<「米軍安全神話」のしばられる日本政府>
原発事故では、毎時5マイクロシーベルトを検知した場合に、原発から5キロ圏内の住民は即時避難。30キロ圏内で災害への特別の対応が必要。
原子力軍艦の事故の場合は…。
基地周辺で毎時100マイクロシーベルトを検知した場合に、1キロ圏内は避難、3キロ圏内は屋内退避。
「それでは、100マイクロシーベルトを検知するまで何もしなくてよいということか」
5月12日の決算委員会、原子力軍艦の原子力災害への対応について質問しました。
3・11以降、政府は「防災基本計画」を改訂し、原子力規制委員会は原発事故について「原子力災害対策指針」を改訂しました。
ところが、「原子力艦の原子力災害対策マニュアル」については、2009年の改訂が最後。
事故が起きた際に退避が必要とされる範囲は1キロ圏内で、1~3キロ圏内は屋内避難でよい、避難の基準は毎時100マイクロシーベルト――驚きの基準です。
「マニュアル」を担当する内閣府は「見直しを行っている」と言いながら、いつまでに改訂するのかも、何をどう見直しているのかも、全くわからない。
米軍の原子力空母ジョージ・ワシントンの母港をかかえる横須賀市では、市長が「市の防災計画をつくるうえで、何を基準にしたらいいのか」と外務省に質問。
今年1月、外務省は「現行のマニュアルにもとづいて」と回答したというのです。
原発事故で放出された放射性物質と、原子力艦の放射性物質は、危険性に20倍の違いがあるというのでしょうか。
「マニュアル」にもとづく横須賀市の避難訓練。
横須賀基地から3キロ圏内の小学校で、屋内退避訓練。つまりは、校庭で授業を受けているあるいは遊んでいる子どもたちに「教室に入れ」というもの。
1キロ圏の住民や通行人は、避難所に異動し、サーベイメーターで放射能チェック。
「原子力災害対策指針」にもとづく避難訓練。
志賀原発から30キロ圏の住民(石川県・富山県)で昨年11月合同の避難訓練。原発から5キロ圏内の小学校で、原発からできるだけ離れる避難訓練。漁船も使った避難訓練も。住民に安定ヨウ素剤の服用方法の説明も行われた。
私「せめて避難基準は一致させるべきではないのか」
内閣府は、異常値を観測したらモニタリングを行うとか、自治体が避難の基準を決められるなどの答弁。
しかしこれまで度々説明してきた「商業用原子炉と軍艦の原子炉は異なる」という答弁は出てきませんでした。
「マニュアル」の改訂に努力しているのか、私はマックスの懐疑心を持っています。
改訂に必要な「検証」を何一つ行っていないからです。
私「原発では、放射性物質の拡散予測をしているが、原子力軍艦については行っているか」
内閣府「行っていない」
私「3・11の地震・津波で、横須賀港がどのような状態であったのか、引き波による水位の低下など調査をしているか」
外務大臣「していない。米軍から異常はなかったと報告を受けている」
3・11では、ジョージ・ワシントンの乗組員の証言が、米軍の機関紙「星条旗新聞」に掲載されました。
和訳すると「水位は6フィート(183㎝)下がり、揺れは非常に強くて船を埠頭岸壁から話すほどだった」
引き波による着底、座礁の危険性だけではありません。より危惧されるのは地震による影響です。
係留中の原子力艦は、外部ケーブルで陸地の電源とつながれて、原子炉を冷却しています。大きな揺れでこのケーブルがはずれたり、破損したらどうなるか。
陸地が大規模な停電となったとき、全電源喪失という事態にならないのか。
私「大地震・大津波を想定した事故について、米軍と協議しているのか」
外務大臣「していない。米国はファクト・シートなどで原子力艦の安全性を説明している」
出ました!「米軍安全神話」
原子力艦ジョージ・ワシントンが横須賀港に配備されるにあたって、米国は安全性を説明するとして「ファクト・シート」を日本側に手渡した。
これは数値や具体的な構造は全く示さずに、原子力艦は安全、放射能は艦内からでるはずがない、起きるはずのない事故が起きても放射能は基地内にとどまる、という説明文書。
これにしばられていたら、米軍と事故想定の協議など、できるはずがないのです。
「ファクト・シート」が「安全神話」そのものだと、私は認識していますが、100歩政府の側にゆずっても、通常の運航では起こりえない事態が、大地震・大津波によって起こりうるという立場で、米国との議論は必要なはず。
それすらできないのならば、原子力軍艦の母港にはできないというのが筋ではないでしょうか。