日本共産党の田村智子参院議員は7日の参院内閣委員会で、国家戦略特区法の一部改定案による家事労働への外国人導入について「低賃金の単純労働への外国人受け入れの突破口になる」と追及しました。
現在、単純労働への外国人労働者の受け入れは認められていません。法案は「女性の活躍推進」の名で、外国人が特区内で掃除・洗濯など家事労働に従事することを認めます。
外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士が参考人として出席。田村氏の質問に対し、法案について(1)家事労働の社会化と男女の平等な分担が進んでいない状況を固定する(2)虐待などの人権侵害の危険性(3)個人家庭に直接雇用され、労働基準法が適用されない外国人家事労働者の受け入れにつながる(4)国民的議論の欠如―をあげ、「試行的に導入すべきでない」と述べました。
送り出し機関が外国人労働者に求める保証金の禁止が検討されていることについて指宿氏は「外国人技能実習制度で禁止しても行われています。それが人権侵害の温床になっている」と指摘しました。
田村氏の質問に内閣府は、保育や介護サービスも対象になる可能性を否定しませんでした。田村氏は「介護や保育は公的に保障すべきものだ」と強調しました。
田村氏は、大手家事代行サービス企業幹部の「最低賃金を下回る賃金を認めてほしい」という発言を紹介し、日本人労働者の置き換えや低賃金の固定化になりかねないと述べました。石破茂・国家戦略特区担当大臣は「政府としてそのようなことを認めるつもりはない」と答えました。
2015年7月8日(水) 赤旗
【 内閣委員会 7月7日 議事録 】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。法案への質問の前に、一点、石破大臣にお願いがあります。
地域住民生活等緊急支援のための交付金の地方創生先行型の交付決定が行われました。ここで、少なくない自治体が子供医療費助成の事業計画を申請し、交付決定されています。この交付金を活用して医療費窓口負担をゼロにした場合、国庫負担金の減額、いわゆるペナルティーがどうなるのかと、これが問題になるんですが、衆議院の地方創生特別委員会、三月二十七日と四月の十六日、我が党議員、この問題取り上げまして、厚労省は検討するという答弁をしていました。季節は変わったんですけれども、いまだ検討中のようなんですね。
それで、現在の省令でも国からの補助金はペナルティーの対象とはしないということが定められていて、福島基金による医療費の助成は、この規定を適用し、現にペナルティーの対象外にしています。石破大臣は衆議院で、この交付金を活用した場合の国保のペナルティーについては、地方創生という観点からどうなのかという意識は私自身強く持ったと御答弁いただきました。
是非、大臣からも、ペナルティーの対象にはしないという結論が早く出されるよう厚労省に働きかけをしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(石破茂君) 確かに、衆議院でもそのような御指摘をいただきました。これはペナルティーという言葉で表現するのは余り適切なことだとは考えておりませんが、この先行型の交付金が持っております性格というのは、何にお使いをいただいても結構ですというものであるわけでございます。それで、お子さんの方々の医療費というものの減額にこれを充てた場合に国全体としてどう対応するのかというのは極めて難しい問題だというふうに理解をいたしております。
ですから、それが減るのは大変いいことなのでございます。ただ同時に、これは医療費の増嵩というものを招くということもございまして、どういうような形が一番いいのか、また自治体からもいろんな御提案をいただいております。いわゆるナショナルミニマムの観点からこれを論ずるという御議論もあるわけで、どういう形が一番望ましいのか、そこは、この委員会における御議論あるいは衆議院における御議論も踏まえながら厚労省で御判断をいただくものだと思っております。
衆議院でそのように答弁して、季節が変わってもまだおまえの考えはないのかと言われるとじくじたるものがございますが、そこにおいてこの医療費なるもののナショナルミニマム化という議論をしましたときに、一体何がその適正な水準なのかというとみんな黙っちゃうわけでございます。この先行型交付金の趣旨というものも踏まえながら、私どもとして適切に厚労省と御相談をし、もちろん主体は厚労省でございますが、医療の水準の高度化、そしてまた御負担の軽減、そしてまた国民全体の医療費の適正な負担というものに配意しながら努力をいたしてまいります。
○田村智子君 これはわざわざ自治体裁量の高い交付金というふうにしたわけですから、その交付金の趣旨に沿った使われ方ができるように、自治体の皆さんも今不安に思っていると思いますので、是非ペナルティーやらないということで早く結論出していただきたいというふうに思います。
それでは、法案の質問を行います。
まず、外国人医師の臨床修練制度の要件緩和についてです。
診療所での外国人医師の臨床修練について、連携する病院がなくても可能とするという規制緩和です。これは、秋田県仙北市からの提案によるもので、この仙北市は、この規制緩和によって医療ツーリズムを推進し、医療体制の充実を図るということを掲げています。これ、しかし、連携できる病院がないということは医師が少ない地域であって、外国人医師に一対一で指導医を配置すること自体がとても困難だと思われます。臨床修練制度では、外国人医師による診療というのは指導医が張り付かなければならないんです。となると、逆に診療に当たれないお医者さん、日本人のお医者さんをつくってしまう。医師不足になりかねないわけです。それとも、特区区域内では外国人医師単独の診療も認めるという方向になるのかどうか、厚労省、お答えください。
○政府参考人(福島靖正君) 臨床修練制度でございますけれども、医療分野における国際交流の進展や発展途上国の医療水準の向上に寄与することを目指すものでございますけれども、まずは、臨床修練を行う外国医師は、外国の医師資格を取得後、三年以上本国で臨床経験を有する者となっておりまして、こういう方が臨床修練指導医とともに診療を行う中で日本の医療を学んでいただくというものでございます。
また、今回の特例でございますけれども、指導監督体制の確保として、臨床研修の指導医として三年以上の経験を持つ臨床修練指導医が確保されていることを念頭に置いておりまして、臨床修練指導医が通常の診療に支障のない範囲で外国医師の指導を行うことを考えているということから、必ずしもその臨床修練制度の活用が医師不足につながるものにはならないと考えております。
なお、今回の特例でも、従前どおり、外国医師が臨床修練を行うためには臨床修練指導医が実地に指導監督を行うこととされておりまして、外国医師が単独で診療を行うということをできるようにするものは考えていないところでございます。
○田村智子君 これ、現に通常の診療体制を取るのが困難な地域で外国人の医師を受け入れてということになると、本当に大変なことになりかねないんですね。なし崩し的に外国人医師の診療に道を開くことにもなりかねないということは指摘をしておきたいというふうに思います。
仙北市が掲げる医療ツーリズム、既に医療特区の政策を進めている神戸市でもこの推進を図っています。そこで起きている問題を見ておきたいと思うんです。
神戸市は、ポートアイランドに病院や企業、研究機関を集中させたメディカルクラスターを構成し、高度先進医療の研究や医療ツーリズムなどを推進しようとしています。この中の医療機関の一つが神戸国際フロンティアメディカルセンター、海外からも生体肝移植を年五十例程度受け入れるということを目指すという病院なんですけれども、メディカルツーリズムを積極的に推進する病院、ここで生体肝移植の術後、患者の死亡が相次いで今問題となっているわけです。
日本肝移植研究会の調査では、手術前後の管理体制が標準を大きく下回っているなどの問題も指摘をされました。この病院長は、ほかから断られたような難しい症例を扱っているというふうに説明をしたわけですが、難しい症例の患者に対してなぜまともな管理体制が取られなかったのかということは厳しく問われなければならないと思います。兵庫県医師会の理事会は病院長から事情説明を受けているのですが、このとき、ある役員は、手術の適応、あるいは生命倫理に関すること、ドナーを守るという感覚がかなり麻痺されているという感を受けたと、こう発言もされています。
この事案について行政はどのように対応しているか、簡潔にお願いいたします。
○政府参考人(福島靖正君) 三月下旬に神戸国際フロンティアメディカルセンターの生体肝移植で死亡事例があるとの通報が神戸市保健所にございまして、四月七日に神戸市保健所が事実確認のための聞き取りを実施いたしました。その後、同センターと日本肝移植研究会との合同調査検討委員会での検証結果の報告書を受けて、再度、六月八日に神戸市保健所が立入検査を実施したところでございます。その際に求めた指摘事項につきまして、六月二十四日に神戸国際フロンティアメディカルセンターから神戸市保健所に改善計画書が提出されたというふうに承知しております。
厚生労働省としては、引き続き今後の状況を注視して、神戸市と連携しながら適切に対応してまいりたいと考えております。
○田村智子君 今回の死亡事案を受けて、神戸市は市立の中央市民病院から支援を行うという意向を示しています。しかし、この中央市民病院は、医療クラスター構想の下、市民の反対を押し切って病床削減を伴う移転が強行されたと、こういう経緯があります。その上、医師などを派遣することになれば、地域医療の機能というのは一層後退する、このことを指摘しなきゃならないんです。
この神戸市の事例は、医療の産業化、メディカルツーリズムの推進、外国から患者を受け入れようと、そのためには難しい症例もうちやっていますよということもアピールすることも必要となるんじゃないのかと。こういうことをやっていくと、地域医療の機能を損ねていると言わざるを得ない、こういうことが生まれてくると思うんですが、この点、小泉政務官、お願いします。
○大臣政務官(小泉進次郎君) 御指名ありがとうございます。お答えをさせていただきます。
御指摘のありました神戸国際フロンティアメディカルセンター、これは略称というか通称KIFMECと呼ぶらしいですけれども、この事案については厚労省から答弁があったとおりでありますが、このような医療現場における死亡事案、あってはならないことだと思っております。
それに、今先生がおっしゃったとおり、地域医療の確保というのは大変重要なことですので、そういったことは、死亡事案とか出してはいけない、地域の医療の確保はしっかりやらなきゃいけないと、そういったことを前提とした上で、閣議決定をした成長戦略において医療産業の活性化、そして今回御審議をいただいています国家戦略特区法等の一部改正案におきましても臨床修練の項目等を盛り込んでいるところでございます。
繰り返しになりますが、この地域医療の確保、これはしっかりと踏まえた上で、医療の成長戦略における産業の活性化等を進めてまいりたいと、そう考えております。
○田村智子君 これは是非、既に特区政策を進めている地域の実情がどうなのか、これ真剣に検証していただきたい、このことを求めておきます。
次に、外国人家事支援人材の活用について質問をいたします。
これ、家事支援のサービスに従事する外国人の在留資格や入国の特例を入管法に定めようというものです。午前中にも審議がありました。
現行の法制度では、外交、公用以外の就労を専門的、技術的分野に限定し、一定の学歴、職歴などを受け入れる人材の要件にしてきました。これ以外の外国人の就労は、法務大臣が個別に認可する特定活動として認め、この中に看護師、介護福祉士、その候補者も含まれています。
いずれにしても、これまでは専門的知識や資格、経験などを必要としてきた、これが基本的な制度設計のはずなんです。このように、いわゆる単純労働への外国人の受入れを規制しているのはなぜなのか、この法案では、それでは単純労働への受入れを解禁するものなのかどうか、法務省、お答えください。
○政府参考人(佐々木聖子君) 法務省からお答え申し上げます。
まず、外国人労働者の受入れ範囲を決定するに当たりましては、我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案する必要がございます。
今御下問のいわゆる単純労働者の受入れにつきましては、平成十一年に策定されました第九次雇用対策基本計画におきまして、「いわゆる単純労働者の受入れについては、国内の労働市場に関わる問題を始めとして日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠である。」とされておりまして、現在の政府の基本的な考えとなってございます。
今般の家事支援外国人の受入れについてでございますけれども、この政府方針を転換したものではなく、女性の活躍促進等の観点から、国家戦略特区において限定的に家事支援サービスを提供する企業に雇用される家事支援外国人の受入れを可能とするものです。
具体的に、先刻御議論がありましたように、質の高い家事支援サービスを提供できる外国人に限ることなどを検討しておりまして、およそ専門性が考えられない単純労働を行う方の受入れは想定してございません。
○田村智子君 それでは、家事支援サービスについて、業務内容の範囲、人材の要件、また受入れ企業の要件、これ、どんなふうに検討されているのか、お答えください。
○大臣政務官(小泉進次郎君) 今御指摘のありました三つの要件、業務範囲、そして人材要件、企業要件でありますけれども、こちら政令で定めることとしておりまして、現在関係府省において調整を行っているところであります。
家事支援活動の範囲につきましては、炊事、洗濯、掃除、買物、寝具の整備等を定める方向で今調整を行っているところでありまして、外国人の要件につきましては、年齢、職歴のほか、家事支援サービスに関する一定の研修の修了等を定める方向で調整を行っております。特定機関については、事業の適正かつ確実な実施を図るため、特定機関が講ずべき指針を作成することとしておりますので、外国人家事支援人材に対する研修の実施など、指針に照らして必要な措置を講じていることや、健全かつ安定的な経営基盤を有していること等を要件とする方向で調整を行っているということです。
○田村智子君 昨日、私もお聞きしましたら、経産省の方でたたき台を作っていると。年齢については十八歳以上で、専門学校などで学んで一年程度の家事労働の経験、こういうので質を担保するんだ、これで質が高くなるんだというようなことがたたき台になっているというんですね。
これ、教育制度の違いはありますけれども、十八歳でも受け入れるということは、日本でいえば中学を卒業して家事に関わる専門学校に通って二年ぐらい自国で家事労働に従事をした、こういう人、主に女性でしょうから、そういう少女たちを日本に受け入れて家事支援に当たらせる、私、これ自体にも大変大きな問題を感じています。
実態としては、単純労働への外国人労働者の受入れ、地域限定で解禁するということにならないかと危惧するわけですが、石破大臣にも御答弁いただきたいと思います。
○国務大臣(石破茂君) これは、実際に自分でやってみて、掃除、洗濯、炊事というのはえらく難しいねという感じがいたしております。私も、実際そんな嫌いな方ではありませんが、これはかなり難しいねと思っております。
委員御指摘のように、教育制度は国によって違いますが、中学を出た外国のそういう年若い方が一年、二年、研修等々を行うということのレベルがどこまで高いのか。つまり、今回の制度は、いわゆる単純労働、本当に全く専門的技能というものを必要としないものではない、もちろんそれは当然のことです。じゃ、非常に高度かというと、そこはまた医療とかそういうものとは少し違うだろうと。
ですけれども、家事というものに対して質の高いサービスを提供するということを眼目とするものでございますので、委員御指摘のように、そういうような外国の年若い女性の方を日本で大量に雇用してというようなことは全く意図をいたしておりません。質の高いサービスが提供されないものは、それは受け入れるということはないということでございます。
○田村智子君 クリーニング店だとか飲食店だとかで働くのと違うわけでしょう。家の中に入って働いてくるわけですよね。今までこんなに家事が質的にすごいものなんて言われたことなかったですね。驚きですね、本当に驚きます。
今日は、外国人労働者問題に詳しい弁護士として、日本労働弁護団常任幹事の指宿昭一弁護士に参考人として来ていただきました。ありがとうございます。
この制度の問題点や課題、制度導入の経緯についての御見解などをまずお聞きしたいと思います。
○参考人(指宿昭一君) 私は、この制度については反対であります。その理由を四点にわたって述べさせていただきます。
理由の一番が、まず家事労働の社会化と男女の平等な分担が進んでいない日本の状況を固定化するおそれがあるということです。今、石破大臣からは、家事労働はとても難しくて大変なものだという答弁がありましたけど、残念ながら、日本社会の中でそのように深く認識されている状況ではないと思います。
政府が進めようとしている女性の活躍推進のためには、外国人家事労働者の導入の検討の前に、まず家事労働を社会化すること、そして男女の平等な分担を進めること、これを検討するべきだと思います。これらが進んでいない状況において拙速に外国人家事労働者の導入を行うことにより、家事労働の社会化と男女の平等な分担が進んでいない日本の現状が固定化されてしまうおそれがあると思います。
反対する二番目の理由は、虐待などの人権侵害の危険があることです。家事労働は、個人家庭という密室で行われることから、家事労働者が虐待等の人権侵害を受けやすいという問題があります。これは、シンガポールや台湾などの受入国においても、あるいは日本においても事例が報告されています。特に、海外においてはこの人権侵害が社会問題化しているということも報道されております。
そのため、このような状況に対処するために、二〇一一年六月十六日、ILO総会は、家事労働条約、これILOの百八十九号条約ですが、これを採択しました。しかし、残念ながら、日本は同条約を批准していません。そういう状況の中で受け入れることにより、人権侵害などの危険性が極めて高いと考えます。
なお、今回の政府方針によれば、個人家庭での住み込みという受入れではなくて、時間単位で派遣する、家事支援サービス会社が派遣するという形が想定されてはいます。それでも、労働する場所は個人家庭でありますし、また今後、制度が住み込みを可能とする形に拡大する危険がないとは言えません。
また、外国人家事労働者の受入れは、外国人技能実習生の受入れと同様な問題が生じるおそれがあります。
例えば、受入れが特定の家事支援サービス提供企業によって行われるために、外国人家事労働者には雇用主を変更する、働く場所を変更するという自由が事実上認められない危険が高いです。そのため、雇用主に対して権利主張ができなくなるおそれがあります。しかし、外国人家事労働者の人権、権利を保障するためのシステムについては検討がなされていません。このような理由から、虐待等の危険が極めて高いと考えます。
反対する理由の三番目は、将来、労働基準法の適用をされない外国人家事労働者の受入れにつながるおそれがあることです。
既に外国人家事労働者の受入れがなされている諸外国においては、家事労働者に労働諸法令の適用が排除されている場合が多いです。日本においても、労基法百十六条二項は、家事使用人、これが家事労働者に当たるわけですけど、この家事使用人への労働基準法の適用を排除しております。ただ、本条の家事使用人は、個人家庭に直接雇用されるものなどのことを言い、家事支援サービス提供企業に雇用されるものは含まれないという通達があります。
今回、政府が導入する制度は、家事支援サービス提供会社に雇用される形での受入れであるため、労基法が適用されることが前提となってはいます。しかし、今後制度が拡大され、個人家庭に直接雇用される形での受入れが認められていけば、労基法の適用は排除され、最低賃金などの労働諸法令の多くが適用されなくなり、権利保護のない安価な労働力を確保する制度として悪用されていく危険があります。
反対する理由の四点目は、国民的議論が十分に行われていない状況で、国家戦略特区において試行的に導入すべきではないということです。
このような問題の多い制度を国民的議論を行うことなく国家戦略特区において試行的に導入することは許されないと考えます。試行的導入の後に、労働法の適用されない、極めて安価で無権利の家事労働者を導入することになるおそれがあることも警戒しなければなりません。
また、先ほどから議論されているように、単純労働者あるいは未熟練労働者というべきではないかと思いますが、この未熟練労働者の導入を例外的にせよ認めるという大きな変化なわけですから、特区における試行的導入というのは誤っていると思います。
以上の四点が私がこの制度に反対する理由ですが、更に追加して一点の疑問があります。
現在、外国人家事労働者を受け入れる必要が本当にあるのかということです。
家事支援サービス会社において特に人材が不足しているという状況にはありません。この制度の導入が議論されるに至ったきっかけは在日米国商工会議所、ACCJの二〇一三年六月十三日の意見書ではないかと思われますが、こういうところから議論が出てきて、当初国内の家事支援サービス会社が受入れに積極的な姿勢を示していたわけではありません。日本人ではなく外国人労働者を導入して家事支援をさせることの理由として期待されているのは、低賃金ということだけだと思います。家事支援サービスの利用料を下げるために外国人家事労働者を低賃金で受け入れるとすれば、誤った施策だと思います。
以上の理由により、私はこの制度に反対します。
○田村智子君 あともう二点お聞きしたいんですけれども、一点は、政府は、保証金等の徴収をしていた場合に入国を禁止するなどの措置を検討していて、これが人権侵害を防ぐ一つの手だてになるんだという説明をしているわけですけれども、これが有効かどうか、お考えをお聞かせください。
○参考人(指宿昭一君) 有効ではないと考えます。
現在、技能実習制度においても、送り出し国に送り出し機関という機関があって、そこで保証金を徴収することは禁止されています。そして、これは上陸拒否事由ともされています。しかし、保証金の徴収や違約金契約を結ぶこと、そして違約金契約に保証人を付けることによって実習生の人権が侵害される、日本での権利の主張ができなくなる、こういうケースが多く報告されております。
先日、六月二十六日に、中国人の女性の技能実習生が、雇用先の農家と受入れの監理団体である協同組合に対して、セクハラによる損害賠償と未払賃金を請求する訴訟を提起しました。私もその代理人になっております。この事件では、原告は二〇一三年九月に入国していますから、二〇〇九年の入管法改正後の新制度における事件です。この事件においても保証金が徴収されています。
少しだけこの事件を紹介しますと、この女性の実習生は、受入れ農家の父親から胸やお尻を触られる、そしてその父親が性器を露出して近くを歩き回る、こういうセクハラに日常的にさらされていました。彼女は拒絶して抗議をしましたが、一向に改まらず、むしろ胸の上から口を押し付けられる、あるいは入浴中に風呂場に強引に入ってこようとする、このような被害が続きました。彼女は、怖くて夜ほとんど眠れなくなったそうです。
また、十七時以降に深夜まで、これはしばしば、翌日の午前二時、三時ぐらいまでですが、仕事が続きました。昼間働いた上、夜も働いたという意味です。その夜の仕事は、収穫したオオバを束ねる作業で、十枚のオオバを一束に束ねて二円が払われます。大体一時間で三百円程度にしかなりません。当然、最低賃金法や割増し賃金の支払義務に違反しています。
これだけの被害に遭っても、彼女はなかなか被害を訴えることができませんでした。それは、禁止されているはずの保証金を取られていたからです。保証金一万人民元、日本円にして約二十万円を送り出し機関から徴収されていました。この一万人民元というのは、彼女の中国でのほぼ年収に相当するそうです。
さらに、日本で送り出し機関が決めたルールに違反した場合に違約金を取られるという契約、そしてその違約金の保証人として父親と、もう一人の親戚が付けられていました。この親戚は、いわゆる公務員ですね。さらに、彼女は、送り出し機関に出国費用として四万人民元を払っています。日本円で八十万円、年収で四年分。この費用と保証金は、借金をして準備をしています。そして、日本でその分を稼いで取り戻して、プラスが出て帰るということを希望、期待していたわけです。
そして、技能実習生は原則として職場を移転することができないので、本件のように、受入先の農家とトラブルになり解雇にされるなどして働き続けることができなくなれば、稼いで帰ることができなくなり、借金だけが残されてしまいます。こういうことによって、実習生は権利の主張ができなくなるんです。
このように、技能実習制度においては、二〇〇九年入管法改正後の新制度においても保証金徴収などが禁止されてはいますが、実際にはいまだに行われています。これ以外のケースもたくさん私は知っています。そして、それが人権侵害の温床になっています。
外国人家事労働者の受入れについても、政府が保証金徴収等を一応禁止したとしても、実際には行われる危険があり、また、ほかの、先ほどの職場が移転できない等々の理由によっても人権侵害は起こってしまうというふうに考えます。
○田村智子君 大変具体的で分かりやすい御説明だったと思います。
最後一点なんですが、今回の家事支援への外国人の受入れということで、この制度が悪用される可能性、また単純労働への外国人労働者受入れの突破口になるのではないかという危惧、これは私も持っているわけですけれども、それについての見解をお聞かせください。
○参考人(指宿昭一君) 政府が悪用されないように一応いろんな手だてを検討しているということは聞いています。しかし、残念ながら、この制度が悪用される可能性は極めて高いというふうに思います。
まず一つ考えられるのが、長時間若しくは長期間、特定の家庭に派遣が行われるようなケースが想定されます。これは実質的に住み込みと同じような状況になってしまう可能性があります。その場合、長時間労働や外国人労働者の私的生活への干渉、制限、またセクハラやパワハラなどの虐待がなされる危険、こういうものが大いにあると思います。
また、個人の家庭に派遣されて、そこでその家庭から直接指揮命令が行われる可能性は高いと思います。これをやって、あれをやって、あそこのお風呂の掃除もして、おじいちゃんの面倒も見て、子供の面倒も見て、いろいろその場で指揮命令がされた場合、それを拒否することはなかなか難しいと思います。これはいわゆる偽装請負の状況になるということです。これは労働者派遣法や職安法四十四条の違反ということになります。
三点目に、先ほども述べたように、送り出し国における人材紹介会社などによって保険金が徴収されたり違約金の契約がなされる、そしてそれに保証人が付けられる、若しくは多額の費用が徴収される、こういうことによって日本での権利行使が妨げられる可能性があります。技能実習生の場合、本国において日本ではとても考えられないようなルールが定められることがあります。例えば、弁護士に相談してはならない、労働基準監督署に行ってはならない、労働組合に加入してはならない、マスコミに話をしてはならない、これを破った場合、違約金を払え、こんなルールが送り出し国でなされることがあるんですね。これと同じようなことがなされる危険は十分にあると思います。
あと、この受入れの範囲には、先ほど政府から御説明がありましたけど、最後に、などという言葉が付いています。このなどに一体何が入るのか。家事支援サービスの中に介護や育児など、そこまで広がっていく危険があるのではないかと思います。介護や育児など制度目的を超えた利用が行われることによって問題が生じてくる可能性です。介護や育児は対人サービスであって、安全衛生上の極めて重い配慮が必要です。そして、そのため専門性が必要とされます。外国人家事労働者がこれを行う場合に、事故やトラブルが起こる可能性が高いと思われます。
単純労働への突破口の点ですが、単純労働あるいは未熟練労働への外国人受入れの突破口になる可能性は極めて高いと思います。
未熟練外国人労働者の受入れについては、拙速に国家戦略特区で前例をつくるということではなくて、外国人労働者の権利や人権保障の制度をしっかりとつくるのが先だと思います。また、日本の労働市場との関係などについても国民的な十分な議論が必要です。そういうことをしないで拙速に特区における外国人家事労働者の受入れをすることには極めて問題が大きいと考えます。
○田村智子君 どうもありがとうございました。
保証金禁止しても、現にそれが徴収されていると。これ本当に担保されなかったら、こんなこと実施すべきじゃないですよ。
加えて指摘しておきますが、ちょっともう時間がないので質問しませんが、渡航費用、これを借金させないということが必要になってくるわけですよ。渡航費用は受入れ企業が持つんだとか、こういうことにしっかりルールがどうなるかも全く示さないままにこんな法案採決すべきじゃないというふうに思いますよ。
今御指摘の中で、家事支援サービスのなどの中に何が入っていくのかという指摘がありました。実際、今、日本の中でも、個人宅との請負契約で家事支援サービスを行っている企業ってたくさんあるんです。代表的なのはダスキン、それからベアーズ。このベアーズというのは、キッズ・アンド・ベビーシッターサービスというのを一つの売りにしているんです。ここには、午前中も資料をお配りいただいていましたけれども、保育所等の送迎、利用宅での預かり、調理、食器を洗う、洗濯物を畳む、こういうのをセットで利用できるというものなんです。
こういうサービスも、ベビーシッターと簡単な家事というのを合わさったようなサービスも外国人による家事支援の対象となるのかどうか。
○政府参考人(木下賢志君) 家事支援業務につきましては、法案で、先生御指摘のように、炊事、洗濯その他家事を代行し、又は補助する業務で政令に定めるものと、こうされております。
その範囲は政令でということになっておりますけれども、様々な御意見ございますので、厚生労働省としては、その意見を踏まえまして、関係府省庁と十分に協議、検討して進めていく必要があると考えてございます。
○田村智子君 否定しないわけですよ。
私、この法案の説明に来てくださいとうちの事務所に呼んだら、厚労省の保育の担当者、来るわけですよ。介護保険の家事支援の担当者、来るんですよ。こっちが呼んだんじゃないんですよ。法案の説明をと言ったら、厚労省の保育や介護の担当者が来るんですよ。ということは、それもサービスの内容として含め得るということをこれもう既に検討しているとしか思えないわけですよ。
本来、介護や保育というのは公的に保障すべきものです。それを制度外サービスとしてなし崩し的に家事支援サービスのメニューにしてしまう。これ、保育でいえば、基準や資格を満たさない保育によって残念ながら子供の死亡事故というのは毎年起きているわけです。
こういうことが、十分な国民的な議論なんかないですよ。合意なんてましてあるわけないんですね。それでも、地域限定でも保育や介護なども含めて家事支援サービス、そこに外国人労働者を受け入れる、こんなことやるべきじゃないというふうに思いますが、石破大臣の見解をお聞きします。
○国務大臣(石破茂君) これは厚労省からお答えをしたとおりですが、介護にしても保育にしても、では、そういうような能力を御自身の国で習得をしていない人に対してそういうことをやらせるということは当然ございません。今の時点においてそういうことを想定をしておるわけでもございません。
国民的合意というものは、この制度を広くあまねく、日本語不自由であるというなら話はまた別でございますが、これを特区という形でやらせていただく上におきまして、今委員がるる御指摘になりましたような御懸念というものに当たらないように、私ども、そうでなければ特区制度の意味がないと思っております。外国人の方の人権が侵害をされるとか、あるいは未熟練な方がそういうものに従事をして事故が起こるとか、そういうことが絶対にないように、これは制度の運営に心しなければならないことでございます。
それで、本当にきちんとできるねということになってこれは更に拡充ということはございましょうが、特区でありますがゆえに、国民の合意を得るためにも、その制度というのは極めて厳格に運営されるべきものでございます。委員の御懸念が実際のものとならないように私どもとして努めてまいる所存でございます。
○田村智子君 だったらもう実施しない方がいいと思っているんですけど。
だって、日本だって、ベビーシッター、資格なくてやっている人、いっぱいいるわけですよ。外国人だけ駄目だなんということになるのかどうか。そうならないと思いますよ、このまま突っ走っちゃったら。
更に別のこともお聞きしたいんですね。
これ、低賃金の外国人労働者に今家事支援サービスやっている日本人労働者が置き換えられていく、やっぱりこのことは危惧されるわけです。これもう時間がないので、法務省にお聞きしましたら、今の制度の中で、やっぱり同種労働者の賃金、日本人の、同じ仕事している人の賃金より安くはしないんだと、低くはしないんだということを言っておられるんですね。低くなった場合は入国そのものをさせないというふうにするんだと。
しかし、これ、神奈川県大手家事代行のサービス見てみますと、ダスキン、時給九百五十円から、ベアーズは千円からと。神奈川県の最低賃金は八百八十七円ですから、これ、最賃ちょっと上回るというぐらいの話なんで、そもそも安いわけですね。そうすると、その安い賃金の固定化に今度はなっていくんじゃないかということも危惧されます。
これ、じゃ、日本人労働者九百五十円ですよと、外国人九百円ですよといったときにも同等じゃないよといって入国を認めないと、こういうことになるんですか。
○政府参考人(佐々木聖子君) 一般論で申しまして、ほかの在留資格も同様でございますけれども、日本人と同等の賃金要件というのを課してございまして、ちょっと具体的に今の案件はどうかというところは申し上げられませんけれども、この方針といいますかこの政策はほかの在留資格の外国人にも適用してございまして、そもそも外国人労働者を低賃金労働者として受け入れるということは全くこの制度におきましては考えてございません。
○田村智子君 だけど、受け入れたい企業は違うんですよ。
二〇一五年一月三十日朝日新聞、全国家事代行サービス協会副会長のインタビューが掲載されています。ベアーズの専務です。この方、何て言っているか。女性活躍を目指すなら、広く普及しなければ意味がない、現状より高い利用料はあり得ない、今一時間三千円の利用料を二千円以下に抑えたい、国には最低賃金を下回る賃金を認めてほしいと。これ、外国人についてです。
で、ここの会社は既に外国に行ってメードの採用をしたいといってやっているわけですよ、採用面接を。これ結局、この外国人労働者、低賃金の労働者をいっぱい入れていきたい、この要求が企業に現実にあるわけですよ。石破大臣、どう思われますか。
○国務大臣(石破茂君) 政府としてそのようなことを認めるつもりはございません。そのようなことはあるべきではありません。
先ほど来法務省からお答えをいたしましたように、日本人と同等額以上ということで調整をしておるところでございまして、今御指摘いただきましたような朝日新聞のインタビューというようなことは、それは認めてはならないことだと私は思っております。
○田村智子君 最後一言だけなんですけど、日本人と同等の労働賃金だったとしても、身寄りのない外国人労働者が多くは女性でしょう。最賃に近いような給料で働くということになっちゃうわけですよ。先ほど、女性は、日本の実際家事代行をやっている方はほとんどパートだとおっしゃいました。そうならないですよ、外国から来たら。その給料で生きていかなきゃいけないんですよ。
私は、こんな制度をやるべきではないということを申し上げて、質問を終わります。