日本共産党の田村智子議員は28日の参院内閣委員会で、政府が新型コロナウイルス感染症の影響に伴う学校休校への対応として検討している「9月入学」について、「教育関係者や国民の合意も無視した結論ありきの議論はあってはならない」と追及しました。
田村氏は、日本教育学会などの教育団体や保護者からの批判や危惧の声を紹介。学年の終わりを8月に延長した場合の家庭の追加負担額をただしました。
文科省の寺門成真社会教育振興総括官は、小中高校で約2・5兆円、大学で約1・4兆円だと答えました。田村氏は「休校による影響の解決のために数年単位で学校は努力をしなければならない。9月入学となるとさらなる負担が強いられる」と指摘しました。
政府の経済財政諮問会議で民間議員が9月入学を提案し「国際競争力確保のために、このタイミングを逃すと難しくなる」と発言したことに触れ、「こんな考え方で議論すべきでない。休校で困難に直面している子どもの学びと成長をどう保障するのか、学校も行政もここに力を注ぐべきだ」「『骨太の方針』に書き込んで導入の結論ありきで進めることはあってはならない」とただしました。
西村康稔経済再生担当相は「文科省や与党における検討の状況、社会全体への影響を見極めて十分に議論を尽くす」と答弁しました。
2020年5月29日(金)しんぶん赤旗より
【2020年5月28日 参議院内閣委員会議事録より】
○田村智子君 ちょっと時間の関係で、次、九月入学の問題を質問いたします。
総理が予算委員会で、学校休校による学習の遅れへの対応として検討する意向を示して、杉田官房副長官が各省次官を集めて検討を指示するなど、新型コロナに乗じての九月入学の議論、これは大変批判や危惧も多く寄せられまして、今日の報道では、これ拙速なのはできないんじゃないのかということも報道されていますけれども、改めて確認しておきたいんです。
文科省にはどういう団体からどういう傾向の意見が寄せられているのか、就学前児童の保護者からの意見はどのようなものか、簡潔にお願いします。
○政府参考人(寺門成真君) お答えいたします。
秋季入学につきましては、例えば教育や学校関係等の団体から、教育のみならず、社会、経済、地域に大きな影響を与える国家的改革論議であり、各界各層交えて議論を行うべきという御意見、時間を掛けて慎重に検討すべきという御意見、課題や憂慮すべき事項をまとめた御意見、九月入学の導入よりも効率的な財政支出で実効的な学習保障を進めることができるとする提言等が寄せられてございます。
また、就学前のお子様をお持ちの保護者の方々の御意見といたしましては、当初の予定より早期に小学校に入学する場合に幼児教育を受ける期間が短くなること、生まれ月の早い遅いで幼稚園、保育園のクラスの約半分のみが予定より早く卒園、入学となる分断が生じること、待機児童の増加等に関する御意見等でございます。
○田村智子君 その一部として、資料では日本教育学会の声明をお配りしました。コロナウイルス禍で学校でも社会でも様々な支援が緊急に求められているときに、教育の実質的保障に使うべき限られた財源と人員を割いてでも九月入学、始業を直ちに実施することが果たして必要でしょうかと。
また、自民党の会合の中では、日本保育協会理事長が、園児が一時的に五十万人増加するという厚生労働省の試算もあると、待機児童の吸収に努力している中で現場が苦しむことになると、こういう意見が表明されたと報道もされています。
もう一問、文科省にお聞きしたいんですけれども、この新型コロナでの休校への対応として、学年の終わりを八月に延長すると、これ課題、ちょっと手短に、で、費用はどれくらいと試算されていますか。
○政府参考人(寺門成真君) 移行のパターンは委員御指摘のとおり様々でございますので、全体として試算は行いしかねますけれども、例えば仮に学年の終期を八月まで五か月間延長する場合には、過日、当省の参考人より国会で御答弁申し上げておりますけれども、当該五か月間で家庭又は学生本人が追加的に負担する影響額につきましては、当省で一定の仮定の下に行う試算によりますれば、国公私立の小中高等学校段階では、子供の学習費調査による学校給食費、学校教育費、学校外活動に係る費用の家庭負担額を合算した年間約六兆円のうち五か月分で約二・五兆円、国公私立の高等教育段階では、学生生活調査による授業料、生活費の学部学生負担額を合算した年間約三・四兆円のうち五か月分で約一・四兆円というふうな試算をしてございます。
○田村智子君 つまり、文科省は家計負担だけで四兆円弱必要だという試算をされたわけですよ。日本教育学会は六兆円から七兆円の費用が掛かるという試算もしています。これは、学びの保障とか困窮支援とか格差是正の費用では全くありません。それとは別なんです。
学習指導要領から見た学習の遅れについては数年掛けて対応することを認める通知を文科省は出しています。大学入試なども休校を踏まえた対応を検討すればいいんじゃないかというふうにも思えるわけですね。一方、休校対策として九月入学を強行すれば相当な負担が、これは学校にも家庭にも避け難いというふうに思うんです。
ここで、西村大臣にお聞きしたいんですけれども、先ほど五月十五日の経済財政諮問会議の提出資料を褒めましたが、一方で、民間議員からは、感染症対策下での教育推進、教育格差の防止として、小中高大学の九月入学の提案というのがやはりこの五月十五日の経済財政諮問会議で提案されていて、新浪議員から、日本の国際競争力確保のためにもこのタイミングを逃したら難しくなると、是非とも九月入学をスタートさせることを前提に進めていただきたいとわざわざ発言もされていると。
私は、経済財政諮問会議をてこにして、教育関係者の議論や国民のコンセンサスを無視して九月入学の議論を起こすようなことはあってはならないと考えますが、いかがでしょう。
○国務大臣(西村康稔君) 九月入学につきましては、まさに学校の臨時休校が、休業が長期化した際の対応案の選択肢の一つとして文科省や与党において検討がなされているものということで承知をしております。御指摘のように、九月入学への移行は経済社会全体に大きな影響を及ぼすものであります。
諮問会議においては、五月十五日の会議で、御指摘のように提出資料に九月入学の検討という文言が記載され、また、一名の民間議員から進めるべき旨の発言があったものというふうに私も認識をしております。文科省や与党における検討の状況、社会全体への影響などを見極めて十分に議論を尽くす必要があるというふうに考えております。
○田村智子君 国際競争力のためこのタイミングを逃したらと、こんな考え方で議論すべきではないんですよ。何より、子供の学びと成長を新型コロナの問題が続く中でどう保障するのか、そして、特定の世代が進学や就職で不利益を受け続けることがないようにするためにどうするのか、学校も行政もここに力を注ぐべきだと思います。
経済財政諮問会議をてこにして、今年度の骨太の方針に書き込むようなことで結論ありきのような議論を進めることはあってはならないというふうに思いますが、これも一問確認しておきます。大臣、いかがですか。
○国務大臣(西村康稔君) 本年の骨太の方針につきましては、まさに今回の新型コロナの感染症拡大を受けまして、新たな日常の構築など、感染症拡大への対応と経済活性化の両立を、それに向けた課題への対応に焦点を当てていきたいというふうに考えております。
今後、諮問会議での議論も踏まえながら骨太方針を取りまとめていきますけれども、現時点で個別の事項の記載について有無を申し上げる段階ではありませんけれども、九月入学につきましては、文科省や与党における検討の状況、社会全体への影響を見極めて十分に議論を尽くす必要があるというふうに認識をしております。
○田村智子君 小中高の九月入学については、一九八七年の臨教審第四次答申で断念して以来、この三十年ほど全く議論がされてこなかったんですね。大学については限定した議論があって、現在も大学の判断で九月入学の枠はあるんですけれども、それさえも様々な課題が指摘をされているわけです。やれ、その国際競争力とかそういう議論ではないですよと。あくまで子供の学びをどうするのか、それから社会全体に与える影響、待機児童の問題とかも含めて、きちんとした国民的な議論ということをやっぱりやっていくべきであるということは重ねて要求をしておきます。
それで、残る時間でちょっと要望だけ。先ほど飛ばしたことで一点なんですけれども、この女性の問題も、それから実は学生の問題もそうなんですけれども、政府広報の在り方がもうちょっと丁寧にあってもいいんじゃないかというふうに私は問題意識を持っておりまして、是非、困っている方の検索語というのが、DV被害に遭っている方や困窮の方って分かると思います。学生も分かると思います。その検索語で効果的な政府広報がLINEで入ってくるとか、ツイッターで入ってくるとか、そういうことを是非、官房長官とも御相談いただいて、ちゃんとその人に届く支援策を進めていただきたいと、このことを要望して、質問を終わります。