安倍政権の本性を明るみに出したスクープは国政、メディアに大きなインパクトを与えた―。日本ジャーナリスト会議(JCJ)が安倍晋三首相の「桜を見る会」私物化疑惑報道をJCJ大賞に選んだ理由です。「しんぶん赤旗」日曜版はなぜスクープできたのか。国政の大問題に押し上げ、首相を追い詰めた力は…。(日曜版編集部取材班)
「私は政権を私物化したつもりはまったくない」。辞任表明会見(8月28日)での安倍首相の発言です。桜を見る会などの「私物化」疑惑について記者から聞かれ、開き直りました。
首相の辞任表明を受けた自民党総裁選でも、自民党内は「安倍政治」礼賛一色です。
そのような中だけに、「桜を見る会」私物化疑惑の日曜版スクープがJCJ大賞に選ばれたことには、大きな意義があります。
権力の監視
各界で功績、功労があった方々を招待するとして毎春、開かれていた桜を見る会。多額の税金を使った首相主催の公的行事です。
主催者である安倍首相は、地元・山口県から約800人もの後援会関係者らを招待していました。国民の血税を使って自らの後援会員に飲ませ食わせするという、まぎれもない国政の私物化。血税で地元有権者を“買収”していた構図です。安倍首相に直結する重大疑惑です。
日曜版は昨年10月13日号で「桜を見る会」私物化疑惑をスクープ。「首相主催『桜を見る会』 安倍後援会御一行様ご招待」「税金でおもてなし」「地元山口から数百人規模」と報じました。
その後も、総裁選対策としての自民党地方議員大量招待や、悪質マルチ商法幹部が安倍後援会バスで桜を見る会に参加するなどの疑惑を十数回にわたって追及を続けています。
大手メディアなどは桜を見る会の会場にも入り、取材していました。「首相の地元・山口から後援会関係者が大量に来ていたことは誰でも知っていた」(自民党幹部)はずです。それなのになぜ「赤旗」だけがスクープできたのか―。
「朝日」(1月8日付夕刊)は記しています。「『桜を見る会』は、それまでも予算や出席者の増加が報道でたびたび話題になっていた(中略)私も違和感を抱いていたが、公的行事の『私物化』というところまで思いが至らなかった」
問われているのは、権力の監視というジャーナリズムの立脚点です。
日本共産党や「赤旗」は、「森友・加計」疑惑を安倍政権による行政の私物化としてとらえ、国政をゆがめる重大問題として追及してきました。
憲法解釈の乱暴な改ざんがおこなわれた15年9月の安保法制=戦争法の強行。これによりあらゆる面での政治モラルの崩壊をもたらし、国政私物化という暴走につながりました。
法政大学の上西充子教授は「国会パブリックビューイング」(1月6日)で日曜版編集長と対談した際、桜を見る会報道について「安倍政権の本質のひとつである『私物化』の問題としてとらえた点が興味深い」と語っています。
広がる共闘
桜を見る会疑惑を国政の大問題に押し上げたのは、「赤旗」と日本共産党国会議員団、市民と野党の共闘の力です。
そもそも安倍政権のもとで桜を見る会の参加者や経費が急増している問題を追及したのは日本共産党の宮本徹議員でした。(昨年5月13日、衆院決算行政監視委員会)
日曜版が私物化をスクープしても当初、大手メディアは一切、後追いしませんでした。日曜版報道をもとに日本共産党の田村智子副委員長が参院予算委員会(昨年11月8日)で追及。ネットでその動画が拡散しました。
それでも大手メディアは大きく報じませんでした。
田村質問から3日後の同11日、野党による「『桜を見る会』追及チーム」が発足。これを契機にテレビのワイドショーがいっせいに取り上げ、新聞も大きく報じ始めました。
日本共産党の大門実紀史参院議員も悪徳マルチ会社「ジャパンライフ」元会長の招待の問題を暴露。国会内での野党共闘が広がる中、安倍首相は二重三重に「詰み」の状態に追い込まれました。その結果、辞任表明をしたのです。
安倍首相が辞めたとしても、桜を見る会の追及をやめるわけにはいきません。国政がゆがめられたという大問題だからです。日曜版編集部は最後まで追及します。
市民の怒りに火をつけた
国会で「桜を見る会」問題を追及 田村智子参院議員
桜を見る会については、2019年5月に日本共産党の宮本徹衆院議員が決算行政監視委員会で、費用が安倍晋三政権下で3倍に膨れ上がっていることを指摘した時から気になっていました。
その後、入試改革の撤回や自民党の菅原一秀前経済産業相、河井克行前法相の辞任など、政権のモラルハザードぶりが相次いで表面化した時期に、日曜版の報道が飛び出しました。
他の誰でもない首相自身による、絵にかいたような行政の私物化を暴いたスクープでした。「これしかない」と思い、急きょ開かれた参院予算委員会(19年11月)で取り上げることにしました。
質問準備のため日曜版の担当者に国会に来てもらいました。取材は自民党の後援会関係者にも及んでいました。質問は内容が伝わりやすいように組み立てるのですが、そのすべてを裏付ける証拠がそろっていました。
反響は大きかった。他の野党議員が次から次へとネットで質問を拡散してくれました。市民の関心も高く、ツイッターのトレンド入りしたことには私も驚きました。
しかし、直後の大手メディアの反応は弱く、数えるほどしか報じられませんでした。この落差はなんだろうと考えていました。
週が明け、野党合同の追及チームが動き出すころからステージが変わったと思います。それぞれの党が入手した資料を共有しながら、作戦会議から首相の地元の現地調査といった実際の行動まで…。これほど野党が一丸となって取り組んだのは初めてだと思います。
作戦会議での、最大の資料となったのが日曜版でした。さまざまな会合で、机に日曜版のコピーが置かれていることも当たり前でした。
多くの市民も国会審議をチェックし、SNS上で拡散して政府を追及しました。野党と市民、日曜版が一緒になって問題を深めていったと思います。
森友・加計問題などで、「何をやっても許される」と言わんばかりの安倍政権への怒りが、政治的な立場を超えて広がっていた。そこに日曜版が桜問題を暴いたことで「やっぱりこうだったよ」という市民の怒りに火をつけたのでしょう。
安倍首相が辞任しても、問題は終わりません。次期首相とみなされる菅義偉官房長官は、首相と共に問題の幕引きを図った張本人です。安倍政権を守り続けてきた自公政権が続く限り、すべての事実を明らかにはできないでしょう。政権交代を実現してこそ、出すべき資料をすべて出させ、真の責任を追及することができると思います。
政権中枢の不正に切り込む
神戸学院大学教授・政治資金オンブズマン共同代表 上脇博之さん
おめでとうございます。「赤旗」日曜版の「桜を見る会」連続スクープは、強大な権力の不正を追及するというジャーナリズムの精神に基づく報道でした。安倍晋三首相の地元の政界関係者の証言や安倍事務所が後援会員に配った案内状など、客観的証拠に基づいて切り込んだことが評価されたのだろうと思います。
桜を見る会は、安倍政権になってから参加者数が増え続け、予算も3倍に膨張していました。高級ホテルで飲食を提供した前夜祭とセットにして参加者を募集することは、首相の権限がなければできなかったことです。安倍首相による「行政の私物化」を象徴するもので、その一端を暴いた日曜版の報道には大きな意義があったと思います。
格安で飲食を提供したという前夜祭での政治資金規正法・公職選挙法違反疑惑については、全国の弁護士や法学者ら計941人が安倍首相を刑事告発しました。私も告発人の一人です。国会議員としての資格が問われる違法行為疑惑です。
安倍首相は「桜を見る会」と前夜祭の疑惑について何ら責任をとっていません。国会は真相解明と追及を続けるべきです。政府の責任は次の政権にも引き継がれます。
メディアには「誰のために報道するのか」という基本姿勢が問われます。「赤旗」には、今後も国民のために政権中枢の不正に切り込む報道を続けてほしいです。
「桜」疑惑報道が本に
『「桜を見る会」疑惑 赤旗スクープは、こうして生まれた!』(しんぶん赤旗日曜版編集部著、新日本出版社、定価本体1300円=税別=)が15日、出版されます。(写真)
桜を見る会スクープの舞台裏を初めて、書き下ろしで明らかにしました。大手メディアにはない、日本共産党の機関紙「赤旗」ならではのスクープ力の秘密とは…。
安倍事務所の関与を示す決定的証拠文書もすべて初公開。「私物化したつもりはない」とする安倍首相の“ウソ”を事実で暴きます。
2020年9月9日(水)しんぶん赤旗より