国会会議録

国会会議録
特措法・感染症法等改定案/田村智子議員の質問(要旨)/参院本会議

 日本共産党の田村智子議員が2日の参院本会議で行った新型コロナウイルス対応の特別措置法、感染症法等改定案に対する質問の要旨は次の通りです。


 法案の最大の問題は、新型コロナの感染抑制と称して、感染症法に患者への罰則を、特措法に事業者への罰則を創設することです。自民党・松本純国対委員長代理が深夜、銀座のクラブを訪問し、田野瀬(太道)文科副大臣、大塚(高司)衆院議運理事が同席したと認めました。事実を明らかにし謝罪すべきです。

 昨年末、総理は「罰則と給付金はセットで必要ではないか」と表明し、政府・与野党連絡協議会で協議が行われました。私は、罰則が必要だとする根拠や、保健所が対応できるのかをただし、患者への刑事罰は差別と偏見を助長するなどの反対意見を述べ、他の野党も反対と懸念を示しました。このもとで日本医学会連合が緊急声明を発表。厚生科学審議会感染症部会で、罰則への反対・懸念が多数出たことも議事録でわかりました。

 ところが法案は、これらの意見を全く顧みないものでした。多数の批判・懸念がありながら、刑事罰まで必要だと判断した重大な立法事実は何ですか。

 総理は、罰則創設は「感染症対策の実効性を高めるため」だといいますが、どう実効性を高めるのか。時短営業の要請に応じない事業者に、どのような手続きで罰則を科すのか。入院や疫学調査を拒否する理由が正当かどうかの判断は誰がどう行うのか。体制がひっ迫した保健所に罰則への対応を求めるのは逆行ではありませんか。

 保健所が困難事例にどう対応したか把握・分析していますか。保健所の抜本的な人員増こそ実効性ある施策ではありませんか。

 感染症対策の実効性は、安心できる施策を広げることです。コロナで仕事を休んだとき、自営業者やフリーランスに所得保障はありますか。感染や濃厚接触で仕事を休む非正規雇用労働者の「解雇」は必ず是正指導すると約束しますか。弱い立場で働く方を罰則で脅せば、隠れた感染を広げかねないのではありませんか。

 患者受け入れ勧告に応じない医療機関も公表しようとしています。患者が入院できないのは民間病院の責任だというのでしょうか。急性期病床の削減、人員配置基準の引き上げに背を向けた政策が、患者受け入れの余力を失わせたとの認識と反省はあるのでしょうか。

 「まん延防止等重点措置」は国会関与もなく、政府と知事の判断で要請・命令を行うものです。補償もなく、罰則で従わせるものではありませんか。

 罰則と社会的制裁で、国民を分断させてはなりません。「誰も取り残さない」と政府が宣言し、協力と連帯を築くべきです。


2021年2月3日(水)しんぶん赤旗
 
【第204回国会 参議院 本会議 第5号 2011年2月2日】
 
○田村智子君 私は、日本共産党を代表し、ただいま議題となりました新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案について、菅総理に質問いたします。  
 本法案の最大の問題は、新型コロナの感染抑制のためと称して、感染症法に患者への罰則、特措法に事業者への罰則を創設することです。自宅で何の治療も受けられないままに亡くなる方がおられる下で患者への罰則を議論するのか、客席を減らし、営業時間を削り、様々な感染対策を講じ、懸命に努力している事業者を罰則で脅すのかと、怒りを禁じ得ません。
 その上、自民党松本純国対委員長代理が深夜、銀座のクラブを訪問していたことが先週明らかとなり、田野瀬副大臣と大塚衆院議運理事が昨日になって同席を認めた。一週間も事実を隠していたのです。自民党の自浄作用はどうなっているのですか。総理、国民の前で事実を明らかにし、謝罪すべきではありませんか。
 法案について質問します。
 菅総理は、昨年末、罰則と給付金はセットで必要ではないか、次期国会に提出して成立させたいと表明しました。年明け早々の一月五日、各政党からあらかじめ意見を聞いて法案をまとめるとの説明で、新型コロナ対策政府・与野党連絡協議会が行われ、八日、十三日と回を重ねました。
 その場で私は、罰則が必要だという根拠、保健所が対応できるのか、患者への刑事罰は差別と偏見を助長するなど罰則に反対の意見を述べ、他の野党からも反対と懸念が繰り返し示されました。
 こうした議論が報道される下、一月十四日、日本医学会連合が入院拒否などに対する罰則を厳しく批判する緊急声明、日本公衆衛生学会と日本疫学会も連名で同様の声明を発表。翌十五日には、厚生科学審議会感染症部会で罰則への反対、懸念の意見が多数出されていたことも、議事録の公表によって分かりました。
 ところが、一月二十二日、国会提出された法案は、これらの意見を全く顧みないものでした。野党の意見を聞いてといいながら聞き流したのでしょうか。各学会、そして感染症部会での意見はいつ、どこで、どのように検討されたのでしょうか。多数の批判、懸念がありながら患者への刑事罰さえ必要だと判断した、それだけ重大な立法事実とは何だったのですか。これらは、菅政権の新型コロナ対応の基本姿勢にも関わる問題です。総理の明確な答弁を求めます。  
 衆議院本会議で菅総理は、罰則の創設について感染症対策の実効性を高めるためと答弁していますが、どのように実効性を高めることになるのか、具体に説明いただきたい。罰則の周知、要請に従わない者を実際に罰することで国民に恐怖心を持たせることが感染症対策の実効性なのでしょうか。併せて答弁を求めます。
 罰則の周知もその運用も、直接担うのは保健所ではありませんか。時短営業の要請に応じていない事業者があった場合、どのような手続によって罰則を科すのでしょうか。また、正当な理由なく入院や積極的疫学調査を拒否したという場合、正当な理由の判断は誰がどのように行うのでしょうか。この場合も患者に罰則を科す手続について説明を求めます。  昨年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、まず体制が逼迫したのは保健所でした。今も、入院の優先順位の判断など、命の懸かった業務に休日もなく懸命に対応されています。その上、罰則への対応を求めることは、感染症対策の実効を高めるどころか、まさに逆行、足を引っ張るものではありませんか。
 全国保健所長会が一月二十七日、厚生労働省に提出した感染症法改正案への意見では、個々の保健所からの様々な意見や懸念を承っているとして、対応困難な患者に対する罰則規定を求めないという意見を紹介しています。この意見書は大変抑制的な書きぶりですが、患者の個々の事情に丁寧な対応を行ってきたこと、必要なのは保健所の人的体制であること、住民の立場であらゆる人の命と健康を守る使命を持続可能としてほしいなどの訴えが伝わるものです。  これまで保健所がどのような困難事例にどう対応してきたのかを政府として把握し、分析していますか。また、保健所の抜本的な人員増こそ患者の理解と協力を得る実効性ある施策ではありませんか。  
 感染症対策の実効性は、恐怖心を持たせる施策ではなく、国民が安心できる施策を網の目のように広げていくことです。
 自営業の方が、仕事を休むと収入が減るため入院を拒否したという事例があります。新型コロナ感染者は仕事を休んだときに公的医療保険の傷病手当の対象となりますが、給与所得ではない自営業者やフリーランスは対象外です。この場合、所得保障の制度はありますか。
 また、濃厚接触で自宅待機の場合、傷病手当の対象となりますか。時給や日給で働いている濃厚接触者は二週間無給状態となりますが、どのような支援策があるのか、お答えください。
 無症状、軽症、濃厚接触で自宅待機となった場合、十日から二週間、一歩も外出しないための生活必需品の支援は現状でどれだけの自治体が行っていますか。今回の特措法改定でも、食料などの生活物資の支給は自治体の努力義務のままです。支給しない自治体があってもよいということでしょうか。
 非正規雇用の労働者が新型コロナに感染したことを店長に連絡したら、もう来なくてよいと解雇を宣告されたという事例があります。感染や濃厚接触で仕事を休むと解雇する、これは違法ではありませんか。必ず是正指導すると約束いただけますか。
 これらは氷山の一角です。不安定で弱い立場で働く方の中には、様々な不利益や差別、社会的制裁を恐れて、症状があっても検査を受けないということが現に生じています。その上、罰則で脅せば、更に追い詰められ、隠れた感染を広げかねないのではありませんか。必要なのは、感染しても、濃厚接触となっても、全ての人の生活を守るという支援策ではありませんか。
 以上、総理の答弁を求めます。
 本法案では、民間医療機関が厚労大臣及び都道府県知事による感染症患者受入れの要請に応じない場合に、受入れの勧告、勧告に応じない場合の公表という、医療機関への社会的制裁も行おうとしています。新型コロナ患者が入院できないのは民間病院の責任だというのでしょうか。民間医療機関の九割が二百床未満、人員配置上もぎりぎりの運営をしており、多くの中小医療機関は新型コロナ患者受入れは困難というのが実態ではありませんか。
 条件のある医療機関は既に新型コロナ患者を受け入れており、それ以外も看護職員の派遣、他の疾病患者の引受け、発熱外来など、新型コロナ対応に貢献し、地域医療を守る役割を果たしています。政府はこのような地域の医療機関をどう評価しているのでしょうか。
 そもそも、社会保障抑制のためとして、地域医療構想などで高度急性期や急性期の病床を減らし、医療機関が要望する人員配置基準の引上げに背を向けてきた、これら長年の政策こそが新型コロナ患者を受け入れる余力を医療現場から失わせてきた、その認識と反省はあるのでしょうか。
 最後に、まん延防止等重点措置についてお聞きします。
 要件は全て政令に委ねられ、国会の関与もなく、政府と知事の判断により、罰則付きで事業者への要請及び命令を行うことになります。今回の緊急事態宣言でさえ協力金は限定的、しかも、持続化給付金、家賃支援給付金を打ち切るということを見ても、これは、事業継続への補償もなく、罰則によって事業者を要請に従わせるというものではありませんか。  
 長期にわたるコロナ禍で国民の中に不安が沈殿している下で、罰則と社会的制裁によって不安をあおり、国民を分断させるなどあってはなりません。苦難に応える、誰も取り残さないと政府が宣言し、協力と連帯を築かなくてどうするのか、このことを厳しく指摘し、質問を終わります。 
 
○内閣総理大臣(菅義偉君) 田村智子議員にお答えをいたします。
 自民党に所属していた議員の行動等についてお尋ねがありました。  
 昨日、田野瀬太道文部科学副大臣を更迭いたしました。また、自民党においては、松本純議員、大塚高司議員、田野瀬議員に離党勧告を行い、この三名は離党しました。さらに、この三名は会見を行い、謝罪したものと承知しております。
 国民の皆さんに御苦労をお掛けしている中で、政治家は率先して範を示すべきところ、こうした行動はあってはならないことであると思います。私からも国民の皆さんに心からおわびを申し上げますとともに、いま一度身を引き締め、新型コロナ対策に全力を尽くしてまいりたいと思います。  
 法改正における立法事実についてお尋ねがありました。
 感染症法等の改正については、入院や積極的疫学調査に応じていただけない事例があり、罰則を設けることについて、その実施主体である全国知事会からも提言があったものと承知をしています。また、一月十五日の感染部会では、最終的にはおおむね了承が得られたと聞いております。  
 また、今般の法案については、先般の与野党の協議を得て、罰則を過料にするなどの修正が衆議院で行われたものであります。
 政府としては、引き続き国会における御審議の結果をしっかりと踏まえ対応してまいります。
 感染症法における罰則についてお尋ねがありました。
 今回の改正案では、患者の人権にも十分配慮しつつ、まずは御本人の御理解を得ながら、入院患者を行うことを基本とするものであります、入院措置を行うことを基本とするものであります。
 その上で、どうしても応じていただけない場合には、必要に応じて罰則を適用することで感染症の蔓延を防止するという感染対策の実効性を高めることができるものと考えています。その際、法律の運用に際しては、人権に配慮した適切な対応に努めてまいります。
 今般の法改正に関する罰則の適用についてお尋ねがありました。
 今回の改正法案により創設される行政罰の適用については、まず都道府県において判断され、最終的には、裁判により過料を科すかどうかについて決定されることになると考えます。  
 このため、実際の運用に当たっては、保健所などの現場において円滑な運用がなされるよう、国としても基本的な考え方や具体例をお示しするなど、必要な支援を行ってまいります。
 保健所の困難事例への対応と人員増についてお尋ねがありました。  
 全国の保健所では、御指摘の困難事例を含め、現場の様々な課題に対し、職員の方々のきめ細かな御尽力により対処いただいているものと承知しております。
 このため、今回の改正法案では、保健所が講じる感染防止の措置に関する理解を得やすくする観点から、自宅療養及び宿泊療養を法律上明確に意味付ける旨の改正を行います。
 あわせて、保健師等の広域的な応援体制を約千二百名から三千名に増員するとともに、感染症対応業務に従事する保健師を来年度から二年間で約九百名増員することとしており、保健所の取組を強力に支援してまいります。
 自営業者等の保障についてお尋ねがありました。
 新型コロナ患者が治療に専念できるよう、その入院や宿泊療養費、自宅療養の際に必要な治療費については、全額公費により負担をしております。  
 また、自営業者やフリーランス等の方については、傷病手当の対象とはなりませんが、就業することができないことに伴って一時的に生活資金が不足する場合や生活に困窮される場合には、緊急小口資金等の特例貸付けや住居確保給付金の支給など、重層的なセーフティーネットにより支援を行っているところであります。
 自宅療養者に対する生活支援についてお尋ねがありました。
 生活必需品の支援を行っている自治体を網羅的に把握はしておりませんが、自宅療養に当たっては、外出する機会をなくすため、必要な方には食事の提供を確実に行うことを都道府県にお示ししており、その費用は、交付金として全額国費で支援をしております。引き続き自宅療養者への生活支援について適切に実施してまいります。  
 雇い止めの問題や検査を受けやすい支援策についてお尋ねがありました。
 感染や濃厚接触により休業し、そのことで雇い止めになることは問題であり、そのような事案を把握した場合には、適切に指導などを行っています。  また、検査については、感染拡大防止の観点からも、受けやすい環境づくりを進めることが重要であると考えております。
 このため、新型コロナの行政検査については実質的に全額国の負担で行うとともに、今回の改正法案の趣旨を踏まえ、感染者や濃厚接触者となった場合に、その人権が尊重され、不当に差別がされることがないよう、国と地方自治体で啓発活動を行ってまいります。  民間病院でのコロナ患者の受入れ等についてお尋ねがありました。  
 地域の医療提供体制については、地域の実情に応じて様々な患者に対して必要な医療をどのように提供していくべきか、地域で役割分担を協議し、地域全体として面で支えていくべきものと考えております。  そうした中、対応規模の小さい民間医療機関でも患者の受入れを行っていただいているケースもあり、国としても、体制確保に係る必要な支援を行ってきました。引き続き必要な方が必要な医療を受けられるよう病床確保に努めてまいります。  
 他の疾病患者の引受け等による新型コロナ対応に貢献している医療機関への評価についてお尋ねがありました。  
 地域の中の役割分担により、コロナ患者だけでなく様々な患者に対して必要な医療が提供されることが重要であると考えております。  
 このため、これまでも、感染症対策を徹底しつつこうした地域医療を継続いただくために、コロナ対応を行っていない医療機関への支援も含めて三・二兆円の支援を行っているほか、過去に例のない最大減収十二か月分を上限とする無利子、無担保等の危機対応融資も実施してきました。引き続き地域の医療機関の状況を踏まえ必要な支援をちゅうちょなく実施をしてまいります。  
 地域医療構想等についてお尋ねがありました。  
 地域の医療提供体制は、それぞれの医療ニーズに合わせ、効率的で質の高い体制の確保を目指して取り組む必要があります。こうした考えの下に、地域の医療提供体制については、感染症対策という観点も踏まえ、地方自治体とも連携をしながら検討を進めてまいります。  
 まん延防止等重点措置の実施と支援についてお尋ねがありました。  
措置の公示については、あらかじめ学識経験者の意見を聞いた上で行うこととし、国会へ速やかに報告することになっています。
 また、罰則とセットで規定される支援については、改正法の趣旨に基づき具体的内容が決められることとなりますが、要請による経営への影響の度合いなども勘案し、必要な支援となるよう適切に対応してまいります。

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