日本共産党の田村智子議員は23日の参院文教科学委員会で、下村博文文科相が国立大学の入学式や卒業式での「日の丸」掲揚や「君が代」斉唱を要請する考えを示したことについて、「大学の自治への介入だ。学問の自由を侵す」と批判し、中止を要求しました。
田村氏は「戦争遂行に利用された歴史的事実をふまえ、強制をしないとした国旗国歌法制定時の議論を踏まえる必要がある。『日の丸』『君が代』の批判的研究も行われる大学での取り扱いならば、なおさらだ」と強調。大学自治を学問の自由の制度的保障と認めた東大ポポロ事件の最高裁判決にもふれ、「『要請』は事実上の圧力となる。やめるべきだ」と主張しました。
下村博文文科相は「今回はあくまで要請。圧力ではない」として、要請する考えを改めて示しました。
下村氏の要請発言は、次世代の党議員の国会質問が発端でした。文科省の担当者は田村氏に、国立大学の入学式・卒業式での「日の丸」「君が代」の状況調査も国会議員の要請によるものであることを明らかにしました。
田村氏は、戦前に政府が介入した京都帝国大学の滝川事件では帝国議会の議員の活動が後ろ盾になったとして「この歴史を真摯(しんし)に踏まえるべきだ」と主張しました。
(しんぶん赤旗、2015年4月28日(火))
【 議事録 】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
国立大学の卒業式、入学式での国旗掲揚、国歌斉唱について、本委員会での議論を踏まえて質問いたします。
改めて、国旗・国歌についての政府の答弁をまず確認したいと思います。
国旗・国歌法制定時、当時の野中官房長官は日の丸・君が代について、さきの大戦の間、戦争遂行に利用されたことは認めざるを得ないと答弁されました。また、教育基本法改定の審議では、この野中氏の答弁について問われて当時の塩崎官房長官は、これは戦前の一時期の教科書において日の丸や君が代が戦争と関連付けて記述されていた事実を認めたものと答弁されました。
これらの政府答弁は、日の丸・君が代が戦争遂行に利用された歴史的事実を認めるものですが、下村大臣もこのことをお認めになりますか。
○国務大臣(下村博文君) 御指摘の平成十一年七月三十日の参議院国旗及び国歌に関する特別委員会におきまして、当時の野中官房長官は戦前の教科書の記述について、日の丸や君が代が戦争したとは思っておりません、ただ、日の丸や君が代が、中略でありますが、戦争遂行の中に利用されたということは認めざるを得ないと思っておりますと答弁をしております。
また、平成十八年十一月二十七日の参議院教育基本法に関する特別委員会において当時の塩崎官房長官は、野中官房長官の発言は、戦前の一時期の教科書において日の丸や君が代が戦争と関連付けて記述されていた事実を認めたものだというふうに理解しているところでありまして、日の丸とか君が代というのは、中略がありますが、戦中、戦前の出来事に対する認識や評価とは区別をして考えていくべきものだろうというふうに考えております、日の丸とか君が代というのは、幾多の歴史の節目を超えて、さきの大戦後も変更することなく国旗・国歌として国民の間に定着している長い間の存在ではなかろうかというふうに考えておりますと答弁しているというふうに承知をしております。
○田村智子君 日の丸・君が代が戦争したとは言ってないんです。それが戦争に利用された歴史的事実はあるということを大臣もお認めにはなりますねということを確認したいんです。
○国務大臣(下村博文君) この野中官房長官やあるいは塩崎官房長官の、そこだけ切り取ってということじゃなくて、その前後をちょっと承知しておりませんので、両官房長官がどんな発言されたかということについて、それが同じかどうかということについては、これは議事録をきちっと読まないと簡単にはお答えできないと思います。
○田村智子君 歴史の事実として日の丸・君が代が戦争に利用されてきたということは、これはもう国旗・国歌のあの法案審議のときにも繰り返しこれは認められているんですよ、歴史的事実としてですから。ですから、小渕総理も、日の丸・君が代の抵抗感、やっぱりそういう歴史的事実があるから、そういう抵抗感についてお尋ねがありましたと、国民の一部に日の丸・君が代に対して御指摘のような意見があることは承知をしておりますというふうに答弁をされたわけです。
私は、日の丸・君が代の価値を今問うているわけではないんです。事実として、歴史の事実として、戦争、例えば兵士が出兵するときにもうみんなで日の丸を振りましょうというふうに使われてきた、それから、天皇のために命を尽くすんだという教育がやられるときに君が代がやっぱり歌われてきた、そういう事実があると。
こういう認識と憲法上の思想、信条の自由を踏まえて、だから政府は国旗・国歌法を制定しても日の丸・君が代を国民に強制しないと、こう繰り返し答弁せざるを得なかったというふうに思うのですが、そこは大臣の認識と違うんでしょうか。
○国務大臣(下村博文君) その文言だけでいうと、野中官房長官と塩崎官房長官の正確なその発言はですね……
○田村智子君 文言を聞いているんじゃない、大臣の認識を聞いているんです。
○国務大臣(下村博文君) いや、発言は、野中官房長官は、日の丸や君が代が戦争遂行の中に利用されたということは認めざるを得ないと思っていますと発言されています。それに対して塩崎官房長官は、戦前の一時期の教科書において日の丸や君が代が戦争と関連付けて記述されていた事実を認めたものだというふうに理解をしているというふうに発言されておりまして、私も、野中官房長官の発言について、この日の丸や君が代が戦争と関連付けて記述された事実ということでの戦前の一時期の教科書、それが事実だろうと思います。
○田村智子君 私は、国旗・国歌について国会で議論する場合には、やはりこうした歴史的な議論の積み重ねも踏まえるべきだろうというふうに思うんです。どういう価値観を持つかというのはもうそれぞれの気持ちですから、私は、こういう価値、日の丸はこういうものだって決め付けるつもりはないんです。ただ、こういう議論があったということを踏まえるべきだということで、前提としてお聞きをしたんです。
で、お聞きしたいのは、もっと次なんですね。大学というのは、そういう日の丸・君が代の歴史的な役割を批判的に研究することも当然に認められています。ですから、大学でどう取り扱うということを議論するときには、なおさら歴史的な経過を踏まえるべき。
学問の自由、大学の自治、これについても改めて伺います。
学問の自由、大学の自治とは何かが争われたポポロ事件、最高裁大法廷判決では大学の自治についてどう判示していますか。
○政府参考人(吉田大輔君) ただいま御指摘のいわゆる東大ポポロ事件の最高裁判決におきましては、大学の自治につきまして、「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。」とされ、「大学の学問の自由と自治は、大学が学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づくから、直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解される。」と述べられております。
○田村智子君 学問の自由とは教授、研究、その発表の自由であり、大学における学問の自由の制度的保障が大学自治であると。その内容として、教員や学長などが大学の自主的な判断によって選任されること、自治の範囲は施設や学生の管理にまで及ぶこと、これが最高裁大法廷の判示です。
教育基本法改定の際にも、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならないという第七条を新設するその理由として、当時の小坂文科大臣は大学の自治に基づく配慮が必要であるということに言及されています。憲法上の要請から規定されたものだと考えます。
国立大学であろうが私立大学であろうが、憲法で保障された学問の自由とその制度的保障である大学の自治は侵害されてはならないし、これが文部科学省の立場と考えますが、いかがですか、局長。
○政府参考人(吉田大輔君) 大学の自治とは、大学における教授その他の研究者の研究と教授の自由を内容とする学問の自由を保障するため、教育研究に関する大学の自主性を尊重する制度であると理解しております。教育基本法第七条第二項におきましても、大学の自主性、自律性を尊重することが規定されております。
○田村智子君 そうすると、大臣が今回、国会での議論を受けて、国旗・国歌について、国立大学について入学式や卒業式での適切な対応を行うよう要請するということなんですが、これは、大学への設置許可など様々な許認可権や指導監督権を有する文科省が要請とはいえ行政指導を行えば、大学にとっては事実上の圧力となるんじゃないのかと。そういう効果があるからこそ、行政手続法ではわざわざ、行政指導の一般原則として、行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない、行政指導に携わる者はその相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとわざわざ書いたわけです。
大臣の要請は、これは大学自治への介入ではないか、学問の自由を侵しかねない、こういう批判が起きてくるのもまた当然だと思うんです。こういう要請そのものもやめるべきだと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(下村博文君) 大学の入学式、卒業式における国旗や国歌の取扱いについては、これは各大学の自主的な判断に委ねられていることであります。今回の要請はあくまでも要請でありまして、大学に対して圧力となるようなものではございません。
○田村智子君 しかし、今回、文部科学省が二〇一三年度、二〇一四年度の入学式、卒業式の国旗・国歌の取扱いを調査した、これが明らかになった。このような調査と大臣の要請ということが結び付くと、これは、大学の側はこの要請を単なるお願いとは受け取れない、要請に応じることを求められているんじゃないかというふうに受け止めるんじゃないかというふうに思うんですね。
それで、そもそも、ちょっと局長に伺いたいんですが、なぜ大学で国旗・国歌の取扱いについてこういう調査がやられているのか。なぜというか、今までもこれ行われていたのか、どういう経緯でこの調査を行ったのかをお答えください。
○政府参考人(吉田大輔君) 今回、各国立大学における国旗の掲揚、国歌の斉唱につきましては、国会議員から国旗の掲揚、国歌の斉唱の実施状況につきまして照会がございました。文部科学省としては、卒業式、入学式は公の場で行われる式典であること、また実施状況という事実関係のみの確認であること、加えて、照会を行うことが大学に過度な負担を強いるものではないことなどを総合的に判断をし、各国立大学法人に照会をし、その結果の集計を行ったものでございます。
なお、文部科学省としてこのようなことを定期的に行っているわけではございません。
○田村智子君 歴史的に行われていなかったんです。それが突然行われた。そして、要請が行われた。その要請と、更にその後また調査がまた行われるようなふうに結び付いていけば、これはもう私はお願いというレベルを超えるものになるというふうに思うんです。
大臣に伺いたいんですね。やはり、これ、要請をする、調査をする、また要請する、調査する、こういうことをやったらお願いじゃないと思う。やっぱりそういうやり方というのはやめるべきだと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(下村博文君) 元々これは松沢委員が予算委員会で質問したことが端を発して、衆議院、参議院における文部科学委員会や文教科学委員会でも結構再三再四質問されていることでありますし、私の方もそれに対して、それぞれ各大学の自主的な判断に委ねられているということも申し上げているわけでありますから、これは強制的なことではなくて、各大学がそれぞれ適切に判断されることだと思います。
○田村智子君 これ、私、なぜ重大だというふうに考えるかといいますと、憲法をいろいろ持つ国を見てみても、憲法の中に学問の自由というふうに必ずしも明文で書いている国というのは、例えばフランスやアメリカというのは明記されていないわけです。じゃ、なぜ日本で学問の自由ということが明記されたのか。そこには戦前、滝川事件あるいは天皇機関説事件など、学問の自由が直接に侵害された歴史があるからだというふうに私は思います。
そして、しかもこの滝川事件というのは、京都大学で滝川教授が追放されると、それに対して多くの教授の皆さんがストライキといいますか、それに抗議するという大問題になっていったわけですけど、なぜこういう事件に発展しちゃったかというと、そのきっかけの一つは、国会議員が国会の中でこの教授に対する批判を大展開をし、そして政府を動かし追放するというふうにしたわけですよ。言わば、国会議員の国会での活動が政府の大学介入に対するきっかけにもなり、後ろ盾にもなった。
こういう歴史を、今日は是非皆さんにも呼びかけたいんですけれども、私たち文教科学委員会というのは、本当にその歴史を真摯に踏まえるべきだというふうに思います。
私は、昨年にも広島大学の特定の講義の内容が国会で問題とされた、そのことを契機として文部科学省が調査、助言を行うということが行われて、これも大学に対する介入だということで厳しく批判をいたしました。そのときにも取り上げたんですが、日本科学者会議広島支部幹事会の声明というのは、政権獲得前のナチス党が、その青年組織に告発させる形で意に沿わない学説を持つ大学教授をつるし上げさせ、言論を萎縮させていったと、こういう歴史に触れて、特定の政治的主張を持つ外部の者が大学教育に介入してくる、このことについてやっぱり警鐘を鳴らすべきなんだと、そのことを傍観していては駄目なんだということを呼びかけられたわけです。
やはり、この国会においても、学問の自由とは何なのか、大学の自治とは何かということを常日頃私たちもやっぱり根本に立ち返って議論をし、お互いの思慮も深めて、そして委員会での質問に当たりたい、このことを是非皆さんにも呼びかけて、質問を終わりたいと思います。