教育ネットワーク・学校でのPCB飛散事故 ---ゆがんだ教育行政をただす
昨年秋から今年にかけて、蛍光灯安定器の破損により、PCBを含む絶縁油が飛散するという事故が相次ぎました。PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、環境中への流失自体が許されない、きわめて毒性の強い環境汚染物質です。
政府は、今年度中にすべての公立施設からPCB使用器具を撤去するとし、そのための予算も実現しました。事故が相次いだ学校関係の予算でみると、一校あたり400万円以上の撤去事業について、その3分の1を国庫補助することとし(公立幼稚園、小・中・高等学校)、私学についても同様の私学助成の措置がとられます。
これらは、日本共産党国会議員団の度重なる追及によって実現したもので、その過程では、今日の教育行政のゆがみが象徴的にあらわれました。
事故の危険性は指摘されていた
学校でPCB飛散事故の危険性があるという情報が、党国会議員団に寄せられたのは、昨年2月のことでした。
1997年3月、鳥取県の私立高校で蛍光灯の安定器が加熱、破損し、PCB油が漏れ落ち、有害物質であることを知らずにふき取った生徒が、急に具合が悪くなり入院、さらに、98、99年には青森県の県立高校で同様の事故が発生しました。事態を重く見た、福島県立高等学教職員組合が調査したところ、PCB使用器具が県内の半数近い高校で使用されている疑いがあるという結果でした。また、鳥取県の事故を受け、日本照明器具工業会が97年7月に、都道府県市町村教育委員会あてに、PCB使用照明器具は72年8月以降製造されておらず、現在使用されているとすれば耐用年限をはるかに超えており(使用10年から劣化が始まる)、発煙・容器破損のおそれもあるとして、早期交換を「お願い」する文書を送付していたこともわかりました。
劣化が進んだPCB使用器具が現在も少なくない学校で使用されているのではないか、子どもたちがPCB飛散事故に見舞われる危険性があるのではないかという問題がみえてきました。そこで、衆議院文教委員会に所属する石井郁子議員が、文書による国会質問、「質問主意書」で、政府に緊急の対応を求めることとなりました(2000年4月21日提出)。主な質問点は、(1)PCBの製造中止以前に建築され、その後大規模な改修等を行っていない学校について、緊急にPCB使用器具の有無を調査すべきではないか、(2)PCB使用器具の撤去について、国の予算措置が必要ではないかなどでした。このなかでは、前述の日本照明器具工業会の文書にも触れ、事故の危険性を具体的に指摘しています。
「地方がやること」と政府答弁
ところが、約一カ月後(5月23日)に森首相(当時)の名前で出された答弁書は、調査も交換も、学校設置者(都道府県・市町村)の責任であるとして、政府は何もしないことを宣言するものでした。日本照明器具工業会の通知についても、文部省は承知しており、都道府県教育委員会の会議等で指摘しているので十分だということでした。端的にいえば、危険は承知しているが、調査も交換も地方がやることという答弁書だったのです。
この答弁書の提出から数カ月後、学校での事故が続発します。9月19日、千葉県柏市の小学校、4人の顔などにPCBを含む絶緑油が付者。10月4日、東京八王子の小学校、4人の子どもの顔や衣服に付着。10月24日、岐阜市の小学校、一年生の教室で事故発生、全員が避難。11月10日、愛知県蒲郡市の小学校、真下にいた子どもは肩に直接油を浴びる。12月15日、北海道北広島市の中学校、17人が吐き気、かゆみなどのため病院へ。----これらは、すべて予測できた事故といえます。被害にあってしまった子どもたち、その保護者の方がたの不安を思うとき、未然に防ぐことができたにもかかわらず、何もしなかった文部省などの教育行政の無責任さに怒りを抑えることができません。
事故が起きてからの政府の対応はどうだったでしょう。八王子市の事故が大きくマスコミでとりあげられると、翌日大島文部大臣は「遺憾である」との記者会見をおこないました。しかし、11月17日、衆議院文教委員会では、この問題をとりあげた石井議員の質問に、「地方交付税で措置をしている。学校設置者の判断でやってほしい」と答弁しました。
後日、文部省に確認すると、ここでいう地方交付税とは、割れた窓ガラスや蛍光灯の交換等の歳出を算定した需要費のことをさしたということでした。PCB使用器具の交換には一台約2万円がかかるといわれ、実際、緊急に撤去を決めた八王子市では、総額1億円近い予算を要しており、消耗品の算定でまかなえるものでないことは明らかです。
連続して事故が発生し、多くの国民が不安をいだいてもなお、地方が独自の財源でやればいい、国の予算措置は検討外というのが政府の姿勢だったのです。
ついにとられた予算措置
国の対策がとられない一方で、各地の地方議会では、日本共産党の地方議員がこの問題を積極的にとりあげ、自治体の対策もはじまりました。政府に対しても、最終的な予算編成にむけて、教職員組合、女性団体などがPCB対策予算を求める行動をくりひろげました。井上美代参院議員は、国民大運動の要請行動に同行し、宮沢大蔵大臣(当時)に直接予算の必要性を訴えました。
こうしたなかで、文部省もようやくPCB使用器具の実態調査にのりだし(11月6日に都道府県教育委員会に事務連絡)、一割を超える公立学校にPCB使用器具が設置されていることが判明します。12月末、最終的な予算編成でついに文教施設全般にわたるPCB対策予算がとられました。さらに今年3月、地方交付税についても特別交付税(2000年度分)として、PCB撤去を行った自治体に事業費の5割を見込む予算を計上することを決定しました。政府の施策変更は、前述の大島大臣の答弁の「ごまかし」をも物語っているのです。
わが党の道理ある追及と国民の要求が、政府に施策変更を余儀なくさせたといえるでしょう。
行政が子どもの安全・健康に責任を
今回のPCB飛散事故を見るとき、そもそも、なぜPCBという有害物質が子どもたちの生活する学校現場に残されてきたのかという問題も考える必要があるでしょう。ここでは、二つの問題を指摘します。
一つは、法規制がないからといって、PCB使用器具の設置状況について、なんら調査・点検がおこなわれてこなかったという問題です。PCB使用の機器は、廃棄物となったときに環境中への流失を防ぐため、処理方法が確立するまでの間として事業所や廃棄物回収をおこなった自治体に保管が義務づけられます。しかし使用中のものは、PCBが密閉された状態であれば「安全」とされ、PCB自体が製造中止となった後も通常に販売されてきたのです。大型の蛍光灯安定器のほか、テレビなどの家電製品が、PCB使用であることさえ知らされないままに使われてきたということです。学校にもPCB使用器具が事実上放任されてきた、しかも、事故が起きてなお「全国調査をおこなう責務はない」というのが文部省の態度でした。子どもの安全を第一とするならば、たとえ法律にもとづく義務がなくとも、早期に調査・交換の施策を講ずるのは当然のことではないでしょうか。
もう一点は、老朽校舎への対策がとられていればPCB飛散事故など起きようがなかったという問題です。今日1割以上の学校でいまだPCB使用照明器具が使用されているということは、建築後30年近く経過しても改修がおこなわれていない学校が、それだけの規模で存在することをあらわしています。
党国会議員団はこれまでも、学校施設が老朽化していることをたびたぴ国会でとりあげ、99年の通常国会では、地方議員と協力して実態調査もし、不破委員長(当時)の代表質問、志位書記局長(当時)の予算委員会質疑をはじめ、連続して施設整備費の充実を求める論戦をくりひろげました。老朽校舎解消の計画を国がもつことや、地方が事業をすすめやすいように国庫補助制度の改善が必要と求めたのです。今年度予算では、PCB対策とともに、トイレ改修についても一校あたり400万円以上の事業について3分の1国庫補助が実現しましたが、これも党議員団の大きな成果です。
施設整備は、子どもたちへの教育保障の前提です。ましてPCB使用器具問題は、子どもたちの健康と命にかかわる問題であり、何にもましてその解決が優先されなければなりません。こうした教育行政のゆがみを放置したまま、教育改革などありえないといえるでしょう。