日本共産党の田村智子議員は2日の参院内閣委員会で、国家戦略特区について質問し、企業の事業展開を支援するために厚労省が開設した「雇用労働相談センター」で「労働者解雇指南」のセミナーが行われていた実態をただしました。
厚労省が同センターの事業のために作成した「雇用指針」の「紛争を未然に防止するために」の項では、「一定期間、期待されるよりも相当低い評価が続けば解雇することがある」と労働契約書に記載することで紛争を防止できると明記しています。
田村氏は、この指針を学ぶセミナーで同センター運営委員の岡田和樹弁護士が「(勤務効果表には)1と2をつけろ」などの発言を繰り返している事実をあげ、「こうすればスムーズに解雇できると指南しているようなものだ」と批判しました。
田村氏は、岡田氏が「解雇の金銭解決制度」導入やホワイトカラー・エグゼンプション推進を主張する人物であると指摘。セミナーや個別相談の内容を把握し、運営委員として適格か検討すべきだと政府に迫りました。
石破茂地方創生担当相は「労働者の権利をいかに守るかという労働法制の趣旨を理解してセミナーに完全に生かすよう指導・監督する」と答える一方で、岡田氏は運営委員として不適格ではないと答弁しました。
田村氏は、「雇用指針」の撤回と、労働者の基本的な権利を周知する既存のパンフこそ同センターで活用すべきだと強く求めました。
2015年7月5日(日) 赤旗
【 内閣委員会 2015年7月2日 議事録 】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
本法案は、成長戦略のために現行の制度や規制を変更する特区をその突破口にして岩盤規制を崩そうというものです。経済至上主義とも言えるやり方が日本社会に新たなゆがみや問題をもたらすことも危惧をされます。それだけに、既に進行している戦略特区で何が行われているのかということを見ることが重要だと思います。
まず見てみたいのは、東京、福岡、関西圏に設置された雇用労働相談センターの実態です。このセンターは、海外から日本に進出するグローバル企業やベンチャー企業等が雇用ルールを的確に理解し、個別労働関係紛争を生じることなく事業を展開しやすくなるように、専門家による法律相談を行うものとされています。
そして、センターの事業のために厚生労働省は、労働関係の裁判事例の分析、類型化だとして、雇用指針という文書をまとめました。この指針の問題点は本委員会で繰り返し山下理事が厳しく指摘したところですけれども、私も目を通して驚きました。基本的な法令の説明、裁判事例の分析、類型、関連する法令等の紹介にとどまらず、紛争を未然に防ぐためにとする囲みの記述が随所に見られます。
まず確認したいと思うんですが、この指針の中で、能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇、この項目で冒頭の裁判事例の分析、この主な記述内容をお示しください。
○政府参考人(大西康之君) 委員御指摘のございました雇用指針の内容でございますが、この裁判例でございます。
裁判例では、長期雇用システムの下で勤務する労働者については、単に能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如というだけでなく、その程度が重大なものか、改善の機会を与えたか、改善の見込みがないか等について慎重に判断し、容易に解雇を有効と認めない事例もあると。
また、裁判例では、成績不良、勤務態度不良にかかわらず、反省せず改善が見られない場合等に解雇を有効と認める事例もあると。
また、裁判例では、上級の管理者、技術者、営業社員などが、高度の技術、能力を評価、期待されて特定の職務のために即戦力として中途採用されたが、期待された技術、能力を有しなかった場合については、比較的容易に解雇を有効と認める事例もあると。
以上のように書かれております。
○田村智子君 能力不足、勤務態度が悪いなどの理由だけでは解雇は認められないと、その程度が重大かどうか、改善の見込みがないかどうかが慎重に判断されると、ここまでは確かに裁判事例のまとめとも言えると思うんです。
しかし、続けて具体の裁判事例の記述があります。そして最後の囲みで、「紛争を未然に防止するために」とありますが、ここの記述はどうなっていますか。
○政府参考人(大西康之君) 同じく雇用指針の「紛争を未然に防止するために」というところでございますが、ちょっと長いんですけれども。
外部労働市場型の人事労務管理を行う企業においては、紛争を未然に防止するために、管理職又は相当程度高度な専門職であって相応の待遇を得て即戦力として採用された労働者であり、労働者保護に欠ける点がない場合には、例えば、次のような内容を労働契約書や就業規則に定め、それに沿った運用実態とすることが考えられると。
その後、労働者の担う職務や果たすべき職責、職務の遂行や職責に必要な能力を労働契約書にできる限り具体的に記載すること。また、記載された職務、職責を相当程度に果たすことができない場合、又は一定期間、期待される評価に比して相当程度低い評価しか得られない場合には解雇することがあることを記載すること。
定期的に業績評価を行い、その内容を労働者に通知すること。
地位、功績、雇用期間その他の事情に応じて一定の手当を支払うこと。
このような記載がございます。
○田村智子君 これ、労働契約書に、例えば、一定期間期待される評価に比して相当程度低い評価しか得られない場合には解雇することがあるなどの記載があれば解雇しても紛争にならないよと、そういうアドバイスをしているのと同じなんですよ。
私も、これまで解雇や雇い止め事案というのは何度も国会質問で取り上げてきました。また、個別に厚生労働省との交渉や、いろんなやり取り、情報提供、こういうこともやってきました。そういうとき、厚生労働省は、あくまで解雇というのは個別事案であり、個別に判断されるものだと、こういう姿勢を一貫して取ってきたんですよ。こうすれば紛争にならないよなんという評価は、私初めて見ました。まさに一線を踏み越えているんですよ。
今読み上げていただいた項目、どういう意味なのか。実は、福岡の雇用センターで昨年十二月二十三日、センターの運営委員である岡田和樹弁護士が講演をしています。その内容を紹介したいと思います。
裁判官は、成績不良だから解雇するというのをなかなか認めたがらない。人事考課をきちんとしておくことが必要だ。日本の企業は五段階評価で三ばかり付ける。裁判所はすぐ勤務考課表を出せと言う。見ると、三と四が並んでいる。一と二を付けろ。一や二が三年続いたら首だよと言っておく。改善しなさいときちんと言って、期間を置いて促すんですよと。
指針の先ほど読み上げていただいた、紛争の未然防止のためにを大変分かりやすく解説しているなというふうに思いますが、つまりこういうことなんでしょうか、橋本政務官。
○大臣政務官(橋本岳君) 当省といたしましては、御指摘のセミナーに関しまして、第一回のセミナーに厚生労働省が職員を派遣しておらなかったものですから、講師の発言について私どもとして記録を持っておらず、詳細な内容を把握していないというのが状況でございます。
雇用労働相談センターの運営に当たっては、労使双方にとって公平公正に行われることが重要だと考えておりまして、運用委員会においてそのような趣旨を徹底していくというところで取り組んでいるところでございます。
○田村智子君 もう一度お聞きしたいんです。
今私が読み上げたようなことが、じゃ、一般的に説明されたとしたら、この中身は雇用指針の説明としてふさわしいものなんですか。もう一度お願いします。
○大臣政務官(橋本岳君) 先ほどのお読み上げになったところで、私なりの感想というのを持つといえば持たないことはありません。いろいろ誤解を招きやすいなと思うような、先ほどのお話について感想を言えばそのような感想を持つものではございますが。
ただ、厚生労働省として、先ほど申し上げましたようにきちんと把握ができていないというのが現状でございますし、また、雇用労働相談運営委員会というのがございますが、その場におきまして、その講師の方は、事業不振等により解雇を考えなければならない可能性に対応するため、解雇事由などを含む退職に関する事項を労使双方が納得した上、就業規則等に定めておくことなどが紛争の予防のためには重要という指摘をしたとのことでありまして、決して解雇を奨励する意図はなかったというふうにおっしゃっておられるということでございまして、厚生労働省といたしましては、そうした誤解を生ずることなく公正公平なセミナーや相談対応が行われるよう、運営委員会等を通じて申し上げているところでございまして、今後とも事業の受託事業者やセミナー講師等に指導を徹底してまいりたいと、このように考えております。
○田村智子君 今の御答弁ですと、かなり誤解であり、これは解雇を推奨するような中身とも言えるという感想をお持ちになったんだというふうに受け止めますが、これは、セミナーの受講者が内容に驚いてメモをまとめたものなんですよ。
ほかにも、中身見ると、例えば懲戒について、減給は一日分の給料の半分しかできない。例えば月二十万円もらっている人なら五千円くらいしかできない。これでは制裁にならない。出勤停止は使える。ノーワーク・ノーペイだからかなりこたえる。業績不振の際の解雇についてはこのセンターに相談してください、辞めていただくうまい方法を相談して見付けると、こういうお話をしていて、今読み上げたような中身は、既に五月二十七日、衆議院地方創生特別委員会で我が党議員が指摘をしているんです。内容を確認していないんでしょうか、これだけ重大な問題で。
岡田氏本人あるいは受講した方から聞き取るなどして確認をして、私が言ったような中身であるならば、この中身は誤りであると受講した方にこれ徹底をすべきだと思いますが、いかがですか。
○大臣政務官(橋本岳君) 先ほどお話ありましたように、確かに衆議院の委員会の方でも御指摘をいただいたところでございます。そこは承知をしておりますし、また、当然ながら、そのセミナーがあって、その後、市議会でお取上げをいただくとかなどということも承知はしております。
そうした形で今回の講師の方の御講演がいろいろ誤解を招くものであったのであろうというふうには私どもも捉えておりますし、先ほど申し上げましたように、運営委員会の方でそうしたことを招かないようにということもお伝えをさせていただいているところでございまして、さきに答弁申し上げましたとおり、その御指摘の弁護士の方は、元々解雇指図の意図はなく、今後は誤解を生じることなく公正公平な説明に努めるということとされておりますし、また、その後三回にわたって、今回四回セミナーが行われていますので、福岡では、その後三回につきましては、特段、その後御指摘等はいただいていないと思っておりますので、今後とも引き続き公正公平に説明に努めていただけるように注視をしてまいりたいと、このように思っております。
○田村智子君 これ、国の機関なんですよ、国が設置しているんですよ、このセンターね。そこで受講した方々に、この内容が問題があったという中身が徹底されちゃったとしたら、これやっぱりしっかりつかむべきですよ、終わっちゃったことにしないで。それで、受講した方に、その内容が不適切であったという、そういう知らせをやるべきだと、これは重ねて求めておきたいというふうに思いますし、石破大臣にもお聞きをいたします。
この衆議院の特別委員会では石破大臣も答弁に立たれまして、講演等々も記録はきちんと取っておかねばならないというふうに答弁をされています。行き届かなかった点があったとしたらおわび申し上げますとも言われています。当然、私は、この指摘をした第一回のセミナーの中身、これは内閣府としても確認を取るべきだというふうに思うんですね。
あわせて、やっぱり講演だけではないんですよ。こういう立場で相談事業をしていたとするならば、労働者が解雇について相談に行くと、ところが、例えば岡田弁護士がその相談の中身見て、どんな労働契約書になっているのと、労働契約書を見て、ああ、ここに解雇についてこう書いてあるね、これはもう仕方ないですよと、こういう相談事業が行われないとも限らないわけですよ、こんな話する方ですから。
となれば、果たしてこういう方が雇用労働センターの運営委員としてふさわしいのか。この運営委員は、内閣府と厚労省とが適格かどうかを協議して決定をしています。石破大臣、この岡田弁護士の講演内容、個別相談の内容もつかんで、運営委員として適格と言えるのかどうか、これは検討すべきだと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(石破茂君) これはいやしくも公がやることでございますから、記録を取るのは当然のことであります。記録を取っていなかったのは私どもの不手際でございます。その後、記録をきちんと取るようにというふうな指示はいたしたところであります。
あわせて、労働法制というものをどう理解するかですが、やはり労働法制というのは一人一人の労働者の権利をいかに守るかということがその考え方の根本にあるというふうに私は教わってまいりました。ですから、雇う側の論理というよりも、労働者をいかに保護するかという労働法制の趣旨というものはよく理解をしてこういうようなセミナーはやらなければならないものでございます。もちろん、雇用関係ですから、雇う側というもののいろいろな事情というものも法令に従ってきちんとそれは運用されねばならないことは申し上げておきます。
そうしますと、この代表弁護士の方、岡田先生という方、私も福岡に行ってお目にかかっていろんな話をさせていただきました。この御指摘をいただく前のことでございましたので、このお話について言及をしたわけではございませんが、非常に見識の高い、そして熱意ある、決して労働者を蔑むような、そういうふうな方ではなかったというふうに認識をいたしております。
でございますが、人間は時々過ちというものもございますし、口が滑るというのはあることでございますが、私どもとして公でこれを設置しております以上は、その趣旨というものを完全に生かすべく、これからよく指導監督もしていかねばならないし、厚労省との協議も密にしていかねばならないと思っております。
現時点で、この方が不適格だという判断は私はいたしておりません。
○田村智子君 これは、調べもしないで適格かどうか、不適格とは言えないというのはおかしいと思うんですね。是非、記録を取っていなかったとしても、これだけ問題に私たちもしてきたわけですから、責任持って問題にしてきたわけですよ、作り話でも何でもありません。事実をつかんでいただいて適格性を判断していただきたいと思いますし、元々この岡田弁護士は、ホワイトカラーエグゼンプション推進の講演もしてきた方なんです。産業競争力会議のヒアリングでは解雇の金銭解決制度の導入も主張をしてきた、今、大臣が言われたような、労働者保護の立場と果たして言えるんだろうかという方なんですよね。東京と福岡の雇用センターの運営委員に決定したこと自体が私は問題だと思いますし、この戦略特区は、こんなことを許しておけば、結局、厚生労働省が今まで示したこともないような解雇指南を示せる特区なんだと、解雇をどうしたらできるかというアドバイスができる、そういう特区なんだということになってしまう。このことを厳しく指摘をしておきます。
更に聞きます。昨年の本委員会で、我が党の山下議員が、労働者の基本的な権利を周知する既存のパンフこそセンターでも活用すべきであると、労働指針よりも、このことを求めました。そして、厚労省大西審議官は、雇用指針を活用する際には既存のパンフレットも活用しながらと、こういうふうに答弁をされました。
それでは、どういうパンフレットをいつセンターに送付をされたのか。また、雇用指針は全都道府県と政令市にも、特区でもないのに送付をされましたが、既存のパンフも同じように送付をしたのかどうか、お答えください。
○政府参考人(大西康之君) 御指摘のパンフレットでございますけれども、いろんな種類がございますので、御説明させていただきたいと思いますが、まずは、雇用指針に含まれないような労働関係法令の内容につきましては、そういった支援の相談を、必要がございますので、雇用労働相談センターで労働基準法などの労働関係法令の主な事項について解説した「労働関係法令のポイント」や「労働関係法令の解説」といったものを作成しております。これは各センターにお配りしているところでございます。
また別に、「知っておきたい働くときのルールについて」、あるいは「知って役立つ労働法」、あと、済みません、「これってあり? Q&A」という、漫画で知って役立つ労働法と、こういうのもございますけれども、これにつきましても、各雇用労働相談センターに送付したところでございます。
また、そのほかのパンフレットでございます。これらにつきましては、厚生労働省のホームページで公開しておりますとか、あるいは都道府県労働局等へも送付して、全国の活用を図っていると、こういった状況でございます。
○田村智子君 そのパンフレットをいつ送付をしたのかというところ、御答弁なかったんですけど。
○政府参考人(大西康之君) 済みません。ちょっとパンフレットいっぱいあるんですけれども、最初に申し上げた二つの「労働関係法令のポイント」と「労働関係法令の解説」については、各雇用労働相談センターの開設の前と承知しております。
また、知っておきたい働くときのルール、「知って役立つ労働法」、「これってあり? Q&A」の方については、これは先月であると承知しております。
○田村智子君 昨年質問したにもかかわらず、労働者が分かりやすいそういうパンフレットはやっと六月に、昨日お聞きしましたら中旬ぐらいですか、に送ったということなんですよね。
センターに送っていただいたのはいいので、是非活用してほしいのと、これは、今、マタハラの問題なんかもあるので、育児休業法や均等法について、これポスターやリーフも作っているわけですから、こうしたものも是非センターに送付をしていただきたいと、これ要求しておきます。
それで、全国の都道府県や政令市には、結局、雇用指針を送っただけなんですよ。あとは、ホームページで見てください、これはおかしいですよ。
雇用指針送ったときには、わざわざ表書き付けているんです。雇用指針の活用についてと。そこにどんなこと書いてあるか。国家戦略特別区域ではない地域におかれましても、企業や労働者への情報提供や助言等、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上の一助として御活用いただきますようお願い申し上げますと。
しかし、この指針は、私が先ほど指摘をしたように、弁護士でさえも誤解をするような代物なんです。紛争の未然防止などという、労働行政が示したこともない、極めて問題の多い記述もあるわけです。
私は、本来はこれは回収すべきだと思いますよ、都道府県に送ったものは。だけど、少なくとも、審議官が前の委員会で答弁された、雇用指針を活用する際には、既存のパンフの活用もと、こう言われたわけですから、それじゃ表書きを付けて既存のパンフレットの活用をお願いすると、こういう扱いが必要だと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(大西康之君) 都道府県や政令市がそのような労働相談事業や啓発事業を行う場合に活用していただけるように、そういったパンフレットの送付をしてまいりたいと思います。
○田村智子君 この雇用センターについては、解雇指南センターになっていないかどうかというのを引き続き私たちも注目をして、また取り上げていきたいというふうに思います。