日本共産党の田村智子議員は16日の参院文教科学委員会で、国庫負担の半減で来年度から存続の危機に直面する生活保護世帯の学習支援事業を取り上げ国に対策を迫りました。
生活保護世帯の高校進学率は、全世帯と比べて約8ポイント低い90・8%。高校進学にむけ、各地で取り組まれ、成果が報告されている「無料塾」(2014年度は150自治体)は、これまで全額国庫負担でしたが、来年度から生活困窮者自立支援法の任意事業となり、各自治体は2分の1の負担を迫られることになります。
田村氏は、“継続困難”(沖縄県)、“事業を縮小せざるをえない”(埼玉県)との、各自治体の意見を示し、「これから全国にどう広げるかというときに後退してはならない」と主張し、政府の認識をただしました。
同事業を所管する厚労省の橋本岳政務官は「2分の1の地方負担分は、地方交付税の対象となるよう関係省庁に働きかけをしている。ご心配があたらないように努力したい」と答えました。
田村氏は、学校で困難を抱える子どもを支援するスクールソーシャルワーカー(SSW)について、初年度の2008年は全額国庫負担で1000人近い配置をしたものの、翌年に国庫負担割合が3分の1になり、4割以上配置が減った事例を示し、「同じようなことになってはならない。しっかり取り組んでほしい」と対応を求めました。
下村文科相は、「厚労省と連携しながら経済状況の厳しい家庭の子どもへの支援をしていく」と述べるにとどめました。
【 議事録 】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
昨年度の全国学力・学習状況調査の追加調査として、保護者に対する調査が実施されました。保護者の所得や学歴を指標とした調査で、有効回答が約四万に上っています。この中で、家庭の社会経済的背景と学力の関係についてどのような分析が行われたのか、要点を御説明ください。
○政府参考人(小松親次郎君) 今御指摘の調査は、平成二十五年度の全国学力・学習状況調査に併せまして、全国の公立小中学校の保護者約四万七千人対象に、家庭所得や学歴、児童生徒との関わりなどについてアンケートによる調査を行い、学力との関係を分析したものでございます。
調査結果につきましては、二点。まず、家庭所得や保護者の学歴に基づき設定した指標でございます家庭の社会経済的背景と学力の関係を分析いたしますと、家庭の社会経済的背景が高い児童生徒の方が各教科の平均正答率が高いという傾向が見られております。もう一点は、この家庭の社会経済的背景の指標が低く、言わば不利な環境にある中で学力の向上に成果を上げているという例もございます。
そういった学校への訪問調査等の結果から共通する取組を見ますと、家庭学習の指導の充実、あるいは管理職のリーダーシップと実践的な教育研修の重視、小中連携の取組の推進、言語活動の充実、基礎、基本の定着と少人数指導といったようなところが挙げられるところでございます。
こうした分析結果となっております。
○田村智子君 この報告の一部を私も資料でお配りをしました。私も、保護者の所得や学歴が子供の学力を決めるものではないというように思います。
しかし、一方で、この調査の結果で大変衝撃を受けましたのは、いわゆる社会経済背景、SESといいますが、これが最も低い層の子供で学習時間が三時間以上という子供たちの平均正答率が、SESが最も高い層で全く勉強していないという子供の平均正答率にいずれの教科でも届いていないという結果が出ていることなんですね。
大臣、このような結果をどのように受け止めるか、お答えいただけますか。
○国務大臣(下村博文君) 家庭の経済状況や児童生徒の学力の関係についてはこれまでも様々な形で指摘されてきたところでありますが、この調査からも改めて全国的な傾向として相関関係があるということが裏付けられたというふうに考えております。
文科省としては、家庭状況が不利な環境にあっても子供たちが学力の向上を図ることができるよう、学力向上に効果的な指導方法についての教育委員会、学校への普及を図る、また、就学援助を通じた家庭の教育費負担の軽減に更に取り組む必要があるというふうに思います。昨年、議員立法で子どもの貧困対策推進法、成立をしていただきました。政府もこの大綱を作りましたが、これをしっかりと進めることによりまして、このハンディキャップをなくす努力を公的支援によってしていく必要があるというふうに思います。
二十七年度の概算要求において、具体的に新たな、家庭環境における教育格差を解消するための学力保障に必要な教職員配置の充実のための経費等を計上しておりますが、しっかり学ぶ意欲と能力のある全ての子供たちが質の高い教育が受けられる社会の実現に向けて、文部科学省を挙げて取り組んでまいりたいと思います。
○田村智子君 これは、経済的背景と学力の相関関係を調べたこれだけ大規模な調査って初めてのことだと思うんです。悉皆調査による全国学力調査で都道府県や学校を単純に序列化すると、こういうことがしきりに行われてきましたが、私は今回お示ししたような調査こそ注目すべきだと思っています。
これ、来年度の全国学力調査も、私は、悉皆調査ということに予算を掛けるのではなくて、むしろ抽出調査とした上で子供の学力と家庭環境の測定、これは継続して行っていくということも必要だと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(下村博文君) こうした調査は継続して行ってまいりたいと思います。
ただ、各自治体によって学力調査等によってやはり更に学ぶ意欲を学校側にどう付けるかということの中で、福井県や秋田県等先進的な取組をして成功しているところについては、ほかの自治体も視察、見学等に行くことによってその都道府県における学力を伸ばすような努力をしているという自治体もたくさんありますから、そういう意味では、悉皆調査によって、学力だけではありません、そういうところは子供の体力も含めて、あるいは早寝、早起き、朝御飯といった生活習慣、こういうこともいい事例としてそれぞれの都道府県も参考にするという事例もありますので、自治体にとってプラスのような形になるという意味では悉皆調査を続ける必要があると考えております。
○田村智子君 是非継続した調査をお願いしたいと思います。
それで、今年八月に閣議決定した子供の貧困対策大綱、子供の貧困率どう下げるかの数値目標がないなど問題点は指摘されていますが、省庁の枠を超えて対策を取っていこうということが示されたと思っています。その対策の四つの柱の一つ目に教育の支援が挙げられ、その冒頭に学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策の展開を行うとしています。とても大切な施策だと私も思います。
これを進める上で、今日お聞きをしたいのは、スクールソーシャルワーカー、やっぱり家庭丸ごと子供たちの様子を捉えるという点で大きな役割を果たし得ると思いますが、大臣、まず、このスクールソーシャルワーカーの役割、どのように認識されておられますか。
○国務大臣(下村博文君) 貧困に起因する児童生徒の様々な課題を解決する上で、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカーの活用を図るということは大変に重要なことだというふうに考えております。
○田村智子君 このスクールソーシャルワーカーの方にお話を伺いますと、学校で気になる子供、あるいは困った子供、この状況を粘り強くつかむ努力というのをされています。家庭訪問はもちろん何度もやります。あるいは、卒業した小学校とか保育園を訪ねて、その子の生育の状況ですね、何か気になることはありませんでしたかというようなお話を聞くようなこともやっている。そうした情報を学校の先生方と共有をして、子供の問題行動の背景にどんな問題があるのか、改善のために誰にどういう働きかけをしたらいいのかということを集団的に検討する。大変手間も暇も掛かる、そういうお仕事だというふうにお聞きをしましたね。
例えば、落ち着きがなくて授業を抜け出すと、先生が注意するとすぐに暴言を吐く、遅刻もどんどん増えていく、こういう中学一年生の男の子、どうしようか。スクールソーシャルワーカーが本人と母親と信頼関係築きながら家庭環境をつかんでいくと、実はお母さんが再婚をして新しいお父さんが暴力的なしつけをするんだと、家庭の中に居場所がなくなっていたんだということが発見される、こんな事例もあったとお聞きしています。
こういうふうに、スクールソーシャルワーカーは、場合によっては社会福祉の制度につなぐということも必要ですし、子供や保護者、学校の教員との関わり方についても極めて専門的な知識や経験を必要とする、そういう仕事だと思います。しかし、その待遇が余りに悪いんです。
来年度は四千百四十一人配置というふうに要求をしていますが、これはどのような積算根拠での要求になっているのでしょうか。
○政府参考人(小松親次郎君) 平成二十七年度の概算要求でございますスクールソーシャルワーカーの配置に要する経費、これは約十三億円を計上しているところでございます。この積算でございますが、小中学校のための配置と、それから高等学校のための配置、さらに、質向上のためのスーパーバイザーの配置、そして貧困対策のための重点加配という四項目から成り立っております。
そして、具体的な積算方法につきましては、共通した積算方法は、その人数とそれから週当たりの時間なり回数、それから週数、これに単価を掛けて補助率を掛けるということをいたしておりますが、例えば、小中学校のための配置、これがおおむね半分以上を占めますけれども、これを例に説明いたしますと、一人のスクールソーシャルワーカーが週一回で一回当たり三時間として年間四十八週間動いていただきます、そういうふうな前提で積算をいたしまして、一時間当たりの単価を三千五百円とし、これに配置人数の四千人と、それに補助率の三分の一を掛ける、こういうふうな形にいたしております。
○田村智子君 これ、一時間三千五百円、週一回三時間で四十八週、年収にすると五十万四千円なんですね。一人で五校担当すれば五人分払えるんだという御説明も受けたんですけど、それでも年収二百五十万円程度という計算になってしまうんですよ。
埼玉県のスクールソーシャルワーカーの方、一日六時間勤務で日給が一万八百円、大変やりがいのある仕事ですけれども、ダブルワークをしなければ生活ができない。スクールソーシャルワーカー養成に取り組んでいるところも出てきたけれども、若い人たちがこれを就職先にすることができない、長期に働けないというお話があるわけですね。これ、貧困対策のために自分たち頑張っているけど、自分たちがワーキングプアになってしまうという指摘なわけです。そうすると、これの見直しが必要じゃないだろうかと。
スクールソーシャルワーカー、実は二〇〇八年度に始まった事業なんですが、初年度は国庫補助は一〇〇%だったんですよ。これで一気に九百四十四人配置。ところが、翌年、国庫補助を三分の一にしたことによって、何と五百五十二人に激減しているわけです。昨年度、やっと一千人を超える配置にまで回復をしたんですけれども、果たしてこの状況で来年度、四千百四十一人配置ができるのかと。
大臣、これ、何らかの待遇の改善につながるような施策が必要だと思うんですが、いかがでしょうか。
○国務大臣(下村博文君) このスクールソーシャルワーカーについては、文部科学省は非常に野心的な計画を作っておりまして、今御指摘がありましたが、二十六年度、約千五百人の配置予定だったわけですが、来年度は四千人、予算も対前年度比九億円増やした十三億円。これを是非五年後には全国でまず一万人配置をしたいと。今現実に学校で様々な課題を抱えている子供たちを一人でも多く救いたいと。そのために、まず数を増やしていきたいと。
しかし、御指摘のような点もございます。一万人が、小中高合わせれば全部で約三万校ですから、幾つかの学校を兼務していくことによって、できるだけ生活できるような環境づくりについての勤務体系を是非地方自治体でも配慮していただきたいと思いますが、まず一人一人の子供に対して十分なスクールソーシャルワーカーの確保を図りながら、その上で更に一人一人の処遇についてアップしていくような、そういう順番で考えてまいりたいと思います。
○田村智子君 是非、待遇改善をお願いしたいと思います。大変、抱えている情報も、個人情報、極めて重いものを抱えながらの仕事で、その職務にふさわしい待遇改善になるようにお願いしたいと思います。
今日は厚労政務官にも来ていただきまして、ありがとうございます、厚労大臣政務官。
次に、省庁横断的な支援策として、生活保護世帯の子供への支援についてお聞きします。
高校進学率は、全世帯九八・四%に対して生活保護の世帯は九〇・八%にとどまっています。経済的な要因だけでなくて、学力や進学への意欲とか家庭環境など複雑な問題があると推測されるわけですが、貧困の連鎖を断つためにも、この保護世帯の子供たちの進学支援ということは、この間、政府でも重要視をしてきたと思います。
その一つの施策として、保護世帯の中学生や高校生を対象とした無料塾に取り組む自治体が注目されています。埼玉県のアスポート教育支援、私も聞き取りをいたしました。生活保護世帯全体の高校進学率、埼玉県八九・八%ですが、この学習支援に参加した方は九七%と、目に見える変化をつくっています。これはほかの自治体でも同様の成果だと言われています。
これは、実は厚生労働省の方の補助金の施策なんですけれども、これ、昨年度の実施箇所数はどれぐらいで、今年度はどの程度というふうに見込まれているか、お答えいただけますか。
○政府参考人(谷内繁君) 生活保護世帯の子供の学習支援事業の実施状況についてのお尋ねでございますけれども、平成二十五年度におきましては百三十の自治体で実施しております。また、平成二十六年度におきましては百五十の自治体で実施する予定ということでございます。
○田村智子君 この事業は二〇〇八年度のスタート時から今年度まで国庫負担一〇〇%なんです。ところが、来年度から生活困窮者支援法に定める任意事業となるため、国庫補助率が二分の一になってしまいます。これは自治体に衝撃を与えていて、沖縄県では地元紙の一面で来年度は継続困難という報道がなされ、その後、私が進学ができたのは無料塾があったからだという青年たちの声を連続して報道するような、そういう騒ぎになっているわけです。
埼玉でも、学習支援員は今家庭訪問も行っています。なぜかというと、チラシを入れて来る子供はそもそも学習意欲があるんだと、それで来ない子供たちにどうやって意欲を引き出すかということで一生懸命家庭訪問やって学習支援に来てもらっている。ところが、この家庭訪問はお金掛かり過ぎると、もう国庫負担二分の一だからアウトリーチ事業は駄目だという説明まで行われているということなんですね。
これ、成果も明らかです。ニーズもあります。これからどうやって全国の自治体に広げるかと問われているときに縮小しかねないんですね、質が落ちかねないんですね。これ、何らかの手だてが必要だと思いますが、政務官、いかがですか。
○大臣政務官(橋本岳君) お尋ねをいただきました支援事業でございますけれども、まず、そのようなことになってしまった背景について申し上げたいと思います。
現在まで予算事業としてその学習支援事業を実施しておりましたが、来年度からは生活困窮者自立支援法に基づきまして、生活困窮者世帯の子供に対象を拡大して実施をすることにしておりますというのは御指摘のとおりでございます。
そこの法律に基づきまして、現在は十分の十の国庫補助率で実施をしておりますが、法律上二分の一ということになっておりまして、先生が御心配をされているというような状況があるというのは承知をしているところでございます。
やはり今お話をいただきましたように、そうした生活保護世帯を含む、今度法律によって、生活保護世帯のみならず、もっと広く困窮をしておられる世帯の子供さんたちに対する支援というのも含まれるようになりますが、そうした学習支援と貧困の連鎖を防止するために大変重要なものだと思っておりまして、そしてその縮小が御心配をされているということでございますけれども、現在、百五十自治体で実施をしておりますというのは先ほど審議官が答弁のとおりでございますが、調査をいたしましたところ、現在百七十九自治体が来年度支援を実施予定というふうに回答しておりまして、なお四百の自治体が未定ということになっております。
したがって、これからも引き続き各自治体に対しまして事業の意義を丁寧に説明をしてまいりたいと思っておりますし、また自治体の負担分、残りの二分の一につきまして地方交付税措置の対象となるように関係省庁と働きかけをしているところでございますので、積極的に委員の御心配の当たらないように努力をしてまいりたいと思っております。
○田村智子君 今、地方交付税措置でということをお聞きして少し安心したんですけど、これ関東知事会からも是非一〇〇%の国庫補助の継続をという意見書が上がっていたり、沖縄県の浦添市議会も全会一致で九月三十日に同様の意見書も採択をしています。是非、事業が継続されるように、また増えていくように、質が落ちないように厚労省の方でも頑張っていただきたいと思います。
下村大臣にも一言いただきたいんですけれども、これ先ほどスクールソーシャルワーカーが全額国庫負担から三分の一になったことで一気に減っちゃったという事例を示したんですけど、同じようなことにならないようにしていただきたいんです。やはり保護世帯の子供たちの高校進学というのは教育行政としても重要な課題だと思いますので、内閣としてしっかりと取り組んでいただきたいと思いますが、一言お願いします。
○国務大臣(下村博文君) スクールソーシャルワーカーについては努力をいたします。
それから、今の話ですが、文科省でも、家庭での学習が困難であったり、学習習慣が十分に身に付いていない中学生への学習機会を十分確保するため、来年度の概算要求におきまして、学校支援地域本部の仕組みなどを活用して、新たに大学生や教員、OBなどの協力を得た学習支援、地域未来塾、これを要求しているところでございます。二千中学校区で学習支援ができるような形を取りたいと思っておりますが、厚労省と連携しながら、経済状況の厳しい家庭の子供たちに対する教育支援、しっかり行ってまいりたいと思います。