日本共産党の田村智子議員は19日の参院文教科学委員会で国立大学法人改定法案の質疑に立ち、文科相が「世界最高水準の教育研究活動の展開が見込まれる」とする大学を「指定国立大学法人」に指定することは、「大学の自主性・自立性に踏み込む越権行為だ」と追及しました。
国立大学の評価は法令で、専門的知見による「ピア・レビュー」(同僚評価)を尊重し、国立大学評価委員会が行うと規定されています。田村氏は、法案では「指定国立大学」の指定・取り消しが文科相の専権事項であることを明らかにし、これまでの大学評価のあり方に反すると批判。「指定国立大学」への予算の重点化で、教育研究条件の大学間格差がさらに広がるとただしました。馳浩文科相は「予算の確保に努める」という答弁にとどまりました。
田村氏は、国立大学の基盤的経費である運営費交付金の削減と大学内での重点配分が「大学改革」として押し付けられたことで「教員1人当たりの研究費が今年度3万7千円になった」(新潟大学)など、教育研究基盤が掘り崩されている実態を示しました。その上で、「国立大学協会もこの『改革』が教育研究の停滞を生んでいると指摘している。やるべきは運営費交付金を抜本的に増額し、中長期的な視野で基礎的研究基盤をつくることだ」と追及しました。
2016年4月23日(土) 赤旗
【 議事録 2016年4月19日 文教科学委員会 】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
今も余震が続く熊本、大分の地震の被害ですけれども、本当に子供たちへの支援、これが行き届くように私もこの場で要望をいたしまして、法案に対する質問に入ります。
本法案は、文部科学大臣が、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれるものを指定国立大学法人として指定することができるとしています。また、指定の事由がなくなったと認めるときは、当該指定国立大学法人について指定を取り消すとされています。
これ、大学評価委員会の意見を聴くということは義務付けられているんですけれども、この指定及びその取消しは文科大臣の専権事項ということでよろしいですか。
○政府参考人(常盤豊君) 指定国立大学法人の指定でございますが、文部科学大臣の権限に属する事項でございますが、大学の申請をまず前提とするものでございます。また、法律上あらかじめ国立大学法人評価委員会の意見を聴かなければならないというふうにされてございます。
○田村智子君 これは世界最高水準という非常に分かりやすい、国民的には、そういう評価を文科大臣が行うと、こんなこと、いまだかつてないことですよね。
国立大学法人法では、国立大学の評価は大臣ではなく国立大学評価委員会が行うと定めています。しかも、評価委員会は、国立大学の中期目標に係る業務の実績を評価する際は、大学評価・学位授与機構、現在は大学改革支援・学位授与機構に名前が変わっていますが、ここに教育研究評価の実施を要請し、その結果を尊重することとなっています。
この機構が行う評価というのは、いわゆるピアレビュー、同僚評価です。専門的知識を持つ同僚、同業者による評価、これが専門的見地に基づく評価のその質を担保しているわけです。また、この評価については大学法人が異議を申し立てることも認められていて、実際に異議申立てによる再評価も行われています。
こういう仕組みについて、文科省はこれまで大学の自主性、自律性に配慮して評価というのは行わなければならないからだという説明を繰り返してきたわけです。ところが、この法案では文科大臣が指定をする、取消しもする。これは国立大学法人法に定める国立大学の評価の在り方に私は反するものだと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(常盤豊君) 現行の国立大学法人の評価の制度、またその際の大学評価、大学改革支援・学位授与機構の関わり、この点についてお話ございましたが、現行の国立大学法人制度におきましては、国立大学法人評価は国立大学法人評価委員会が行うということとされておりますのは御指摘のとおりでございます。ただ同時に、その評価の結果を踏まえて当該国立大学法人等の組織及び業務の全般にわたる検討を行って、その結果に基づいて当該国立大学法人等に関し所要の措置を講ずるということについては文部科学大臣の権限とされているところでございます。
〔委員長退席、理事赤池誠章君着席〕
今回の指定制度につきましては、申請のあった国立大学法人等の現状や目標、構想について、専門的、客観的な観点から評価委員会の御意見をいただいて、その意見は十分に踏まえた上で文部科学大臣が指定を行うということでございますので、現行の評価制度との関係で整合性は取れているものではないかというふうに思っております。
○田村智子君 今答弁では踏まえてと言いましたが、踏まえてなんて書いていないですよ。聴くと書いてあるだけですよ。配慮するとも尊重するとも書かれていないですよ。
これは、これまでの大学改革の法案審議で、例えば文科省は学長の権限強化、学校教育法の改定で行いました。その際、私は、例えば入学試験の合否判定、学生の卒業認定など、教授会の意見は聴くと言ったけれども決定権限は学長にあるんだと、教授会の決定を学長が覆すこともあり得るんだと、こういう答弁が繰り返されたわけですよ。聴くというのはそういう位置付けですよ。踏まえるでもない、尊重するでもない、聴くだけなんです。
大学の教育研究活動は分野も広く、極めて専門的です。文科大臣に高い見識があったとしても、とても個人の見識で大学の水準を判断できるものではないと思います。しかも、世界最高水準の教育研究活動を今後展開するという可能性まで見極めるというわけなんですね。
〔理事赤池誠章君退席、委員長着席〕
馳大臣、この法案が成立すれば、施行前にもこの指定ができるということになるわけです。一体どういう指標でこの大学は世界最高水準が見込まれるんだと、馳大臣御自身はどういう指標で判断されようというのでしょうか。大臣。
○国務大臣(馳浩君) ちょっと具体的なことを申し上げてよろしいでしょうか。
国際的な拠点として指定することになりますので、教育研究面では、まず、四ポイントお伝えします、優秀な人材の獲得や育成、それから海外研究者や留学生についてであります。二点目は、研究力の更なる強化、これは分野融合や新領域の開拓についてであります。三点目は、国際協働により、より高度な人材育成拠点へと発展すること。四点目は、社会連携を進め、より高い教育研究成果で社会に貢献をすること。また、組織運営面では、ガバナンスの強化、これは学長の指導性の発揮で組織的に課題を克服していくということ。六点目が、財務基盤の強化、基盤経費確保に加えて社会からの支援を得られるかどうかと。こういった課題をやはりまず大学自身が申請をしていただくということ、それを踏まえて評価委員会で評価をしていただくということ、それを聴いて判断をするということであります。
○田村智子君 大学評価委員会というのは文科省の中に置かれた機関ですから、結局、文科省が判断するということになってしまう。例えば、ノーベル賞を受賞した物理や化学の研究は二十年、三十年掛けての評価なんですよ。iPS細胞は極めて異例の早さと言われたけれども、十年掛かっているわけですよね、その芽が出るのに。教育の成果を判断するというのはもっと困難だと思いますよ。こんな評価が文科省ができるというんだったら、私はおこがましいとしか言いようがない。こんなのは大学の学問研究の自主性、自律性に踏み込む越権行為だというふうに指摘をしなければなりません。
次に進みます。
指定国立大学は、そもそも二〇一四年十二月、産業競争力会議の新陳代謝・イノベーションワーキンググループで提案された特定研究大学を具体化したものです。ここで世界水準ということが強調されて、これが翌年六月三十日に閣議決定された日本再興戦略改訂二〇一五に盛り込まれました。産業界も大学も稼ぐ力を付けるためという発想で産学協同の研究を重点強化しようということです。教育研究の現場からの要求の法案ではないということは明らかなんですね。
それでは、指定国立大学法人へのこの財政的措置がどうなるのか、運営費交付金の上乗せなどを検討しているのかどうか、お答えください。
○政府参考人(常盤豊君) 指定国立大学法人のまず経緯でございますけれども、もちろん産業競争力会議での御議論ということもございますが、国立大学については、先ほど来御議論ございますように、全八十六の国立大学法人が現在非常に社会の変化、産業構造の変化が激しい中で、それぞれの強み、特色、社会的役割をどのように生かしながら機能を強化していくのかという議論をここ数年ずっと続けているわけでございます。その中で、卓越した研究拠点として国際的に貢献をしていきたいという大学群が一定程度存在をしているということが基礎になっております。
その中で、今回、指定国立大学法人という新しい枠組みを設けるわけでございますが、その指定国立大学法人につきましては、積極的に民間との連携を深めまして、質の高い教育研究活動の実施、そして、それに対する社会からの理解、そして理解に基づく支援、こういうことの好循環を実現をする中で、併せて財務基盤の多元化を図っていただきたいというふうに考えてございます。
ただ、この指定国立大学法人について検討をしてきました有識者会議におきましても、指定国立大学法人に対する国からの一定のスタートアップの支援が必要であるという意見が多く出されておりますので、それを踏まえた対応については、法案をお認めいただきましたら、その後検討してまいりたいというふうに考えてございます。
○田村智子君 そのスタートアップ資金というのは、じゃ、来年度の予算で運営費交付金と別枠で要求するんでしょうか。それとも、運営費交付金の増額ということを強く文科省は財務省に迫るということですか。はっきりお答えください。
○国務大臣(馳浩君) ここは大事なところなので、改めて私の方針をお示ししたいと思います。
基本的に運営費交付金を継続的にまず確保していくというのは、全国立大学に対して今までも努力を示してきましたし、昨年同様の額を今回も確保しましたので、これを引き続き取り組むということはまずベースであります。
そして、スタートアップについては、私は、これは今回の法案を我々は提出するに当たり、政府全体として我が国の国立大学をより一層世界においても伍することのできるものにしようという、こういう目標があるわけでありますから、したがって、このスタートアップについての予算は私は別枠で要求すべきだと考えております。
しかし、これは、文科省において、私の方針として考えております。ほかの大学にしわ寄せの行くようなやり方をやってはこれ全く意味がないと、そういうふうな認識でおります。そのことを踏まえて、今後、予算折衝等について取り組むということであります。
○田村智子君 別枠でなければ大変なことが起こるというふうに思うんですね。
先ほど、大臣は、今年度は運営費交付金は前年度と同じ額を確保したというふうに御答弁されたんですけれども、しかし、そのうち約百億円は重点支援分ということになったんですよ。大学の要求額に対して、文科省が示した大学改革の方向に沿って努力しているかどうか文科省が査定を行ったわけです。四十二大学は要求額に対して一〇〇%以上になりました。最も反映率が高い大学で一一六%です。一方、四十三の大学は一〇〇%未満で、最も査定が低かった大学は要求に対して七五%程度しか認められなかった。これ、文科省の査定によって財政的な大学間格差というのが既にもたらされてきているわけですね。
この間ずっと運営費交付金は減らされてきましたから、文科省は、大学間を文科省自身の査定で格差付けるだけじゃなくて、大学の中でも重点配分を行えということを強く要求してきた。その結果どうなっているか。例えば新潟大学、これ、文書が配られたわけですよ。昨年度は十三万五千円、一人当たりの研究者に対して基礎的経費を配分してきたけれども、今年度は三万七千円になるという、こういう通知が配られたんですよ。これ、三万七千円なんていったら、学術論文一冊程度ですよ、せいぜい。こんなことやっていたら研究者のモチベーションはどんどん下がっていってしまう。
皆さんがやってきた選択と集中、重点配分、このやり方自体が日本の国立大学の教育研究を停滞させてきた、疲弊させてきた、そういう認識おありですか、大臣。
○国務大臣(馳浩君) 私はそうは思っておりません。やはり、国立大学といえども、各大学、より一層の努力をしていただきたいし、競争的な環境はやはり向上させていくためにも必要だと考えております。
○田村智子君 これ、基礎的経費を減らしながら、努力してほしいなんというのは本当にひどいやり方ですよね。
アメリカ、二〇〇〇年から二〇〇九年にかけて研究開発費、これ公費です、四三%増やして、論文数は二七%増。ドイツは同じ時期、研究開発費三三%増やし、論文数は二六%増。韓国は研究開発費倍加で、論文数は三倍。これに対し、日本は、研究開発費は僅か五%増で、論文数も五%しか増えていないと。明らかなんですよ、もう。
これは今年の三月、科学技術・学術政策研究所、科学技術の状況に係る総合的意識調査、これ定点調査といって、毎年同じ研究者に対する調査というのを行っているんですね。もう基盤的経費が掘り崩されているという指摘が激しく行われているわけですよ。もう固定費まで切り込んで対応せざるを得ないと。だから、閲覧できる雑誌や電子ジャーナルが減ってしまったと、著名科学誌の論文さえダウンロードできないことがあると。お金が足りないからです、固定費が。これで優秀な人材は博士課程から企業へ就職をしてしまう。あるいは、応用研究、出口志向の研究、大型プロジェクトの研究に予算が集中してしまっていて、基盤的な研究、長期的な視野に立った基礎研究ができにくい環境がどんどん広がっていると、こういう指摘にあふれているわけですよね。
私どもの赤旗の新聞にも、四月の十四日の日に、京都大学の山中伸弥先生に出ていただきました。その中で、基礎研究への支援、これこそが科学立国の第一条件であるということを本当に強く強調してお話をいただいたんですね。皆さんがやっているイノベーションというのは、応用部分だと思いますよ、すぐに産業に役立つような応用部分の研究。ここに、確かに企業からの寄附金とか自己収入で何か、産学の協同とか、私、これ否定しません。そういうので国立大学の研究が世に出て生かされるという道は必要だと思います。しかし、それが既に枯渇しているという指摘が激しく行われているわけですよ。ノーベル賞の受賞は二十年、三十年前の基礎研究なんだと、それが今評価されているんだと、今この基礎研究部分を掘り崩されていてどうして応用研究が進むのかという指摘を山中先生も行っておられるわけですね。
この基盤的経費を掘り崩してきたことこそが国立大学の停滞を生んできた、大臣、この認識おありですか。
○国務大臣(馳浩君) 私の考えていることと田村委員の考えていることはそんなに違わないと思って話を聞いているんですよ。基盤的経費を今後とも継続して安定的に確保すべきだという話は私は繰り返し申し上げていると思いますし、したがって、各大学において、改めて運営費交付金の確保プラス寄附金等の確保も含めて財源を多様に確保していってもらう努力もしてもらうと同時に、科研費等の確保もあるわけでありますから、こういう多様な財源を確保しながら、同時に競争的な環境をつくって、基礎研究の継続的な発展、このことも期待したいと思っております。
今まで非常に、昨年まで随分と減らされてきたわけですけれども、これで一つの歯止めを掛けたと思っておりますし、改めて、この基盤的経費の確保というのはしっかりとしていかなければいけないし、同時に、そのためにも競争的な環境は必要であるということを申し上げたいと思います。
○田村智子君 これ、確保では駄目なんですよ。掘り崩した分を取り返さなかったら、今みたいに学術論文さえダウンロードできないという状態を解決することができないわけですね。
それともう一つ、決して言わないのが重点支援がもたらしたものなんですよ。重点支援、重点配分ということをやっていることがやっぱり大学全体の力を落としてきたと。文科省の言う選択と集中というのが誤っているという指摘を、これは研究者の方々が繰り返し行っているわけですね。これは、国立大学協会も昨年の五月にこの運営費交付金の削減がどのような影響をもたらしたかという研究の報告書をまとめていますけれども、その中でも、やはり重点配分ということの見直しが必要だと、そんな短期の視野ではなくて、もっと長期的な、中長期的な視野でもって、基礎的研究基盤をどうつくっていくのかという、このことこそが求められているんだということを繰り返しています。
また同時に、削られた分の運営費交付金を元に戻すことなくして国立大学の再生はあり得ないと、このことを強く申し上げまして、質問を終わります。