国会会議録

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スーパーシティ法案審議入り 田村氏「不要不急」と抗議 参院本会議


(写真)質問する田村智子議員=13日、参院本会議

 人工知能(AI)やビッグデータなど最先端の技術を用いた事業を、官邸主導の規制緩和で導入するスーパーシティ法案(国家戦略特区法改定案)が13日の参院本会議で審議入りしました。質疑に立った日本共産党の田村智子副委員長は「新型コロナウイルス危機の中、不要不急の法案だ」と抗議しました。

 田村氏は「海外の好事例とされたカナダ・トロントの『スマートシティ事業』は市民の反対が強く、行き詰まっていた上に、コロナ流行を受けて中止に追い込まれた。コロナ危機と国民の不安の解決に予算も施策も集中すべきだ」と主張しました。

 田村氏は、今回の規制緩和で収集の対象とされるデータは、移動、物流、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水など生活全般にまたがると指摘。そうしたデータを利用する「スーパーシティ」事業で想定される地域丸ごとキャッシュレスや遠隔医療は「厳格な個人認証抜きには成り立ち得ない。これまでとは次元の違う、個人の生体情報が大量に集積・活用されることになる」と警告しました。

 また、「内定辞退予測」の無断提供が問題になった就職情報サイト・リクナビを例に、「個人情報の使用に同意しなければ登録が完了せず、不安があっても同意せざるをえないのが実態だ」と指摘。「個人情報のビッグデータ化と利活用こそが理想の未来都市だと政府が決めつけるのは疑問だ。個人情報の利活用の是非、利活用の制限を求める権利をどう保障するかこそ検討するべきだ」と迫りました。

 北村誠吾規制改革担当相は、同意せざるを得ない実態には触れず「個人情報は法令に基づき同意が得られる範囲で用いられる」と繰り返すばかりでした。

2020年5月14日(木)しんぶん赤旗より

 

【2020年5月13日 参議院本会議議事録】

○田村智子君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました国家戦略特区一部改正法案について、北村地方創生担当大臣に質問いたします。
 質問の前に、検察庁法改定法案について一言申し上げます。
 検察幹部の役職定年を内閣の判断で特例延長できるという法案に、日弁連は三権分立を揺るがすおそれさえあると反対の声明を発表。ネット上でも抗議の声が瞬く間に広がっています。法案を押し通すことは断じて許されません。このことを申し上げ、質問に入ります。
 本法案は、スーパーシティ構想の推進を主たる内容としていますが、新型コロナ感染症で緊急事態宣言が延長されている今、審議すべき法案なのでしょうか。
 アメリカ・グーグル社の姉妹企業サイドウォーク・ラブズは、カナダ・トロントでのスマートシティー事業を中止しました。元々市民の反対も強く行き詰まっていたところに、新型コロナ感染症の流行を受け中止に追い込まれたとの報道です。本法案の策定過程でも海外の好事例とされたものであり、トロントでの事業中止をどう受け止めているのか、大臣の答弁を求めます。
 今、日本も、リーマン・ショックをはるかに超える経済危機に直面しています。政府、自治体、そして企業にとっても、倒産、廃業、失業をどうやって回避するのか、また今後、長期にわたる生活様式の変容の下でどうやって事業と生活を支えていくのか、かつて経験したことのない課題に直面しているのです。新型コロナ感染が起こる前のスーパーシティ構想は一旦止めて、未来を展望するためにも、目の前にある危機と不安の解決に予算も施策も集中すべきではありませんか。
 あわせて、お聞きします。危機を乗り越える上で、地方創生臨時交付金が既に足りない、また休業要請に応じた中小事業者への協力金が自治体の財政力によって大きな差が生じている、これらの問題にどう対応するのか、お答えください。
 不要不急の法案ではありますが、法案についてお聞きいたします。
 そもそも、スーパーシティとはどのような未来都市なのでしょう。法案では、AIやビッグデータの活用のため、データ連携基盤、都市オペレーションシステムの整備、区域データの収集、整理、また、区域データをスーパーシティ事業の実施主体に提供するとしています。この区域データとはどのようなデータなのでしょうか。
 内閣府の資料では、移動、物流、支払、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ごみ、防犯、防災・安全などの領域から、少なくとも五つ以上、生活全般にまたがってビッグデータを集積、解析し、AIの活用を図ることが具体像として示されています。つまりは、区域内の住民が、いつ、どこからどこに移動したか、何を買ったか、どのような医療や教育を受けているかなどの情報を集積、整理し、活用することを目指すのではありませんか。
 政府は、個人情報の匿名加工を強調しますが、スーパーシティ事業では地域丸ごとキャッシュレス、遠隔医療などが想定されており、厳格な個人認証抜きには成り立ちません。例えば、既に国内一部企業で行われている顔認証によるキャッシュレス販売のようなことが地域丸ごとで行われるのでしょうか。これまでとは次元の違う個人の生体情報が大量に集積され、活用されることになるのではありませんか。
 海外の事例として内閣府も紹介する中国杭州市では、市内に四千台を超えるカメラが配置され、リアルタイムで交通情報をAIが監視、信号の自動操作だけでなく、交通違反の取締りも行っています。ナンバープレートや顔認証によって個人の行動を監視しているとも伝えられています。
 このように、海外のスマートシティー構想の中には、個人の行動履歴が集積され、AIによって分析、活用されるだけでなく、行政機関によるチェックも可能となる市民監視社会とも言える事例が見受けられますが、これも日本の目指す未来社会のモデルなのでしょうか。市民監視社会にはならないというのならば、その保証はどこにあるのでしょうか。
 以上の指摘を踏まえて、そもそもスーパーシティ丸ごと未来都市とはどういうものなのか、国民に分かるように御説明ください。
 個人情報のビッグデータ化と利活用こそが理想の未来都市だと政府が決め付けることに、私は疑問を抱かずにはいられません。
 二〇一三年、JR東日本は、Suicaの履歴を匿名加工して日立製作所に販売すると発表しましたが、炎上とも言える批判によって中止に追い込まれています。法令上は適正な行為ですが、自分の行動履歴が匿名化されたとしても、一企業のビジネスに利用されることに気味の悪さや不快感を抱く市民が少なくないことを示しています。データ販売はしないまでも、法案が目指す区域データの活用とは、交通IC履歴も含まれるのではありませんか。
 また、昨年は、就職情報サイト、リクナビが個々人の内定辞退予測を企業に提供していたことが明らかとなり、社会問題となりました。登録者のネット閲覧履歴などによって個人情報をプロファイリングしたことが問題となったのです。個人情報保護委員会は、個人情報の使用について説明と本人同意がなかったことを問題にしましたが、就職情報サイトでは、個人情報の使用に同意しなければ登録は完了しません。利用者は不安を持っていても同意せざるを得ないのが実態です。また、個人情報のプロファイリングについては、法律上何の規制もありません。
 AIやビッグデータの活用が進む下で、個人情報の利活用について国民的な議論、自らの個人情報の利活用を制限してほしいという権利をどう保障するのか、こういう検討こそ求められているのではありませんか。
 次に、スーパーシティ構想を進める国家戦略特区の仕組みについて質問します。
 国家戦略特区では、規制緩和の提案は自治体も民間も自由に行えますが、その内容を非公開とすることが可能です。また、どの提案がワーキンググループのヒアリングを受けるのか、その選定過程は完全なブラックボックスです。
 スーパーシティ構想では五十三団体がアイデアを提案していますが、その内容が公開されていないのはなぜでしょうか。
 また、区域指定に当たり、住民との事前の協議や合意について何も示されていませんが、住民が知らないうちに区域指定されることもあり得るのでしょうか。
 内閣府は、区域指定後、区域計画の策定では住民合意を前提とするとしていますが、それは、住民投票などによって住民の多数の意思を確認するのでしょうか。それとも区域会議への自治体代表の参加でも合意とみなされるのでしょうか。
 また、事業内容に賛成できない住民の個人情報はどう扱われるのでしょうか。協力できない住民が事実上排除されるような社会の新たな分断が持ち込まれるのではありませんか。
 今回の法案は、「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会の最終報告を受けて策定されていますが、竹中平蔵氏を座長とする懇談会では、中国などと比べてビッグデータの活用が遅れていることへの危機感を丸出しにして、国際競争に勝つために、政府と自治体の首長が強力なリーダーシップを発揮して、迅速にスーパーシティを実現することを求めています。
 国際競争のためではなく、EU並みの個人情報保護を実現し、住民の利益や福祉の向上に資するためにIT・AI技術を活用する検討が政府に求められているのではありませんか。
 以上、答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
  

 〔国務大臣北村誠吾君登壇、拍手〕

○国務大臣(北村誠吾君) 初めに、法案審議の必要性についてお尋ねがございました。
 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、外出できなくなった高齢者の生活や、ライフラインの脆弱な中山間地域での暮らしをどのように支えていくかは重要な課題であります。また、都市部を含め、感染経路の見える化や三つの密の回避のために、遠隔教育や遠隔診療の活用など、最先端技術の暮らしへの導入と定着が喫緊の課題となっています。まさに、スーパーシティは、このようなときだからこそ技術による社会的課題の解決に向けその重要性を増しているところであり、その実現を急いでまいります。
 次に、カナダ・トロントでの取扱いについてお尋ねがございました。
 トロントの取組は事業計画を最終決定する直前であったと承知していましたが、財政的な事情とはいえ、事業者がスーパーシティ構想と類似の事業から撤退することになったことは、誠に残念であります。ただし、トロント市は新たなパートナーを見付けることを表明なされており、事業構想そのものが頓挫、中止になったわけではないと承知しておるところであります。
 次に、スーパーシティ構想を一旦止めるべきではないかとのお尋ねがございました。
 先ほども御説明したとおり、新型コロナウイルスの感染の拡大を防止すべく、新しい生活様式を確立するためにも、スーパーシティのような最先端の技術を活用して未来の社会、生活を実現することは喫緊の課題となっており、引き続きその実現を急いでまいります。
 次に、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金についてお尋ねがございました。
 本交付金は、地域の皆さんが力を合わせて新型コロナウイルスと闘うため、地域の実情に応じた取組を行うための財源として用意したものであります。それぞれの地域の御判断によって自由度高く使うことができる仕組みである以上、一兆円の枠内で、地域の知恵と工夫を凝らして有効に活用していただくものと考えております。各地方公共団体の具体的な執行はこれから始まるものであることから、今後については、しっかり地域の実情を見極めた上で考えてまいります。
 また、御指摘の、休業要請に応じた中小事業者への協力金を含め、自治体がどのような措置を講じるかについては、地方自治の中でそれぞれの自治体が自らの地域の実情や財政力等を踏まえ個別に判断するものと考えており、内閣府としてもその判断を尊重したいと考えております。
 次に、法案の区域データについてのお尋ねがありました。
 区域データとは、スーパーシティにおいてサービスを提供する事業者がその事業の実施に当たって活用するデータでございます。例えば、通常の小売サービスであれば、顧客データや顧客の購買履歴あるいは決済情報など、サービスを提供するために必要な情報が該当いたします。
 さらに、区域内の住民の情報の集積、整理、活用についてのお尋ねがありました。
 スーパーシティでは、サービスを提供する事業者が各事業の中で必要な情報を得るために区域データを集積、整理、活用することも考えられます。その際、各事業者が個人情報を始め法令に規定された一定の手続が必要なデータを扱う場合には、各事業者に当該法令の遵守が求められることになります。
 次に、個人の生体情報等の個人情報の集積、活用の可能性についてお尋ねがございました。
 生体情報等の個人情報は、個人情報関係の法令に基づき、本人の同意が得られる範囲の中で関係するサービスに用いられることになっており、個人の意向に反するような形でその情報を集積し、活用することは予定してはおりません。
 次に、市民監視社会についてお尋ねがありました。
 個人の行動履歴については、個人情報関係の法令に基づき、本人の同意が得られる範囲の中で関係するサービスに用いられることになっており、個人の意向に反するような市民監視社会にはつながらないと考えております。
 次に、スーパーシティ丸ごと未来都市についてお尋ねがありました。
 丸ごと未来都市とは、自動走行や自動ごみ収集、高齢者や子供の見守り、あるいは行政手続のフルオンライン化など、最先端技術を活用したサービスを日々の暮らしに実装することにより、国民が住みたいと思うより良い未来の社会、生活を包括的に先行実現するものであると考えます。
 次に、交通IC履歴の活用についてお尋ねがございました。
 スーパーシティでは、交通サービス事業者が従来どおり交通IC履歴を保有し、活用することも考えられます。その際、各事業者が個人情報を始め法令に規定された一定の手続が必要なデータを扱う場合には、各事業者に当該法令の遵守が求められることになります。
 個人情報の利活用に関する国民的議論についてお尋ねがございました。
 AIやビッグデータの活用と個人情報関係の法令の規定の遵守は両立するものと考えております。スーパーシティでも、個人情報の管理には法令に基づき万全を期することが大前提となり、その利活用については、内閣府も入った区域会議で住民等の意向も踏まえて議論されることになります。
 次に、五十三団体のアイデアの提案内容が非公開である理由についてお尋ねがございました。
 アイデア公募は、今後の制度の詳細設計や関連施策の政策決定に生かすとともに、そのエッセンスについて内閣府と意見交換を行うことで、地域におけるスーパーシティ構想の検討を促すためのものであります。このため、地域の方々から忌憚のない御相談をいただけるように、提案内容は公表いたしておりません。
 また、住民が知らないうちに区域指定されることがあり得るかについてお尋ねがありました。
 区域指定に当たっては、地方公共団体への公募を行った上で、応募があった候補について特区諮問会議など有識者が加わったオープンな場に諮ることにより、透明性を確保しながら進めることにしています。このため、区域指定の前の段階で住民との協議や合意を行うことは各地方公共団体の判断に委ねられますが、住民が知らないうちに区域指定されることにはならないと考えています。
 次に、区域計画策定における住民合意の方法についてお尋ねがございました。
 住民合意の方法は、例えば、住民代表や地方公共団体、事業者等による協議会における協議、あるいは議会の議決、あるいは条例を議会が制定いたし、それに基づく住民投票などが挙げられます。これらの手段から、地域で提供されるサービスの内容や範囲に応じて住民等の意向が的確に反映されるよう、内閣府や地方公共団体が入った区域会議によって選択されることになります。
 次に、事業内容に賛成できない住民の個人情報の取扱い及び事実上の排除についてお尋ねがございました。
 個人情報は、個人情報関係の法令に基づきまして、本人の同意が得られる範囲の中で関係するサービスに用いられることとなっており、個人の意向に反するような形で情報を取り扱うことは予定しておりません。また、住民等の意向の確認は、その後の各住民の意向のありようを法制度的に拘束するものではないことから、事業内容に賛成できない住民を直ちに排除することにはならないと考えております。
 最後に、IT・AI技術の活用における個人情報保護についてお尋ねがございました。
 個人情報保護や住民の利益、福祉の向上とIT・AI技術の活用は両立するものと考えています。スーパーシティでも、個人情報の管理には我が国の法令に基づき万全を期することが大前提となるものであります。


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