国会会議録

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保育料滞納 保育所退所の条項 田村智子氏に厚労省 「不適切」

 日本共産党の田村智子議員は7日の参院内閣委員会で、4月からスタートした子ども子育て支援法のもとで起きている混乱や後退状況について政府の姿勢をただしました。

 子ども子育て支援法においても、児童福祉法24条第1項の保育所における保育実施義務は維持されています。保育料の滞納があった場合でも自治体は保育を解除することはできません。熊本市や前橋市など一部の自治体では、保育料滞納の場合に保育所を退所させる旨の条項を含んだ重要事項説明書のひな型が保育所に示されています。いくつかの保育所では、このひな型をもとに重要事項説明書が作成されています。

 田村氏はこの事実確認と指導を求めました。厚労省の木下賢志審議官は、「保育料の滞納を理由に保育所を退所させることができるという周知は適当でない。指摘の資料を確認したところ、適切でない。誤解のない適切な対応をすべきだ」と答えました。田村氏は認定こども園での滞納についても、子どもの福祉の観点から自治体と連携して対応するように求めました。

 田村氏は、標準保育時間認定の保育料を現行の1・375倍にした墨田区や、新制度移行に伴って持ち出しが大幅に増えることを理由として保育料を大幅に引き上げた山形市の例を取りあげ、改善を求めました。

 

【 議事録 2015年4月7日 参院内閣委員会】

○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
 昨年二月、日本でも障害者権利条約が発効いたしました。国内法整備として改正された障害者基本法の施行に続き、障害者差別解消法も来年施行となります。この下で、地方公共団体は障害者への差別の禁止という原則の下で施策を進めることが求められています。結果として障害を理由とした差別となるような施策を導入することはあってはならないと考えますが、内閣府、いかがでしょうか。
○政府参考人(武川光夫君) 障害者基本法は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しながら共生する社会を実現することを目的といたしております。その原則といたしましては、地方社会における共生、差別の禁止などを規定しているところでございます。
○田村智子君 山梨県では今五歳児までの子供の医療費を窓口無料としています。また、重度心身障害者の医療費も窓口無料としてきました。これ、全国でも大変進んだ取組です。しかし、二〇一四年十一月からこの障害者の医療費が償還払いに変更となったことで、子供を対象とした医療費助成で見ますと、重度心身障害児だけが窓口無料ではなく自動償還払いの対象となってしまったんです。
 保護者から寄せられた声は大変切実です。会計が済むまで一時間以上掛かり、うちの子は障害児なんだと思い知らされた。ぜんそくの治療や耳鼻科の受診もあり、後から返ってくるお金であってもそのたびの負担は重い。リハビリの回数を減らしている。車椅子はほかの子の眼鏡と同じだよと自信を持って育ててきた。どうして私は帰れないのと会計を待つ娘の問いに答えられなかった。こういう声が寄せられているんですね。
 私は、こういう扱いは障害者基本法第四条、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為はしてはならないに抵触すると考えますが、大臣の感想をお聞かせいただきたいのと、あわせまして、障害者権利条約とその関連法について、やはり地方公共団体が果たす役割というのをいま一度丁寧に周知すべきだと思いますが、併せて御答弁お願いします。
○国務大臣(有村治子君) お答えいたします。
 障害者施策は、やはり全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し、支え合う共生社会の実現を目指し、幅広い国民の理解を得ながら推進していくことが重要だと認識をしております。この理念というのは、国家はもとより、地方公共団体が施策を進める上でも重要な原則だと認識をしております。
 今委員が例として挙げていただきました山梨県の施策については、委員御案内のとおり、地方自治体における自治事務であるため、国の立場でコメントすることは適切ではないということで差し控えさせていただきますが、様々な状況を踏まえて当該地方公共団体が総合的に御判断されたものだと承知をいたしております。当然ながら、障害者の皆さんが障害者であるということで差別的な取扱いをしているとは山梨県も思いませんけれども、そこは地方自治との、財政との関係でそういう御判断がなされたものだと理解をしております。
 後半、委員が御指摘のように、これから地方公共団体の役割の周知ということについては、障害者権利条約の趣旨を踏まえ障害者基本法が改正されました。また、これに基づく地方公共団体において着実に施策が実施されるよう、内閣府が情報提供に努めています。御紹介いただきました来年四月施行の障害者差別解消法、また基本方針の内容、すなわち差別的取扱いをしちゃいけない、合理的配慮提供義務があるということも地方公共団体に引き続き情報提供を強化していきたいと考えております。
○田村智子君 是非、障害者の皆さんはこの差別解消法にとても期待もされていて、国も地方自治体も、やはり差別の解消ということが進むように一緒になって取り組んでいただきたいと思います。
 今日は、子ども・子育て新システムの問題について質問いたします。
 四月一日から子ども・子育て支援法が施行となりました。様々な混乱や後退が起こっているのですが、その中でも重大と思われる問題に絞ってお聞きします。
 この新システムの下でも、児童福祉法第二十四条一項は、市区町村に保育に欠ける児童に対する保育実施義務を課しています。これは改正前の扱いと同様で、保育料の滞納があっても、そのことを理由に退所させることはできないというふうに思いますが、改めて厚労省に確認いたします。
○政府参考人(木下賢志君) 保護者と施設の間での直接契約でございます認定こども園等と異なりまして、保育所につきましては、児童福祉法第二十四条第一項に基づきまして、市町村は保育を必要とする子供について保育所において保育しなければならないとされ、先生今御指摘の言わば保育の実施義務が課されております。
 これを受けまして、保育所の利用は保護者と市町村の間での契約となりますけれども、市町村は滞納された保育料を強制徴収できる仕組みが設けられております。したがって、子供が保育を必要とする場合であれば、仮に保護者が本来払うべき保育料を滞納したとしても、子供を強制的に退所させることはできないと考えております。この場合におきましても、市町村は滞納された保育料を強制徴収することは可能でございます。
○田村智子君 資料でお配りしました一ページから四ページ、熊本市と前橋市が保育所に配付した重要事項説明書のひな形です。熊本市のもの、これ二ページ目にありますが、「保育料等の支払について滞納があった場合には、過去のお支払状況等を考慮し、本園の判断により退園とさせていただく場合があります。」とあります。前橋市も、正当な理由がなく保育料が三か月以上未納の場合、契約解除するということを明記していて、どちらも保護者の同意と署名を求めています。
 自治体が保護者の合意を盾に退所を求める、そういう事態が起こるのではないかと、率直に言って大変驚きました。保育に欠ける状態にある児童である以上、自治体の保育実施義務は免ぜられることはありません。自治体がこのような法律に反して無効の契約のひな形を示すことは許されません。事実確認の上、必要な指導をしていただきたいと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(木下賢志君) 今先生御指摘の資料でございます。先ほど答弁申し上げましたとおり、保育所の利用につきましては、保護者が本来支払うべき保育料を滞納していたとしても、当該子供を強制的に退所させることはできないと考えております。したがって、保育料の滞納を理由として保育所を退所させることができる旨を周知することは適当でないと考えております。
 今御指摘のこの資料につきまして確認いたしましたところ、重要説明書に、ひな形にそのような記述があるということでございますから、必ずしも適切でないと思っておりまして、誤解のない適切な対応が図られるべきものと考えております。
○田村智子君 実際保育所から指摘があってひな形を撤回をしたというふうに聞いていますが、私の事務所の下には、ほかの自治体でも同様のひな形が作られ示されていたということが情報として寄せられています。ということは、少なくない自治体で同じ問題が起きている可能性があると思います。これはたまたまじゃないんです。制度の複雑さにも起因をしていると私は思います。
 新システムの法案は、当初、児童福祉法二十四条一項、市町村の保育実施義務を削除するとしていたものが衆議院で修正されて、改正前の基本的な構造が維持されました。しかし、それに伴う子ども・子育て支援法の方の修正は附則の修正にとどまったんです。さらに、政省令を見ると、運営基準省令は、本則では直接契約を前提とし保育所が入所選考を行うと書いた上で、附則で私立保育所にはその規定が適用されないという、そういう旨が記されている。大変複雑なんです。市町村条例もこれに倣った書きぶりとなっていて、条例を立案した人は分かるけれども、運用する担当者とか事業者の側は、本則の方を見て、ああ、保育所と保護者の直接契約が原則になったんだなと、こう考えてしまったことが原因として考えられるわけですね。
 これ、大臣の見解をお聞きいたします。
○国務大臣(有村治子君) 先ほど厚労省からもお答えがありました児童福祉法第二十四条一項、市町村が、公立、私立にかかわらず、保育所において保育を実施しなければならないという実施義務がございます。御指摘のように、平成二十四年の子ども・子育て関連三法の国会審議において、まさに保育の実施については市町村の強い関与を維持すべきということで修正が行われ、本規定が残されました。ここには、やはり虐待のお子さんもいらっしゃる、経済的に困難な方もいらっしゃる、そういう現実を踏まえてしっかりと自治体の関与を残すべきだという先生方の強い政治的な意思が表れた、そういう合意だと認識をしております。そういう意味で、保育所における保育は市町村が実施することとされていることに伴い、従来どおり、市町村と保護者との契約となっております。
 子ども・子育て支援法の附則においては、御指摘のとおり、私立保育所における保育の費用は市町村から施設に対して委託費を支払うというふうにされています。
 この国会で委員の御質問によって現実が明らかになり、また私たちもそれを明示していくように努めていきたいと考えております。
○田村智子君 これは、児童福祉法二十四条一項が維持されたのがなぜなのかということを改めて行政機関に十分周知することが必要だと思います。
 実は、質問準備の過程で内閣府と厚労省に事務所に来てもらって説明を求めましたら、厚労省の担当者さえ保育料滞納による退所があり得るという、そういう御説明もされて、私は大変驚きました。これでは法律を誤解する自治体が出てくるのも、まあ仕方がないと言ってしまうのもあれですけれども、出てくるんじゃないかというふうに危惧をしたわけです。
 私自身も、この新システムについての審議の中では、保育料滞納を理由とする退所、これどうなるんだということを質問してまいりました。先ほど大臣御答弁あったとおり、保護者の経済状態や姿勢にかかわらず、子供に対する福祉として、必要とする子供に保育を実施する義務が市区町村にはあるということが修正の理念だ、これ、審議の中でも繰り返し答弁があったわけですね。この二十四条一項が維持された趣旨あるいは国会での議論、いま一度しっかり周知すべきだと思いますが、いかがですか、大臣。
○国務大臣(有村治子君) 委員の御指摘と趣旨、理念を全く共有いたします。なぜ社会福祉という福祉のところで保育園がやってきたのか、その実績、またその経過ということをしっかりと鑑みた上で、その理念がこれからも全国各地で浸透されるように努力をしていきたいと考えます。
○田村智子君 それでは次に、認定こども園や地域保育給付施設の保育料についてお聞きをします。
 これらの保育施設は保護者との直接契約です。
 東広島市のホームページを見ますと、市内の認定こども園全て、保育料滞納を理由とする契約解除、つまり退所、これを明記しています。悪質な滞納が継続する場合には適切な手続が行われることを前提に施設、事業所において利用契約を解除できるということが自治体向けに、これは内閣府ですか、も説明しているというふうにもお聞きをしています。これは制度上そうだと思います。
 問題は、では、何をもって悪質な滞納というのかということです。厚労省の説明によると、悪質というのは、負担能力があって、督促を繰り返しても保育料が納付されない、こういうことだとしています。しかし、これは子供の利益を最優先にはしていないんですよ。
 滞納を繰り返している、何らかの問題抱えている、こういう家庭であれば、その家庭の中で子供の発達に悪影響が及ぼされている可能性もこれは考えられるわけです。退所させればむしろ子供の命や安全に関わる事態が発生しかねない、こういう考え方が必要だと思うんです。保育料の滞納について、やはり子供には何の責任も問えないわけですよね。子供の貧困であるとかネグレクトなど児童虐待も多発していることを踏まえれば、事業者に対して解除できるよということよりも、むしろ滞納問題を自治体と連携して対応しようねと、自治体に対しても、保育料の軽減とか自治体による保育の措置への切替えとか、子供の最善の利益を踏まえた対応が必要だと、こういうことを促すべきではないかと思いますが、内閣府、いかがですか。
○政府参考人(武川光夫君) 子ども・子育て支援新制度におきましては、認定こども園において保育を利用する子供については、市町村の利用調整を経た上で保護者と施設事業者が直接契約を行うことになっております。したがいまして、保育料の徴収は事業者が行うこととなっております。
 その上で、これらの施設につきましては、その児童福祉施設としての性格に鑑みまして、施設側で再三にわたり徴収に努めても支援に応じない保護者については、法律上、市町村が施設に代わって納付請求をできる代行徴収の仕組みを設けておりますが、更に必要な場合におきましては、先生がおっしゃるように、市町村が関与する仕組みとなっております。
○田村智子君 それを是非徹底してほしいんですよ。
 それで、今この代行徴収のお話ありました。その間、代行徴収を行っていれば、確かに事業所は契約解除をすることができないんです。そのことも是非周知してほしいんです。
 しかし、代行徴収、自治体が保護者からお金がちゃんともらえなければ、これ、事業所には収入、穴が空いたままになるんですよ、あくまで代行なので。本来、これは自治体が負うべき責任を事業所に押し付けているようなものだと私は思うんですね。
 国にお聞きしますと、自治体がまだ保護者からお金もらえていなくても、事業所に財政補填するということを妨げないよ、やってもいいよというんだけれども、国による支援はないよというわけですね。私、これも問題だなと思っていまして、国の財政支援も含めて子供の最善の利益という立場での対応を検討すべきかと思いますが、これは大臣に御答弁いただきたいと思います。
○国務大臣(有村治子君) 委員御指摘のように、保育の利用に当たっては、保護者と事業者の直接契約となっている認定こども園、地域型保育事業では保育料の徴収は事業者が行うことになっています。また、社会福祉施設、事業としての性格を有する事業者については、事業者側で徴収が困難である場合は、法律上、市町村が事業者に代わって徴収できる仕組みを設けています。自治体と連携してという委員の御提案は極めて大事なことだと思っております。
 子供の安全を最優先するということも大事な価値だと思っております。悪質な滞納、この何をもって悪質というのかというのは、これから明確になされることですけれども、一定の場合には、民事上必要な手続が適切に行われた上で、これを退園理由として利用契約を解除することもあり得る、これは否定しません。市町村が代行徴収の手続を行っている間に契約を解除することは適切ではないと思います。
 すなわち、悪質な滞納かどうかということを市町村がしっかりと把握をして、そして、例えば経済力のことが問題だとしたら、負担能力に応じた所得階層区分への変更を促す、また市町村が直接保育料を徴収する保育園への転園などを措置をするということで子供の安全がしっかりと地域の保育にアクセスができるようなこと自体を担保していくように最善を尽くしたいと考えます。
○田村智子君 これ、契約解除によって子供にどういう影響があるのかということを、是非、個別具体的に自治体と連携して対応するようにお願いしたいと思います。
 最後に、保育料のことについてお聞きします。
 新制度への切替えを機に保育料の値上げが相次いでいます。中には、制度変更によって自治体負担が増えることを理由としているものがあります。
 山形市、当初、生活保護世帯などを除き、月額八百円から一万一千八百円の値上げを予定していました。新制度への移行で市の負担が年間約二億三千五百万円増えるためと。だから、そのうち約八千万円を保育料値上げで補うというふうにしたわけですね。これ、資料でその新聞報道をお配りをしています。これ、反対署名も約一万筆、短期間で集まりまして、今は最大幅五千円の値上げということに抑えられたそうなんですけれども、新システムへの制度変更によって自治体の負担が増えてしまう。
 これ、幼稚園の私学助成が新制度に移行することによってなくなる、それで自治体の負担が逆に増えるなどの事例があるんですね。それを理由とする保育料の値上げが起きる、こうした問題を引き起こしている国の責任ということを、大臣、どのようにお考えになりますか。
○国務大臣(有村治子君) 子ども・子育て支援新制度における利用者負担額は、現行の幼稚園、保育所の利用者負担の水準を基に国が定めている水準を限度として市町村が定めるということになっています。
 この立て付けは、従来も新制度も同じでございます。その上で、具体的な額の設定に当たっては各市町村が全体として子育て支援を充実させていく中で、それぞれの事情を踏まえ適切に判断されているものだと理解をしております。
○田村智子君 これは制度変更に伴う負担増なんですよ。それが保護者の下にしわ寄せになっているんですよ。
 もう一点だけ指摘します。墨田区子ども・子育て会議に提出された資料をお配りしました。
 これ、新制度前の保育料の徴収基準額表、この表を短時間保育の保育料とした。標準時間の保育についてはその一・三七五倍とするというふうになったんですね。これ、大幅な値上げになっちゃうんですよ。これ、短時間保育の導入の理由について、保育料も低く抑えられて、今まで入所を諦めていたパートの人も利用しやすくなるよと、これが法案審議のときの説明だったんですけど、違うんですよ。短時間が今までのお金で、普通の時間で預けたらもっと高くなると。
 これではフルタイムは諦めろと言っているような制度になってしまうと思うんですけれども、大臣、どうですか、これは。
○委員長(大島九州男君) 有村国務大臣、簡潔にお願いします。
○国務大臣(有村治子君) はい。
 委員御指摘いただきましたように、保育の必要性ということで、今までは難しかったパートタイムあるいは夜間勤務ということも保育認定をする、幅広くその必要性を認定するというのが今回の趣旨でございます。そして、標準とそれから短期というところの何がフェアかということを考えた上で各地域が自治体の判断で委ねている。それも、自治体として、これ以上多くなっては困りますよという国が定める上限の範囲内であれば、それは適切に判断されているものと国としては認識をいたします。
○田村智子君 一言だけ。新制度、大変問題が山積みだということを指摘して、質問を終わります。
 ありがとうございました。


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