「大企業に対し、利益のため込みを賃金に回し応分の負担をするよう求めずに、どうして大幅な賃上げができるのか」―。日本共産党の田村智子委員長は11日の衆院予算委員会で、賃上げを抑制する一方、法人税減税を進めるなどして大企業の内部留保を増加させてきた自民党の政策を批判し、内部留保への課税で賃上げを実現するよう求めるとともに、ケア労働者の賃上げへの抜本的対策を政治の責任で行うよう要求しました。
田村氏は、「大企業を中心とした高水準の企業収益の一方で賃金が伸び悩んだ結果、内部留保が増加した」という石破茂首相の本会議(3日)での答弁をあげ、「これまでの政策の結果だ」と批判。石破首相は、人件費の割合などは「企業の判断だ」などとしながら「検証は必要だ」と認めました。
さらに田村氏は、岸田政権のもとで大幅賃上げが進んだというが、昨年の大企業の内部留保の積み増しが過去最大の28兆円だと指摘。同じ時期、物価高騰で国民の暮らしは厳しさを増し「食料支援の列に現役世代の姿が絶えなくなっている」と述べ、賃金に回らなかった内部留保を、労働者全体の賃金に回す政策転換が必要だと主張。日本共産党の内部留保課税を財源とした賃上げ政策を提示し、「政治の責任で働く人全体の賃金に回す仕組みを真剣に検討すべきだ」と求めました。
さらに、医療・介護分野での賃下げの実態を説明。日本医労連の調査結果として、年末一時金の平均額が昨年比約10万円減で、年収で賃下げという事態が起きていると告発。介護分野はさらに深刻だと指摘した田村氏は、報酬の度重なる引き下げで「介護職の低賃金構造」がつくられ、4月に基本報酬が引き下げられた訪問介護の事業所の倒産件数は今年10月で過去最多の72件だとして「ただちにマイナス改定を4月にさかのぼって戻すべきだ」と迫りました。
田村氏は、女性差別撤廃条約の実効性を強化するため個人が国連に通報できる制度などを盛り込んだ「選択議定書」の批准を要求。石破首相は司法制度や法律との関連で検討を要するとしたのに対し、田村氏は「批准できる政府をつくらなければ駄目なことが明らかになった。(批准を)検討している四半世紀の間、女性の権利がどれだけ踏みにじられたのか」と厳しく批判しました。
論戦ハイライト/対案示し、政策転換要求/田村委員長の質問/衆院予算委
日本共産党の田村智子委員長は11日の衆院予算委員会で、大企業の内部留保の賃上げへの還流を妨げ、医療・介護労働者の賃金低下を招き、日本をジェンダー平等後進国にした自民党政治を追及し、政策転換を求めました。
経済政策/内部留保課税で賃上げに還流を
「『アベノミクス』以降、大企業の内部留保は220兆円も増えた」―。田村氏は、石破茂首相の「大企業を中心とした高水準の企業収益の一方で、賃金や投資が伸び悩んだ結果、内部留保が増加した」との発言を示し、「これは、これまでの経済政策の結果だ」と厳しく批判しました。
田村氏は、アベノミクス以降、自公政権が「企業が収益を上げれば賃金に回る」と称して法人税減税を繰り返したと指摘。2013年から「賃上げ減税」が始まったが、「大企業の高水準の企業利益」は結局、賃金に回らず内部留保を増加させただけだと告発しました。
22、23年の内部留保の増え方は過去最大で、昨年、物価高騰で家計消費支出がほぼ毎月マイナスを記録し続けるなかでも膨らみ、積み増しが28兆円に及んだと指摘。派遣労働者の女性の「賃金が上がらず、人生に絶望してしまう」との悲痛な声や、「普通に働いているのに普通に暮らすことがこんなに難しくなるとは」との切実な声を突き付け、「ため込みがさらにひどくなっている」と告発しました。この28兆円が取引企業の単価引き上げに使われていれば中小企業の賃上げはもっと可能だったと批判しました。
また、今年3月期決算で5兆円の史上最高益となったトヨタの取引先、すそ野産業の中小企業に利益が回っておらず、同社の内部留保はアベノミクス以降、15兆円から34兆円と2倍以上に膨れ上がっていると指摘し「これをゆがみと言わず何と言うのか」と批判しました。
アベノミクス以降で増えた大企業の内部留保220兆円に課税し、中小企業の賃上げ直接支援に還流する共産党のプランを提案。課税にあたり大企業が内部留保を賃上げに活用すれば、その分は控除する案も示し、政治の責任で内部留保を働く人全体の賃金に回すことを要求しました。
赤沢亮正経済再生担当相 それとは違う考え方で好循環がつくれれば、日本経済が力強い成長軌道に乗る。
田村 個人消費が冷え込んでいるのは大企業が(利益を)賃金に回さずにため込んだからだ。これの転換をやらなかったら同じことの繰り返しだ。
田村氏は、増加する内部留保に国民が厳しい目を向けるもと、経団連すら「企業の応分の負担増の検討」を言わざるを得なくなっているとして、「応分の負担を、政府が求めずにどうするのか」と迫りました。
医療・介護分野/国負担引き上げ公約の実現迫る
医療・介護分野の収入の多くは診療報酬や介護報酬に依拠し、支出の多くは人件費が占めます。田村氏は「社会保障分野での賃上げは政治の責任が問われる」と指摘しました。
政府は今年4月の報酬改定で賃上げ財源を確保したと言いますが、日本医労連の調査によると、年間収入で賃下げが起きています。医療機関によっては年末一時金が昨年よりも平均で10万円も減少、中には20万円以上引き下げという回答もありました。医療従事者の大量離職が生じ、救急搬送の受け入れや手術の実施が困難となる状況も生じています。
田村氏は「政治の責任が極めて大きい。賃上げのために緊急かつ恒常的な手だてを取るべきだ」と迫りました。福岡資麿厚生労働相は補正予算に支援策を盛り込んだと述べるだけ。田村氏は「補正予算は一時的で、部分的な対策でしかない。賃上げへの抜本的な対策を行うべきだ」と求めました。
さらに深刻なのは介護分野です。賃金が低く人手不足が起きています。田村氏は「これはあげて政府の責任。2003年、06年、15年の介護報酬は大きくマイナスとなった。介護職の低賃金の構造は政治がつくった」と批判しました。その上、訪問介護の基本報酬は今年もマイナス改定となり、小規模事業所の中には所長の給料が8万円などといった非常事態が起きています。倒産した事業所は今年10月までで過去最多の72件です。
田村氏は、補正予算で一時金を払えるようにするというだけの政府答弁を挙げ、「それでこの危機的状況が解決できると思えない。直ちにマイナス改定を今年4月にさかのぼって元に戻すべきだ」とただしました。
さらに今年1月、岸田文雄前首相が国会で医療・介護・障害福祉分野での率先した賃上げの実現を表明したと指摘し、「言っていることとやっていることが全く違う」と批判。自民党が政権に復帰するときの総選挙で、介護保険の国負担割合を引き上げるとの公約を示して実現を迫りました。
田村 選挙での公約、国会の場での国民への約束は果たすべきだ。
首相 (賃金引き上げに)政府においてさらに努力する。
田村 総理の指示で抜本的な検討を指示するのが筋だ。
首相 公約したことの実現が一日も早かるべく努力する。
田村氏は、介護保険の国負担割合の引き上げを実現するよう重ねて要望しました。
女性差別撤廃条約/選択議定書批准できる政府ぜひ
「日本はジェンダー平等後進国だ」―。田村氏は、女性をはじめ多くの市民や経済団体が要望する選択的夫婦別姓制度の導入について、いまだに政権与党が妨害していると指摘。女性差別撤廃条約の実効性を強めるために、「個人通報制度」と「調査制度」を盛り込んだ選択議定書の批准を棚上げし続けていると追及しました。
個人通報制度は国内で女性差別を訴えても認められなかったときに、女性差別撤廃条約に照らした審査を求め、国際機関に通報することを個人の権利として保障するもの。条約批准国の大多数が批准し、347の地方議会で批准を求める意見書が採択されています。
田村氏は、日本政府が23回も検討会を開きながら、「検討中」と言い続け、10月には女性差別撤廃委員会から「時間がかかりすぎている」との指摘を受けたと述べました。
田村 批准の結論を出すべきときだ。
岩屋毅外相 国内の確定判決とは異なる内容の見解が示された場合、司法制度や立法政策の関係で検討すべき論点がある。
田村 国際機関から判決と違う勧告が出されても、その国の政府がどうするかを決めるだけの話だ。
田村氏は、コース別人事制度を政府が「間接差別」と認めないもとでの日本の男女賃金格差解消の遅れを指摘。裁判で男女賃金差別が認められなかった中国電力で働く女性が、個人通報制度で訴える機会を奪われたまま定年退職となったとして、「政府の棚上げによって、女性の権利は踏みにじられ続けている」と批判しました。
田村 選択議定書を批准しない。つまりは女性差別撤廃条約にまともに向き合わない。これが日本をジェンダー平等後進国にしているのではないか。
首相 女性差別撤廃条約によらずとも、男女の平等というものを実現することは国益にかなうものだ。
田村 検討で四半世紀。その間に女性の権利がどれだけ踏みにじられているか。選択議定書を批准できる政府をつくらなければならない。
2024年12月12日(木) しんぶん赤旗