国会会議録

国会会議録
デジタル関連法案/田村智子議員の質問(要旨)/ 参院本会議

 日本共産党の田村智子議員が14日の参院本会議で行ったデジタル関連法案に対する質問(要旨)は次の通りです。


 法案は、菅義偉自民党総裁が「デジタル庁創設」を目玉政策として掲げ、異例のスピードで、新法2法案、現行法217本に影響を与える改正法案として提出されました。提出後、関係資料に45カ所も誤りがあったことは、この立案がいかに拙速だったかを示しています。

 国民の個人情報の取り扱いの根幹に関わる法案作成にあたって、国民からの意見の集約、審議会等での検討はどう行われたのか。

 政府の目指す「デジタル社会」とは、国や自治体が集積した個人情報を民間が利活用できるよう積極的にデータを提供することで実現すると考えます。

 健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化するとの議論がありますが、医療現場に混乱を押しつけてまで普及を進めるのはなぜでしょうか。

 デジタル技術が、国民生活に利便性をもたらすことを期待しますが、そのためには個人情報の自己コントロール権などプライバシー権の保障が必要ではありませんか。法案に、個人情報の取り扱いの理念、基本方針が欠如しているのはなぜか。

 政府は、個人情報の匿名加工を民間事業者が行うことを認め、本人同意なき民間提供も促進されています。

 住宅金融支援機構が非識別加工した約118万人分の個人情報を民間銀行に提供していました。融資申し込み金額、前年年収、家族構成などです。住宅資金を借り入れる目的で提供された個人情報であって、第三者への提供は望まないのは当然ではありませんか。

 政府も、個人情報ファイルを非識別加工して、民間に利活用を売り込んでいます。その中に「横田基地夜間(飛行)差し止め等請求事件ファイル(訴訟原告名簿)」があります。国の情報集約が国民監視、市民活動の萎縮につながる重大な事案です。

 政府に求められるのは、新しい事態に対応した個人情報保護制度の見直し、発展ではないでしょうか。

 米国ではプロファイリングにより妊娠、病気などセンシティブ(敏感)な情報を特定でき、日本でも(就職)内定辞退率を計算する「リクナビ事件」が起きています。プロファイリングへの規制について政府はどう検討されたのでしょうか。

 地方自治との関係で、法案は、各自治体の個人情報保護条例も国の基準に合わせるよう求めています。自治体の個人情報保護条例の独自性や国基準よりも厳しい規定は認めないということか。国民健康保険料・税の負担軽減など独自制度を続けるにはシステム上乗せなどの費用負担を強いるのではありませんか。



2021年4月15日(木)しんぶん赤旗
 

【第204回国会 参議院 本会議 第15号 令和3年4月14日】

 

○田村智子君 私は、日本共産党を代表し、ただいま議題となりましたデジタル改革関連五法案について、菅総理に質問いたします。
 昨年九月、総裁選挙に勝利した菅新総裁は、デジタル庁創設を目玉政策として掲げました。ここから異例のスピードで新法二法案、現行法二百十七本に影響を与える改正法案として本法案が国会に提出されたのです。国会提出後に、法案関係資料に四十五か所もの誤りがあったことは、この立案がいかに拙速であったかを示しています。
 まず、確認いたします。
 国民の個人情報の取扱いの根幹に関わる法案作成に当たって、国民からの意見集約、審議会等での検討はどのように行われたのでしょうか。
 しかも、今は変異株の急激な感染拡大という新型コロナ感染第四波のさなかです。この非常時に、デジタル改革だといって、マイナンバーカードの普及、自治体業務のデジタル化などを上からの号令で進めることは、自治体の新型コロナ対策の足を引っ張るものではありませんか。総理の答弁を求めます。
 政府の目指すデジタル社会とは、端的に言えば、国と自治体のデジタル化を進め、国や自治体が集積した個人情報を民間が利活用できるように積極的にデータを提供することで実現すると考えますが、いかがでしょうか。
 また、総理が議長を務める経済財政諮問会議では、健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化するという議論までありますが、これは窓口での本人確認をむしろ煩雑にするとの指摘もあります。医療現場に混乱を押し付けてまでマイナンバーカードの普及を進めるのはなぜでしょう。利便性や安全性、費用対効果への疑問が多数あるのに、なぜ普及ありきで推し進めるのですか。
 デジタル技術が国民生活に利便性をもたらすことを私も期待します。しかし、そのためには、自分の個人情報がどのように管理され、どのように利活用されているのかを知ることができ、意思に反する利活用を拒否できる権利、個人情報の自己コントロール権の保障など、プライバシー権の保障が必要ではありませんか。本法案に、このような個人情報の取扱いの理念、基本方針が欠如しているのはなぜか、総理の答弁を求めます。
 これまでも政府は、個人情報のビッグデータ化と利活用を促進してきました。個人情報の匿名加工を民間事業者が行うことを認め、匿名加工すれば個人情報ではないとの扱いで、本人同意なき民間への提供も促進されています。
 衆議院の審議では、独立行政法人住宅金融支援機構が、非識別加工した約百十八万人分の個人情報ファイルを住信SBIネット銀行に提供したとの答弁がありました。住宅取得以外の借入残高、自己資金、融資申込金額、返済期間、職業、前年年収、申込時の年齢、家族構成、現住所、郵便番号、購入物件の郵便番号や床面積、土地や建物の購入費など、膨大な個人情報がデータ化され提供されたのです。住信SBI銀行は、これらを住宅ローンのAI審査モデルの構築に活用したとのことです。
 これは、行政機関がわざわざ民間から提案募集して行った情報提供です。今後、このような個人情報の利活用を一層進めるということでしょうか。年収、借入金、家族構成などは住宅資金借入の目的で提供された個人情報であって、第三者への提供を望まないのは当然ではありませんか。このように、本人同意なき利活用を更に大規模に促進することは、個人情報保護、プライバシー権の保護を大きく後退させるものではありませんか。
 今、政府は、自ら保有する個人情報ファイルを非識別加工して、民間に利活用を売り込んでいます。昨年十二月、防衛省が利活用の提案を募集した個人情報ファイルの中には、横田基地夜間差止等請求事件ファイル(訴訟原告名簿)など、この裁判に関わる十五本の個人情報ファイルがあります。当事者である原告団、弁護団は、今年三月、直ちに提案の対象ファイルから削除すること、原告らの情報を訴訟外において一切利用しないことを強く求めるとする申入れを防衛大臣に行っています。
 これらのファイルには、氏名、住所、年齢、生年月日、控訴の有無、陳述書の提出の有無、損害賠償金額やその内訳も記されており、極めて機密性の高い文書であることは明らかです。非識別加工がされていても、個人が識別されることも危惧されます。提案の募集を取り下げるべきではありませんか。このような国による情報提供は、国に対する訴訟をためらわせる圧力ともなるのではありませんか。国の情報集約が国民への監視、市民活動の萎縮につながる重大な事案であり、総理の明確な答弁を求めるものです。
 デジタル技術の発展と大量の個人情報の利活用が進む下で、政府に求められるのは、むしろ新しい事態に対応した個人情報保護制度の見直し、発展ではないでしょうか。
 今年二月のニューヨーク・タイムズの記事が大きな反響を呼びました。米国のターゲット社が女性の買物行動をプロファイリングし、妊娠予測をして妊婦に必要な商品のクーポン付き広告を送付していたとの記事です。送付された一人は高校生で、驚いた父親がターゲット社に抗議した後に娘の妊娠を知ったというのです。日常の購買情報のビッグデータを使ったプロファイリングによって、妊娠あるいは病気などのセンシティブな情報を特定することができるのです。こういうプロファイリングは禁止されるべきだと考えませんか。
 米国大統領選挙をめぐるフェイスブック・ケンブリッジ・アナリティカ事件は、フェイスブックに登録されたプロフィールやいいねの情報から、個人の性格特性を予測し、効果的なターゲット広告を行い、トランプ氏支持へと誘導したとされる事件です。個人情報の利活用が投票動向にまで影響を与える現状を総理はどう思われますか。
 日本でも、就職活動中の学生がどの企業のサイトにアクセスしたかをプロファイリングして、内定辞退率を計算するというリクナビ事件が起きています。個人情報保護委員会は、本人同意の不十分さを指摘したにとどまりましたが、厚労省職安局は、学生に企業情報の取得をためらわせ、就職活動の自由を制限する事件として、リクナビ社を厳しく是正指導しています。
 昨年の個人情報保護法改正の際、私はリクナビ事件を詳細に取り上げ、個人情報のプロファイリングが個人に不利益をもたらす、個人の行動の自由を阻害する事案として指摘し、プロファイリング規制の検討を求めました。本法案の策定に当たり、政府はどのように検討されたのでしょうか。総理の答弁を求めます。
 最後に、地方自治との関係についてです。
 本法案は、国の行政機関、独立行政法人、民間事業者それぞれに定められている個人情報保護制度を一元化するとともに、各自治体の個人情報保護条例も国の基準に合わせるよう求めています。自治体の条例は、歴史的な住民の運動の中で制定されたものです。その独自性や国の基準よりも厳しい規定は法律によって認めないということでしょうか。
 また、税、社会保障、就学に関わる各自治体の情報システムをデジタル庁が策定するシステムに統一して管理することを求めていますが、統一されたシステムによって地方自治体が管理する個人情報のビッグデータ化と利活用の環境整備を進めるものではありませんか。国民健康保険料あるいは国保税、子供の医療費の負担軽減、独自の保育料算定基準など、自治体独自の制度を続けるにはシステムの上乗せや横出しなど費用負担を自治体に強いることになるのではありませんか。
 以上、総理の答弁を求め、質問を終わります。

   〔内閣総理大臣菅義偉君登壇〕
○内閣総理大臣(菅義偉君) 田村智子議員にお答えをいたします。
 法案の検討経緯などについてお尋ねがありました。
 昨年の秋以降、学識経験者、地方団体関係者、消費者団体の代表者、産業界の代表者など、幅広い分野の有識者により構成をされた有識者会合において議論を行い、その結果を踏まえて取りまとめた基本方針に基づき、今回の法案を立案したものであります。
 今回の感染症では、行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れなど、様々な課題が浮き彫りになりました。そのため、自治体のシステムの標準化、マイナンバーカードの普及や利便性向上などは自治体と協力をして速やかに進めるべき必要な改革と考えております。
 デジタル社会やマイナンバーカードについてお尋ねがありました。
 今回の法案では、個人情報の一元管理を図るものではなく、国や地方自治体において引き続きそれぞれ個人情報を保有することを前提に、システムやルールを標準化、共通化し、データも利活用しようとするものです。
 また、マイナンバーカードを保険証として利用できる仕組みについては、患者の利便性の向上と医療保険事務の効率化を図るものであり、遅くとも本年十月までに本格運用を開始します。当該システムは、公的個人認証などの既存インフラを最大限活用するなど、安全かつ効率的な仕組みとなっております。
 個人情報保護法の改正と、いわゆる自己情報コントロール権等についてお尋ねがありました。
 今回の法案においては、いわゆる自己情報コントロール権等を権利として規定はしておりませんが、本人による個人情報の開示、訂正、利用停止などを可能とする規定を設けております。今回の法案は、これらの規定により、個人の権利利益を実効的に保護するものとなっていると認識をしております。
 住宅資金に関する個人情報の利活用についてお尋ねがありました。
 御指摘の住宅資金の個人情報の利用については、特定の個人を識別できる情報を削除することなどにより、特定の個人を識別できないようにしたものと承知をしています。
 デジタル化による民間投資を促し、新たなサービスを生み出すことで国民の利便性を高めるためにも、法律の規定に基づきデータを匿名化することで、個人情報やプライバシー権の保護にも配慮しつつ、デジタルデータを利活用していくことは必要であると考えます。
 防衛省での個人情報の取扱いについてお尋ねがありました。
 個人情報ファイルの利活用の提案募集に際しては、基となる個人情報の開示、不開示の検討を厳格に行い、個人の権利利益の保護を図ることが大前提となります。
 防衛省では、令和三年度において、御指摘の個人情報ファイルについて、開示できる箇所が非常に限られていること等を総合的に勘案をし、提案募集を行わないこととしたものであります。
 プロファイリングの禁止についてお尋ねがありました。
 個人に関する行動、関心等の情報を分析する、いわゆるプロファイリングについては、例えばケンブリッジ・アナリティカ事件におけるフェイクニュースの情報発信のように、個人の権利利益を侵害する場合には問題となり得ると考えます。
 こうした新たな事態に対応し、個人情報保護制度を見直していくことは重要であると考えます。昨年の個人情報保護法改正においても、民間事業者に不適正利用の禁止の規律を導入するなど、プロファイリングの懸念に対応する改正を行ったところであります。
 政府としては、こうした個人情報保護法の規定に従い、引き続き個人情報の適正な取扱いの確保に努めてまいります。
 プロファイリング規制の検討についてお尋ねがありました。
 昨年の個人情報保護法改正においても、プロファイリングの懸念に対応する改正を行ったところです。今回の法案においても、昨年の法改正を踏まえ、不適正な利用の禁止等の規律を公的機関にも導入することとしております。
 政府としては、こうした個人情報保護法の規定に従い、引き続き個人情報の適正な取扱いの確保に努めてまいります。
 自治体独自の個人情報の保護についてお尋ねがありました。
 今回の改正は、全ての地方自治体に適用される全国的な共通ルールを法律で規定するものですが、今回の改正後も、法律の範囲内で、条例により必要最小限の独自の保護措置を講じることは可能としております。
 自治体のシステムの統一についてお尋ねがありました。
 地方自治体のシステムの標準化は、これまでばらばらに行われてきたシステムの整備と関連業務の効率化を目的とするものであり、一方、自治体が管理する個人情報について、法令の範囲を超えて利活用を推進するものではありません。
 また、自治体の独自施策も含めた各種施策については、行政運営上支障が生じないように適切に財政措置を講じてまいります。
 これからも、これらも含め、自治体の意見を丁寧に聞きながら、システム統一に向けた取組を適切に進めてまいります。


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