新型コロナウイルス対応のための改定特別措置法、改定感染症法などが、3日の参院本会議で自民、公明、維新、立憲民主の各党の賛成多数で可決・成立しました。日本共産党、国民民主党などは反対しました。共産党の田村智子政策委員長は反対討論で、罰則の導入を必要とする根拠、立法事実がないまま拙速に審議が進んだと抗議。「感染症の抑制には市民の自覚的な協力、社会的な連帯が必要だ。罰則ではなく補償こそが求められている」と強調しました。
田村氏は同日、参院内閣委員会と、同委員会・厚生労働委員会の連合審査でも質疑に立ちました。
本会議で田村氏は、入院措置や感染経路の調査に応じない患者に罰則を科す感染症法について、政府の言う立法事実は「知事会の要望」「罰則を求める国民の意見」だけだと指摘。ハンセン病や結核、HIVの例を挙げ、「感染への不安から、患者の隔離や行動履歴の告白を求める声が差別と化し、強制隔離政策という国による史上最悪の人権侵害になった」と述べ、「歴史的反省はどこへいったのか。患者の人権擁護を貫く施策こそ求められている」と強調しました。
田村氏は、特措法では「まん延防止等重点措置」について、「緊急事態宣言の発令前から罰則付きで私権を制限するのに、要件についてまともな答弁はないままだ」と批判。「事業者が安心して自覚的に感染抑制に協力するには補償こそが求められている」と主張しました。
また、コロナ患者の受け入れ要請に応じない医療機関名の公表についても、減収補填(ほてん)など医療体制整備への責任を果たさないまま「社会的制裁で脅すことは全く道理がない」と指摘。急性期病床の削減、診療報酬の引き下げなど長年の政策が医療機関の余力をそいできたと批判しました。
2021年2月4日(木)しんぶん赤旗
【新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案 反対討論】
日本共産党の田村智子です。
冒頭、河井あんり氏の議員辞職について一言申し上げます。
疑惑報道から一切の説明がないまま今日に至りました。それを許した自民党の責任も問われます。本人及び総理が国民に説明することを強く求めて、以下、会派を代表し、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
第一に、感染症法に患者に対する罰則を創設することは、感染症対策の進むべき方向をねじ曲げる歴史的な逆行です。
正当な理由なく入院を拒否した、積極的疫学調査を拒否した等を罰則の要件としていますが、昨日の本会議で、私は、当初の政府提出法案では刑事罰まで科すとしたほど重大な立法事実は何か明確に示すよう求めたにもかかわらず、菅総理は知事会からの要望としか答弁しませんでした。また、本日の審議では、田村厚労大臣が国民の中に罰則を求める意見があると答弁しました。これが立法事実だということに私は血の気が引くほどの衝撃を受けています。 ハンセン病市民学会は、二月一日の声明で、立法事実すら何ら明らかになっていない状況で拙速に浮上したものであり、議論、検討はほとんどなされていない、根拠となっているのは漠然とした不安感でしかない、有事の際、人々はともすれば不安感に駆られて極端な行動に走り、かつての無らい県運動のような人権侵害行為に走りがちである、政府のなすべきことは、これに法的根拠を与えることではなく、人々に対し冷静で合理的な行動を呼びかけることであると述べています。
感染への不安から、患者を隔離しろ、逃げないようにすべきだ、どういう行動をしたのか明らかにしろ、こう求める声は、結核でもHIVでも患者に対する差別となって襲いかかり、ハンセン病では強制隔離政策という国による歴史上最悪とも言える人権侵害になったのです。元患者や家族の皆さんの裁判闘争によって行政府と立法府は人権侵害を認め、二度と過ちを繰り返さないと謝罪し、これが一九九八年に制定された感染症法の前文に患者の人権擁護がうたわれる大きな契機となりました。一体、この歴史的反省はどこへ行ったのか。
短期間で患者当事者、医療、公衆衛生、法曹関係など次々、罰則規定への反対の要請、声明などが出されていますが、どれも新型コロナ感染者への差別、攻撃、感染したことが犯罪であるかのような風潮を助長させることへの懸念が示されています。
感染症は、患者に対して外出しないことを求めるなど、私権の制限が避けられません。だからこそ、納得と理解の下で入院や積極的疫学調査を行うことが必要です。新型コロナに感染したというだけでも患者のショックは大きい、周りに迷惑を掛けてしまうとさいなまれる、高熱の下で保健所の聞き取りに答えることもつらい。そのときに、保健所の聞き取りで誰と接触をしたのかを正直に話さなければ罰則が掛けられますよなどと告げれば、まさに犯罪者として扱われたという思いになることが本当に心配です。保健所の現場からは、患者との関係性が困難になると、懸念と反対の意見も示されています。 なぜ、これらの意見が顧みられないのか。拙速な議論、立法事実なき罰則規定の創設に断固として抗議するものです。
求められているのは、患者の人権擁護を貫く具体の施策です。治療や療養、自宅待機の間の所得保障などを本会議でただしましたが、公的医療保険の傷病手当の対象とならなければ貸付制度しかない、また、感染を理由の解雇の違法性さえ総理として明言しなかったことは重大です。
また、入院できずに自宅で亡くなる方がおられる下で、新型コロナの患者の自宅療養を感染症法に位置付けたことも、患者の人権擁護からの後退と言わなければなりません。
第二に、特措法に事業者に対する罰則を規定することは、長期にわたる新型コロナの影響で苦境に立つ事業者に、補償もなく休業や時短営業に従わせるというものであり、反対です。 昨年の緊急事態宣言以来、東京都では事業者に対する協力要請がどのように行われていたかを見てみると、要請が何も出されていない期間は僅か三か月程度です。長期に苦しみ、事業を続けることへの不安や諦めさえも広がる下での二度目の緊急事態宣言、そのさなかに要請に従わなければ罰則だと脅すような法改定は絶対にやるべきではありません。
しかも、緊急事態宣言を発令しなくとも罰則を科すことができるように、まん延防止重点措置という新たな規定まで設けようというのです。どういう基準でどのような措置がとられるのかは、全て政令に委ねられています。国会への報告も義務付けていません。私権の制限を罰則付きで行うのに、その要件についてまともな答弁はないまま政府にフリーハンドを与えるなど、あり得ません。
まん延防止重点措置は、特定の区域を政府が指定し、都道府県知事はその区域で特定の業種に罰則付きで時短営業を求めることになります。指定された区域や業種に対して社会的な分断、差別が持ち込まれ、事業が潰れても仕方がないという風潮につながれば、まさに補償ではなく罰則で要請に従わせることになってしまいます。
今回の緊急事態宣言は、昨日、一か月の延長とされましたが、解除となっても特定の区域に対してまん延防止等重点措置が続けられることも想定されると西村大臣は答弁しています。特定の区域や業種には延々と緊急事態宣言が続くのと同じことです。
感染症抑制には自覚的な協力が必要であり、社会的な連帯こそが求められます。事業者が安心して自覚的に感染抑制に協力するには、まさに罰則ではなく補償こそが求められていることを重ねて強く訴えるものです。
第三に、特措法によって新型コロナ患者受入れ要請に応じない民間医療機関に名前の公表という社会的制裁を行うことは、政府の長年の医療政策の失政を顧みずに、現在の病床逼迫の責任を民間医療機関に押し付けるものだと言わなければなりません。
政府は、医師や看護師などの人員がそろい、地域の医療体制が整っているにもかかわらず応じない医療機関を想定していると言いますが、委員会質疑の中で、東京、大阪など現に医療が逼迫している地域においてさえそのような医療機関があるとは答えることができませんでした。
少なくない感染症の専門家が、民間医療機関で協力できる余力があるところは既に新型コロナ患者を受け入れていると指摘しています。人員、診療の経験、経営上の理由から入院受入れが難しいと考えている病院にも更に協力を求めるというのであれば、昨年の緊急事態宣言後、減収補填を十分に行って医療機関の経営不安を払拭した上で、診療の研修など丁寧な対応をすべきだったのです。やるべきことはやらずに、社会的制裁で脅して要請をすることは、全く道理がありません。
また、診療報酬による急性期病床の削減、診療報酬の引下げなど、長年の社会保障抑制政策が新型コロナウイルス患者の受入れ余力をそいできたことは明らかです。そのような政府の施策の失敗を不問にして、それに苦しめられた医療機関に病床逼迫の責任を押し付けることは許されません。
また、検疫法に感染者の自宅待機を位置付けましたが、これは病原体が国内に侵入することを防止することを目的とした検疫の水際対策に穴を空けるものです。本来、二週間滞在可能な宿泊施設を空港等に用意し、その間の生活物資の保障をすることが求められているということも指摘をいたします。
最後に、新型コロナの患者とコロナ禍で苦悩する事業者を支える政治、共に生きようと呼びかけ、社会的連帯を築く政治に全力を挙げることを表明し、反対討論を終わります。
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