迫る参院選挙で日本共産党は「比例5議席絶対確保」に挑みます。比例5候補と各界の方々との対談をシリーズで始めます。第1回は早稲田大学名誉教授の浅倉むつ子さんと日本共産党副委員長の田村智子さん。政治の力で「ジェンダー平等社会」をどう実現していくか、語り合いました。
浅倉・大ファンなんです
浅倉 今日は楽しみにしてきました。田村さんは「桜を見る会」疑惑の〝火付け役〟で、質疑もとてもキレがあって大ファンなんです。
田村 ありがとうございます。
浅倉 日本学術会議会員の任命拒否問題も国会での追及が素晴らしくて政府側もタジタジでしたね。
田村 学者・研究者の皆さんから、すぐに抗議の声があがって、大きな励みになりました。「学問の自由」という民主主義に関わる問題ですから、岸田首相への追及もするつもりです。
浅倉・米国は90年代からすでにジェンダーが労働問題研究の主流/田村・男女賃金格差の是正は「土台中の土台」ですね
田村 昨年の総選挙でまとまったジェンダー平等の政策を掲げました。
浅倉 素晴らしい政策です。
私が大学院で労働法を学び始めたころ、「女性の問題を研究したい」というと、「そんなさまつなこと」と猛反対されました。その後、1991年に米国に留学するとジェンダーは労働問題の主流でした。
日本では、女性たちがジェンダー問題に真剣に取り組み始めた2000年代に、政治家などから「男女の区別をなくすつもりか」などのバッシング、バックラッシュ(逆流)が始まりました。そうした動きにどう理論的に対抗できるか、力をあわせようとジェンダー法学会(03年)をたちあげました。
こうした包括的な政策提言をしてくださったことを歓迎しています。
田村 ジェンダー平等という言葉を党綱領に明記したのは、20年の第28回党大会なのです。歴史的につくられた「男・女らしさ」という慣習や意識も含めて変える必要があると、認識を発展させました。党創立から男女平等を掲げてがんばってきたことを確信にしつつも、みなさんの研究や運動から学び、認識の遅れは率直に反省もした、それらが政策に結実していると思っています。
浅倉 男女賃金格差の是正を冒頭にしっかり位置付けていますね。
田村 ジェンダー平等社会を築く「土台中の土台」ですね。平均賃金でみれば「生涯1億円の格差」と打ち出して、これは衝撃を広げました。女性が経済的に自立できなければ、男性に従属した生き方を余儀なくされます。
浅倉 賃金格差は雇用だけでなく年金の支給額にも反映し、高齢女性の貧困につながっています。
格差が社会に及ぼす影響もはかりしれません。一例が、年少者が死亡したときの損害賠償額です。将来、その子がどれくらいの賃金を得るのかを予想して損害賠償額が決まります。勤労者の平均賃金が計算の基礎になるため、男の子と女の子では、死亡した場合の賠償額が違ってしまう。男女で100対74・3の差になります。裁判所は、判決で格差を縮める工夫をしていますが、完全に解消されてはいません。
ベルばら作者も語った「原稿料は男性の半分」
田村 まるで人間の価値が違うかのようですね。最近、内閣府男女共同参画局も賃金格差の問題で新しい動きをしています。政府広報の月刊誌で、『ベルサイユのばら』の作者、池田理代子さんへのインタビューが掲載されていて、これがとても面白いのです。
「(1970年代の)当時同じ雑誌に描いていて、同じくらい人気があっても、女性は男性の半分の原稿料しかもらえなかった…おかしくないですかと言ったら、『お金に汚い女だ』と言われました。…『女性はやがて結婚して男性に食べさせてもらうのだから、男が倍もらうのは当然だ』とも言われた」
50年前の話ですが、根っこにあるものは今も同じではないかと思えます。
浅倉 男が家族を養うのだから、格差は当然という考え方は、フリーランスも同じだったのですね。日本は労働基準法で男女賃金差別を禁止していますが、同一価値労働同一賃金を定めた法律がないのです。女性が賃金差別だと裁判でたたかっても、勝利することが難しい。たとえば給料が安い「一般職」のほとんどが女性でも、男性が何人かいれば、「男女差別ではない」とされてしまうのです。司法にもジェンダーに敏感な視点が必要です。でも、自分が働いている会社を相手に裁判でたたかうのはハードルが高すぎる。やはり政治にがんばってほしい。
田村 勤続年数がゼロ年でも給料は男性の84%、勤続年数が長いほど格差が広がる。新入社員で同じ仕事をしていても、男性の多い「総合職」と女性が多い「一般職」で初任給から格差があることの現れだと思います。将来転勤がある、将来リーダーになる役割というのが格差の理由にされて、それを政府も容認している。これは国際水準ではありえないですよね。日本も国際水準の政治に変えて、ジェンダー平等に本気で取り組む時です。
浅倉 欧州では賃金透明化法をうち出しています。企業が自らの組織内で賃金格差がどのくらいあるのか把握し公表する仕組みです。格差があれば、企業に対し計画的に是正するよう義務づけます。カナダ・オンタリオ州ではそうした仕組みを80年代に導入しました。
田村 そこがカギですね。この間、党国会議員団が連続して企業に賃金格差の把握と公表を義務づけるべきだと求めて、いま、その通りの方向に政府が動いています。是正計画を企業にも政府にもつくらせるために、引き続きがんばります。
田村・シングルマザーの「お米がほしい」という声はあまりにも切実です/浅倉・コロナ禍は「女性不況」、弱い立場にしわ寄せが
田村 コロナ危機のもと、日本のジェンダーギャップの矛盾が集中的に現れたのがシングルマザーです。家族的責任を一人で担うため、残業のない非正規雇用が多く低賃金、同時に家計を一人で支える責任も負っています。学校休業、子どもが濃厚接触などで働けないと、たちまち食べるものも底をつく、希望は現金、お米がほしいという声はあまりに切実です。
浅倉 コロナ禍は単なる「不況(Recession)」ではなく「女性不況(she―session)」だといわれます。女性が多く従事するエッセンシャルワークやサービス業など接触型産業はコロナで影響を受けやすい。国連はいち早く〝全世界的にジェンダー平等政策を進めないとコロナは乗り切れない〟と警告していました。
日本はジェンダー・ギャップ指数が120位(2021年)。そんな底辺の国がコロナ危機に直面したら、しわ寄せはシングルマザーをはじめ弱い立場の女性に行くのは最初からわかっていたことです。一番に対策をとるべきでした。
田村 介護や保育などのケア労働の賃金水準を大幅に引き上げる、雇用のルールをつくって非正規雇用から正社員への流れをつくる。最低賃金を1500円に大幅に引き上げる。これらは政治の責任でできることです。
浅倉 政府にきちんとモノをいう政党が国会にいないといけない。
田村 法律では男女平等と定めていても、女性をより安い労働力として使えるように、企業は「総合職」「一般職」のコース別人事を導入したり、受付や事務の職場をまるごと非正規化してきました。それを容認してきたのが自民党政治です。参院選で共産党が伸びて〝財界べったり〟の政治を変えるために頑張りたいと思います。
浅倉・改憲発議、絶対阻止しないと/田村・戦争許さない共産党躍進へ
浅倉 今度の参院選は本当に大事です。岸田(文雄首相)さんは自民党のなかでもリベラルだと思っていましたが、「敵基地攻撃能力」の保有を打ち出し、憲法改正にも手をつけようとしています。
田村 語っている中身は、安倍(晋三)元首相や菅(義偉)前首相以上に恐ろしい。防衛相は〝相手国領空から空爆することも排除されない〟とまで言いだしました。
浅倉 憲法9条のもとで「専守防衛」の建前は崩れないと思っていたら、ずるずる危険な答弁がでてきました。
田村 9条は日本が戦争しない国であり続けるための最後の縛りです。「海外で戦争する国」づくりで9条の解釈を変えただけでなく、一切の縛りをなくしたいと、自民党は改憲をねらい、日本維新の会がこれをあおっています。参院選で自公とその補完勢力の「翼賛体制」づくりを許してはならない、と力いっぱい訴えます。
浅倉 参議院で、改憲の発議ができる改憲勢力3分の2を絶対阻止しないといけません。
田村 歴史を振り返っても、戦争がひとたびおきれば夫や子を奪われ、戦時性暴力を含め、深い傷を負ってきたのが女性たちです。ジェンダー平等を求める運動の底流には「戦争を許さない」「すべての人の自由と人権保障を」という願いがあります。「憲法を守れ」の声を女性の運動としても大いに広げ、何としても日本共産党の躍進を勝ち取りたいと思います。
◇この対談は、ロシアによるウクライナ侵略が起こる前の2月20日に行われました。
あさくら・むつこ=早稲田大学名誉教授、女性差別撤廃条約実現アクション共同代表。日本学術会議会員(2003~14年)、ジェンダー法学会理事長(07~09年)。著書に『労働法とジェンダー』、『同一価値労働同一賃金の実現』(編著)など
たむら・ともこ=1965年長野県生まれ。早稲田大学卒。参院2期。党副委員長、政策委員長。【活動地域】東京都、南関東(神奈川、千葉、山梨の3県)
2022年3月13日(日) しんぶん赤旗