建設業における労働条件の改善や担い手確保のための改正建設業法・入札契約適正化法が7日の参院本会議で、日本共産党、自民、公明、立民、維新、国民などの賛成多数で可決・成立しました。
6日の参院国土交通委員会で田村智子委員長は「日本の建設業は担い手不足によって深刻な危機に直面し、ここで打開しなければ崩壊しかねない。建設業で適正な労賃へと構造的転換を行い、人件費コストカットからの脱却するための法案ということか」と質問しました。
斉藤鉄夫国交相は「建設業では長年の安値競争の結果、平均賃金が他産業よりも約16%低い状況だ。現場を担う技能労働者の賃金確保は喫緊の課題」と述べました。
法案は、受注者によるダンピング行為を禁止する基準となる「標準労務費」制度を新設します。田村氏は「標準労務費を、すべての建設従事者に労賃として行き渡らせることが必要だ。そのため、見積書のあり方も合わせて徹底すべきだ」と指摘しました。
また法案は、タブレット等での遠隔指示ができることなどを条件に監理技術者の専任義務を緩和します。田村氏は「安全性確保のためにも、原則は人の現場での立ち会いだと明確にし、規制緩和の歯止めを示すべきだ」と強調しました。
2024年6月11日(火) しんぶん赤旗
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
まず、この法案がなぜ必要なのか、その前提となる認識を共有したいと思います。
建設業の賃金が他産業よりも低く、労働時間が長い、だから改善しましょうというにとどまらない、日本の建設業が担い手不足によって深刻な危機に直面し、ここで打開しなければ崩壊しかねない、建設業で常態化している安値競争を終わらせ、適正な労賃へと構造的転換を行う、言わば人件費コストカットからの脱却だと、そのための法案だというふうに考えますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(斉藤鉄夫君) まさしくそのとおりだと思います。
建設業では、長年にわたる安値競争の結果、厳しい就業条件にふさわしい適正な賃金が確保されておらず、他産業よりも約一六%低い状況にあります。現場を担う技能者の適正賃金の確保は、危機感を持って今取り組まなければならない喫緊の課題でございます。
このため、本法案では、国が適正な労務費の基準をあらかじめ示した上で、個々の工事においてこれを著しく下回る見積りや請負契約を下請取引も含めて禁止する新たなルールを導入することとしております。これは、これまで繰り返されてきた労務費を原資としたダンピング行為の排除を目指そうとするものでございます。
こういう努力で、人件費カットではなく、労務費カットではなく、建設業を魅力あるものにしたいと、このように考えております。
○田村智子君 参考人質疑のときにも話題にしたんですけれども、大工でいえば、ピーク時の九十三万人から二〇二〇年には三分の一の約三十万人と、しかもその四三%が六十歳以上と。そして、その参考人質疑のときには、さらに、二〇三〇年にはまた三分の一減ってしまって二十万人になってしまうという推計もあるということも示されました。
リフォーム、リノベーション、被災した住宅の復旧など、一定の技能を持つ大工が必要で、このままでは圧倒的な人手不足でリフォームや災害復旧ができない国になってしまうと。キャリア教育も含め、省庁横断でこれまでにない取組が求められているということを強調しておきたいと思います。
焦点となる標準労務費についてお聞きします。
法案では、中央建設業審議会が勧告する標準労務費から著しく低い労務費での見積りを禁止としているんですけれども、この政策の意図するところは、標準労務費を全ての建設従事者に労賃として行き渡らせようということでよろしいでしょうか。
○国務大臣(斉藤鉄夫君) 建設工事の見積りとは、請負契約の締結に先立って、建設工事の発注者と受注者が契約内容を事前に協議、交渉するために行うものです。
このため、受注者に労務費の基準を踏まえた見積書の作成を求め、これを著しく下回る見積りを禁ずる規定は、このような請負契約を下請取引も含めて禁止しようとするものでございます。当然のことながら、適正な労務費を受け取った下請業者には、その雇用する労働者に能力に応じた適正な賃金を支払っていただくことが求められます。
今回、適正な労務費の基準を著しく下回る見積りや請負契約を禁止することで、これまで繰り返されてきた労務費を原資としたダンピング行為を排除し、現場で働く技能者の方々の賃金原資となる労務費の適正な確保が図られると、このような考えによるものでございます。
○田村智子君 これ、著しく低いというのがどういう基準かということじゃないと思うんですよね。標準労務費が、これが基本なんだよということを本当に徹底していくというやり方でなければ今の危機を打開できないと、共通の認識だというふうに思います。
建設業の低賃金の大きな要因の一つが重層下請構造です。
参考人質疑では、この標準労務費が行き渡れば、中間に介在しても利益を見込みにくくなり、重層下請構造は解消されていくという期待が示されました。国交省も同じ認識でしょうか。
○国務大臣(斉藤鉄夫君) 基本的には同じ認識でございます。
建設業では、多種多様な専門工種を組み合わせて施工する必要があること、また、業務期の繁忙期、閑散期に対応する必要があることから、一定の重層的な下請構造が存在しています。こうした下請構造が存在する中でも、下請企業にまで適正な労務費が行き渡るよう、本法案では、国が適正な労務費の基準をあらかじめ示した上で、個々の工事においてこれを著しく下回る積算見積りや請負契約を下請取引も含めて禁止することにしています。
これによりまして、中間に介在する下請業者が更に下請契約を結ぼうとする際、利益や経費を中抜きしにくくなると考えられ、この結果、重層構造の是正に一定の効果が期待されると考えております。
一方で、重層下請構造自体は、工種が多様であることや、先ほど申し上げました仕事に繁閑があること等の事情により生じているものであり、この労務費の行き渡りの新ルールの導入だけでは解決できないものと考えております。
この点につきましては、本法案について御議論いただいた審議会においても課題として指摘されていたところであり、引き続きこの重層下請構造の解消に向けていろいろな努力をしていきたいと思います。
○田村智子君 そうしますと、まず公共事業でどうなるかと。標準労務費が本当に行き渡っているのかどうか、あるいは重層請負構造、特に中抜きのようなことがもう行われなくなっているのかどうか、このチェックをしっかりとやっていくことが求められるというふうに思います。どのように取り組むのかも含めて答弁お願いします。
○政府参考人(塩見英之君) お答え申し上げます。
今回の法案に基づく新しいルールの導入に当たりましては、その導入過程でいろんな課題が現場で生じることが考えられます。そういった課題を逐次見定めて、必要に応じて解決を図っていく必要がございます。こういった課題を把握しやすく、また従事する技能者の方が多いのは、直轄の大規模工事であります。新しいルールの浸透状況や、生じている課題、こういったものをより丁寧に把握するよう努めてまいりたいと思います。
○田村智子君 ちょっとばくっとしていて、これ本当につかんで、私は、期待が期待どおりにいかなかったら、これ新たな規制ということに踏み込まなきゃいけない、それぐらいの危機ですから、しっかりチェックできる体制、取組、是非具体化を急いでほしいと思います。
標準労務費がどのように設定されるのか、これ法案成立後に検討されるわけですが、実効性のあるものになるように、何点か国交省の考えを確認しておきたいと思います。
この間、建設業では、建設労働組合員も加わって、経験と技能を労務費に適正に反映させようと、建設キャリアアップシステム、CCUSが制度化され、昨年六月、レベル別年収の試算額が公表されました。資料の二ですね。このように、業種ごとにレベル一からレベル四までの年収額が示されています。技能の取得と経験によってレベルアップすれば賃金が上がるという、こういう道が示されているわけです。
それでは、このCCUSは、標準労務費にどのように生かされるのでしょうか。
○政府参考人(塩見英之君) CCUSでお示しをしているレベル別年収と、今回新しく取り組もうとする労務費の基準との関係でございますけれども、大きく二つの点で申し上げたいと思います。一つはやや異なる点と、非常に親和性のある点と、二つあると思っています。
一つは、やや異なる点としましては、レベル別年収というのは、四つのレベル、段階ごとにお示しをしているものでありますし、また、示し方も年収という形で、年幾らという形でお示しをしております。
これに対し、今想定されております労務費の基準は、標準的な歩掛かりを掛ける方法を取るといたしますと、一つの、四つではなくて一つの数値としてお示しをすることになると思いますし、また、単位が円と、年間の円ということではなくて、作業量当たり、平米当たり、トン当たりで幾らという形でお示しをすることになるとすれば、二つはやや異なる点もあります。
しかしながら、CCUSのレベル別年収の説明で申し上げておりますとおり、これは、公共工事の設計労務単価が十分に行き渡った場合に実現する、そういう年収であるというふうに申し上げております。今回、労務費の基準が公共工事の設計労務単価を基に計算をしていく方法を取るとすれば、下請事業者、末端の下請事業者までそれがきちんと行き渡るということは、レベル別年収を下請業者の方が労働者に支払うための原資が確保できるということにもなると思いますので、そういう意味では、二つは非常に関わりが深く、かつレベル別年収を実現することにもつながる、資するものであるというふうに思っております。
○田村智子君 この間、取り組んできて、ここにその年収を上げていく、何というんですかね、期待があるということで、現場の意見を踏まえてつくられてきたものですから、是非、標準労務費の検討のときにやはりCCUSは大いに参考にといいますか、踏まえて検討していただきたいというふうに思います。
一つ飛ばしまして、では、標準労務費がどのように示されるのかということを確認したいと思います。
この間、建設労働組合や小規模の建設業者からは、法定福利費を丸めずに別枠で明記すると、これが重要なんだということが指摘をされてきました。
資料の一、一枚目を見てください。
これは、これCCUSの関係の資料なんですけれども、レベル別年収の基となる公共事業設計労務単価と雇用に伴う必要経費という国交省の資料です。ここで労働者本人が受け取るべき賃金がどのように書かれているかというと、基本給と法定福利費、これ、それぞれ明記されているんですね。そのほかにも手当が書かれていますけれども。それから、事業者の方の必要経費も、法定福利費、労務管理費等、現場作業に係る経費というように内訳が明示されています。
標準労務費についても同じようにやはり内訳として法定福利費などが示されるのかどうか、お答えください。
○政府参考人(塩見英之君) お答え申し上げます。
今回の労務費の確保と行き渡りの仕組みの議論は、中央建設業審議会で行ってまいりました。その議論の前提で申し上げている労務費は、技能者に支払われる賃金、これがきちんと技能者まで届くことが、下請業者の方にとっても、元請にとっても、さらには発注者にとっても必要不可欠なことである、こういう共通認識が得られたというところでございます。
したがいまして、現在想定しておりますのは、まさに技能者に支払われる賃金、それに相当する金額でございますが、ただ、御指摘のとおり、請負契約を結ぶ際にはその労務費以外の経費についても適切に計上されなければいけないということもあろうかと思います。
したがいまして、法定福利費などの内訳を明示した見積りを推進いたしますとともに、別途、労務費の基準の公表の際には、必要経費を含んだ労務費についても周知をしているところでございます。労務費以外の経費につきましても請負契約の中で適切に確保されますように、様々な取組を総合的に進めてまいろうと思います。
○田村智子君 そうすると、ごめんなさい、一点確認したいんですけど、賃金という中には本人負担分の法定福利費が含まれた形で示されるということになるんですか。
○政府参考人(塩見英之君) 説明が不十分で申し訳ありません。
法定福利費、本人が御負担、お給料から天引きされる分については当然賃金の中に含まれるということになりますが、会社が負担する二分の一の負担、これはまた別途ということになります。
○田村智子君 これ、丸め込まれたときに、法定福利費がその中に実際入っていないような契約っていろいろあるわけですよ、別で払わなきゃいけないような。
こういう契約がいろいろあるものですから、現場からも、民間の契約の中で法定福利費が見積りの中で示されていないと、事業主負担分も含めてですね、事業主負担分ですね。そういう契約が押し付けられている事例があるわけですよ。
そうであるならば、見積りの中でこれはしっかりと法定福利費というのは明記すべきであるというふうな是正の指導対象というふうにはなるわけでしょうか。
○政府参考人(塩見英之君) 法定福利費は法律で加入が義務付けられているその保険に加入するために必要な経費でございますので、これは適正に御負担いただく必要がありますし、様々な形でその取組は推進していかなければいけないというふうに思います。
これまでも法定福利費の内訳明示という取組を業界団体の総意で進めてまいりまして、公共事業で申しますと三分の二ぐらい、民間工事でいいますと五割ぐらいが内訳明示の取組が進んできております。これは、業界の合意でやっているものでもありますから、行政の方からそれを是正するということまでは今対象にはしておりません。
それから、法律的に申し上げますと、見積書を作ることはできるだけ努力していただくわけですが、そこに内訳を明示することについても、今の法律ですと、それ自体は努力義務ということになっておりますので、それに対して行政の方から是正をするということまでは今のところしておりません。
しかし、その見積書をもし作って内訳を明示するという場合には、今回の労務費の基準に著しく乖離しないように定めていただく必要があるというのが今回の法律でございます。
したがいまして、見積書を作り、労務費を内訳明示していただく場合に、その水準が著しく低いという場合には是正の指導の対象になってくるということでございます。
○田村智子君 標準労務費、行き渡らせるときに、併せてやはりあるべき見積書の在り方というのはやっぱり徹底していくこと必要だというふうに思いますので、そこを併せて是非徹底していっていただきたいというふうに思います。
ちょっと先に、法案に関わって、タブレット等を使って遠隔での指示ができ、二時間以内に現場に行くことができる等を条件に現場技術者の専任義務を緩和するということについてお聞きをしたいんですけれども、これ、もう一つ、法案の中では、営業所専任技術者が複数の現場を兼任できる要件、現在の請負額、四千万円までから請負額一億円までの工事に拡大するということも説明されています。
ICT技術の活用を否定はしません。しかし、建設現場の安全性は人が現場で立ち会ってこそ確保されると思うんですね。最近、建設現場における痛ましい死傷事故、あるいは重大な事故というのが後を絶ちません。安全性確保が置き去りにされるようなことが更に進まないかが懸念されます。
これ、原則は現場での立会いであるということを明確にするとともに、ICTによる合理化がむやみに拡大されないよう歯止めを示すべきではないかというふうに考えますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(斉藤鉄夫君) 監理技術者などは、建設工事の適正な施工確保を図るため、施工計画の作成、工程管理、品質管理などの重要かつ要となる役割を担っていることから、こうした役割の発揮に支障が生じないことを前提に合理化する必要がございます。
そのため、今回の合理化策の検討に当たっては、有識者や公共工事の発注者、現場を担う建設企業など、建設工事に関わる幅広い方々の御意見を踏まえつつ慎重に進めてきたところでございます。
今後、具体的な条件については、パブリックコメントを経て政省令等で定めるとともに、法施行後は、安全性を始め適正な施工が確保されているか等の観点から実施状況をしっかり確認していく所存でございます。
○田村智子君 私、こういう規制緩和を行うときは、原則はどっちなんだということを明確にすべきだと思うんです。原則は立会いなんだと、現場での立会いなんだと、ここを明確にした上でだということは改めて強調しておきたいと思います。
それからもう一つ、法案で、原価割れ契約の禁止が発注者だけでなく受注者にも課されます。仕事を取るために受注者がダンピングを発注者に働きかける潜りのような不適切な事業者、これリフォームなどで少なくないというようなことも現場からはお聞きをしています。
発注者も、そういうふうに働きかけられて、そうすると、あなたのところより十万円安く取ってくれるところがあるよといって値引きを迫ってくるというようなことが今も起こってきていると。お話伺った事業者の方は、いや、うちはこの額でないとできませんといって交渉しているというんですが、こういう交渉力のある事業者ばかりではないというふうに思います。
工事代金の受注者側からのダンピング防止、これは具体的にどう進めていくんでしょうか。
○政府参考人(塩見英之君) 今回、工期ダンピングの対策として、五年前に講じた発注者側の工期ダンピングと合わせて、受注側についても工期ダンピングについて禁止する規定を設けます。また、請負金額の総額につきましても、従来、地位を利用した注文者側からのダンピングについては禁止しておりました。原価割れ契約を禁止しておりましたけれども、今回の法改正の中で、受注側についても原価割れ契約となることについては禁止をするというふうにしております。
これは、具体的にどういう場合が原価割れになるかということは、工事が一つ一つ目的物が異なりますので、機械的な判断はなかなか難しいと思いますけれども、繰り返し申し上げております、建設Gメンが現場に入りまして一つ一つの契約の中身をつぶさに分析をした上で、ほかの工事と比べてもこの程度の金額でやることは通常難しいということをできる限り明らかにすることで、総価での原価割れ契約を禁止し、その改善を求めていくということにしたいと思っております。
○田村智子君 建設Gメンの体制が余りに不十分だというのは皆さんからも指摘があったとおりだと思います。
これ、抜本的な体制強化とともに、やっぱり一斉期間など設けて、一斉にやっているぞということを国民的にもアピールして、民間のところでも標準労務費あるいは不適切な契約ということに対して法が趣旨としているところが徹底されるような取組を是非要望いたしまして、質問を終わります。