【11.08.03】行政監視委員会――障害者の過労死認定訴訟について
障害者の過労死認定の基準がない現状を告発
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
先月二十一日、心臓機能障害者である小池勝則さんの過労死認定訴訟について、最高裁が国側の上告受理申立てを受理しないと決定をして、過労死を認定した名古屋高裁判決が確定をしました。
これは、愛知県のマツヤデンキ豊川店に二〇〇〇年十一月に障害者枠で雇用された小池さんが、医師からはデスクワークでなければ心臓への負担が大きいとされていたにもかかわらず、ほかの労働者と同じように一日中立ち仕事に就く日が続き、残業や販売ノルマも課せられ、就職からわずか一か月半後の十二月二十四日に自宅で亡くなられたという事案です。
しかし、時間外労働が四十五時間を下回っていて、労働の質も慢性心不全を悪化させるほど過重とは言えないと厚生労働省は過労死を認めず、小池さんの妻である友子さんが裁判に訴えていました。それから十年の年月を掛けてやっと過労死であったと認定をされたわけですが、まず大臣にこの事案についての所感を一言お聞きをいたします。
○国務大臣(細川律夫君) この七月の二十一日ですか、心臓に障害を持つ方が不整脈を発症して死亡されまして労災認定が争われてきた事案でございまして、最高裁が国側の上告受理申立てについてこれを不受理を決定したというところでございます。
私といたしましては、この最高裁の決定を深く真摯に受け止めまして、御遺族の皆様に速やかに労災保険の給付の手続を進めてまいりたいと、このように考えております。
○田村智子君 国は、名古屋高裁が過労死を認定したことは医学的見地又は法令解釈に違反するんだと、こうして最高裁への上告受理申立てを行っていました。この申立てが受理されなかったということは、高裁判決へのこれらの批判は当たらないんだと、医学的見地や法令の解釈に違反はしていないと最高裁が判断した、こう確認できると思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(鈴木幸雄君) お答えいたします。
国の上告受理申立ては、名古屋高裁判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな医学的経験則違反があることを理由としたものでございます。また、最高裁判例と相反する判断があることを理由としたものではございません。
したがいまして、今回の不受理決定につきましては、最高裁が名古屋高裁判決に判例違反がないことを理由としたものではないというふうに考えております。
○田村智子君 確定した名古屋判決では、その判決の核心は何なのかと。重篤な内部疾患を持つ労働者がその症状を悪化させて労災が発生した場合、業務に起因性があったのかどうか。この判断は、平均的な労働者を基準とするのではなくてあくまで本人を基準とすべきだと、こういうことなんですね。
この判決は、今後の障害者雇用や労災の在り方に大変大きな影響を与えるものだと私は考えていますし、国自身も、本件は労働者がその心臓機能障害という基礎疾患について身体障害者の認定を受けていた事案に関する初めての高等裁判所の判決であると、障害者が労災認定を受けた初めての事案だと、だから上告受理申立書を出しているんですね。そう書いているんです。であるならば、今回のこの判決は同様の労災事件の先例として尊重すべきだと考えますが、いかがでしょうか。
○大臣政務官(小林正夫君) 今般確定した名古屋高裁の判決では、あくまで個別の事案について裁判所の考え方が示されたものと、このように理解をしております。
○田村智子君 重要な事案だからと自ら言いながら、これが初めての事案であって恐らく今後に影響を与えると思ったから上告をされたわけですよ、ところが裁判に負けると口をつぐんでしまう。私、それでいいのかと思うんですね。これ、障害者の方が業務が過重であったと判断をどうするのかという大切な問題なんです。せめて、個別の案件から何か導き出して、全ての労働基準監督署に、今回はこういう判決が確定をしたんだと名古屋高裁の判決内容を徹底する、これぐらいはやるべきじゃないでしょうか。
○政府参考人(鈴木幸雄君) 今回の名古屋高裁判決の今後の対応についてでございますけれども、高裁の内容が確定したわけでございますので、その内容を十分に検証いたしまして、その対策に対する周知につきましては、具体的な方策等を含めまして、今後検討してまいりたいと考えております。
○田村智子君 是非やっていただきたいと思います。
確認をしたいんですね。この業務が過重であったかどうか、これ労災認定に当たっての判断、重篤な内部疾患を持つ労働者であっても、同じくらいの年齢で、同じくらいの経験があって、基礎疾患があったとしても日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準に判断する、これ、現行の厚生労働省の考え方なんですよ。あくまで別のいわゆる平均的な労働者をこちら側に置いて、この人にとって業務が過重であったかどうか、これを判断の基準としているわけですね。
それでは、この基礎疾患があっても日常業務を支障なく遂行できる労働者、この中には重篤な基礎疾患を有していて障害者認定を受けているような労働者、これも判断の基準として含まれるのかどうか、確認したいと思います。
○政府参考人(鈴木幸雄君) 脳・心臓疾患の労災認定基準におきましては、業務による明らかな過重負荷の有無を判断するに当たりまして、その労働者の同僚などにとっても特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から客観的かつ総合的に判断することとしております。今ほど言いました同僚などとは、被災労働者と同程度の年齢、経験などを有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者を指しております。
今御指摘の重篤な基礎疾患がある場合で就業が制限される労働者につきましては、個々に判断する必要があると考えますが、一般的には日常業務を支障なく遂行できる者には当たらないものと考えております。
○田村智子君 つまり、その人本人だけの判断基準じゃない基準持っているんですよ、同僚と比べて判断をすると。だけど、その同僚と言われる者の中には重篤な障害持っているような方は含んでないと。比べようがないんですよ、本当は。判断の基準がないってことなんですね。
であるならば、今回の名古屋高裁の判決も受けて、心機能障害など重篤な内部疾患を持っている障害者、業務が過重であるのかどうか、その判断の基準とか考え方とか、平均的な同僚との比較はやったら駄目だとか、そういう考え方を示すことが必要ではないんでしょうか。
○大臣政務官(小林正夫君) 過労死等の労災認定基準は、業務の過重性を判断する場合に、重篤な基礎疾患を持つ者とそれ以外の者とを区別して判断することとはしておりません。重篤な基礎疾患を持つ場合など、個々の労働者の特性に応じた労災の認定基準を設けることについては、障害の種類だとかその程度が様々、こういう状況でございます。したがって、障害と疾病の発症に関する医学的エビデンスでも十分でないことから、現時点で基準として類型化することは困難である、このように考えています。
○田村智子君 類型化するのは困難だと、名古屋高裁も先例としないということでは、一体どうやって、障害重い、特に内部疾患持っている方の業務の過重性を判断するんだろうかと、非常に疑問に思うんですね。
個別の判断だと言います、言うけれども、じゃ小池勝則さんについてどういう個別の判断を行われたかと。小池勝則さんの場合は仕事から帰ると立つこともできないような状態だったんです。主治医は、これはちゃんと治療もして、そして働き方も考慮をすれば、もっと長く働くと、そういう可能性十分あったという意見も出しています。
ところが、厚生労働省は、月三十三時間の残業や立ち仕事は過重とは言えないんだと、こう結論付けて労災を認めなかった。言わば障害を抱えながら働くことの特殊性、これは脇に置かれたと私には思えるんです。
一方で、国が出した上告受理申立書の中にどういうこと書いてあるか。これまでの脳・心疾患の事案とは異なる特殊性がある。どういう特殊性か。元々重篤な基礎疾患を持つ障害者は日常生活の中でも症状が重くなり得るんだ、日常生活上に様々なリスクがあるんだと、その特殊性を十分に考慮をすべきであって、業務の過重性を殊更見ることは必要ないというような申立てを行っているわけですよ。
もっと言えば、この小池さんについてのこと、何て書いてあるか。就業開始時から症状が相当に重く、日常生活の中でいつ致死的不整脈を起こしてもおかしくなかったと見るべきだと。言ってみれば、もう働くこと無理だったんだよ、そういう状態で働いたんだから元々の病気で死んだんだよと、こう言わんばかりなんですね。
私、これ本当に重大な見解ではないかと思っているんです。これでは、疾病を抱えながらも一生懸命働いている、そういう方が不幸にして労災発生した、それでも全部その方の病気のせいにされてしまって、元々労災の門前払い、もう労災保険の対象から排除しているのと同じような見解だと言わざるを得ないと思うんですが、いかがでしょうか。
○大臣政務官(小林正夫君) 脳・心臓疾患の労災認定では、重い基礎疾患を有している方に発症したものであっても、発症前の業務が過重であるか否かを労災認定基準に照らして個々の実情に応じて判断した上で業務上の疾病と認定しているところでございます。したがって、障害者の方の業務の過重性については、今後とも、丁寧かつ適切に判断をしてまいりたいと思います。
○田村智子君 その業務が過重であったかどうかの判断基準は何もないままなんですよ、何もないままなんです。一方で、業務外のことについては、非常に特殊であって、リスクが本当に高いんだと。こんな見解をいつまでも取っていたら、本当に障害持つ方々、安心して働けないですよ。労災が起きたって、これ全部却下されて終わってしまいますよ。私、これ本当に重大な問題なんだということを改めて指摘をしたいと思うんです。
私、これこだわるのは、個別の案件で済まされない問題だと思うんですね。こうした過労死認定というのは、元々はもう過労死を再び起こさないような労働条件のルールを作っていかなきゃいけない、そのために過労死の認定というのを本当に厳重にやっていかなければならないと思うんですね。十年掛けて裁判闘った小池勝則さんの奥さんの友子さんも、障害者が安心して働ける職場をつくってほしい、病気が重くなって仕事を辞めざるを得ず苦しんでいる方というのは大変大勢いらっしゃるんだと、こういう現実を変えたい、こういう思いで十年間裁判闘ってこられたわけです。
そこでお聞きをしたいんですけれども、実際に小池勝則さんのように心臓疾患抱えている方、あるいは重い内部疾患では腎臓疾患とか呼吸器機能の疾患もあります。また、脳梗塞などを起こして非常に働き方に配慮が必要だという方が社会復帰されている、こういう例も多いと思います。こうやって内部障害を持ちながら働いている障害者、直近の調査で一体障害者雇用のうちどれぐらいの割合になるのか、これ調査の結果をお知らせいただきたいと思います。
○政府参考人(中沖剛君) お答え申し上げます。
平成二十年に実施されました障害者雇用実態調査におきましては、これ従業員規模五人以上の事業所をサンプル調査したものでございますが、この調査によりますと、身体障害者の雇用者数が三十四万六千人、そのうち、先生が御指摘になられました心臓、腎臓など内部に障害をお持ちの方の割合でございますが、約三分の一、三四・六%となっております。
○田村智子君 そうしますと、推計で約十二万人近い方々が、いろんな内部の障害、内部疾病持ちながら、例えばニトロ持ちながらとかペースメーカー入れながらとか、いろんな日常の生活上の配慮もしながら働いていらっしゃると思うんです。ところが、十二万人近い方が働いていると思われても、労災で認定されたのはこれまで一件もないんです。小池勝則さんのこの一件だけなんです。ということは、そもそもあなたは病気だからだと、労災申請も諦めた方もいらっしゃるかもしれない、認定されなかったという方もいらっしゃるかもしれない。
これ、質問通告してなかったんですけれども、私、やっぱり十二万人いると、それで障害者についてその業務が重いかどうかということの判定の基準がいまだない、事実上ないと。であるならば、実態としてこれまでの労災のその申請の中にも内部疾患でという方がどれぐらいいたのかどうか、こういうことの実態調査ということも、これ判決を受けて考えるべきじゃないかと思うんですけれども、いかがですか。
○政府参考人(鈴木幸雄君) お答えいたします。
今ほど御指摘のように、今回はそういった内部障害を持って認定された方の初めての事例ということでございますが、過去の事例につきましてそういった要素があったのかどうかにつきまして、調査が可能かどうかも含めて検討したいと思います。
○田村智子君 今国会では障害者基本法の改正も行われています。その中では、障害者に対する差別は現に厳しく禁止をされています。そして、社会的障壁を取り除くための合理的な配慮を行うことが国に対して義務付けがされています。
今回のこの案件というのは、実はこの障害者基本法制定の前にもう二〇〇八年十一月には我が党の小池晃議員も厚生労働委員会で取り上げています。そのときには、当時の舛添大臣が、様々な障害に応じた労災の基準、考え方、これを示していくこと必要じゃないですかと求められて、検討をしていくと、検討課題だというふうに述べられているんですね。
ところが、いろいろ厚生労働省にお聞きをしましても、具体に検討がされたような気配が感じられないんです、この労災の認定どうあるべきか。今もお聞きをしても、標準的な労働者と比較をすると、それ以外の基準がないわけですからね。私、これでは駄目だと思います。まさに労災認定において障害者を差別しているのとこれは同じだと思うんです。
社会的障壁を国として取り除いていく、新たな労災の在り方について検討していく、是非踏み込むべきだと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(細川律夫君) 委員が御指摘になりましたように、今国会におきまして障害基本法が改正をされまして、社会的障壁の除去の実施につきまして必要かつ合理的な配慮がなされなければならないと、こういう規定が盛り込まれたところでございます。また、事業主が障害者を雇用する際には、合理的な配慮の内容、これにつきましてはその具体化に向けた検討が行われているところでございます。
そこで、障害者の労災認定の在り方、これにつきましては、事業主の災害補償責任の範囲や労災補償の基本的な在り方にかかわるものでありますので、障害者雇用に関する合理的な配慮の検討状況も含めまして、専門的な学者など専門家の意見を伺いながらこれは検討させていきたいというふうに考えます。
○田村智子君 重い病気を抱えていながらもやっぱり働き続けたいというふうに願う方は本当に大勢いらっしゃると思うんですね。そういう方々についてどういう業務が過重であるのかどうか。これは、例えば健康であった方が突然死をした。そのときに業務過重であったかどうかって、すごく労災認定の中では重く見ること多いですよ。突然長時間労働になったんじゃないかとか、どれだけ残業をやったのか、こういうのを見ますよね。
だから、私は、障害者こそ、やっぱりリスクを抱えて働いているからこそ、どういう業務が過重であったのかということを本当に慎重に十分に検討されなければならないし、それの検討がされて、そういう働く上でのリスクをやっぱり取り除いていくということをしなければ、いつまでたっても安心して働けるという社会にはならない。残念ながら、この日本というのは残業をやって当たり前の社会なんです。その中で障害者の皆さんは働いていかなければならないんです。
是非、今回の判決をこの個別案件だということで終わらせずに今後の労働行政に生かしていくこと、これを強く求めまして、質問を終わります。
ありがとうございました。