日本共産党 田村智子
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【11.06.16】参院厚生労働委員会−障害者虐待防止法、社会保険病院の存続について政府を質す

○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
 本日の委員会でこの後採決が予定されている障害者虐待防止法案に関連して質問をいたします。
 虐待防止の施策を進める根拠法がないという事態は解決が必要であって、私も法案に反対するものではありません。
 しかし、障害者の皆さんに関する法制度については障がい者制度改革推進会議など当事者参加で検討が進められていて、虐待防止法についても、昨年三月、推進会議での議論が行われています。こうした経緯を踏まえれば、本委員会としても、当事者の方からの意見聴取を行い、各党の質疑を行って採決をすることが求められていたと思います。本法の制定から三年後とされる見直しが委員会での十分な審議を保障したものとなるよう要望をいたしまして、以下、質問いたします。
 医療機関における障害者への虐待はこれまでも度々社会問題となってきました。宇都宮病院事件など長期の入院を背景にした身体的虐待だけでなく、性的虐待、ネグレストの事例は残念ながら少ないとは言えません。
 一方で、今回提案の法案には、医療機関、学校、保育所に対しては、その管理者に虐待防止体制をつくることを義務付けましたけれども、これらの施設での虐待について自治体への通報や救済の対象とはしていません。通報の義務規定がないということです。通報の義務規定がないこのような施設であっても、障害者への虐待を発見した人は虐待をやめさせなければと考えるでしょうし、場合によっては外部への通報を行って対応を求めると、こういうことも必要になるでしょう。問題は、虐待を発見した者に法律上の守秘義務がある場合、例えば、医師は医療行為で得た情報について守秘義務を負っています。こういう場合にどうなるかということです。
 宇都宮事件でも、入院患者への虐待について、外部から来ていた勤務医は事件発覚前からそのことに気付いていたとされています。医師については、養護者などの虐待を発見した場合は守秘義務が通報義務を妨げるものと解釈してはならないと、この法案では規定を置いています。一方で、医療機関などにおける虐待については、このような規定がありません。当然、守秘義務は患者の権利を擁護するためのものですから、医療機関などにおける虐待についても、医師が発見をした場合、守秘義務があるからといって市町村などへの通報が妨げられるようなことがあってはならないと考えますが、政府の見解をお聞きいたします。

○副大臣(大塚耕平君) 確かに先生御指摘のとおり、今回の法案では、医療機関を利用する障害者に対する虐待について第三者の通報義務等は規定されておりません。しかし、管理者に対して、職員等に障害者に関する理解を深めるための研修や虐待に関する相談体制の整備等、その防止のための措置を義務付けているというふうに承知をしております。
 また、同法案に付されました附則において、政府に対して医療機関等における障害者に対する虐待の防止等の体制の在り方の検討規定が盛り込まれておりますので、足らざる点についてはしっかり検討をいたしていきたいと思っております。
 また、今先生が御指摘になりました法案の第七条、例えば養護者による障害者虐待に係る通報に関しては、刑法の秘密漏示罪の規定その他守秘義務を適用しないというようなところがございますが、これは法文をよく読むと、病院に虐待された障害者等がいらっしゃった場合に、それが養護者によるものであるということを知り得たお医者さんは通報するべきであるということだと思いますが、病院においても、当然そういうことを病院内で行われたということを知れば、これは通報するのは当然の道徳的義務だとも思っておりますので、そのようにしっかり考えさせていただきたいというふうに思っております。

○田村智子君 それでは、この場合、通報を受けた側の市町村や都道府県の対応がどうなるのかということも確認をしたいと思います。
 医療機関等に対して市町村や都道府県が虐待防止の措置を直接行うという権限は今回の法案の中では書き込まれていません。しかし、相談など問題解決のための支援を行ったり、場合によっては監督機関への通報を行うなど、必要な対応は法的なその権限がないということを理由にしてやられないということはあってはならないと思いますし、当然取られるべきだと考えますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(木倉敬之君) お答え申し上げます。
 現行の制度の下におきましても、医療機関内部でのそういう不適切な行為がなされているという情報を我々が得た場合には、市町村の方が得た場合におきましても、指導監督、都道府県の方が行っておりますけれども、任意であっても立入りをさせていただき、事実確認をし、指導も行っておるところでございます。
 今後とも、その法律の在り方そのものは今度の新しい法律に基づく検討も加えられていくと思いますが、これまでの医療監視等の権限の行使等も適切に行っていくべきものというふうに考えております。

○田村智子君 さらに、この法案では、実は官公署については何も定めがないんですね。医療機関等に求めている相談体制の整備や研修による啓発、こういう規定も官公署については全く対象にしていないんです。実際には、刑務所などの拘禁施設や警察の捜査に伴う障害者への虐待の事実、これは決して少なくないと思いますし、現に裁判に訴えられている事例もあります。官公署における虐待について通報があった場合にも、法規定がないからとちゅうちょすることなく調査や対応がしっかりと行われるよう、また官公署において虐待を未然に防ぐための体制が取られるよう、これは厚労省にお聞きしても答弁困ると思いますので、この場で要望したいと思います。
 障害者虐待防止法が実効力を持つためには、やはり自治体での体制の整備が課題となってきます。厚生労働省は、昨年も御答弁ありましたけれども、一昨年から障害者虐待防止対策支援事業、予算化をしていて、都道府県や市町村での研修や体制整備への補助、これ二分の一の補助ということで行っています。この中で、家庭訪問等個別支援事業として、二十四時間、三百六十五日の相談窓口の体制整備、虐待が発生した場合の一時保護のための居室の確保、虐待を受けた障害者へのカウンセリングなどの事業、これを行うように予算上の措置ありますけれども、この家庭訪問等個別支援事業については実施状況がどうなっているかお聞きをいたします。

○政府参考人(木倉敬之君) お答え申し上げます。
 御指摘のように、昨年度から予算事業として各都道府県の方にこのような事業の要綱を示しまして積極的に取り組むようにお願いしてきたところでございますけれども、今御指摘の部分、家庭訪問等の支援事業でございますが、これは実際に家庭を訪問されるもの、あるいは相談を受ける、あるいはそういうふうな事例の研修資料を作成をして流す、それ、もろもろ個別の、その地域で必要とされるものを都道府県が判断をしてそれを普及させるということ、もろもろ含んでおります。その中で、先生御指摘の家庭の訪問の事業というそのものにつきましては、十二都府県のうちで取り組まれている事例はまだないというふうに承知しております。

○田村智子君 本当にこれから相談体制や実際に保護する体制つくっていかなきゃいけないと。根拠の法律が作られることが契機となってそれが進むことを期待しますけれども、一方で、法案の中では体制整備のための費用負担についての規定がないんですね。それでも国はしっかりとした支援をやっぱり行うということを是非明言をいただきたいと思うんです。自治体に任せると、それでは自治体間の格差が広がるということも危惧がされます。専門職員の確保や市町村障害者虐待防止センター、都道府県障害者権利擁護センター、この確立だけでなく、そういったセンターが外部委託を行うための予算など、是非積極的にこれまで以上の枠で行っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○副大臣(大塚耕平君) 当然、地方にそういう対応を課すわけでありますので、それに必要な経費というのは、地方でもし捻出できない場合にはしっかりどのように支援をしていくかというのは考えていくべきだというふうに思っております。
 ちなみに、先ほども答弁させていただきましたが、例えば障害者虐待防止・権利擁護事業費、これは二十三年度ですと三百四十五万なんですが、これは去年の実績を見ますと百十四人、三十五都道府県の百十四人が参加して研修が行われております。多分これで予算使い切っているだろうなという規模なんでありますが、もう一つの障害者虐待防止対策支援事業費、これは四億ぐらい付いておりますが、二十二年度が幾らだったか今手元にないんですが、仮に同じような規模であったとすれば、二十二年度は十二府県で何がしかの事業が行われているんですが、これで四億、もし四億程度の同じような予算であったとすれば、本当に使い切っているかどうかというのは、一度確認をしてみますが、そういう予算なども使いましてしっかり自治体を支援していくべきものというふうに考えております。

○田村智子君 最後に、障害者にかかわる問題で一点。
 やはり虐待をやめさせるということは障害者の方にとって最低限度のことで、やっぱり受けてしまった虐待が許されない行為であり、障害者の方に何ら非はないんだと、このことを明確にして、自立の支援を行うという上では、例えば当事者の方の告訴や告発による刑事責任の追及、民事上の損害賠償による被害回復ということも大切になると思います。障害者の方が訴え出るということには、これは特別な支援も必要となりますので、是非、障害者の自立支援という観点から、訴訟手続などへの直接的なサポートも含めて、市町村や都道府県への積極的な対応をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

○副大臣(大塚耕平君) 当然、先生の御意見の御趣旨に沿って対応もさせていただきますし、そもそも議員立法で御提案いただいている条文の中にも成年後見制度等も盛り込まれておりますので、こうした条文に盛り込まれた諸制度も十分に活用してしっかり対応させていただきたいと思います。

○田村智子君 次に、同じくこの委員会に付託されています独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の改正法案に関連してお聞きします。
 この法案によって、社会保険病院、厚生年金病院を整理することを目的とする現機構は、地域医療の機能推進を目的としてこれらの病院を運営する機構へと改組されます。そもそも今の機構が発足するときに、病院も含めた年金福祉施設について売却できるものは全て売却と、こういう方針が取られ、病院関係者、住民の皆さん、また自治体の首長の方々も次々に売却ではなく存続をと声を上げました。安心してかかれる公的な病院を守ってほしいという関係者の皆さんの道理ある要求に速やかにこたえていれば、雇用不安から医師や看護師不足が深刻化するようなことは防げたのではないのか、震災においてもこれらの病院がもっと大きな役割が果たせたのではないかと思えてなりません。病院関係者や地域の皆さんの悲願とも言える法案ですから、成立だけでなく一日も早く施行をさせなければならないと思います。
 この法案では、施行期日は公布の日から三年を超えない範囲で政令で定める日としていますけれども、こうなりますと、売却により比重を置く現在の機構のまま三年近く移行するのかと、こういう不安の声も起こってきています。是非速やかな施行、また雇用不安を広げることがないような政府の努力が必要だと考えますけれども、いかがでしょうか。

○副大臣(大塚耕平君) 先ほどの衛藤委員の御質問と対極的な御質問をいただいたと思っておりますが、そのどちらの御意見にも一理あるというふうに思っております。
 実は、私の部屋にも社会保険病院のみならず厚生労働省所管の病院を日本地図に全部プロットした地図を張ってあるんですけれども、すごい数なんです。したがって、これをしっかり健全な財政状況と健全な医療を提供する状態で全て維持できるならばそうするべきだと思いますが、もしそこに何か見直すべき点があれば見直しの方針を固めなければならないと思いますので、この社会保険病院等につきましては、各病院の収支状況やあるいは病院の運営の実情等についてしっかり精査をするとともに、そのルールを作るなどの準備をした上で、しかるべき時期に政令において移行日を定めさせていただきたいと思っております。

○田村智子君 経営の悪化とかというのは、一つの要因は、病院の経営がどうなるのかと、売却されてしまうのかどうかという不安定な状態に置かれた、これが大きな要因の一つだというふうに言えると思うんです。
 川崎社会保険病院でも、整理機構の下で医師や職員がなかなか確保できない、六階、七階の病棟や人工透析設備は閉鎖せざるを得ないという状況に追い込まれていたんです。今、病院関係者と川崎市の努力で、七階については入院病床五十床を復活させた、でも六階の人工透析は、設備があるにもかかわらず、需要もあるにもかかわらず、人材確保が困難でこれはまだ再開ができていないんですね。
 何より求められるのは、病院関係者や地域住民の皆さんの要望に政府がしっかりとこたえることだと思いますし、この間地域医療を支えてきたこういう病院の皆さんの雇用が新たな機構の下でも継続されるということ、これを強く求めて、質問を終わります。