(写真)参考人に質問する田村智子議員=19日、参院内閣委
米国を除く11カ国の環太平洋連携協定(TPP11)関連法案について参考人質疑が19日、参院内閣委員会で行われました。参考人からは、農業や国民生活に深刻な影響が指摘され、TPP11発効に反対する意見が相次ぎました。
九州大学大学院農学研究院の磯田宏教授は、TPP11には発効後さらに市場開放を迫られるメカニズムが組み込まれたままだとして「現在の約束による農産物市場開放では済まされない危険が極めて高い」と指摘。さらに、2国間市場開放を迫る米国の圧力も加わり、「『TPP11+日米2国間』の市場開放に帰結する可能性が高い」と警告しました。
農民運動北海道連合会の山川秀正委員長は「いま、がんばっている北海道の農業者は、幾多の試練を乗り越えてきた、いわば『つわもの』ともいえる農業者ですが、TPP11でさらに大きな網のふるいにかけられるのではないかと懸念している」と指摘。政府が掲げる農業の「体質強化策」についても「支援の対象が規模拡大一辺倒だ」と批判し、現状維持で経営を続けようとしている農業者は受けることができないと懸念を示しました。
日本共産党の田村智子議員が、政府が農林水産物の輸入・輸出の試算もせず、ほとんどの品目で影響はゼロとしていることについて質問すると、山川氏は「耳を疑う。何を根拠に試算しているのか」と厳しく批判。また、「大規模化」の問題点について、企業参入によって農地が資本に買い占められることへの懸念を表明し、「さまざまな形態の農業経営が生き残ってこそ北海道の地域社会、地域経済の発展になる」と述べました。
2018年6月21日(木)しんぶん赤旗より
【6月19日 内閣委員会議事録】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
参考人の皆さん、ありがとうございます。
今日、午前中、私たち、農水委員会との連合審査会というのを行いました。その中で、農水大臣の答弁で、このTPP11による輸入増を試算していない、輸出も試算していないと、こういう答弁で、本当に耳を疑うような答弁の連続だったわけですけれども、にもかかわらず、農業の影響、これはゼロ%、ゼロ%というのが品目でずっと並ぶわけです。
これは山川参考人にお聞きをしたいんですけれども、政府が出している影響試算では、農林水産物全体では九百億から一千五百億円の生産額の減少はあると。小麦でいうと二十九から六十五億円、大きいところで、牛肉でいうと二百から三百九十九億円ですか。ところが、いずれも、小麦も牛肉も大麦も、ほぼ全ての項目が生産量は減少しない、ゼロ%であると、こういう試算を私たちに示すわけです。これ、理解ができないんですよ、まず、私たちには。
一体、北海道の農家の皆さんに政府はどんな説明をされていて、率直にこの試算、山川参考人はどのように受け止めておられるのか、お聞かせください。
○参考人(山川秀正君) ただいまといいますか、今の話、午前中そういうやり取りがあったという話を今日東京に着いてからお聞きをいたしました。
率直に言って、私自身も、何といいますか、耳を疑うといいますか、全ての農産物がほとんど影響ゼロというそういう評価をしながら、輸入増も輸出増についても要するに何ら試算をしないで、何を根拠に実はそういう試算をしているのかというのが非常に不明確といいますか、今、北海道でどんな説明をされているかという話もありましたけれども、実際問題としては、TPP12のときもそうでしたし、11のとき、今もそうですけれども、その実態が、要するに現場まで、農民にまで明らかになっていない。これは、国会での議論でも何かのり弁当みたいな資料が出されてという話がよくされておりますけれども、まさしく、そういう交渉内容、それから影響がどうなるかということは何ら明らかにされていないという、そういう大きな不安を持っております。
実は、TPP12の発足当時は、私どもの住んでいる十勝管内は、農協や町村等々を含め、各種団体も含めて二十五団体がTPP反対ということで、それこそ三千人の大集会を成功させ、TPP反対の大きな運動のうねりをつくる、そのきっかけをつくりました。そういった点では、そのときに試算したのは、私どもの地域にある北海道の出先機関は、十勝管内だけでも五千四百億円の減収になるという試算をしました。そのTPP12、これが11になって何が変わったのか、これも明らかになっていない。
先ほども話しましたけれども、牛肉の輸入枠等々についてはそのまま、実はアメリカが抜けてもそのままだと、そこの数字を見てほくそ笑んでいるのはオーストラリアやニュージーランドではないかと言われていると、そういう現状の中で、本当に試算がゼロ、影響額ゼロというのは、私も信じられないというふうに率直に思っています。
先ほども言いましたとおり、小麦マークアップ、これで輸入差益によって今経営安定対策の支援されているんだけれども、これがなくなることは紛れもない事実だけれども、その支援はどうするのか。農業予算を増やすのか。どんどんと農業予算が減ってきて、ピーク時と比べると半分近くまで減っている状況の中で農業予算を増やすのか、そういうことに対して国民の大きな合意が得られるのか等々を含めて、是非そういう議論を深めていただきたいと。
現場では、先ほども言いましたとおり、なかなかこれ以上生産を増やすことは困難だよという、そういう率直な受け止めがあるということだけ申し上げておきたいと思います。
○田村智子君 もう一問、山川参考人にお聞きしたいんですけど、恐らく、ですから、政府が出してきている、生産量は減少しないよと、だけど生産額として小麦でいうと二十九から六十五億円の縮減があるというのは、それぐらいコスト削減せよ、それで輸入で入ってくるものとの価格が横並びになるような努力をせいと、あるいは、そのための支援をするよというような意味なのかなというふうに理解をしているんですけれども。
先ほど、大規模化といっても、もう様々な限界もあるというお話もお聞きしましたけれども、そもそも、他の産業ですと、経営者に対して大規模化しなかったら生き残れないよと言わんばかりの政府の押し付けが行われるなんてあり得ない話で、それだけ考えてもいかに農業経営者を軽んじているか、大規模化しなければ、コスト削減しなければあなたのところは生き残れないよと、言わば脅し付けるような支援策だというふうに私には見えるんですね。そんなこと、ほかの産業ではあり得ないですよ。そうまでしてやる。
だけど、私はこの間、国際的にも、例えば農業の家族的経営というのが見直されて、家族的経営の国際年というのが、昨年でしたか、行われるということも含めて、日本の農業の強みはある意味ロボット任せではないところ、家族的経営であったりとか、適正規模による農業経営を行ってきたというのが、品質の高い、生産量の高い、そういう農業にもつながってきたのではないだろうかというようにも思うんです。
大規模化一辺倒では経営上困難というだけでなく、農業発展というふうに考えたときに、この大規模化一辺倒というやり方がどうなのか、これについてもちょっと山川参考人の御意見お聞かせいただければと思います。
○参考人(山川秀正君) 私もこの頃、消費者の方から質問を受けたときに、少し極論めいたお話もさせていただいております。
一つは、規模拡大、法人化、農業への企業参入という話がよくされるんですけれども、極論をすれば、企業が参入するということは、当然農家と企業の資本の差は歴然としているわけですから、せっかく戦後、農地改革によって農地を農民に、家族経営をつくる、こういうスタンスで進めてきた農政をまた戦前の地主と小作の関係に戻すのかという、実は極端な話を一つさせていただいております。
それから、農業を輸出産業にという問題についても、確かに、先ほど両先生がおっしゃっているとおり、局所的にはそういう面もあるというふうに見ております。でも、それは本当の局所でしかない。
例えば、十勝の農業は、そういった点では輸出産業、輸出農業のモデルケースみたいなことも言われております。十勝管内にある帯広かわにし農協はナガイモを輸出しているんだという話をよくされます。そこで、実はナガイモを作っている川西の農家に直接お話を聞いたんですけれども、実はアメリカにナガイモの売り込みといいますか、行ってきたと、生産者として。だけど、ナガイモを食べているのはアジア系の人間だけなんだと、欧米系の人たちがナガイモを食う食文化はないんだというふうに明確におっしゃっていました。
まさしく、米を食べる食文化も、それから魚やそういったものを食べる食文化も局所的であって、これが世界全般のスタンダードになるということは私はないというふうに考えております。そういう状況の中で、北海道の農業をどう守り発展させていくかというのは、先ほども言いましたとおり、本当に様々な形態の農業経営が生き残ってこその北海道の地域社会、地域経済の発展だというふうに思っています。そこをやっぱり握って離さないということを貫いていきたいというふうに思っています。
○田村智子君 ありがとうございます。
磯田参考人にお聞きいたします。
今日お配りいただいたペーパーの三ページ目のところに、ISDSに対する懸念というのをお書きいただいています。TPP12から11になって、このISDSのところは凍結されたから大丈夫だというのがかなり、何というんですか、誘導的に振りまかれた論かなというふうにも思っているんですけれども、この中でいわゆる凍結というのは正確ではないというふうにお書きいただいていまして、少し、短い時間では難しいかもしれないんですけれども、この点お聞かせいただければなと、分かりやすく、お願いします。
○参考人(磯田宏君) 御質問ありがとうございます。
そこに配っていただいた紙に書いてあるとおりでございますけれども、五の①のところでございまして、投資家国家間紛争解決システムの対象外にされるのは、投資について言いますと、金融サービスはちょっとおいておいて、投資に関する合意、これはそこに、文書に括弧書きしておりますけれども、中央政府当局と外国投資家の間で結ばれた、政府が規制管理下に置いている天然資源に関する権利を例えば外国投資家に使わせる、そういう投資についての合意をしたとか、日本でも今るる議論がされていますけれども、水道その他の公共サービスを提供する、そういう事業について民営化すると、それを外国投資家に委ねるというそういう内容の投資に関する合意をしたとか、あるいは、インフラ整備の実施についても日本流に言えばPFIで民間に委ねると、こういう投資に関する合意をした、こういうものについては凍結するということなので、日本が受け身になるということもないではないと思いますが、これは特にやっぱり途上国が、こういう投資に関する合意とか投資の許可というものをアメリカが入らないんだからせめて凍結してくれよという話になったと、こういうふうに理解しております。
そういう意味からすると、確かに途上国にとってはこの凍結は一定の意味を持ち得るところがある、彼らの懸念にかなり応えている側面はあろうかと思います。しかし、日本に関して、投資を受ける側としての日本という観点から見た場合には、この投資の本体、投資財産という名称で言われている投資の本体については何ら凍結の対象にはなっていないというところは銘記しておく必要があると、こういうことが申し上げたかったところでございます。
○田村智子君 ありがとうございます。
渡邊参考人にもお聞きをいたします。
参考人は、やっぱりTPP12のときにも国会にもお越しいただいて、TPPの12のときはこれはもう日米間なんだと、大きくは、日米のやっぱり事実上のFTAに向かうような自由貿易の協定ができることに大きな意義があるという立場で様々な論説もお書きいただいたのを資料としても読みました。
そのアメリカが抜けた下で、なぜほぼそのままの中身なんだろうかということを私、非常に疑問に思っています。しかも、第六条では、じゃアメリカが完全に入らないよということが見込まれたときには締約国の申出によっての再協議。アメリカ抜きでの協議であるにもかかわらず、第六条でアメリカが本当にもう入らないのならってわざわざこう置く。これ、このTPP11って一体何なんだろうかというふうに率直に思うんですけれども、その点についての御見解をお願いします。
○参考人(渡邊頼純君) ありがとうございます。
それは先生、どうも、大変すばらしい質問だと思うんですね。TPP11と12はどう違うかということにも通じるかと思うんですが、基本的には、TPP11というのはアメリカのトランプ政権が未来永劫続くものではないという認識の下にあるわけなんですね。つまり、今のトランプ政権はTPP12に背を向けているけれども、しかし、次の政権、誰が出てくるかはまだ分かりませんが、これは分かりません。あるいは、もう既にダボス会議以降、時折トランプさんがTPPへの復帰ということをにおわせています。ですから、ひょっとしたらトランプ政権の後半には、第一期のトランプ政権の後半にもひょっとしたらあり得るかもしれないと。
ですから、TPP11というのは、TPP12でできたアジア太平洋地域におけるバリューチェーンを深化させていくという、そういうしかも自由で開かれたその貿易のメカニズムというものを、これを何とか維持しようとするための受皿ということがあるんだろうと思います。ですから、未来永劫アメリカが帰ってこないということであれば、そもそもTPP11というのは必要なかったのかもしれない。しかし、TPP11を維持することによって少なくとも、確かに世界貿易に占める比率は四〇%から一五%ぐらいまで落ちました、でも、その中でアジア太平洋の地域を巻き込んで、基本的には開かれて自由な貿易と投資のプラットフォームというのを維持していくということがまさにTPP11の重要性であるというふうに考えております。
○田村智子君 ありがとうございました。終わります。