外交・防衛政策とともに、経済政策を国家安全保障の柱にすえる経済安全保障法が11日の参院本会議で自民、公明、立民、維新、国民の各党の賛成で可決・成立しました。日本共産党は反対しました。日本共産党の田村智子議員は討論で、同法案が、中国の経済力・軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしたものであることをあげ、「仮想敵を前提とした安全保障戦略に、企業活動や研究開発を組み込むことは、民間企業や大学等への国家権力による監視や介入をもたらす」と指摘。しかも、政府が経済安全保障について「定義はない」と開き直り、具体的な目的・政策を明らかにしていないとして、「安全保障を理由とする規制が誰に対して、どのように行われるか、政省令に白紙委任するなど断じて認められない」と批判しました。
同法案は、「特定重要技術」の開発支援として官民協議会を設置することや、特許の非公開制度の導入、政府が指定する「特定重要物資」の安定供給のための計画提出などが盛り込まれています。
田村氏は、何が「特定重要技術」に当たるのか、官民協議会の設置を求めるかは、研究資金をもつ政府の判断に委ねられ、政府が研究成果の非公開を要請することも可能になっていることなどをあげ、「このような政府による関与は、学問の自由への介入であり、研究の発展を阻害する」と指摘。戦前の秘密特許制度の復活である特許の非公開制度が産業発展を阻害することや、安全保障を理由に企業活動への政府の監視・介入が強化される危険性を強調しました。
そのうえで、田村氏は「日本にとって最も問われるのは、米国からの自立であり、労働者をコストとみなしてきた経済政策の転換だ」と指摘。「国家体制や宗教などが異なる多様な国々を『価値観』によって分断し、敵対するのではなく、平和と共存共栄の国際秩序をいかに構築するか、それこそが追求すべき真の安全保障だ」と強調しました。
2022年5月12日(木) しんぶん赤旗
○田村智子君 私は、日本共産党を代表し、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案に対し、反対の討論を行います。
本法案は、国家安全保障の柱に、外交防衛政策とともに経済政策を据える戦略を更に強化するものです。政府は特定の国を念頭に置いていないとしていますが、中国の経済力、軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしていることは、参考人質疑でも自民党の質疑からも明らかです。事実、今年一月の日米首脳会談で、岸田総理は経済安保での緊密な連携をバイデン大統領と合意しています。
中国の軍事的威嚇や覇権主義、知的財産権をめぐる問題などは、事実に基づく厳しい批判と外交的な解決が求められます。ロシアに対する経済制裁も、侵略戦争を止めるための当然の政策です。しかし、漠とした不安や脅威をあおり、仮想敵を前提とした安全保障戦略に企業活動や研究開発を組み込むことは、民間企業や大学等への国家権力による監視や介入をもたらします。
しかも、政府は、経済安全保障について定義はないと開き直り、具体の目的、政策を明らかにしていません。安全保障を理由とする規制が誰に対してどのように行われるのか、政省令に白紙委任するなど、断じて認めることはできません。
以下、法案の内容に即して反対の理由を述べます。
第一に、特定重要技術の開発支援として官民協議会を設置することは、科学技術研究の軍事研究化を促進するものです。何が特定重要技術に当たるか、官民協議会の設置を求めるかは、研究資金を持つ政府の判断です。巨額の指定基金によって行われる研究は、全て官民協議会が設置されることになります。
なぜ官民協議会が必要なのか。官側のニーズや機微情報の提供を前提とした研究促進のためであり、研究者には罰則付きの守秘義務が課せられます。防衛装備など、軍事転用可能な最先端技術開発がその対象となることは明らかです。
官民協議会によって、政府は研究に直接関与し、研究成果の非公開を要請することが可能となります。小林大臣は、海外での懸念用途への転用が懸念される場合など、守秘義務の対象とは別に、研究成果の非公開を要請することがあり得ると認めました。科学技術は、研究成果が公開され、検証され、相互批判が行われることによって発展します。このような政府による関与は、学問の自由への介入であり、研究の発展を阻害すると言わなければなりません。
特定重要技術の研究開発促進のため、内閣総理大臣が行う調査研究、シンクタンクは、外部機関への委託が予定されています。自衛隊、警察、米国防総省の関係者などとの人事交流も排除されません。大学や研究者に対するデュアルユース研究の状況調査、また軍事研究を忌避する大学への働きかけなどにより、軍事研究への参加促進を図るものと言わざるを得ません。
法案審議では、日本学術会議の軍事的安全保障研究に関する声明への批判が自民党の質問で繰り返されました。この声明が大学に与えた影響を調査し、一覧にして公表せよと、学術会議事務局への要求も行われました。これ自体が学問の自由への介入であり、内閣府学術会議事務局が調査と公表を行う旨答弁したことは余りにも重大です。
軍事研究について大学や科学者がどういう態度を取るのか、それは科学者のコミュニティーによって議論され決定されるべきものです。本法案によって学問の自由への介入が強く危惧されると指摘しなければなりません。
第二に、特許の非公開制度は、戦前の秘密特許制度の復活であり、産業発展を阻害するものです。
我が国の特許制度は、公開を原則とすることで新しい技術を人類共通の財産とし、技術の進歩と産業発展に寄与していますが、その唯一の例外が日米防衛特許協定です。この協定の対象となり秘密が解除された九十九件のうち、純粋な軍事技術は一割にも満たず、ほとんどがデュアルユース技術であること、中には二十年にわたって秘密指定された技術もあることが明らかになりました。
デュアルユース技術が非公開とされ海外出願禁止となれば、日本の産業発展を阻害することになります。また、学会などでの意見交換までもが処罰の対象となるとの答弁は重大です。
第三に、企業活動への政府の監視、介入が強化されることです。
基幹インフラの設備導入や更新の際、事業者に罰則も付して、納品業者、委託業者等の事前届出を課し、政府による審査、勧告、命令まで行うとしています。
米国政府が二〇一七年十二月の国家安全戦略により中国のファーウェイ等を排除し、日本でも二〇一八年十二月、IT調達申合せにより、サーバー装置、パソコン端末等の政府調達についてNISCによる審査、助言が行われています。審査対象は二〇一九年度から二〇年度で五倍、懸念ありとされた件数は一・五倍に急増しています。NISCは省庁に対してさえ、審査基準、懸念の理由を明らかにしていません。民間の基幹インフラ事業者に対しても、製品だけでなく、納入業者、保守管理業者など、基準がブラックボックスのままに審査されることになります。
特定重要物資は、外国政府からの敵対的行為によって供給が途絶えることのないよう対策が求められ、事業者には取引先など安定供給の計画提出が課されます。中国への対抗措置であることは明らかですが、政府は特定の国を対象にしたものではないとしており、何が規制されるのか不明確で、経済界から懸念の声が上がっています。参考人質疑では、経団連の原一郎参考人から、レッドラインを明確にしてほしいという発言までありました。
生物兵器製造に転用可能な機械を中国に無届け輸出したとして大川原化工機の社長など三人を逮捕、一年近くも勾留し自白を強要した冤罪事件は、経済安保の取組事例として警察白書に今も掲載されています。委員会審議で警察庁からは何の反省の弁もなく、同様の事件が起こることが強く懸念されます。
警察によるいきなりの捜査を回避するために、企業は政府との情報交換を常態化させることになります。また、特定重要物資については、サプライチェーン構築のため、基金による多額の助成が特定企業に行われます。これらが民間企業と政府の癒着を強めることは自明の理です。
岸田総理は、経済構造の自律性、技術などの優位性、不可欠性、基本的価値やルールに基づく国際秩序の維持強化が経済安保の目標だと答弁しました。
一九八〇年代に世界のトップランナーだった日本の半導体産業が凋落したのはなぜか。米国が日本を脅威として圧力を掛け、日米半導体協定によって、事実上、価格決定さえも米国に握られ、外国製半導体の購入を約束させられたからにほかなりません。また、新自由主義の経済政策によるリストラが中国などアジアへ技術者を流出させたことも大きな要因です。日本にとって最も問われるのは、米国からの自立であり、労働者をコストとみなしてきた経済政策の転換です。
また、ロシアのウクライナ侵略戦争によって、国連憲章という平和の国際秩序への国際社会の結束が最も求められています。国家体制や宗教などが異なる多様な国々を価値観によって分断し敵対するのではなく、平和と共存共栄の国際秩序をいかに構築するか、それこそが追求すべき真の安全保障であることを述べ、反対討論を終わります。(拍手)