国会会議録

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個人情報保護が後退/デジタル法案 参考人が懸念/ 参院内閣委
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(写真)発言する三木由希子参考人=6日、参院内閣委

 参院内閣委員会で6日、デジタル関連5法案の参考人質疑が行われ、自治体の個人情報保護制度を国のルールと合わせていく個人情報保護法改定案について参考人から懸念の声があがりました。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、改定案は現在の自治体の個人情報保護条例の水準より個人情報の取り扱い規制が緩いと指摘。多くの自治体が定める個人情報の本人からの直接収集の原則や、思想・信条・病歴などのセンシティブ情報(要配慮個人情報)の収集禁止の原則が無くなることなどへの懸念を示しました。

 昨年政府の「個人情報保護制度の見直しに関する検討会」の委員を務めた東京大学大学院の宍戸常寿教授も、法案がある種の条例から見ると個人情報保護の切り下げになるのではとの懸念について「十分傾聴に値する」と指摘。「適切な運用が図られるよう注視すべきだ」と述べました。

 日本共産党の田村智子議員が、特定の個人の特徴をデータの自動処理で推定するプロファイリングに対する規制について尋ねると、宍戸氏は、保護法では明確な権利として定義されていないので法的な検討が必要だとする立場を示しました。

 法案で、個人情報を匿名化した匿名加工情報の民間利活用案の募集を都道府県や政令市に義務付けることについての質問には、三木氏が「本来自治体は、何らかの業務上の必要があって個人情報を扱っているのに、そもそもの業務に支障や不信感を抱かれるようなデータの利活用は本末転倒だ」と述べました。



2021年5月7日(金)しんぶん赤旗
 

【第204回国会 参議院 内閣委員会 第16号 令和3年5月6日】

○田村智子君 日本共産党の田村智子です。今日はありがとうございます。
 私のこのデジタル改革関連法案での問題意識は、一番は、このAI活用の時代における個人情報の保護というところにあります。この間、大分、個人情報保護委員会あるいは大臣とのやり取りをしたときに非常に感じたのが、やはり今の個人情報保護法にある個人の権利利益を守るという、その個人の権利利益とは何なのかということが非常に曖昧ではないかという問題意識なんです。
 そこで、まず宍戸参考人にお聞きしたいんですけれども、確かに、二〇二〇年の個人情報保護法の改正によって、不適正使用の禁止とか、あるいは本人が利用の停止を申し出たり提供の禁止を申し出たりということが法文上も認められるようになりました、まだ施行はされていないですけれども。
 ただ、このときに、前回、質問のときに、例えば要配慮個人情報である妊娠などをプロファイリングすると、これ不適正な利用なんじゃないのかということを聞いても、そういうことをやった上で本人にもたらされる権利利益がどうなのかというような答弁だったように思うんです、結論としては。
 振り返ってみれば、リクナビ事件についても、プロファイリングそのものは全く個人情報保護委員会は問題にせずにだったんですよね。本人への説明の不十分さと、プライバシーポリシーが変わっているにもかかわらず、説明されていなかった、本人同意をちゃんと取っていなかった。プロファイリングは問題には直接はされなかったんです。しかし、それではやはりそのデジタル社会といったときの個人情報保護には私は極めて弱い。こういう問題をどうお考えになるのか、まずお聞きしたいと思います。
○参考人(宍戸常寿君) 御質問ありがとうございます。極めて重要な御指摘だというふうに思います。
 これまで、個人情報保護法でその個人の権利利益を目的とするという場合の個人の権利利益として、既に確立した実体的なプライバシー権であったり、あるいは財産権であったりと、そういったものが念頭に置かれてきたというふうに思います。
 今、AIの利活用を含むそのデジタル時代において求められているのは、こういった中で、先ほど私、人格権というふうに申し上げましたけれども、そのデジタル社会の中でサイバー、フィジカル融合する中で、自分が人間としての人格的自律というものを維持する上でどういった権利が認められるべきか、あるいはどういった不利益から守られるべきかということを明確にすることであるというふうに考えます。
 現在の個人情報保護法制の中では、これ、先生がリクナビでいみじくもおっしゃいましたとおり、プロファイリングされることそれ自体を権利として個人情報保護法も定義していなければ、ほかの法制の中にも、法秩序全体の中に存在していないわけです。なればこそ、個人情報保護委員会は違うところで権限発動ということを考えたわけでありますけれども、今後、デジタル時代において、繰り返しになりますが、そもそも不当にプロファイリングされないであるとか、要配慮個人情報に該当するような事項というものを、データをみだりに収集して分析することによってその人にくっつけるというようなことが本当に許されるのかと、それは人格権の侵害になるのではないかと。そして、そういったことを、言わばこれ、実は個人情報保護法だけでなくて憲法の運用も含みますし、あるいは民法、それ以外の、例えば本来的にはデジタル権利章典のようなものを作ることも含めて御検討いただかないと、これは個人情報保護法だけでは回らないというふうに私は考えております。
○田村智子君 ありがとうございます。
 三木参考人にお聞きしたいんですけれども、もう一つその論点になったのが個人情報の自己コントロール権、それは概念としても確立していないということで、なかなか明確な答弁がない状態なんですね。
 いただいた資料の中で、やはり平均的な自治体の条例の中で、原則の例外適用、目的外利用や外部の提供の場合に審議会等の意見を聞くことを要する場というふうに書かれていて、ある意味その審議会というところを通じて自己コントロール権を一定その地方議会の中では条例も作って認めていこうという動きとして発展してきたのかなという印象も受けるんです。ここのその審議会等の役割とか、もう少し具体にお話しいただければと思うんですが、いかがでしょうか。
○参考人(三木由希子君) ありがとうございます。
 自己情報コントロール権というのは、例えば自治体ですと目的規定にそういう言葉が入ったりとかしますけれども、むしろ全体の規定を通じてどのような権利とかを個人に認めているかという、全体を通じてやはり確保されていくものだというふうには思っています。
 それで、審議会等を自治体が設置している場合なんですけれども、いろんな役割を果たしているんですが、私が経験している範囲で申し上げますと、例えば目的外利用の場合に、行政の事務事業上の必要相当の理由がある場合は目的外利用ができるとか外部提供ができるとなります。その場合に、相当の理由という言葉自体が一体何を指すのかということは、それはもう解釈、運用の世界になってくるわけなんです。
 そうなりますと、行政機関としては使いたいと思えば相当の理由の範囲が裁量的に広くなりかねないというところで、そこを、審議会の意見を聞くことによって、本当に妥当なのかということを行政機関に説明をきちんとさせる。それを受けて、妥当かどうかを審議会で議論をして、多くの場合は妥当と認められてそのままできるということになることが通常なんですけれども、それは言い換えると、審議会で通らないような案件は出てこないという話にもなるわけなので、その時点で、一定程度、目的外利用、外部提供は抑制的になるという効果もあるんだろうと思います。
 それから、自治体の審議会の場合、例えば私が関わっていたところで申しますと、目的外で外部提供した場合には必ず報告が上がってくるという仕組みがあったりとか、外部に委託した場合は必ずどこにこういう案件を委託しましたという報告が上がってきて、個人情報保護に関する措置としてこういうことを講じましたという報告が上がってくるというような、報告を通じて、報告が上がってくるということは、報告された案件について質問ができるというふうになりますので、そこで疑問に思うこととか報告だけでは分からないところを確認していくというようなところで、普通の住民が分かるような話に審議会を通じて翻訳がされてくるというところがあるというふうには考えています。
 ですので、審議会の役割としては、そういうことを全くしていないところもございますので、全てがやっているとは言えないんですけれども、ただし、一定程度、第三者のチェックを経なきゃいけないというところで抑制されている効果はかなりあるのではないかと思います。
○田村智子君 ありがとうございます。
 それで、そういう役割を今度、個人情報保護委員会が国に対しても独立行政法人に対しても地方自治体に対しても行っていくということになる整理なのかなと思っているんですけれども、宍戸参考人のところで、監視社会にならないための監視という提起がある。個人情報保護委員会が率直に言ってそういう役割を果たし得るのかどうか、それを本当に果たし得るとすれば、どれぐらいの規模でどういう機能を持たせることが必要となってくるのか、その辺りはいかがでしょうか。
○参考人(宍戸常寿君) 御質問ありがとうございます。
 まず最初に申し上げてきたことは、個人情報保護委員会だけでは私無理だというふうに思っております。むしろ、先ほど三木参考人もおっしゃられましたように、例えば地方公共団体では個人情報保護審議会が、今まで活用されていなかったような不幸な審議会も言わば役割を改めてそういった取組をすると。さらに、これは我々、国立大学法人などもそうだと思うんですが、そのような意味で、データガバナンスの仕組みというものをしっかり取り入れるということがあって、かつ個人情報保護委員会がそれを監視、監督し、また一元的なガイドラインなどで考え方を示すと、そして監督権限を行使、監視権限、監督権限を行使するという、その全体をしっかりつくっていかなければいけないというふうに考えております。
 もちろん、その手始めとして、個人情報保護委員会自体がかなりしっかりしていかなければいけないということはもちろんでございまして、やはり現在の事務局体制では回らないというふうに思っております。
 勝手に、これは当然、予算とか人員、定員のこともありますので、みだりに申し上げるわけにはいかないのですけれども、今よりもイメージとしては倍とかそのぐらいの規模感が本来求められるのではないかというふうに思いますし、また、私、これ実は内閣官房の検討会で申し上げたのですけれども、委員会独力でそれが難しい場合に、例えば都道府県の協力を基礎自治体の監視については求めるとか、何か、あるいは国と地方の話合いなどについて総務省の連携を図るとか、やはりいろいろな、それぞれ元々強みのある、文脈上あるような機関であったり組織と連携していきながら、しかし同時にやるべきことをしっかりやっていくと。
 実は、民間の規制も同じ仕組みになっておりますけれども、権限の委任が行われるわけですので、それと同じようなことを公的部門についてもやっていくということをやはり検討していくべきでないかと思っております。
 以上です。
○田村智子君 同じようなことで三木参考人にもう一度お聞きしたいんですけれども、今度、だから、この法改正によって、今、個人情報ファイルを利活用を進めるために、匿名、非識別加工をして民間にその利活用の提案募集も掛けると。これは、原則情報開示請求を掛けて、非開示とならなかった、非開示とならないであろうものは全部提供するのが原則なので、これが都道府県や自治体に広がったときにどういう問題が起き得ると思われるかをお聞きしたいんですけれども。
○参考人(三木由希子君) ありがとうございます。
 当面は都道府県と政令市が義務的に行うということではあると思うんですが、自治体の場合は、先ほど来申し上げていますけど、目の前に住民がいる状態で個人情報を扱っておられるということになりますので、よほど丁寧に説明をするとか、その必要性を理解してもらわないと、本当にその個人情報を預けて大丈夫かというふうに思う住民が一定程度出てくるのではないかということがあります。
 先ほど申し上げましたけど、データの利活用が目的ではなくて、何らかの業務上必要があって個人情報を扱っていますので、そもそもの業務に支障とか不信感を抱かれるようなデータの利活用というのは本末転倒だと思っております。あくまでも二次的なものですので、住民と顔が見えるところで行政サービスを行い、そのデータを利用することについて一定の合意形成がないと、自治体そのものに対する不信感につながりかねないので、その問題は十分に考える必要があると思います。
 それと、これも先ほど申し上げましたけど、やはり自治体が行っているサービスというのは、特に福祉的なサービスとか社会保障的なサービスというのは、より社会的に立場が弱い人とか脆弱な人を対象にしたものが多いわけです。言い換えると、そういう支援を受けようと思うと、多くの個人情報とかプライバシーを提供するという関係になるわけですね。しかも、それは代替が利かない、ほかに代替手段がないので、行政サービスを頼るということになるわけです。
 そういう意味では、ある程度、一定の強制力とか、支援を受けたいときにはかなりセンシティブなプライバシーも提供せざるを得ないという中で、その情報が匿名加工で利用されるというふうになると、それそのものがその特定の層に対してプライバシーをよりその社会で利活用させる社会になりますよというメッセージにもなりかねませんので、そこは、何を対象にするかとか本当にそれをやるべきかどうかということはやはり住民が見えるところできちんと議論をしていただかないと、本来の政策とか業務に影響を与えるおそれがあるのではないかと思っています。
○田村智子君 最後に、大久保参考人になんですけど、これは、私、本当にどうしてかがよく分からないのでお聞きしたいんですけれども、マイナンバーカードを一生懸命普及しようとされていますでしょう。それで、行政機関が独自にマイナンバーで様々なことを連携して、いろんな行政が効率化されるということまでも私は全面否定するものではないんですよ。もちろん、そこには信頼性が必要だと思いますけれども。だけど、その行政の中でマイナンバーを使ってということと、国民がみんなマイナンバーカードを持って、国民もみんなデジタル化しなさいというのはちょっとかなり話が違うと思うんです。
 果たして、なぜ国民はマイナンバーカードを持たなければならないという方向で議論がされているのか、その経済的効果あるいは費用対効果として本当にそれが意味のあることなのか、その辺りのことをちょっとお聞きしたいと思います。
○参考人(大久保敏弘君) お答えします。
 非常に重要な点、かつ経済学者としても関心のある点です。なぜかというのは、まだ経済学者も、それ本当に研究できれば非常にいい研究だと思うんですけれども、まず一つは、やはり政治がしっかり、国民にどういうことなのかというのをしっかりこれ周知しない限り、多分、国民の間でも、非常に関心はあるんだけれどもよく分からないだとか、今回、私、お示ししましたように、政府に対するデジタル化というのに対して多少懐疑的なところもあるんじゃないかと。
 今年末までにデジタル庁だとかと、そういうふうな審議があっても余り関心がないなんて言っている人が半数以上いるわけですね。そういったところを、やはりデジタル庁だとかデジタル化するだとかマイナンバーカード、こういったところが言葉だけ躍っているようなところがあるので、しっかりこれ、政治家がしっかり国民目線で、こういうことだから非常に必要でお願いしますという形で、ただ単に何か上から目線で使うと便利だよと言っていても、いや、どうかな、例えば政府がやることに対して、例えば賛同はできるんだけれども、何か例えば情報がリークしてしまったら困るだとか、いろんな懸念を持ってしまうと。
 そういったところで、やはり国民に対して、上から目線ではなくて、やはり下から目線で、こういうベネフィットがあるから社会的にみんな使うといいんだということで、その辺を政治的にちゃんと説明するべきだと思います。国民のその不安が払拭できれば、やっぱりこんなにいいものだということが分かれば皆使うようになるので。
 一方で、中途半端な状況というのは一番社会的にあるいは経済的にロスがあると思います。つまり、それはネットワーク外部性と呼ばれているもので、やはり、一人が使っているんじゃなくて、みんなが、全ての人が、ですから、先ほど申し上げたように、全ての国民が使いやすい、あるいは理解して不信感がないようなところでしっかり使うといったところが必要だと思います。それがない限り、やはり上から目線でこれ便利だだとかと言っていても、やはり一部の人が使っているだけにすぎないと。そこがやはり変わらなければまずいと思います。幾ら特典を付けるだとか何かやると言ってもそれは駄目で、それはやはり政治がちゃんと言葉でしっかり国民に説明をするということが非常に必要だと考えております。
 以上です。
○田村智子君 どうもありがとうございました。


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