「世界に誇る日本のアニメ文化だが、制作現場の労働条件はきわめて劣悪だ」。日本共産党の田村智子議員は24日の参院文教科学委員会で、アニメーション制作現場の深刻な実態を告発。東京都のアニメ制作会社「A‐1 Pictures」の男性アニメーター(当時28歳)が、2010年10月に過労によるうつ病が原因で自殺した背景に「月600時間(1日あたり20時間)労働」で、残業代も未払いという異常な労務実態があったことを示しました。
田村氏は、日本アニメーター・演出協会が2008年に行った調査(728人を対象)では、アニメーターの賃金は年収200万円未満が9割で、労働時間管理がなされず、社会保険も未加入という事例が多数あったと指摘。「労働条件改善の啓発を行うことが必要ではないか」とただしました。
下村博文文科相は、日本のアニメ産業を支えるアニメーターの多くが、全国平均を大きく下回る低賃金のもとでの労働を余儀なくされているとの認識を示し、「国内の優れたアニメーターが育ちにくい状況が指摘されている」と答弁。労働環境の改善に取り組む姿勢を示しました。
【 議事録 】
○田村智子君 海賊版への対策が急がれる下で、電子書籍への出版権の拡大は必要な法改正だと考えます。一方で、参考人質疑でも指摘をされました、紙の出版物と電子書籍双方の発展のために施策検討は大変重要ですが、時間が大変短いので、これは指摘にとどめます。
視聴覚的実演家の権利について質問いたします。
この国会で北京条約批准の承認も行われる方向ですが、この条約は、視聴覚的実演について実演家の財産権を規定しています。一方、日本の著作権法では、実演家の財産権が映画については除外されていて、DVDやネット配信など二次利用による収益は、法律上、俳優や声優などには還元されない仕組みです。このことに対しては、日本芸能実演家団体協議会や日本俳優連合などが映画についても二次利用に関わる実演家の財産権を認めるようにと繰り返し要望していて、北京条約批准を契機として、著作権法の改正も期待がされていたところです。
ところが、日本政府は北京条約採択の外交会議の場で、既に著作権法第九十一条等と本条約とは整合性が取れている旨の発言をしていて、これが外交会議の議事録にも記録をされました。このことは、文化審議会著作権分科会国際小委員会にも報告をされています。
一体、文化庁は俳優や声優などの実演家の皆さんからの繰り返しの要望をどのように受け止められていたのか、お答えください。
○政府参考人(河村潤子君) 我が国全体といたしまして、この北京条約の交渉過程において実演家団体等と意見交換を行ってまいりました。本条約の作成及び締結については、その過程でおおむね支持が得られているものと存じます。
本条約実施のための著作権法改正についても実演家団体等と意見交換を行ってきたところでございます。一部の団体から、今後の課題として、実演の二次利用について実演家に適切な対価が還元されるための制度整備を望むという御意見がありまして、この点については、関係者の合意形成の状況や円滑な利用への影響などを踏まえながら、今後、必要に応じ検討を行うべきものと受け止めております。
○田村智子君 現行法制度が作られた一九七〇年当時から、映画の二次利用というのは今日大変に拡大をしています。秀和システム社がまとめた二〇〇六年のデータを見てみますと、映画の興行収入はこの年、二千二十九億円、これに対して映画のマルチユース市場は五千四百八十億円と、二・七倍にも上っています。しかし、俳優の皆さんは映画制作時の出演料を一度受け取るだけで、その出演料も、日本俳優連合のアンケート調査によりますと、主演クラス以外の方々は今低予算化が進んでいて七、八割方下がっていると、こういう指摘もあります。
これは、これからの映像文化の発展のことを考えますと、やはり映画に出演されている俳優の皆さんに対する財産権の保障というのは、これは検討がされるべきだと思います。実際、日本でも、声優の皆さんは長年運動に取り組んできまして、二次利用分の報酬は出演料とは別建てで受け取るという仕組みを確立してまいりました。
こうした取組も参考にして、まずは当事者間での協議が前向きに進むように政府としての働きかけも必要だと思いますが、大臣の所見を伺います。
○国務大臣(下村博文君) 実演家の許諾を得て映画の著作物に録画されている俳優の演技などの映像の実演については、当該録画物を更に録画したり放送したりするなど二次的に利用する場合には、実演家の許諾や報酬の支払には、必要ない、対象にならないということとされているわけでございます。これは、映画の著作物は通常一つの著作物に多くの実演家による実演が含まれている場合が多いため、当該映画の著作物の二次利用について、個々の実演家の許諾を不要とすることで映画の著作物の円滑な利用を図り、実演家は最初の録画の際にその後の二次利用も含めて対価を得ることとしたということであります。
視聴覚的実演の二次利用に関する実演家の権利の在り方などにおきましては、当事者である実演家団体と映画制作者団体等の間で協議が進められることがまずは肝要であるというふうに考えます。
文科省としては、関係者の合意形成に資するように、視聴覚的実演の二次利用に関し、参考となる事例の収集、分析を進めてまいりたいと考えております。
○田村智子君 是非、私は法改正にまで進んでいくようなことが必要だと思いますので、前向きに取り組んでいただきたいと思います。
この映画については、一昨日、二十二日、文化芸術振興議員連盟の映像問題研究会で、映画監督の崔洋一氏から映画制作に関する報告をお聞きする機会もありました。その中で、映画興行の収入は、まず映画館が半分を取る、それから配給会社や宣伝部門などが確保をして、制作する側、スタッフの側には、制作委員会には最後に還元されるということなどが説明をされまして、映像文化の制作者に支援が必要だということを痛感をいたしました。
この点で、今日はアニメーション制作現場の問題についてお聞きをしたいと思います。
世界に誇る日本のアニメーションの文化ですが、制作現場の労働条件は極めて劣悪です。東京都のアニメ制作会社A―1Picturesで正社員で働いていたアニメーター、二十八歳、男性の方です、この方が二〇一〇年十月に自殺をされました。この自殺は過労によるうつ病が原因であると新宿労働基準監督署が今月十一日労災認定を行いました。この男性のカルテには、月六百時間労働などの記載があり、三か月間休みなし、残業代も未払だったということも報道されています。
これ、月六百時間労働というのは三十日間毎日二十時間働き続けるという働き方で、余りに異常です。日本アニメーター・演出協会が二〇〇八年に行った調査、七百二十八人から回収があったということですけれども、これ賃金を見てみますと、動画の部門で年収二百万円未満という方が九割、回答者の九割、百万未満という方も半数おられたということです。労働時間の管理がされていないとか、社会保険未加入だという事例も多数に上っていることが分かっています。
これは、当然労働行政サイドから指導監督がそれぞれの会社にやっていくということも求められているんですけれども、やっぱり業界の問題、全体の問題でもありますので、映像文化の問題、映像文化を制作しているという分野の問題として文化行政からも労働条件改善の啓発を行うことが必要でないかと思いますが、大臣、お願いいたします。
○国務大臣(下村博文君) 御指摘ありましたように、文部科学省でもアニメーターの生活実態について、平成十七年、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会が実施した実態調査によると、ほとんどの年代で全産業の平均額よりも相当下回っていると。特に二十代、二十歳から二十九歳では、アニメーターの平均年収が百三十一・四万円、全産業の平均額は三百四十二・九万円ですから、これは、また相当過酷な労働時間を伴ってですから、恐らく労働時給で言ったら相当な低い中での余儀なくされている状況があるのではないかと思います。さらに、近年、動画の制作工程が海外に流出し、それに関わる人材が減少するなど、国内で優れたアニメーターが育ちにくい状況も指摘をされております。
このような状況を踏まえ、文科省として、引き続きアニメーター等の活動や生活の実態把握に努めるだけでなく、若手アニメーターの人材育成事業を通じてその活動の支援をしっかりと図っていくことが必要であるというふうに認識しております。
○田村智子君 平成十七年当時と比べても、今デジタル化が進んでいて、更に労働条件厳しくなっているという指摘もあるんですね。
今、クールジャパン戦略にアニメ産業が位置付けられていて、文化庁も若手アニメーター育成プロジェクトとして二〇一〇年度からOJTを中心とした事業を制作会社に委託をされています。昨年度の委託会社の一つが今挙げたA―1Picturesなんです。私、OJTを行うための予算を否定するものではありません。しかし、少なくともその委託先の会社が労働環境が改善されるような事業に結び付いていくようなことが求められていると思うんです。
今、動画ワンカット二百円、この四十年間で百円しか引き上げられていないと言われるような制作費について、適正な労働時間と賃金を保障するものになるように働きかけるとか、DVDやネット配信、キャラクター製品等二次利用による収益が制作者、アニメーターにも還元されるような仕組みということも、これは検討していくことが必要だと思います。行政サイドからできることはあると思います。
既に、東映アニメーションでは、こうした異常な事態の中で、テレビアニメメーンスタッフへのロイヤリティー還元、支払ということを始めていて、七〇年代の作品にまで遡って二次利用の収益の還元に踏み出しているということです。
こうした取組も是非お調べいただきまして、その取組が広がるように、そうなってこそ世界に真に誇れる日本の文化の発信となると思いますので、そうした取組やっていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(下村博文君) 先週土日にASEANプラス3文化大臣会合がベトナムでありまして、六回目、日本の文部科学大臣として初めてなんですが、出席をし、同時に、初めて日・ASEAN文化大臣会合を今年から開催する、スタートするということにいたしました。
その中で、ASEAN諸国からも特にこのアニメについての期待感というのは非常にありまして、アニメーター等を是非送ってほしいと、あるいは、各大学でアニメを学ぶ、そういうコース等も設定したいということで日本の支援をしてほしいという要望がありました。
是非、このアニメが世界に誇る日本の、産業的にも十分成り立って、そして、関係者の方々が最低でも平均的なほかの産業界の所得が得られるような環境づくりをトータル的につくるということが日本のポップカルチャーの育成のためにも必要なことであるというふうに思いますし、トータル的なそういう視点から文部科学省としてしっかり取り組んでまいりたいと思います。
○委員長(丸山和也君) 田村君、時間です。
○田村智子君 最後にですけれども、映像文化制作者へのそうした支援というのは本当に急がれていて、単行本で大ヒットをして、昨年テレビアニメ化された「進撃の巨人」が放映開始から間もなくアニメーター急募ということを総作画監督がツイッターで発信してファンに衝撃を与えたという、こういう事例もあるんです。
制作者の労働環境の改善なくして映像文化の発展はあり得ませんので、文化行政としての支援を強く求めまして、質問を終わります。