質問第一八号
新国立競技場の建設及び維持等に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成二十六年十二月二十六日
参議院議長 山崎 正昭 殿
新国立競技場の建設及び維持等に関する質問主意書
二〇二〇年東京オリンピック(以下「東京オリンピック」という。)に向けて、東京都は都内に新設予定であった三会場(バドミントン会場「夢の島ユースプラザ・アリーナA」、バスケットボール会場「同アリーナB」、セーリング用の「若洲オリンピックマリーナ」)について建設中止を決定した。国際オリンピック委員会(IOC)も、コスト削減のために地方都市での既存施設の利用を推奨する立場をとっている。
近年のオリンピックは、開催都市の施設建設費・維持費負担の増大がしばしば問題となり、一九九九年のIOC総会では、環境保護、持続可能な開発を掲げる「オリンピックムーブメンツ アジェンダ二十一」を採択し、このなかで既存施設活用を呼び掛けた。さらに、本年十二月のIOC臨時総会で採択された「オリンピックアジェンダ二〇二〇」には「既存の施設の最大限の活用および撤去可能で一時的な会場の活用を積極的に促進する」と明記された。東京都の会場見直しは、こうした方向に沿うものであり、我が党は競技会場建設の更なる見直しを求めているところである。
ここで、東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の在り方が問われる。新国立競技場は、デザイン選定直後から、巨額の建設及び維持費用、周辺環境との調和、後利用の在り方など、著名な建築家を始め国民から疑問や批判の声が噴出している。このまま当初の計画を進めることは、オリンピックムーブメンツと矛盾するだけでなく、後世にまで大きな禍根を残しかねない。早急に建設計画の現実的な見直しが必要と考え、以下質問する。
一 「オリンピックアジェンダ」に対する見解について
一九九九年のIOC総会で採択された「オリンピックムーブメンツ アジェンダ二十一」、本年十二月八日に採択された「オリンピックアジェンダ二〇二〇」は、東京オリンピック開催に当たっても尊重されるべきものと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
二 建設費について
新国立競技場は、国際デザイン・コンクールで最優秀賞となったザハ・ハディド氏の案では約三千億円もの建設費用となると試算され、デザインを含めた大幅な見直しを余儀なくされた。見直し後の建設費ついて、二〇一三年十二月、文部科学省と財務省は、総工費千六百九十九億円(本体千三百九十五億円、周辺整備二百三十七億円、解体費六十七億円)を上限とすることで合意し、さらに二〇一四年五月、JSC「国立競技場将来構想有識者会議」は、総工費千六百二十五億円(本体千三百八十八億円、周辺整備二百三十七億円、なお解体費六十七億円は除く)とする基本設計を了承した。
しかし、この費用は、消費税五パーセント及び二〇一三年七月当時の設計労務単価での積算となっており、実際に要する費用とかい離している。また、現在建設市況は、労働力や資材のひっ迫の影響もあり高騰を続けており、槇文彦氏ら著名な建築家からは、建設工事が本格化する二〇一六年には二千百億円を超えるとの予測が示されている。新国立競技場の建設費用がいくらになるのか、国民への説明を行うべきである。
1 消費税八パーセント及び現時点の設計労務単価による総工費(解体費用を含む)は、いくらになるのか明らかにされたい。
2 新国立競技場の建設費について、下村博文文部科学大臣は二〇一四年七月二十二日の記者会見で「ある程度予算よりもオーバーするということはあり得る」と表明した。これは、文部科学省と財務省が合意した総工費上限千六百九十九億円を超過することを認めたものか。また、労務単価、資材等の今後の値上がり分を反映した上限額をどのように試算しているのか。
三 長期修繕費について
本年八月十九日、JSCは、五十年間の大規模修繕費を建設費の四十パーセントに当たる、およそ六百五十六億円と発表した。官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センター(以下「建築保全センター」という。)は、五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
可動式屋根、可動席、天然芝生、ガラスの壁面など、新国立競技場が他の官公庁施設と比して、修繕維持に多額の費用を必要とすることは明らかである。新国立競技場の長期修繕費が、建築保全センターが示している最低限のライン「すべき修繕」(建築費の五十一パーセント)にさえ達していないのはなぜか。また、六百五十六億円の積算根拠を示されたい。
四 屋根付き競技場とすることの問題点について
七万二千席の日産スタジアムの総工費約六百億円と比して、新国立競技場の建設費は明らかに過大である。これは巨大なキール鉄骨と可動式屋根という構造によるところが大きいと考えられる。
しかも屋根を付けることで、天然の芝生に不可欠な直射日光、夜露、風による通気等が遮られ、芝の維持管理システムに年二千二百万円を要すると見込んでいる。既存の屋根付きスタジアムである大分スポーツ公園総合競技場(大分銀行ドーム)は、芝の根付きが悪く、サッカーの試合を急きょ他会場に変更する事態が生じている(二〇〇一年及び二〇〇九年)。
また、可動式屋根の膜に使用されるC種膜は、東京ドームが使用するA種膜より耐久性が低く、七から十年で張替工事が必要との指摘がある。張替工事には、巨大な仮設足場の建設、足場によって痛んだ芝の養生なども求められる。
1 新国立競技場のデザイン選定の過程で、屋根を付けることが芝に与える影響をどのように検討したのか。天然芝への悪影響が明らかでありながら、屋根付きの競技場とする理由はなにか。
2 C種膜取り替え工事費用(仮設足場の設置、芝の養生を含む)をどの程度と見込んでいるのか、明らかにされたい。
3 屋根付きというデザインは、コンサートなどの文化行事の開催を見込んでのものとされているが、JSCが公表した収支見込では、文化興行は年間わずか十二日程度である。競技場の命ともいえる芝生への影響、建設・維持・修繕に掛かる費用を検討し、屋根付きというデザインそのものを見直すことが必要ではないか。
五 東京オリンピック後の利用について
新国立競技場は、東京オリンピックでの陸上競技会場となるにもかかわらず、オリンピック後はサブトラックの確保ができないために、国際的な陸上競技の会場とはなりえない。これは、「オリンピックアジェンダ二〇二〇」が提言する「持続可能性」、「遺産としての必要性」とも矛盾する。
また、これまでの国立競技場は、全国定時通信制高校の陸上大会、都内の小中学校による競技大会、シニアの競技大会などが多数開催されてきた。オリンピック競技場の後利用として、広く国民が競技施設として利用できることは重要である。しかし、これまで利用してきた学校関係者からは、八万人のスタジアムをこれまでと同様の利用ができるのか、使用料金はどうなるのかという声があがっている。
1 八万人・屋根付きの巨大スタジアムとすることは、学校など非営利団体の利用を困難にするのではないかとの懸念について、政府の見解を示されたい。また、使用料金をどのように試算しているのか示されたい。
2 東京オリンピックの陸上競技場である新国立競技場について、オリンピックレジェンドとしての後利用をどのように構想しているのか、政府の見解を示されたい。
右質問する。
答弁書第一八号
内閣参質一八八第一八号
平成二十七年一月九日
参議院議長 山崎 正昭 殿
参議院議員田村智子君提出新国立競技場の建設及び維持等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員田村智子君提出新国立競技場の建設及び維持等に関する質問に対する答弁書
一について
御指摘の「オリンピックムーブメンツ アジェンダ二十一」及び「オリンピックアジェンダ二〇二〇」については、平成三十二年に東京都で開催される予定の第三十二回オリンピック競技大会(以下「オリンピック」という。)の開催に当たり、尊重されるべきものと考える。
二について
国立霞ヶ丘競技場陸上競技場(以下「国立競技場」という。)の改築に係る工事費の総額については、平成二十五年十二月に、事業主体である独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)において、新しく建設する国立競技場(以下「新国立競技場」という。)の建設工事費を約千六百二十五億円と試算し、これを設計条件の一つとしたところである。お尋ねの「上限額」の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成二十五年十二月以降における建設資材価格及び労務単価の高騰並びに消費税率の引上げ(以下「市場価格の変動等」という。)を加味した新国立競技場建設工事費の試算額については、センターにおいて現在行っている実施設計の作業の中で、市場価格の変動等に伴う増額要因とともに、低コスト化に伴う減額要因を勘案し、精査しているところであることから、お答えすることは困難である。また、国立競技場の解体工事費については、センターのホームページに契約金額が掲載されているところである。
御指摘の文部科学大臣の発言は、新国立競技場建設工事費は、新国立競技場が竣工するまでの間において、市場価格の変動等の影響を受けることが考えられることから、建設工事費の変動の可能性があることについて言及したものである。
三について
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、センターでは、新国立競技場の耐用年数を五十年と仮定し、一般財団法人建築保全センター発行の「平成十七年版建築物のライフサイクルコスト」に基づき、新国立競技場建設後五十年間分の修繕費を約三百十九億円と、大規模改修費を約六百五十六億円と試算していると承知している。なお、これらを合計した金額は、平成二十五年十二月に設計条件の一つとした新国立競技場建設工事費の試算額約千六百二十五億円の約六十パーセントに相当する。また、大規模改修費の試算額の内訳は、固定屋根の膜約六十二億六千五百万円、開閉式遮音装置の膜約二十二億九百万円、その他の建築仕上等約五十五億八百万円、大型映像装置約二十二億三千百万円、受変電設備約十四億九千九百万円、その他の電気設備約百五億六千五百万円、空気調和機約七十二億六千九百万円、空調配管及びダクト約五十六億百万円、その他の機械設備約百八十六億四千七百万円、その他の管理設備約五十七億九千九百万円であると承知している。
四の1及び3について
新国立競技場の建設に当たっては、センターが設置した国立競技場将来構想有識者会議において、新国立競技場が備えるべき要件について検討が行われ、大規模な国際競技大会の主会場となるために備えるべき機能及び稼働率の向上の観点から、屋根の設置が要件の一つとされたものと承知している。
センターでは、施設の運営に関し、天然芝の育成に必要な採光及び通風等が最大限確保できるよう、屋根に設置する開閉式遮音装置を通常は開いた状態とするとともに、南側の屋根に透過率の高い材料を採用して太陽光の入射量を高めるほか、グローイングライト及び地中温度制御システムを導入する等の対応策を計画している。また、天然芝の育成及び維持に関する研究を行う予定であると承知している。
なお、センターによれば、開閉式遮音装置の設置に伴う音楽等文化イベントの開催日数の増加による収益増加額を年額約五億円と見込む一方、同装置の毎年の減価償却費を約四億三千六百万円、維持管理費を約二千五百万円、合計約四億六千百万円と見込んでいることから、同装置のライフサイクルコストは、収益により賄えるものと考えているとのことである。
四の2について
センターでは、新国立競技場の耐用年数を五十年と仮定した場合のお尋ねのC種膜材の更新費用について、約二十二億九百万円を見込んでいると承知している。
五について
オリンピック開催後の新国立競技場の利用については、センターから、これまでと同様に、非営利団体も利用できるようにするとともに、大規模な国際競技大会や音楽等文化イベント等の開催を想定していると聞いている。また、新国立競技場の使用料金については、今後、センターにおいて、利用者に配慮しつつ適切に検討が行われるものと承知している。