【10.12.03】障害者自立支援法「改正」法案――厚生労働委員会
国会最終日の暴挙は許されない
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
国会の最終日に本法案がわずか三十分の審議で採決される、この委員会の運営にまず強く抗議いたします。
本委員会の理事懇談会では、十一月十八日に、次に開かれる委員会では内閣提出法案、雇用・能力開発機構廃止法案の審議を確認し、各党の質問者は質問通告も行っていたはずです。ところが、昨日、突然この了承事項がほごにされ、これまで一度も協議の対象になってこなかった本法案を審議し、採決することまで決めてしまいました。これは委員会運営の民主的ルールを覆すものです。
この法案の再提出の動きに対しては、十月二十九日には、日比谷野外音楽堂に障害者、家族の皆さんなど一万人が集まり、反対の意思表示をしました。衆議院で委員会採決された先月十七日には、緊急に数百人もの皆さんが国会に集まり、抗議の声を上げ、以来本日まで、寒さの中や雨の中も不自由な体を押して、あるいは作業所の仕事をやりくりして、障害者や家族の皆さん、障害者施設で働く皆さんが国会に駆け付けています。私たちのことを私たち抜きで決めないでと、何度私たちを裏切るのかと、この声に真摯に耳を傾けるべきです。
この法案は、今年、通常国会に提出されたものと同じです。通常国会の際にも、障がい者制度改革推進会議構成員一同として遺憾の意を表す要望書が内閣総理大臣あてに出されていました。そこには、推進会議の議論が尊重されるよう要望すると書かれていました。
当事者からこれだけ多くの異論が出されているにもかかわらず、なぜ通常国会に提出した法案と同じものを何ら見直すことなくこの国会に提出をしたのか、提案者にお聞きいたします。
○衆議院議員(中根康浩君) 田村先生、御質問ありがとうございます。お答えをさせていただきたいと思います。
この法案については、障害者自立支援法に代わる新たな総合的な福祉制度の検討、制定、実施までには一定の時間を要することから、それまでの間の措置として障害のある方の支援の充実を図るものであります。
この法案については、さきの通常国会において審議され、衆議院で可決、参議院でもこの参議院厚生労働委員会で可決されたものであります。
また、民主党の障がい者政策プロジェクトチームにおきましては、本年九月から十一月にかけて計八回にわたり関係団体や有識者の方など合計五十七名の方々からヒアリングを実施してまいりました。
ヒアリングでは、本法案について賛成する御意見がある一方、また、この法案ができることで障害保健福祉施策の見直しが行われなくなるのではないか、サービス等利用計画案の作成が支給抑制につながるのではないかと危惧される御意見もありました。
これらのことを踏まえて、衆議院厚生労働委員会では、今後の障害保健福祉施策の実施に当たって政府に求めることとして、一、平成二十五年八月までの実施を目指して、障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて、障害保健福祉施策を見直すなど検討すること、二、指定特定相談支援事業者がサービス等利用計画案を作成する際に、障害者等の希望等を踏まえて作成するよう努めるようにすることの二点について決議をいただいたところであります。
新たな総合福祉法の制定に当たっても、障害のある方々の声を真摯に聴きながら取り組んでいきたいと考えています。
以上です。
○田村智子君 障害の範囲の見直しを含め緊急に必要な手だてを取る、これは当然のことです。しかしそれは、政省令の改正や予算措置でできるじゃないかというのが障害者の皆さんの声だと思います。しかも、本法案は、総合福祉部会が緊急に求めた四つの要望、これに沿うような施策になっていません。
総合福祉部会が今年六月にまとめた当面の課題の第一に挙げているのは、利用者負担の見直しです。障害者自立支援法の最大の問題の一つは、サービスに応じて、サービスと言うこと自体私は問題だと思います、支援を受けた量に応じて費用負担を求める、この応益負担という問題があります。
この法案によって、ではこの応益負担はなくなるのかと。自立支援医療の一割負担が見直され応能負担になるのでしょうか。福祉サービスの更なる軽減がすぐに行われるということになるのでしょうか。現在問題になっている応益負担の問題が具体的にどう解消されるのか。お答えください。
○衆議院議員(中根康浩君) この法律におきましては、利用者負担について、応能負担、すなわち障害者の家計の負担能力等をしんしゃくして政令で定める額によるものと規定し、法律上明確に利用者負担の考え方を応能負担に改めるものであります。
具体的な負担額につきましては政令で定めることとなっていますが、本年四月からは福祉サービス及び補装具に係る低所得者の利用者負担については既に無料とされていると承知をいたしております。
以上です。
○田村智子君 既に行われているものを更に進めるものになっているのかとお聞きしても、具体的なお答えがありません。非課税世帯の福祉サービスについて利用料負担を無料にしたと、これは応能負担への初歩的な一歩にすぎないのであって、この現状が応能負担だという現状認識は間違っていると思います。
その上、この法案では、現行法にはない、今も答弁にもあった家計の負担能力という規定までしています。障害者の皆さんは、障害者本人の収入を見るべきだと、こう訴えているのとも中身は違います。
共同作業所で働く障害者の皆さんが何人もこの間も要請に見えられました。食費や利用料を払ったら自分たちが受け取る工賃はもうなくなってしまう、私たちは働いても洋服やCDを買うお金も手にすることができない、障害者の尊厳を傷つけるこうしたやり方を改めるのが応能負担の原則に変えたと、そういうことだと思うんです。
しかも、この法案では、この利用者負担の軽減に努力するというその実施の時期については、平成二十四年、二〇一二年の四月一日までの政令で定める日としています。これは再来年度までは現状のままを認めることにもなると思うのですが、いかがでしょうか。
○衆議院議員(中根康浩君) お答えをいたします。
利用者負担の規定の改正については、平成二十四年四月一日までの間において政令で定める日に施行されるものであります。また、具体的な負担額についても政令で定められるものでございます。
なお、本年四月から福祉サービス及び補装具に係る低所得者の利用者負担については既に無料とされているということは先生も御案内のことであろうと思います。
○田村智子君 それでは現状を是認しているのと同じだと思うんです。何のためにこの法案出してきているのか分からない。当事者の皆さんからは、だから自立支援法を延命する法案だという批判が強いんです。
法案の第一条の目的規定を見ても、障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間となっており、総合福祉法という文言も障害者自立支援法の廃止という言葉もありません。条文だけではなく、先ほど読み上げられた法案の趣旨説明にも、障害者自立支援法の廃止という言葉さえありませんでした。今年六月の閣議決定では、障害者制度改革の推進のための基本的な方向について、これ決めています。ここでは自立支援法の廃止、新法制定と明記をしています。なぜ趣旨説明にさえ、そして条文にもこのことを盛り込まなかったのですか。
○衆議院議員(中根康浩君) それにつきましては、今、障がい者制度改革推進会議において真摯な議論が検討を加えられているということで、それを見守っていきたいという思いでございます。
○田村智子君 それではつなぎ法案だと障害者の皆さんに一生懸命説明されていることと実際の法案が違う中身になってしまうわけです。そこで、つなぎ法案じゃないじゃないかと、これでは今の自立支援法がこの法律によって延命されるんじゃないのかと危惧の声が起こるのは当然のことだと思います。
しかも、つなぎとは言えない、抜本的な改正とも言える中身まで盛り込まれています。
例えば、障害者分野の改正について見てみると、通所施設、入所施設を障害種別ではなく一元化して再編する、また、通所施設を第二種福祉事業と位置付ける、通所事業の実施主体を都道府県から市町村に移行するなど、大幅な変更を行うことになります。これは、自治体や事業所にとっては膨大な準備を強いられて、二〇一二年四月に障害児の入所・通所施設が大掛かりに再編されることになります。
その一方で、つなぎだと言う。総合福祉法が二〇一二年の通常国会に提出される予定だと言う。ここで全く違う制度を提起したら、これは自治体も施設も大混乱を来すことになります。そうなれば、総合福祉部会の議論はこの法律を、この法案を前提として議論を進めざるを得なくなる。これで新法までのつなぎ法案と言えるのでしょうか、お答えください。
○衆議院議員(中根康浩君) お答えをさせていただきたいと思います。
この法案については、障害者自立支援法に代わる新たな総合的な福祉制度の検討、制定、実施までには一定の時間を要することから、それまでの間の措置として障害者等の地域生活の支援策の充実を図るものであると考えています。
また、障害者等の地域生活の支援については、本年六月の七日に障がい者制度改革推進会議がまとめられた第一次意見においても改革の基本的な方向として示されているものであり、本法案はこうした方向と軌を一にしているものと考えています。
また、政府としても、障害者自立支援法を廃止し、障害者総合福祉法の平成二十四年常会への法案提出、平成二十五年八月までの施行を目指して検討を進めるという方針に変更はないものと承知をいたしております。
以上です。
○田村智子君 お答えになっていないんですよ。
本当に児童にかかわる施設は大再編になってしまうんです。もしこの法案に乗っかって別の体系に移行していったら自分たちの施設はどうなるのかと、不安の声が現に起きています。例えば、放課後児童の事業をやっている施設のところでは、今は都道府県からの補助金があると、しかし、法案によって市町村事業になって、新しい法案で規定されているから大丈夫でしょうと。もしも都道府県からの補助がなくなったらこれもう運営ができなくなるじゃないか、こういう声が起こってきているんです。
これだけの抜本的な改正をつなぎ法案だと言い、十分な審議も時間も取らないという、こういうやり方は本当に間違っていると思います。
そこで、大臣に確認をいたしますが、これは自立支援法の延命ではないと、本当に総合福祉法を二〇一二年に提出をし一三年八月までに施行すると、この政府方針は貫徹すると約束できますか。
○国務大臣(細川律夫君) おはようございます。
障害者自立支援法につきましては、本年の六月閣議決定をいたしました障害者制度改革の推進のための基本的方向について、ここでお示しをしておりますように、障害者自立支援法は廃止をして、障害者総合福祉法、これを平成二十四年の通常国会へ法案として提出をいたしまして、平成二十五年八月までの施行を目指すという方針に変わりはございません。
○田村智子君 その総合福祉部会の議論を縛るような中身で出してきているということも本当に許し難いことだと思います。
残念ながらもう時間が来てしまいました。本当は、この法案の移動支援についてもお聞きしたいところでした。なぜ重度の視覚障害者に限って個別給付としたのか。地域生活支援事業の中でも、自治体によって実施状況に大きな差が生じている知的障害者の皆さんや発達障害の皆さんへの移動支援事業、これは検討するということを附則に書いたにすぎません。また、コミュニケーション支援事業については、その検討さえも書かれていません。これらは大変に障害者の皆さんから要望が強かった問題です。
現に進んでいる新しい法制度の議論を制約するだけでなく、障害者福祉に深刻な影響を与えた自立支援法の延命を図るものだという批判のそしりを免れない。こうした法案については、法案の採決をすることを強固に反対をいたしまして、質問を終わります。
障害者自立支援法に対する反対討論
○田村智子君 日本共産党を代表して、障害者自立支援法などの改正案に対して反対の討論を行います。
民主党政権と障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団との基本合意では、自立支援法の立法過程において障害者の意見を十分踏まえることなく拙速に制度を施行したことが障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたと反省が表明されています。
ところが、今年の通常国会で、障害当事者の意向を無視して自立支援法などの改正法案が提出され、障がい者制度改革推進会議と総合福祉部会から遺憾の意が表明され、多くの関係者からも強い怒りと抗議がわき起こりました。今国会で全く同じ法案が提出され、再び同じことが繰り返される、これは障害者の皆さんの尊厳を二重、三重に傷つけるものだと言わなければなりません。
本法案は新総合福祉法までのつなぎ法案だと提案者は言います。しかし、障害児通所施設・通園施設の一元化など、本法案は障害者自立支援法、児童福祉法を抜本的に改正するもので、つなぎとは言えるような小規模なものではありません。これだけの大改正を行えば、障がい者制度改革推進会議と総合福祉部会は本改正を前提とした議論をせざるを得ません。
また、つなぎと言うのであれば応益負担の問題など緊急課題解決策が盛り込まれるべきですが、現状を変えるものではなく、不十分な軽減策を固定化しかねないものであります。本法案と障害福祉施策の見直しを言うだけで、障害者自立支援法の廃止や総合福祉法の制定は全く出てきません。つなぎ的性格を逸脱した抜本改正を行いながら障害者自立支援法の廃止を一言も言わない、これでは自立支援法の延命と言われても仕方がありません。
最後に、自立支援法出直しは、私たちのことを私たち抜きで決めないでということを大原則として行われているはずです。委員会で本法案を審議するならば、当事者からの意見聴取を始め丁寧な審議を行うことは、良識の府としての参議院の当然の責務であります。昨日の理事懇談会でそれまで合意していた日程をほごにし、国会最終日の物理的にも審議が困難な中で本法案の採決まで強行することは断じて許されない、採決に強く抗議をし、討論を終わります。