雇い止めルール全廃へ決意新た
国立研究開発法人・理化学研究所(理研、本部・埼玉県和光市)では昨年、理研労働組合のたたかいで非常勤職員345人の雇い止めを撤回させ、無期雇用転換へ道を開きました。新しい年を迎え、引き続き事務系職員の5年雇い止めと研究系職員の10年雇い止めルールを撤廃するまで頑張ろうと決意を新たにしています。(田代正則)
(写真)非常勤職員の雇い止め撤回に奮闘する理研労の人たち=埼玉県和光市
「続けたい」当事者の声が
理研は100年の歴史を持つ国内唯一の自然科学系総合研究所であり、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎らが集い、「科学者の楽園」と呼ばれました。
その理研で2016年4月、研究を支えてきた非常勤職員を5年の契約上限で雇い止めにするルールが一方的につくられました。
改正労働契約法によって有期雇用が5年を超えて継続すると無期雇用に転換できるルールが18年4月から適用される前に、就業規則を変え、無期雇用試験で選別する仕組みを導入したのです。「雇用の安定」という法の趣旨に反するものです。
18年3月末で、契約上限に達するのは約500人。無期試験合格者は16年74人、17年47人とごく少数で、大量雇い止めが予定されていました。
理研労は雇い止めをやめるよう求めました。当局が誠実に話し合わないため、17年12月、科学技術産業労働組合協議会(科労協)とともに東京都労働委員会に不当労働行為救済を申し立てました。
金井保之理研労委員長は「撤回させたのは、当事者が働き続けたいと声をあげたことが大きかった」と振り返ります。
研究チームのアシスタントをしている40代の女性は、「営利企業ではない理研で働いていることに、愛着と誇りを持っています」と話します。研究員のスケジュールや研究費の管理、出張手続き、研究装置の発注などを担う業務です。
「年度替わりが、いちばん忙しい。私たちが雇い止めになれば、研究がストップします」と強調。絶対に撤回させると決意し、仕事を続けました。
組合が開いた非常勤職員の相談会では、雇い止めを強行されたら、裁判を起こして職場に戻ろうとの決意が相次ぎました。
全国大学高専教職員組合(全大教)、東京大学教職員組合、首都圏大学非常勤講師組合などと院内集会を開き、共同を広げました。
日本共産党の田村智子参院議員は18年2月1日の参院予算委員会で追及。林芳正文部科学相(当時)から「適切に対応するよう理研に伝える」との答弁を引き出しました。
理研当局側は2月19日の団体交渉で年度末の雇い止めを撤回する方針を表明。26日の職員説明会では「国会で議論があった」と説明しました。
就業規則そのものを改めさせ、研究系職員の10年雇い止めも撤回させるまで、たたかいは続きます。
論文数減 頭脳流出も
和光市駅から理研本部までの約1キロは、同所で発見された113番目の元素にちなんで「ニホニウム通り」と名付けられました。かつて米軍基地が返還されて理研本部になったことは地元の誇りとされています。
こうした大がかりな科学研究は、専門知識を持つ研究系職員がデータ解析や実験機器の設計・操作などで支えています。
ところが安倍政権は、財界大企業の要望を受け、2013年12月、任期付きの研究者は10年雇用継続するまで無期転換権の発生を先延ばしする法改悪を行いました。
理研では研究系職員に10年先延ばしを適用し、さらに2023年にはじまる無期転換を逃れるため、10年上限で雇い止めにするルールがつくられました。田村議員の調査で、対象となる研究系職員は2122人(18年4月時点)にのぼり、毎年、大量雇い止めになれば研究が成り立ちません。
40代の男性は大学院を出て、当初、「研究員」に応募しました。希望の研究に任期付きのポストしかなく、「テクニカルスタッフ(職員)なら長く働ける」とすすめられて、研究系職員になりました。「研究テーマが変わっても職員としてサポートを続けてきたのに、突然、10年で雇い止めだと言われても納得できない」と訴えます。
男性は「国の政策で、人件費に充てる基盤的予算(運営費交付金)が少ないため、私たちは“物件費”の扱いです。研究予算の増減で、賃金カットや雇い止めが起こっています」と話します。
科学誌『ネイチャー』が17年8月に、理研のある研究の予算が43%カットされ、スタッフへの報酬と実験用マウスの維持費用が困難になっていると紹介。理研の予算が削減されていると警鐘を鳴らしました。
日本の科学論文発表数は03~05年の2位から、13~15年は4位に順位を下げました。質が高いとされる引用回数の多い論文数も4位から9位へ落ち込みました。
研究系職員のなかには、雇い止めになるのなら、AI(人工知能)開発などのIT企業に転職しようとする人も現れており、頭脳流出が起こっています。
男性は昨年11月21日、共産党の田村議員事務所と党和光市委員会が理研労を招いて開いたシンポジウムに参加しました。「理研関係者だけでなく、地域の人たちがたくさん参加してくれ、驚きました」と話します。
金井保之理研労委員長は、「日本の科学研究の発展のためにも、不当な雇い止めルール撤廃までたたかいます」と話しています。
2019年1月9日(水)しんぶん赤旗より