国会会議録

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科技基本法改定案 参院委可決 運営交付金増こそ 共産党反対


(写真)討論に立つ市田忠義議員=16日、参院内閣委

 


(写真)質問する田村智子議員=16日、参院内閣委

 科学技術基本法改定案が16日、参院内閣委員会で採決され、日本共産党以外の賛成多数で可決されました。

 改定案は、現行法の「科学技術の振興」とともに「イノベーションの創出振興」を政策の柱にすえます。共産党の市田忠義議員は反対討論で「基本法の性格を、産業に直結した成果の追求に変えるものだ」と指摘。運営費交付金など基盤的経費の抜本的増額こそ必要だと求めました。

 現場の声を聞くべきだとの共産党の田村智子議員の求めで開かれた参考人質疑では、全国大学院生協議会の梅垣緑議長が、院生の厳しい生活実態を訴えた上で「研究そのものがイノベーション」「短期的な目線でイノベーションにつながるか判断を下すことは、既存の枠組みを超えた知的な創造力の発揮を妨げる」と危惧を語りました。

 田村氏は、国立大学法人化の方向性を決めた有馬朗人元文相が、運営費交付金の減少が若手研究者の減少を招き、法人化は「大失敗だった」と認め、交付金増額の必要性を訴えているとして、「交付金を増やすべきだ」と要求。竹本直一科学技術政策担当相は「運営費交付金が減少傾向にあるのは事実。なんとしても安心して研究に打ち込める環境をつくらなければならない」と述べました。

 田村氏は、2020年度の科学技術予算が17年度比で7900億円増えたものの、半分は真の研究予算ではないと指摘。既存公共事業への先進的土木機械の導入などがイノベーション化促進予算として計上されており、「OECD(経済協力開発機構)の研究開発の定義に照らせば、研究開発にあたらない」「まともな研究予算、基盤的経費を抜本的に増やすべきだ」と求めました。

2020年6月17日(水)しんぶん赤旗より

 

【2020年6月16日 内閣委員会議事録】

○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
 科学技術基本法は一九九五年に制定されてから二十五年ぶりの抜本改正となります。是非現場の声をお聞きしたいと思いまして、全国大学院生協議会の議長梅垣緑さんに参考人としてお越しいただきました。大学院生協議会は、院生の皆さんの研究や生活の実態調査にも取り組んでこられて、各政党にそれを踏まえた要望書などもお届けいただいていると思います。日本の今後の研究力を考えたときに、博士課程への進学者が減少していることは大変重大だと思います。
 そこでまず、当事者として、博士課程の学生がなぜ減少しているのか、見解をお聞かせください。

○参考人(梅垣緑君) 今御紹介にあずかりました全国大学院生協議会の議長の梅垣です。
 お答えします。
 大学院にまず在籍し続けるということに大きな経済的負担が掛かるという点、それから大学院を出た後の生活を展望するのが非常に難しいという点、この二点が大きな理由だと考えております。
 例えばですけれども、博士号を取得するまで最短で五年間、それから人によってはそれにプラスして二、三年ということになりますけれども、その間の学費、生活費、場合によっては研究費を、これを支出し続けるということが院生に求められます。出身世帯で負担するのが難しいという場合には、本人のアルバイトや奨学金ということで、借金を背負うことによってこれを捻出します。私どもの実施している全国的なアンケートでも、八〇%前後、院生の八〇%前後がアルバイトをしていて、半数近く三百万円以上借金をしているということが回答には寄せられています。
 そういうことで、ようやく学位を仮に取得したとした後でも、運が良かったとしても一年から三年の任期付きのポスドクの仕事をするということになります。通常それすらないということも珍しくないということです。こうして、生活の保障が非常に弱い、そして、同世代と比しても決して高くない給与で二十代後半に差しかかっていくという中で、自分の人生設計と自分の研究が衝突するということがあります。
 確かに、学振ですとか卓越大学院などといった競争的な資金の増加による支援を強化してきたという側面もあると思いますけれども、しかしながら、実際に支援を受けられるのが大学院生ほんの一握りということがありまして、自分が支援の対象になるか分からないという点で、将来不安がなかなか払拭されないということがあります。
 高い経済的な負担、精神的な負担、そういう中で研究を続ける、そして、しかもそれが高額の借金が前提であり、不安定な職業であるということによって、普通の生活を送るという、いわゆる大学の研究生活ではない別の道を歩む、人生設計にかじを切るという選択をする院生が増えるということは決しておかしくないというのが実態じゃないかと思います。

○田村智子君 ありがとうございます。
 本当に借金だけ抱えて、先の人生設計ができないという、これが本当に皆さんの、何というんでしょう、安心して研究できないという重大な事態を生んでいるなということを痛感させられます。
 本法案では、そうした若手を含む研究者の処遇の確保がうたわれていて、若手研究者支援総合パッケージも打ち出されました。同時に、この法案ではイノベーション重視の方向も打ち出されています。
 これらによって博士課程学生の研究環境や雇用というのはどのように影響を受けると思われるか、お聞かせください。

○参考人(梅垣緑君) これについてもお答えします。
 まず、いらっしゃる国会議員の皆さんに申し上げたいと思いますのは、大学院生の本業って研究ですけれども、研究そのものが、ある種、既にイノベーションの要素を含んでいるということです。
 我々院生は自分の興味、関心に基づいて研究のテーマを決めるということになりますけれども、その際、まず第一に行うのは先行研究の徹底的なレビュー、批判ということになります。つまり、既に分かっているということに研究する価値はないわけです。その点で、日々院生が研究生活、研究活動を送りながら生み出されてきているのは、オリジナルの新たな知見という意味では既にイノベーションであるということを知っていただきたいということがあります。
 その上で、衆議院の方も含めて議事録を拝読した部分あるんですけれども、研究に元来含まれているようなこういうオリジナリティー、創造性、新規性、こういったものをどう担保するかということの議論がなかなかされてきたと言えないのではないかと思います。
 今回の改正でいわゆるイノベーション重視の方向性が打ち出されていることには、イノベーションがこういった市場経済の下で成長に資するものとされている点、それから、それが国によって上から指導されるという点に大きな危惧を寄せております。
 ちょっと済みません、長くなりますが、その上で二点述べさせていただきますと、短期的な目線でいわゆるイノベーションにつながるかどうかという判断を研究に下す、要するに出口をあらかじめ設定をするということ、しかもそれに基づいて予算配分を行うことが、院生などの若い研究者が既存の枠組みを超えて知的な創造力を発揮することを妨げるのではないかということです。特に、基礎研究分野、人文社会科学分野、自由な課題設定が非常に重要である、しかもこれまで取り残されてきた、取り落とされてきたという分野で、これがイノベーション重視によって解決されるとはなかなか考えづらいというのが実感です。
 先ほど述べたとおり、院生、厳しい生活環境に身を置いているために、本来、自由に自分の知見、自由な知見を、関心を広げていくというところが、できるだけ設定された出口に寄せようとするという動機が強く働くと思います。その結果起こると思われるのは、表向きイノベーションとされる研究にできるだけ寄せられた実のところ狭い関心、切り取られた、そういう窮屈な研究ばかりになるのではないかと思っています。自由に自分の関心に沿った研究をしようとする基礎研究、人文社会科学研究などといった分野で結果としてキャリアを形成できない、学問的状況がより貧困になるということが、危惧しています。
 もう一点ありますが、そもそもどのような分野であったとしても、学問研究というのは真理の探求のために行われるという点です。その成果というのは、ある種、一つの国単位にとどまらない普遍的な価値を持つということがあります。例えば、技術にしても、人間社会全体の幸福に資するかどうかという点で意味が生まれるというところで、経済成長、イノベーション重視の方向性が打ち出されて、国がこれを目標として強く位置付ける、しかも大学にその責務が課されるということで、大学や研究現場に大きな統制が強まるんじゃないかということを危惧しております。
 特に、私、一橋大学に在籍しておりますけれども、二〇一四年の学教法改正や国立大学法人法改正、運営費交付金の削減、こういったことで選択と集中を前面に掲げる体制になって、教職員、学部生、大学院生の風通しが非常に悪くなっております。重大なハラスメントが解決されない、授業料や学生寮の寮費が値上げされる、学生が不利益を被るような制度の変更が事前の説明、話合いなく一方的に決められる、こういったことが起こってきております。
 科学や技術も、教育によってその最先端の知見を学生に伝えるということ抜きには担い手の再生産はできないということです。先ほど申し上げたとおりなんですけれども、学問研究や技術、そして高等教育、こういったものの公共性に照らして、国による統制が果たしてこれ以上強まっていいのかということを率直に申し上げたいと思います。

○田村智子君 冒頭の、研究は全てイノベーションであるというのは、本当にこれはそうですよねと改めて感じましたよね。そうです、本当に。
 ごく一部のものを切り出して、これがイノベーションだと。これが本当に研究そのものの自由を奪う、狭くするという御指摘など、非常に学ぶところがあって、やっぱり基本法というのは、こういう議論の積み重ねをボトムアップでやっていくべきなんじゃないかということを改めてちょっと提起をしたいんですね。
 最後にお聞きしたいのは、それでは、博士課程学生や若手研究者にどのような支援が求められていると思うのか、山ほど言いたいことはあるかと思いますが、そんなに時間気にしなくていいですから、この際ですのでお話しください。お願いします。

○参考人(梅垣緑君) 済みません。お答えします。
 これも大きくは三点なんですけれども、まず第一に、やはり学費負担を軽減する、あるいは無償化に向けて動くということです。
 今、どんなに優れた研究を残そうとして学問的貢献をしたとしても、学費を納めなければ学籍はなくなりますし、学位も得られません。結果として研究者としての道も開けません。日本では、学位というのが実質的に学費の対価として与えられているという側面があり、これが院生の生活を苦しめているとともに、本来は国立、公立、私立といった大学の設置形態を問わないはずの学問の公的性格を大きくゆがめているのではないかと考えます。これを普遍的に広く軽減して、無償化ないし権利としての高等教育を実現するということが必要です。
 第二に、奨学金の充実ということがあります。
 現在、院生向けの公的な奨学金というのは、学生支援機構の実施するものですと貸与の奨学金しかありません。科学技術基本計画、これまでも院生の二割に生活費相当、博士課程院生ですね、の二割に生活費相当額を支給するということが長年明記され続けてきておりますけれども、一向に実現をしておりません。借金ではない給付の生活費によって院生の研究を支えるということが求められているわけですけれども、行政的には放置され続けてきているということがあります。
 三つ目ですけれども、やはり安定的な職、ポストの充実ということがあります。
 院生が博士号を取得して、二十代半ばから後半、三十代前半に差しかかるというところで、二、三年程度の短い任期にとどまらない長期的な生活の安定が望めるポストがなければ、自らの人生設計と研究、これを両立することが非常に困難になります。
 こういった、これらの支援を通じて、本来の意味で自由で創造的な研究、これが実現する環境が整うということの中から優れた研究が出てくるものと考えております。

○田村智子君 ありがとうございました。
 是非、本当に文科大臣と一緒になって、竹本大臣、要望に是非応えていっていただきたいと思うんですけれども。
 それでは、法案について、これまでの指摘も頭にとどめながら質問していきたいと思うんですけれども、まず、今回の法改正で、人文科学のみに関わる研究も法の対象となります。人文科学、社会科学などは、この間、文科省から学部や定員を削減するよう求められるなど、縮小、後退を余儀なくされてきた分野です。
 では、この法改正によって、若手研究者のポストや研究費、この分野で抜本的に増やされていくことになるのかどうか、お答えください。

○国務大臣(竹本直一君) お答えいたします。
 先生おっしゃるとおり、複雑化いたします現在の諸課題に対峙していくためには、人間の社会の在り方に対する深い洞察が必要でございます。人文科学を含めた総合的アプローチが必要と考えたのはそのゆえであります。また、倫理的、制度的、社会的課題への対応を始めとした社会受容性確保などのためにも人文科学の役割は重要でございます。
 特に、今回、コロナという災害を経験しまして、人の行動が単純な従来の科学技術だけでは予測し得ない、そこには心理とかいわゆる人文科学の分野が大きく必要とされたということを経験しまして、まさにそのとおりだと思っています。
 このように、科学技術には、従来の科学技術とプラス人文科学の分野を含めたこの科学技術の発展を期さなきゃいけないわけでございまして、そのために、その研究に携わる人たちの研究環境を良くすることが我々の務めだと思っております。
 先般、創発的科学技術研究制度といいますか、学生、研究者を支援する制度をつくりましたけれども、これもその一環の一つでございまして、そういった努力を非常に必要とされておりまして、科学技術の目標が広がったがために研究者が研究がしにくくなるというようなことが仮にあるとすれば、それは本来我々の意図するところではございませんので、そうならないようにしっかりと努めていきたいと思っております。

○田村智子君 悪くなるのはもうとんでもないんですけど、今本当にここのポストと研究費が減らされまくったんですよ。それが元に戻るのか、そこから前に進むのかが問われているんですね。ちょっと心もとないなと思っているんですけれどもね。
 一方で、今回の大きな改定は、イノベーションの創出の振興を科学技術の振興と並べて位置付けて、法律の名称も科学技術・イノベーション基本法に変更することです。
 法の改定の前から、特に安倍政権の下で、経済、産業に直結する革新的研究の旗は振られてきました。予算も重点配分されてきました。総合科学技術・イノベーション会議は、二〇一七年四月二十一日、ソサエティー五・〇の実現に貢献する等、科学技術、イノベーションに資することが期待される事業の積極的な検討、これを各府省に提示をし、指示し、科学技術関係予算の対GDP比一%の達成に向けて財務省と連携するとしたんですね。
 二〇二〇年度の科学技術関係予算は、目標には及びませんでしたが、この一七年度と比べると七千九百億円増えました。内訳を見ると、圧倒的に増えているのはSIP、戦略的イノベーション創造プログラム、そして科学技術イノベーション官民投資。既に法改正の前から、イノベーション、まあ狭い意味でのイノベーションのための研究予算への重点配分が相当に進んでいるんですね。
 そうすると、これを更に推進していくということになるんでしょうか。大臣、お願いします。
○国務大臣(竹本直一君) 戦略的イノベーション創造プログラム、SIPと言っておりますけれども、これは、国民にとって重要な社会的課題の解決や我が国経済、産業競争力の強化を目指して、府省連携による分野横断的な取組を産学連携で推進すること、また、基礎研究から実用化、事業化までを見据えた一気通貫の研究開発を進めること、それに、成果の社会実装の観点から、研究開発にとどまらず、規制緩和を含めた制度改革等に一体的に取り組んでいるところでございます。
 また、官民研究開発投資拡大プログラム、PRISMと言っておりますが、これは民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化への貢献が期待される領域に各府省施策を誘導すること等を目的としており、令和元年度には、国立研究開発法人理化学研究所に最先端のクライオ電子顕微鏡を設置するための追加配備を行う等、基礎研究を行うための基盤づくりにも貢献しているところでございます。
 議員御指摘のとおり、基礎研究は多様で卓越した知を生み出す源として非常に重要でございます。引き続きその振興に努めてまいりたいと考えております。

○田村智子君 やっぱり出口とか産業力強化という、そこに予算がばんと付くという危惧がますます広がっていくんですね。
 実は、この科学技術関係予算については、二〇一八年度、内閣府は集計方法も変更しているんですよ。その中で、科学技術関係予算の定義も変えていて、従来は入っていなかったようなものを政府事業・制度等のイノベーション化促進という事業にまとめて入れ込んでいるんです。資料でお配りした三枚目なんですね。これは、各府省の事業、物品調達、人材育成などが先進技術の導入によって効率的、効果的になっているかどうかを内閣府が毎年審査して、イノベーション転化したぞと、変化があるぞと内閣府が認めると、それを新規転換分という形で科学技術関係予算に含めていくというやり方なんですね。
 是非、これで各府省、省庁ごとにどういうふうに予算がここに、じゃ、イノベーション転化とされたのかという資料を求めたんですけれども、内閣府は何と集計をしていないという信じ難い対応でしたので、私の事務所の方で各府省に資料の提出を求めて集計したのがこの資料三なんです。
 この三年間で、四千二十四億円がイノベーション転化だというんですね。そうすると、先ほど示しました二〇一七年度からの科学技術予算が七千九百億円増えた、そのうちの半分がこのイノベーション転化ということになるんですよ。
 最も予算が大きいのは国土交通省。公共事業費のイノベ転換分で三年間で二千八百億円なんですね。これ何のことと思うと、次のページ、資料四なんですけど、つまり、今までやっていた工事の機械を変えましたってだけなんですね。ICT化された建設機械を使うと、公共事業費が科学技術費として盛り込まれているんですよ、予算として。農水省も同じなんですよ。機械を変えてICT化すると、それが科学技術予算になるんですよ。文科省は三百十二億円、そのうち二百七十億円は高等専門学校の教育費用なんですね。これ、大学の教育予算さえ科学技術関係予算じゃないのに、何で高専が科学技術の予算なのと聞くと、大学との連携教育プログラムを導入したからだというんですね。
 これ、内閣府に資料をと求めても出てこないのは、大部分が既存の公共事業の看板の掛け替えだからじゃないのかと。竹本大臣もこんなこと御存じなかったんじゃないかというふうに思うんですけど、これが科学技術予算と言えるんでしょうか、大臣。

○国務大臣(竹本直一君) i―Constructionとか、あるいは農業分野で経費の計上がこれでいいのかという趣旨だと思いますけれども、毎年防災白書というのを出しておりますけれども、大体防災関係予算は二兆円台なんです。ところが、防災であると同時に公共事業としての予算にも計上されておる。ある方から見ると防災で、ある方から見たら公共事業だと。それと、まあ例えいいか悪いかちょっと分かりませんけれども、一方から見れば科学技術予算だと言えるし、他方から見れば別の分類に入るんだと、そういうことがあってこういう計上になっているのではないかと思っております。
 なお、我々としては、科学技術イノベーション転換とは申し上げますけれども、既存事業への先進技術を導入いたしまして先端技術の実社会での活用の後押しをする、それから事業の効果的、効率的な実施等の実現を目指す、これは悪いことじゃありませんので、そういうことに研究費をつぎ込みますということで、結果としてイノベーションが進むということではないかなと思っております。

○田村智子君 例えば私たちが携帯電話をスマホに変えましたって、これを、イノベーションですね、じゃ、掛かった費用を科学技術予算にしましょうなんて思いますか。そういうことですよ、これ。
 これ、OECDは研究開発を、知識の増大や知識の新たな応用を考案するために行われる作業、これが研究開発としているんですよ。知識の考案なんですよ。この定義に照らせば、考案されたものを使っているというのがイノベーション化促進事業ですから、当たらないですよ。
 文科省の科学技術政策研究所発行の科学技術指標二〇一八年度版にこう書いてあるんです。OECDの定義と日本の科学技術予算額には若干の相違があることについて留意する必要がある。科学技術予算額は、それよりは広い科学技術に関係する経費全般を対象としている、日本はね。そのため、研究開発には含まれない科学技術関係経費部分の額が、他国と比較して過大に計上されていると考えられる。
 科学技術予算これだけ増やしました言われても、本当の研究予算が増えているわけじゃないんですよ。これ、もう国際比較もできなくなるような事態なんですね。これで、これイノベーションだといってやられているんですよ。科学技術の予算に入れられちゃっているんですよ。そうすると、基本法にもイノベーション入れたら、もっともっとこんなこと進んでいくんじゃないのか。張りぼて予算で、こんなに予算増えていますよということにされるんじゃないのか。これもうやめるべきだと思うんですけど、大臣、どうですか。

○政府参考人(松尾泰樹君) 先生御指摘のOECDの統計でございますけれども、これ、フラスカティ・マニュアル二〇一五、これに基づいているものでございます。そして、それに基づきまして、各国において各国の判断で政府の研究開発予算を登録しているわけでございます。
 したがいまして、我が国だけではなくて、各国がそれぞれの判断で登録しているものでございまして、各国とも一概に比較することは困難でございますけれども、我が国におきましては、科学技術の振興という観点から、研究開発のみならず、技術が社会に活用される出口をつくっていくこと、これも非常に重要だと思ってございます。
 したがいまして、イノベーション転換含めまして科学技術関係予算として入れているものでございまして、研究開発のみならず、科学技術を用いた事業化の取組、新技術の実社会での実証実験、そして既存技術の実社会での普及促進、そういったものも定義として入れているものでございます。
 なお、やっぱり注意書きにもディファレンス・イン・メソドロジーということで記載をしてございまして、我が国としてはこういった形で科学技術関係予算というものを明記しているものでございます。

○田村智子君 いや、こんなことで科学技術予算増えましたよなんて言われたら、ちょっとどうかなと思いますよね。これ、GDP比一%に届かないから一生懸命かき集めたようなものなんですね。違うでしょう、もっと予算必要としているところいっぱいあるじゃないですか。
 物理学者で東大総長も務めた有馬朗人元文部科学大臣、最近日経ビジネスのインタビューで国立大学の法人化について語っておられるんですけれども、有馬氏は法人化の方向性を決めたときの文部大臣だったんですよ。何と言っておられるか。
 二〇〇四年に国立大学が法人化されると、その後、毎年一%ずつ運営費交付金が減らされていきました。こうしたことが約十年続きました。この結果、運営費交付金には人件費が入っているので若手研究者が雇えなくなったんです。全国の大学で正規雇用の若手研究者ががたっと減り、理工系で博士課程に進む数も大きく減りました。で、この大学の法人化は大失敗でしたと率直に認めておられます。さらに、運営費交付金を増やす、少なくとも元に戻すことだと思っています。国立大学法人化によって若手研究者を雇用できなくなったことについて私には責任があります。あと何年生きるか分からないけれど、世界並みのレベルにするまで徹底的にやりたいですというふうに述べておられるんですね。
 先ほど、若手研究者がいかに苦境に立たされているかということも言われました。地方大学の格差が非常につくられている。これ全部、運営費交付金削って、あるいは私立大学も含めてですけど、基礎的研究費が削られてきて今の惨たんたる状況になっているんですよ。そういうところにまともに予算付けないで、変なところからかき集めて科学技術予算増えました。全くおかしいですよ。
 これ運営費交付金、先ほど、減ったのは、大変前向きな御答弁を竹本大臣なされてちょっとびっくりしたんですけれども、もう元に戻しましょうよ、GDP比一%にしたいなら。一気に元に戻す、さらに増やす。どうですか、大臣。

○国務大臣(竹本直一君) 有馬元法務大臣、私もよく存じ上げている方でございますが、有馬先生が雑誌に書かれた記事は私も読まさせていただきました。事実はそのとおりだと思いますが、じゃ、現時点においてこれからどうするかということも含めて考えてみたいと思いますが、事実として、国立大学の運営費交付金は法人化以降減少傾向にあるのは事実であります。平成二十七年度以降は対前年度同額程度というところでございます。
 政府といたしましては、大学等における研究活動を安定的、継続的に支える運営費交付金等の基盤的経費と、それから優れた研究や目的を特定した研究等を支援する公募型資金の最適な配分を考慮し、研究資金全体の効果的、効率的な活用を図ることが重要であると考えております。今後とも、基盤的経費と公募型経費のバランスを取りつつ、若手研究者への支援強化を含め研究力の強化を図ってまいりたい。
 いずれにいたしましても、このままでは駄目でありまして、何としても研究者が安心して研究に打ち込める環境をつくらなきゃなりません。私が、事あるごとに科学技術がリスペクトされる社会が日本が生きる道だと申し上げているのはそういうつもりでございまして、現在交付金が減っているのは事実でございますが、このままでは駄目なので、しっかり研究環境の改善に大臣として努力したいと思っております。

○田村智子君 これまで私、実は下村文部科学大臣時代から多分四人か五人ぐらいの大臣とこの問題でずっと議論して、竹本大臣が一番前向きなんですよ、前向きなんです。
 その四人か五人に対して質問してきたときに何度も使った資料で、今日も出ていましたけれども、それが資料の一枚目なんですね。論文の、特に引用トップテンですよね、これ見てみると、全体を引っ張っているのはやっぱり国立大学なんですよ、そして国立の研究所なんですよ。そして、ここががたっと落ち込んでいるから、日本の全体の研究力、特に論文引用数で大変世界と比べてもランクが落ちていっているというのは、これ紛れもない事実だというふうに思うんですね。
 やっぱり運営費交付金の削減が若手研究者の非正規化を進めてしまった、研究時間も減少させたって、先ほどあったとおりなんですよ。科研費などの競争的経費で取れば、申請のための書類を作らなきゃいけない、中間報告もしなくちゃいけない、最終報告でもいろいろ文章書かなきゃいけない、そういう事務作業がどんどん増えていくと。だから、自由な基盤的経費である運営費交付金、これを増やしてほしいんだということを皆さんが言ってこられた。この削減が結果として日本の研究論文数やその引用数を減らしていった、これはもう率直、真っすぐに認めるべきだと思いますが、大臣、どうでしょうか。

○国務大臣(竹本直一君) 注目度の高い論文における日本の順位が著しく低下しておるのは事実であります。これは私は非常に我が国の研究力の低下を示すものだと危惧しておるわけでございますが、その要因として考えられることが、研究資金が厳しいということが一つございますが、博士後期課程への進学率の減少、研究ポストの不安定な状況、研究者のキャリアパスの不足、そして研究時間の減少など、研究者の魅力が低下していることが課題でございます。
 要は、研究者になることがすばらしいことだと、魅力あることだとみんなが思えるような研究環境をつくることが一番大事かというふうに思っております。今はそういう状態になっていないと。例えば、ドクターを取ると企業が採用してくれないと、そんな雰囲気だから、もうマスターでやめて企業へ就職すると。これはまずいということで、私も先般、経団連の方に、これ何とか企業はもっと考え直してくれという話をいたしました。
 そんなことで、研究費の問題もありますが、将来の可能性に対する期待が抱かせるようなポストに、研究者としての、職業でしょうか、立場を強化することがやっぱり一番大事だと思っております。大昔だと、末は博士か大臣かと言われた言葉がありましたけれども、何か研究者がすごい憧れであるということが一番大事でありまして、安倍総理のおじいさんの岸信介さんが総理大臣のときには徹底した理科系教育の重要性を訴えられましたので、理系でなければ人でないというような雰囲気があったときがございます。
 それぐらいのことがあったから、その後、高度成長を享受できたんだと思いますし、台湾も、実は私よく行くんですけれども、日本でいう技術専門学校、物すごい優秀な人がたくさんいるんですね。それが理科系教育を熱心にやったから、今、世界のパソコンの半分近く台湾で作っているのではないかと、スマホもそうじゃないかと言われますが、やっぱりその基礎教育が、理系教育があったからこそ、今日、台湾の繁栄があるんだと私は思っております。
 そのように、科学技術をリスペクトしないと国は発展しないというのが私の信念でございまして、よろしくお願いします。

○田村智子君 その研究への意欲の低下というのは、もう冒頭梅垣さんがお話しいただいたように、もう人生設計もできないような研究者、若手研究者の実態があると。やっぱり国立大学や、私立大学も含めて、大学や研究機関で研究に没頭できるんだよという生活の安定をつくるのは、やっぱり基盤的経費なんですよ。
 今日は運営費交付金については結構前向きに認めていただいたんですけど、これまで私が論戦してきた方々は、下村元大臣などはですね、私がこれだけ運営費交付金減ってきたじゃないかと、例えば国立大学、二〇〇四年から一九年までの十五年間で約一千四百億円も削減されちゃったんですよ。削減された状態で維持したって、これ回復にならないんですよ。国立研究開発法人も、二〇〇六年の七千百八十五億円をピークにして、直近では六千四百十八億円、やっぱり大きく減っちゃっているんですよ。
 それも、どうしてなのかというと、先ほどもありました、競争的経費で取ってこいよと。資料の二枚目ですけど、本当にこの中で国立大学頑張っていますよ。運営費交付金が青線でがたがたと減っているのに、全体の研究費は何とかして、法人化した当時の頃を守る、ちょっと上回る、それだけ競争的経費を一生懸命取っている。
 それから、国立大学も研究法人も、文科省から、上から、改革改革、選択と集中、重点的な研究を定めてそこに予算をぼんと入れろと、これもいっぱいやってきたんですよ。いっぱいやっていて研究力が低下している。やっていないことは一つですよ、私、一つだと思いますよ。産官学も一生懸命進めてきた。まあ、もちろんまだ足りないということあるかもしれないけど、でも、やっていないのは、運営費交付金を削った前に戻す、もうこれしかないと、これしかないと思いますよ。大臣、どうかそこに踏み込んでいただきたい。もう一度お願いします。

○国務大臣(竹本直一君) 先ほど来再三申し上げておりますように、科学技術の水準向上とイノベーションの創出の促進は並列的な位置付けということは先ほど申し上げました。科学技術がイノベーション創出のみならず、学術的価値等の多様な意義を有することも規定しておりまして、科学技術の振興とイノベーションの創出の双方を一体的かつ積極的に振興していこうということでございます。この法案には、研究者の自由な発想に基づく学術研究と国が課題等を設定して行う研究との均衡についても規定しておりまして、その趣旨を十分踏まえつつ、科学技術イノベーション政策の強化に努めてまいりたいと思っております。
 いずれにしろ、研究者が研究活動をするに足りる財政的措置を更に強化していかないといけないということだろうと思います。

○田村智子君 今日の大臣の答弁は、ペーパーを読まないときが一番いいですね。
 だから、内閣府ですよ、内閣府。本当、先ほど指摘したイノベーション転化なんというのを科学技術の予算に入れるとか、こんなことやっていたら駄目ですよ。まともな研究予算を、基盤的経費を抜本的に増やす、このことを改めて求めまして、質問を終わります。
 参考人、ありがとうございました。


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