならないかという危惧の声も上がっています。今でも介護労働者の不足は深刻だ、二十四時間体制の人員確保ができるのか、また、自宅の鍵を預かって夜間に訪問することになるだろうけれども、介護労働者がそれだけ責任の重い仕事を担うにふさわしい待遇になっているのかどうか、こういう指摘なんですね。
実際、介護労働者の賃金、最近の調査を見ても、平均値でも中央値でも税込みで十八万円ぐらいなんですね。これ、介護労働安定センターの平成二十年調査になりますけれども、八六%の方が週五日以上働いている、七六%以上の方が週四十時間以上働いている。フルタイムです。ところが、十年働いても平均十九万円そこそこの給料しかもらえないと。これでは自立ができない、若い人たちはこういう声を上げる。結婚して家庭が持てない、こういう声も上がってくる。
この事態は、これまでの十年間で数次にわたって介護報酬の引下げが行われてきた、これが要因だと思います。前回の改定で若干プラス改定やった。しかし、以前の連続のマイナス改定を戻すまでにも至っていないんですね。
介護報酬のマイナス改定、これが介護職員の労働条件を悪化させてきた、こういう認識をお持ちかどうか、大臣、お聞きいたします。
○国務大臣(細川律夫君) 今、介護報酬改定、これまでマイナスが二回続いて、そして二十一年にはプラス改定と。この点、私どもとしましては、過去二回がマイナス二・八%でありましたから、今回のプラス三%、これで取戻しをしているんではないかというふうに思います。
しかし、この介護報酬がプラスになって、そして交付金も実施をいたしまして、大体月額二万四千円、賃金引上げの効果が出ておりますけれども、しかしまだまだ待遇は良くないということもございます。したがって、今年の暮れには報酬改定がございます。また、交付金も今年度で終わりになりますから、報酬改定で引き上げるのか、あるいは交付金で待遇改善をしていくのか、これについては今年中に結論が出るようにその方策や財源などを検討していきたいと、このように考えております。
○田村智子君 取り戻してないですよ。二〇〇三年マイナス二・三%、二〇〇六年マイナス二・四%ですから、三%引き上げたってこのマイナスした分取り戻すなんてなってないですからね。
それで、衆議院の議論の中でも、この引上げというのは大幅な底上げが必要だと、四万円引き上げるんだという決意を大臣述べられています。四万円、年末に向けて引き上げるんだと、これ確認できますか。
○大臣政務官(岡本充功君) 先ほどからお話をしておりますとおり、我々マニフェストに掲げているのは事実でありますし、これをどういう形でどこまで引き上げていけるのかというのは、これから介護給付費分科会での議論等を踏まえて決めていくことになろうかというふうに考えているところであります。
○田村智子君 政権公約で四万円と掲げたわけですし、衆議院の審議でも、大臣、決意述べられていますから、大幅な底上げを図ると、これ是非やっていかなければならないと思います。
同時に、今、介護報酬なのか、それとも交付金なのかという議論がありましたが、私は、介護報酬に組み込めば保険料の引上げにつながらざるを得ないと、これは介護保険制度の本当にひどい仕組みだなと私思っているんですね。
前回の審議でも、六十五歳以上の高齢者の保険料、この十年間で一・四倍と、今回の改定案で引下げの財政措置とられてない、これ認めています。多くの介護職の皆さんは自分の仕事に誇りを持っています。やりがいも持って働いています。高齢者の方やその家族の方々の力になりたいという思いで働いている。その暮らしも目の当たりにしている。だから、この低賃金を何とかしてほしいけれども、利用者の方の負担になるのは耐え難いんだと、こういう思いを何人もの方々からお聞きをしています。
これは、やはり介護職員処遇改善交付金、更に前進をさせるんだと、介護保険の財政の枠組みの外、これで国が責任を持って労働条件の改善を行うことが必要だと思いますけれども、いかがでしょうか。
○大臣政務官(岡本充功君) まさにそういった御意見があることは十分承知をしておりますし、先ほど来お話をさせていただいておりますように、介護報酬の中に入れるのか、外に付けていわゆる交付金化していくのか、メリット、デメリットがあるということ、こういったことは承知をしております。
今委員から御指摘がありましたことも十分踏まえて我々としても検討していかなければいけないと考えております。
○田村智子君 高齢者の負担は既に限界だということを是非お認めになっていただきたいと思います。
こうした介護職員の労働条件が改善されない、このことが特に大都市圏では職員の確保を本当に困難にして、結果としてこの介護の利用したいという方々にとっても深刻な事態をもたらしています。
介護施設の整備状況を見てみますと、大都市部での遅れは顕著です。東京都では、特養ホーム、老健施設、介護療養病床、この介護保険の三施設の定員、六十五歳以上高齢者十万人当たりで見て全国最下位です。グループホームなど居宅の施設整備も大幅に遅れています。これは、土地の確保だとか土地代という問題もありますけれども、職員確保が本当に苦しいんだと施設の経営者の皆さんおっしゃっているんですね。現に、首都圏のある市では、特養が新設された、ところが職員募集掛けても集まらない、定員の半分しか入所ができなかったと、こういう事態さえも起きました。仕事の大変さに比して待遇が良くないため人が集まらないんだと、こういう声です。
介護報酬の点数というのは全国一律ですけれども、人件費についてのみは、地域差を吸収するという目的で一点当たりの単価に僅かに上乗せの割合を設けています。しかし、これが実態を反映していないという指摘が行われています。
その一つは、この上乗せ分を認める人件費。対象は介護の職員に限定をされていて、事務の方、給食の調理する方、施設の清掃を行う方、こういう皆さんは対象外なんですね。当然、施設運営にこういう皆さん欠かせません。こういう職員の皆さんについては人件費に地域の差はないという、こういう認識なのかどうかをお伺いします。
○大臣政務官(岡本充功君) 今お話ありました一単位当たりの単価を地域別、サービス別に設定をしているこの考え方は、一名以上の配置を義務付けている職種の職員等の人件費を見ているところでありまして、事務職員や、今清掃の方とか言われましたけれども、配置を義務付けていないこういった職員等に係る人件費も対象にすべきという意見もありますが、その配置が介護サービス事業者の判断に委ねられていることもあり、必ずしも全国一律に支払われている費用と、こういうわけではないということもあり、算定の対象外としております。
いずれにしましても、介護報酬においては、地域差をどのように反映するか、これも介護給付費分科会の議論の一つになろうかというふうに思っておりますので、二十四年度改定に向けての検討を進めてまいりたいと考えております。
○田村智子君 本当に実態との乖離があると思うんですね。事務職の方だって一年でころころ変わったら、これ介護施設成り立ちませんからね。それは、実態を反映していないのは、消費者物価指数、これも東京二十三区は全国平均で比べても一〇%もの乖離があります。しかし、介護報酬では施設の運営費にこの高い物価というのは反映されていません。
昨年十二月、細川大臣のところに東京都社会福祉協議会の高齢者施設福祉部会の方々など首都圏の社会福祉協議会の皆さんが要望で訪ねられたと思うんです。その中でも、地域の人件費、家賃等物価水準の実態に見合った地域の区分や地域の係数、これ見直しをやってほしいんだと、そういうふうに要望されたと思うんですね。これ聞いて終わったら駄目なんですよ。せめて介護施設の経営実態の調査、ちゃんとサンプル数も増やして行って、実態と合わせてどうなのか、実態に照らしてどうなのかと、こういう検証をすべきだと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○大臣政務官(岡本充功君) 二十一年改定の前に二十年に行った経営実態調査においては、この物件費については地域差が見られなかったということになっているんですね。
それで、委員御指摘のとおり、サンプル数少ないんじゃないかと、こういう声もあり、調査実施委員会というのをつくってサンプル数を増やすとともに、調査票の簡素化をして回収率も向上しないと、私も今朝聞いたら、回収率も物すごい施設によって差があるんですね。
我々としては、この抽出率を増やすということをやっていくのはもちろんでありますけれども、この秋にも介護事業経営実態調査の結果が出ることとなっておりますので、そういった結果を見ながらこういった検討を進めていかなきゃならないだろうと、このように考えています。
○田村智子君 もう施設自身の努力では限界なんだという声は本当に切実に起こっていますので、是非実態をちゃんと見ていただきたいと思います。
続いて、介護福祉士等にたんの吸引、経管栄養など一定の医療行為を業務として行えるようにする、この法改定についてお聞きをいたします。
本来こうした医療的ケアは、安全性や確実性という観点から看護師など医療専門職によって提供されるべきだと私たちは考えています。今回の改定は、当面のやむを得ず必要な措置として容認してきたものを、法的根拠を持たせて安定的、継続的に行えるんだと、こうしました。
この法改定の基になったとも言える地域包括ケア研究会報告、ここでは、要介護者に対するたんの吸引など基礎的な医療的ケアについては介護職員に代わって介護福祉士等が扱うと、担うんだと、こういう方向性が示されていますけれども、今回の改定というのはその布石になるのかどうか。あわせて、実際どこまで医療的ケアを認めるかという範囲、これは最終的に厚生労働省令に委任されますけれども、たんの吸引や経管栄養から更に拡大すると、こういう可能性があるのかどうか、お聞きをいたします。
○大臣政務官(岡本充功君) 御指摘のように、今回の法改正、先ほど来お話をさせていただいておりますように、実態として運用で行われてきたたんの吸引等について、介護職員に法的な根拠を付してお願いをしていこうということでありますが、介護職員等によるたんの吸引等実施のための制度の在り方に関する検討会における議論を踏まえて、これまでの運用で認められてきた範囲を基本としてたんの吸引及び経管栄養とすることとしておりまして、将来的にこの行為の範囲の議論が必要となった場合については、関係者との議論を十分に行った上で慎重な検討を加える必要があろうかというふうに考えているところであります。
○田村智子君 それでは方向性がよく分からないんですね。そもそも認められてきた範囲というのは、やむを得ずなんですよ。本来、看護師さんとかをちゃんと置くべきなんですよ。それが足りないから、やむを得ず介護職員がやっていた。これを拡大していくようなことというのは、絶対に私はこれ、慎重にとかということじゃなく、やっぱり医療的ケアは医療従事者が行うのが基本ということをこれは絶対動かしちゃいけないというふうに思います。
同時に、これだけ負担が重くなると、先ほどお話あったとおり、週五十時間の講習も受け実地の演習もやり、大変な負担です。その間の給与の保障をどうするのかとか、その講習の費用の負担をどうするのかということも出てきます。介護報酬で、それではこの負担が重くなった分というのはちゃんと見るということを考えておられるのかどうか、ここをお聞きいたします。
○大臣政務官(岡本充功君) 先ほど来お話をしておりますように、介護報酬で職員の待遇改善をするのか交付金で見るのかというのはこれからの議論でありますが、研修の在り方、そして内容も、できる限りこういった職員の皆さんの負担にならないように、現在働いてみえる例えば職場でできないかとか、こういったことも含めて検討をしているところでありますので、委員からそういう御指摘もありましたので、我々としても、介護職員の皆さんの立場に立って研修の在り方をもう一度しっかりと考えていかなきゃいけないんだろうというふうには思っております。
○田村智子君 終わります。
−−−以下反対討論
○田村智子君 日本共産党を代表して、介護保険法等の一部改正法案に反対の討論を行います。
介護保険導入から十年が過ぎました。介護保険料はこの十年間一貫して上がり続け、次期改定で高齢者の保険料は全国平均で月五千円を超えることが予想され、負担はもう限界です。その一方で、特養の待機者数も制度導入時から増え続け、ついに四十二万人に到達するなど、介護地獄とも言える状態は深刻さを増しています。求められる改正は、国庫負担割合を引き上げ、保険あって介護なしの現状を改善することです。
ところが、本改正案は、それに背を向け、むしろ要介護度の低いとされる方へのサービスの縮小など、一層の給付抑制を可能とするものとなっています。これでは、老後の生活の安心どころか、不安を拡大することになりかねません。
以下、反対の理由を具体的に申し上げます。
反対の第一の理由は、介護予防・日常生活支援総合事業の導入です。
新たな制度により、要支援被保険者は、サービスの質を担保する指定基準がない、より安上がりな介護予防サービスに現行の予防給付が置き換えられる、このことが法的に可能となります。この事業は全てが市町村の判断で実施されるため、これまでも度々問題となってきた法令以上の制約による給付抑制、いわゆるローカルルールを法令で認めることになりかねません。二〇〇六年改正時に要支援という基準を作り、高齢者と家族に困難をもたらした給付の切下げを更に進めようとするもので、容認できません。
第二は、たんの吸引など医療的ケアを介護福祉士等の業務とすることです。
厚生労働省は、医療、介護など他職種の連携を強調しますが、それならば専門教育を受けた看護師など医療専門職の強化を行うべきであり、それこそが医療的ケアの安全と質を保障する施策です。介護報酬で評価されるかどうかも未定であり、このままでは医療的ケアとそれに伴う責任と負担だけが介護職員に押し付けられることになります。
第三は、介護療養病床の廃止期限は延長しましたが、廃止の方針を変えていないことです。
現在でも、急性期を脱した患者さんが入院する後方ベッドは明らかに不足しています。介護療養病床が廃止される六年後には更なる深刻化が推測され、お年寄りが行き場を失うことになります。介護療養ベッド廃止の方針は撤回すべきです。
最後に、介護保険の制度の根本的な問題を解決する上で不可欠な国庫負担の新たな投入がないことです。
保険料軽減、労働者の処遇改善、サービスの充実、どれも介護現場の切実な要求です。このままでは、高齢者の人口増に伴って介護保険料は際限なく上昇し、一方で、劣悪な介護職員の労働条件改善は先送りされることになりかねません。負担あって介護なしの現状の改善の展望は見えません。
以上、反対の理由を申し上げ、討論を終わります。