高齢運転者の運転技能検査の導入やあおり運転への処罰などを定めた道路交通法の改正案が3日、参院本会議で全会一致で可決・成立しました。
日本共産党の田村智子議員は2日の参院内閣委員会で、同法案にもとづいて高齢者の意に反して移動手段を取り上げ、移動の自由を制限した場合、当事者にとって物理的精神的に大きな打撃となることを指摘。社会的・身体的自立を含め高齢者の尊厳や生活手段の確保について課題が生じるとして、政府に新たな責任を持って政策を進めるよう求めました。
また田村氏は、同法案が第2種免許の受験資格を「19歳以上・普通免許等保有1年以上」に緩和したことについて、業界の人手不足解消のためであり、若い運転手に長時間労働を強いる危険性があると指摘しました。
2020年4月12日(日)しんぶん赤旗より
【2020年4月2日 参議院内閣委員会議事録】
○田村智子君 日本共産党の田村智子です。
本法案は、いわゆるあおり運転、妨害運転についての罰則を創設することなど、全体としては賛成するものですけれども、幾つかの懸念について質問いたします。
この改正で、七十五歳以上の高齢運転者のうち、一定の違反歴がある者には運転技能検査として実車試験を義務付け、検査結果が一定の基準に達しない者には免許更新を認めない制度をつくることになります。運転技能に問題のあるドライバーについて、交通安全の観点から何らかの手だてを取ることは必要と、これは理解いたします。
問題は、本人の意に反して高齢者の移動手段を取り上げ、移動の自由を制限することのダメージですね。買物、通院、生活費を銀行等から引き出すことなど、車を運転できなくなると途端に生活が成り立たなくなるという声は大変切実だと思います。また、長年運転をしてきた高齢者にとっては精神的なダメージも相当に大きいものと思います。
免許の自主返納を促すだけではなくて、新たに免許更新をしないという制度を導入する以上は、これからは誰かに頼りなさいとか、もう出歩くのは控えなさいとかいうことではなく、社会的、身体的な自立も含めて、高齢者の尊厳をどう守っていくのか、生活の手段の確保はどうするのかと、こういう観点から、政府には言わば新たな責任が生じるというふうに思いますが、武田委員長、いかがでしょうか。
○国務大臣(武田良太君) そうした制約というか制度を設けずに、どなたでも運転やりたい方はやっていただいて結構だという社会も、それもいいと思うんですけれども、しかし、自動車というのは、一歩間違えたら自分だけではなくて全く関係のない方の命を奪うという非常に危険性をはらんでいるわけであって、一定のやはり資格というか技能というものを持っていただいている方しか運転していただきたくないというのは、これ当たり前のことだと思います。
先ほど申し上げましたように、地方に行けば行くほど過疎、そして、過疎地というのはおおむね都心部に比べて高齢化というものが目立っておりまして、その移動手段というのは唯一車であり、ほかの公共機関というかが乏しいわけですね。そうした生活に支障を来す分野をどうやってメンテナンスしていくかということも、これは併せて考えていかなくてはなりません。これは、国交省もいろんな今ことを考えてくれていると思うんですけれども、各地方自治体も、それぞれの地域でいろいろとその対策に踏み切っていただいておるところもあるわけであります。
その地域地域の意見を聞きながら、見合った形で我々もできる限りのそのバックアップに努めてまいりたいと、このように考えております。
○田村智子君 これは、本当に新たな責任ということで政策進めていただきたいというふうに思うんですけれども。
この高齢者の運転免許については警察庁の下で調査研究が行われておりまして、高齢者講習指導員に対するアンケートもその中にはあります。これ、中身見ますと、一定の高齢運転者に対する実車試験導入の是非について、賛成三九・三%、反対四一・六%と、反対の方がやや上回るというアンケート結果だったんですよ。これ、高齢者に対する講習指導員へのアンケート。ただ、これは二〇一七年に実施されたもので、その後、大きな事故が起こったなどの社会状況もあったと思います。また、同時に、やっぱり高齢者の免許更新のハードルを上げるということには慎重な検討が必要だったということもうかがえるなというふうに私受け止めています。
賛成反対、その理由も自由記入でありまして、どちらも一理あると私も思いました。あえてこの場では反対の意見について紹介したいんですけれども、代替となる移動手段の確保や生活支援施策の充実等、社会的な支援の整備が先決ではないか、これ今、武田委員長からもお答えあったことだと思います。それから、実車試験だけで免許の取消し等を判断することは難しいのではないか、明確な基準作りが難しい、あるいは、現状の高齢者講習を充実させるなど、試験ではなく教育による解決策が有効ではないかなどの意見が見受けられます。
こうした意見は、法改正に当たってはどのように検討されて法案に盛り込まれているのか、お答えください。
○政府参考人(北村博文君) お答え申し上げます。
先ほど御紹介いただきましたように、過去におきまして教習指導員のアンケート調査を実施した中にそのような意見がございました。
例えば、御紹介いただきました意見でございますけれども、現在の高齢者講習の充実、教育が必要ではないかというもの、あるいは、実車試験だけでは取消しの基準作りが難しいのではないかということ、また、御紹介にはありませんでしたが、現在の高齢者の技能というものを考えれば、普通に試験に合格するような基準に達するというのは難しいのではないかというようなことが反対の理由とされているところでございます。
検討に当たりましては、こうした御意見も踏まえまして、一つには、検査の対象者を絞り込むということでありますし、その検査の中身は、先ほども御紹介しましたように、新規取得のような水準を求めていくというよりは、非常に危険だと、安全な運転はできないという人を更新できないようにするという形に抑え込んでいくというような形にし、また、検査の対象でない方につきましても、高齢者講習の実車指導の教育の場におきまして同じような、検査と同じような形での運転技能の評価を行いまして、それを今後の慎重な運転等に生かしていただくということを考えてございます。
したがいまして、全てというわけではございませんけれども、こうしたアンケートでいただきました御意見というものも取り入れて、先ほど来御説明しておりますような制度にしていこうと考えたところでございます。
○田村智子君 この意見の中にもありました教育による解決という点では、警察庁の資料を見てみますと、実車講習を繰り返すと減点行為をする人が減少するという傾向は私も確認できるというふうに思うんです。そうすると、検査で一定の基準を満たすことが要件になっている以上は、複数回の受検を可能とするということも必要だというふうに思いますが、この受検回数の上限ということは考えているんでしょうか。
○政府参考人(北村博文君) 受検回数の上限については考えてはございませんが、免許更新の前六か月間にこれを受けなければならないということでございますので、おのずからその限界というものはあるかと存じます。
○田村智子君 その六か月という間に、まあ費用の問題もいろいろ出てくるとは思うんですけど、何回受けられるかということになるんですけれども、これ、練習が運転技能の向上につながるということを考えると、練習の機会の確保が大切だというふうに思います。一方で、高齢者講習の予約でさえも取りにくいという実態もありますし、先ほど教習所の方でもこれキャパシティーが本当にあるのかという声が紹介があったというふうに思います。
そうすると、運転技能試験をもう一度受験したいという高齢者に物理的に応えることができなければ実質的には制限をしてしまうということにつながってしまうというふうに思うんですけど、その点はどうでしょうか。
○政府参考人(北村博文君) お答えを申し上げます。
現在も、認知機能検査あるいは高齢運転者の講習、高齢者講習につきまして、地域によっては受検、受講待ちが長期にわたるという問題も発生してきてしまっているわけでございます。今回の改正でも運転技能検査制度というものを新たに導入するという中でございますので、そういった複数回の受検などが本当にできる余裕といいますか、キャパシティーというものがあるんだろうかという御指摘はごもっともかと存じますけれども、今回の制度の見直しに当たりましては、一つには、認知機能検査について、認知症のおそれの有無のみを判定することといたしまして、それの結果を踏まえて、現在二種類あります高齢者講習という形ではなく、高齢者講習は一元化していこうというような合理化、効率化も考えているところでございます。
〔委員長退席、理事上月良祐君着席〕
全体として、制度を合理化、効率化するとともに、先ほど来御指摘のありました手数料といったような問題もございます。今後、運転技能検査の内容、あるいは認知機能検査、高齢者講習の見直し、手数料の見直しなど進めてまいりたいと存じますけれども、その際には、高齢運転者が運転技能検査でありますとか事前に練習するための安全運転教育というようなものを受ける機会が適切に確保されて、高齢運転者の免許更新が円滑になされるように努めてまいりたいと、そのような制度となるように自動車教習所などの関係者の方々とも意見を交わしながら進めてまいりたいと考えてございます。
○田村智子君 本来、運転技術に問題があったら、本当は年齢に関係なく本当は問題なんですよ。だけど、高齢者については更新しないということをやるわけですから、アンケートの中ではいつもと違う環境だといつもの技能が出せない人もいるという意見もありましたから、一回しか受けられなくて事実上取上げということでいいのかということ残りますから、十分な、何というか、対策を是非考えていただきたいと思います。
法案では、本人の申請によって、交通事故防止、被害軽減等の条件を付した限定免許を交付する制度が新たに導入されます。これはサポートカー限定免許を想定しているものだと理解します。
警察庁の検討会の中間報告書では、運転技能検査を合格できないような者にサポカー限定免許の情報提供を行うことも考えられるというような記述が見受けられるんですけれども、サポカー限定免許であれば運転技能検査の結果によらず更新を認めるということは考えてはいないというふうには思うんですけれども、確認いたします。
○政府参考人(北村博文君) お答えを申し上げます。
安全運転サポート車限定免許の対象となります車両というものは、その時々の技術の動向でありますとか、その実用化、普及の状況というものを踏まえて見直していくことが必要でございますので、将来、例えば自動運転に近いものが出てきたというような状況であればまた話は変わってくるかと存じますが、現時点での安全運転サポート車、サポカーというものを前提にいたしますと、例えば信号を守って走ることができるわけではございませんし、右左折時に反対車線に入らないようにということができるものでもございませんので、例えば技能検査においてサポカー免許、限定免許を持っている人は技能が低くてもよろしいということにはならないものと考えてございます。
○田村智子君 サポートカーであっても、高齢運転者による死亡事故の多くを占める出会い頭の衝突、正面衝突、こういう事故を十分に防ぐことはできないという指摘もあるわけです。それが、サポカー限定免許ということがどんどん独り歩きしますと、サポートカーだったら運転ミスがあっても安全だという、そういうアナウンス効果が過大になってしまうんじゃないかということを若干危惧をしております。
どのような機能があるのかなど、サポートカーについて高齢者や家族に対する周知やアドバイス、また、サポカー限定免許では二輪車やトラクターや耕運機等の農業用機器などの運転ができなくなる可能性もあるんだよということなども丁寧な説明が必要だというふうに思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(北村博文君) お答えを申し上げます。
まず、後ろのトラクターとかそういう車両の運転の方を先に御説明申し上げますが、現在考えておりますのは、安全運転サポート車限定免許の条件といたしましては、普通自動車を運転する場合に、安全運転サポート車、そういう機能があるものに限定するということを考えてございますので、申請をいたしまして限定免許に言わば切り替えられた方がトラクターなどを運転する場合には、従来の特別の機能のない通常のトラクターは引き続き運転できることとする予定でございます。
〔理事上月良祐君退席、委員長着席〕
ただ、そうした点も含めまして、先ほど、サポカーの機能には限界があってそれに頼って安全が確保できるのではないというようなこと、あるいはどういう車両がサポカー限定免許の対象となるかというようなことも含めましてでございますが、やはり国民の皆様方に正しく理解していただくということが不可欠でございますので、制度につきまして、また安全運転サポート車の機能ということにつきまして国民の皆様方に十分周知して御理解いただくように努めてまいる必要があると考えてございます。
○田村智子君 高齢者に対する免許証の自主返納と併せて、高齢者が運転できなくなる方向での制度の整備が進むことになっていくわけですね。
先ほど、物理的な問題、ローカル線の廃止等々に対してどうしていくかということは、これ検討必要だという御答弁ありましたので、それはそのとおりなんですけど、私、もう一つ、精神的な問題というのも本当にケアが必要だというふうに思うんですよ。例えば、これ認知症が進んでいく過程で、これは私の知り合いであった事例であるんですけれども、免許が更新されなかった、そのときにその事実を受け止め切れなくて、警察に意地悪をされて自分は免許を取り上げられちゃったんだというふうに思い込んで、無免許状態でしばらく運転をしていた、そのことに家族が気付いて、もうキーも取り上げて運転できないようにしたと。だけど、そういうことも含めて、高齢者の方の、何というんですかね、生活の質が落ち込むということと、人間としての尊厳が傷つけられていくという問題があるんです。
ですから、今回の、免許が更新されなかった場合に、だけども、それで、じゃ、ここまでだったら歩いて買物もするようになれば、そうすると足腰鍛えるようになるよねとか、こういうふうな工夫をしていけばむしろ生活の質が上がるよねとか、本来、介護につなげなければいけない人が、このことを通じて介護につながって、いろんなホームヘルプのサービスとかにつながっていって生活の質がむしろ良くなったとか、こういうマイナスではないようなものも含めて、高齢者の皆さんに納得していただくということも、私、必要になっていくと思うんですよ。
そうすると、是非、警察庁だけでなくて、大臣、厚労大臣、それから国交大臣とも連携した、そういう仕組みも検討必要になってくると思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(武田良太君) 御指摘も理解できます。
やはり、そうした失意に陥ったというか、免許を取り上げられたというふうに思われる方は本当に気の毒なんですけれども、一方で、これ、我々の地元でもよく聞く話なんですけれども、元気に見えるお年寄りが運転していても、御家族がもう運転やめてほしいと、もし万が一よそ様を傷つけたり尊い命を奪ったりしたらもうたまったものじゃないって、そうした御家族は、御家族の努力でいろんな面でそうしたバックアップ、フォローをしているんですけれども、一個重要な問題は、独り暮らしのお年寄りが、もう全く御家族もいないといえば本当に生活ができなくなるということに関しては、やはり、こういった我々がしっかりと考えていかなくちゃならぬなとは思っております。
最初申し上げましたように、交通安全緊急対策、昨年六月にまとめたやつに、高齢者の移動を伴う日常生活を支える施策の充実として様々なものが掲げられておるんですけれども、その中には、介護サービスと輸送サービス、連携強化というようなものもこれ含まれておるわけであって、先ほどから申し上げますように、警察庁はもとより、関係省庁と連携して、そうした方々が暮らしやすい町づくりについても、環境づくりについても今から努力を重ねてまいりたいと、このように思っています。
○田村智子君 次に、もう一点、第二種免許の年齢要件の緩和についてお聞きします。
警察庁の資料を見ますと、同じ経験年数でも、十代は顕著に人身事故率が高いと。この問題も含め、現在二十一歳以上とされる第二種免許を十九歳以上と年齢緩和することについて広く検証がなされたとは言えないんですね、むしろ業界の人手不足をどうするかが先行したということになるわけです。
そうすると、このドライバーを雇用するバスやタクシーなどの事業者が、本人の資質を判断して適切に配置や指導をすることが欠かせませんし、これは人手不足が先行しての年齢緩和ですから、じゃ、若いからといって長時間労働を強いるようなことがあれば、これ本当に問題だというふうに思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(武田良太君) バス、タクシーの事業者において、労働時間や運転時間、休憩時間などについて関係法令を遵守すべきことは当然のことと考えております。この点については、国土交通省等において適切に対処すべく努めていると認識しておりますけれども、警察庁としても、過労運転をさせてはならないという道路交通法の禁止規定がございます。これが遵守されるよう、適切な指導、取締りを行わなければならないと、このように考えております。
○田村智子君 是非、本当に、職場の実態改善を国交省と一緒に取り組んでいただきたいと思います。