国会会議録

国会会議録
年金カット法案 田村智子議員の代表質問 参院本会議

日本共産党の田村智子議員が2日の参院本会議で行った年金カット法案に対する代表質問(要旨)は次の通りです。

 安倍晋三総理は「将来の年金水準を確保する法案だ」と繰り返してきましたが、世論調査をみても本法案への反対は5~6割にも上っています。

 基礎年金・国民年金のみの人の平均受給額は月5万円にすぎません。女性は厚生年金でも平均月額10万2000円にとどまり、年金収入が年100万円未満は6割を超えます。

 「下流老人」「老後破産」という言葉が現役世代にも「明日はわが身」と受け止められるほど、高齢世代の貧困は社会問題となっています。年金では医療費や介護の利用料をまかなえない下で、年金削減は高齢者の家族の生活にも悪影響を与えます。

 年金給付は多くの道府県で県民所得の1割以上を占め、高齢者の個人消費が落ち込めば景気低迷をもたらし、賃金の低下で保険料収入にも影響を与える。こうした悪循環の引き金にもなりかねません。

 本法案は「賃金マイナス・スライド」というべき新たな年金削減の仕組みを導入します。物価と賃金がともにマイナスで、賃金の下げ幅の方が大きい場合は、賃金に合わせて年金を下げる。物価が上がっても賃金がマイナスの場合、年金はマイナスとなる。ひたすら低い方に合わせるもので、直近10年間に当てはめると、現在の年金より3%以上、給付水準が引き下がります。

 政府は「年金カット法案ではない」と強弁していますが、賃金が下がる局面では、現在のルールより年金支給額を引き下げることになります。

 政府・与党は「将来の年金水準を確保する」と、現役世代にプラスであるかのような宣伝をしています。ところが総理は「2014年の財政検証での見通し以上に上昇させるものではありません」と答弁しました。ルール改定によって引き下げられた年金が次世代に引き渡され、現役世代にとってもマイナスにしかなりません。

 本法案では「マクロ経済スライド」で削り残しが出た場合、翌年度以降に繰り越し、物価が上がった時にまとめて年金を抑制する「キャリーオーバー」も導入します。消費税増税などで物価が上昇したときに「キャリーオーバー」分をまとめて発動させることで、どんなに物価が上がっても年金は実質減額になります。

 本法案では、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に経営委員会を設立するとしていますが、任免権は厚労大臣にあり、年金運用の方針を時の政権が左右する仕組みが温存されるのではありませんか。

 年金水準の切り下げで年金財源を確保するというのは、高齢者の尊厳を踏みにじる、政治の貧困の表れです。

 「応能負担」原則による大企業・大資産家への課税強化で財源を確保し国庫負担を引き上げる、高額所得者の保険料負担を引き上げる、こうした格差の是正によって、安心できる年金制度への転換を図るべきです。

2016年12月4日 しんぶん赤旗

 

【議事録】

○田村智子君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました国民年金法等の一部を改正する法案に関し、安倍総理に質問いたします。

 まず、将来にわたって年金受給額に影響を与える重要な法案を、衆議院で強行採決の上、会期末前日に参議院に送付し、会期延長によって押し通そうという横暴極まりない安倍内閣と与党に強く抗議いたします。

 安倍総理は将来の年金水準を確保する法案だと説明を繰り返してきましたが、直近の世論調査を見ても、本法案への反対は五割から六割にも上っています。世代を超えて国民の不安が広がっていることを直視すべきです。

 今、基礎年金、国民年金のみ受給する方の平均受給額は月五万円にすぎません。中でも女性は、厚生年金でも平均月額十万二千円にとどまり、年金収入が年百万円未満の女性は六割を超えます。この間、医療や介護の保険料、消費税、所得税、住民税、公共料金などの負担増が繰り返され、高齢者の生活は厳しさを増しています。下流老人、老後破産という言葉が、高齢者だけでなく、現役世代にも明日は我が身と深刻に受け止められるほど、高齢世代の貧困は社会問題となっているのです。

 総理は、高齢世代の貧困が深刻化しているということをお認めになりますか。また、この解決こそ直面する課題だという認識はありますか。

 本法案は、年金改定に新たなルールを導入し、月一万円台の低年金も含め公的年金支給額の更なる引下げを行うものです。今でも、低年金、無年金によって高齢者世帯の生活保護受給率は六%に達しています。更なる年金支給水準の引下げは高齢者の生活に重大な影響を与えると考えますが、総理の認識を伺います。

 今、介護離職への対策が求められるほど、親の生活を支える現役世代の負担も重くなっています。年金では医療費や介護の利用料を賄えないという実態の下で年金削減が強行されれば、高齢者の家族の生活にも悪影響を与えるのではありませんか。

 更に指摘したいのは、地域経済への影響です。年金給付は、多くの道府県で県民所得の一割以上を占め、七つの県では県民所得の一五%を超えています。年金削減は、当然、高齢者の買い控えに拍車を掛け、地元の商店街などに直接の影響を与えるでしょう。

 高齢者の個人消費が落ち込めば、内需不振による景気低迷をもたらし、賃金の低落を招き、年金保険料収入にも影響を与える。こうした悪循環の引き金にもなりかねないと考えますが、総理の認識をお聞きします。

 本法案は、賃金マイナススライドというべき新たな年金削減の仕組みを導入するものです。物価と賃金が共にマイナスで賃金の下げ幅の方が大きい場合は、賃金に合わせて年金を下げる。物価が上がっても賃金がマイナスの場合、年金はマイナス改定となる。まさに、ひたすら低い方に合わせるというもので、直近十年間に当てはめると、現在の年金より三%以上給付水準が引き下がることになります。

 衆議院の審議で、政府は年金カット法案ではないと強弁していますが、この法案によって、賃金が下がる局面では現在のルールより年金支給額を引き下げることになる、このことを認めますか。

 政府・与党は、賃金マイナススライドの導入によって将来の年金水準を確保すると、あたかも現役世代にとってプラスであるかのような宣伝を繰り返しています。ところが、衆議院の委員会質疑で、総理は、将来の年金支給額について、二〇一四年の財政検証での見通し以上に上昇させるものではありませんと答弁されました。将来世代の年金水準を引き上げるわけではなく、むしろ、新しい改定ルールによって引き下げられた年金が次世代に引き渡され、現役世代にとってもマイナスにしかならないのではありませんか。

 実際、厚労省の検証で、最も可能性のある経済ケースで推移した場合、基礎年金のマクロ調整が終わるのは二〇四〇年代、現在の四十代が年金受給するときまでマクロ経済スライドによって年金額が減らされることになります。現役世代に幅広く恩恵があるかのような宣伝は、事実を偽るものではありませんか。

 本法案では、賃金マイナススライドに加え、各年度のマクロ経済スライドで削り残しが出た場合に、それを翌年度以降に繰り越し、物価が上がったときにまとめて年金を抑制する、いわゆるキャリーオーバーの仕組みも導入しようとしています。消費税増税などで物価が上昇したときに、キャリーオーバー分をまとめて発動させることで、どんなに物価が上がっても年金は実質減額することになります。

 厚労省は、経済状況が好転しない場合、マクロ経済スライドが最長二〇七二年度まで続くことがあり得るという試算まで示しています。現在の小学生が年金を受け取るときまで、年金の支給抑制が続くことがあり得るということです。本法案にマクロ経済スライドの歯止めはあるのか、お答えください。

 年金積立金管理運用独立行政法人、GPIFについてお聞きします。

 今、GPIFをめぐる国民の懸念は、年金積立金が株価つり上げに利用され、アベノミクスの好調を演出する道具にされているのではないかということです。

 GPIFのポートフォリオ変更、株式運用の拡大に先立ち、安倍首相は、海外でも年金積立金のフォワードルッキングな改革を表明して、日本株買いを呼びかけ、さらには、GPIFの運営委員を次々に交代させるなど、政権の意向で年金積立金の運用方針が決まることを国内外に示してきました。

 本法案では、GPIFに経営委員会を新設するとしていますが、委員及び委員長の任命権は厚労大臣にあり、結局、経営委員会の任命を通じて年金運用の方針を時の政権が左右する仕組みが温存されるのではありませんか。

 また、巨額の積立金を株式運用に投入したことで、みずほフィナンシャルグループなど三大メガバンクの筆頭株主になるなど、GPIFが実態として大銀行、大企業の株価を支えていることをどう認識されますか。

 マクロ経済スライドによる年金支給額の抑制、削減、またGPIFの株式運用比率の拡大、これらは年金保険料の負担が増えることを嫌った財界、大企業の要求に応えたものであり、高齢者の個人の尊厳、健康で文化的な生活の保障を脇に置いた政策だと言わなければなりません。

 貯金が底をついたら、もう家賃も払えない、長生きするなということでしょうか、高齢者の切実な声は年々強まっています。にもかかわらず、年金水準の切下げで年金財源を確保するというのは、高齢者の尊厳を踏みにじる政治の貧困の表れです。

 応能負担原則による大企業、大資産家への課税強化で財源を確保し国庫負担を引き上げる、高額所得者の保険料負担を引き上げる、こうした格差の是正によって、安心できる年金制度への転換を図るべきではありませんか。

 日本共産党は、世代間の対立をあおって、年金を始め高齢者の社会保障切下げを当然とする政治を許さず、格差と貧困の是正を求める世代を超えた連帯で安倍政権に立ち向かうことを表明し、質問を終わります。(拍手)

   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 田村議員にお答えをいたします。

 高齢世代の貧困についてお尋ねがありました。

 高齢者の生活状況については、国民生活基礎調査や全国消費実態調査などの様々な統計データの活用により多角的な実態把握に努めており、長期的に見れば、高齢者の相対的貧困率は若干改善が見られます。しかしながら、低所得、低年金、無年金などにより、厳しい生活を送られている方がいることも事実であります。

 このため、先般御可決をいただいた二十五年から十年への年金の受給資格期間の短縮に加え、さらに、社会保障・税一体改革で行うこととしている年金生活者支援給付金の創設、医療、介護の保険料負担の軽減など、社会保障全体を通じた低所得者対策をしっかりと講じてまいります。

 年金額改定ルールの見直しによる高齢者への影響についてお尋ねがありました。

 今回の年金額改定ルールの見直しは、将来のあらゆる事態に対応できる仕組みにするためのものであります。もとより、安倍政権ではデフレ脱却、賃金上昇を含む経済の再生に全力で取り組んでおり、賃金が下がるということを前提としているわけではありません。

 その上で、賃金に合わせ年金額を改定する見直しに当たっては、低年金、低所得の方に対する年最大六万円の福祉的な給付が平成三十一年十月までにスタートした後の平成三十三年度から適用することとしており、現在の受給者にも十分配慮しています。これによって、年金と相まって、今まで以上に高齢者の生活を支えます。したがって、高齢者や御家族の生活に悪影響を与えるや、あるいは経済の悪循環の引き金になりかねないといった御指摘は当たらないと考えます。

 年金額の改定ルールの見直しの影響についてのお尋ねがありました。

 安倍政権では、デフレ脱却、賃金上昇を含む経済再生に全力で取り組んでいるところです。その上で、非常に長期にわたって運営される公的年金制度を持続可能なものとしていくためには、あらゆる事態に対応できる仕組みにする必要があります。

 今回の賃金に合わせて年金額を改定するルールでは、将来、仮に賃金が下がった際に、賃金に合わせて名目の年金額は下がることとなりますが、所得代替率には影響は生じません。むしろ、過去、賃金が下がったときに、それに応じて年金額を下げてこなかったことにより所得代替率が上昇し、マクロ経済スライドの調整期間が長期間になったことにより将来の基礎年金の水準の低下につながったことから、今回の改正を行うものであります。

 今回の年金額改定ルールの見直しは、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付を行う仕組みにしておくことにより、マクロ経済スライドの調整期間の長期化を防ぐものであります。若い世代が受け取る年金の水準が下がることを防止し、世代間の公平性が確保され、若い世代が安心して今の高齢者の年金を支えることができるものと考えます。

 GPIFによる運用についてお尋ねがありました。

 年金積立金の運用は厚生労働大臣が責任を持って行う公的年金事業である以上、経営委員の任命に関しても厚生労働大臣がその最終的な責任を負う仕組みとすることが適当と考えています。しかしながら、年金積立金の運用は、法律の規定に基づき、専ら被保険者の利益のために行われており、この点は本法案による改正後も変更はなく、時の政権が運用の方針を左右するとの指摘は当たりません。

 GPIFは、国内株式の運用に当たって、法律の規定に基づき二十の信託銀行などに投資判断の全てを一任しており、個別の投資判断にGPIFが関与する余地はないこと、二千社以上の幅広い企業の株式に投資を行っており、決して一部の企業に集中して株式投資を行っているわけではないことから、GPIFが大銀行、大企業の株価を支えているとの批判は全く当たりません。

 安心できる年金制度への転換についてお尋ねがありました。

 年金制度については、現役世代が負担する保険料、さらには税によって高齢者世代を支えるという仕組みで運営されています。その仕組みにおいて、今回提案している賃金に合わせた年金額の改定の見直しは、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とすることで、将来にわたって給付水準を確保し、世代間の公平の確保等に資するものであります。

 また、この見直しについては、低年金、低所得の方に対する年最大六万円の福祉的な給付が平成三十一年十月までにスタートした後の平成三十三年度から適用することとしており、現在の受給者にも十分配慮しています。これにより、年金と相まって、今まで以上に高齢者の生活を支えてまいります。したがって、今回の改正が高齢者の尊厳を踏みにじるものとの御指摘は当たりません。

 今回の法案を始め、世代間の公平や世代内の所得再配分の観点を含めた不断の改革に取り組むことで、将来にわたって所得代替率五〇%を確保し、高齢世代も若い世代も安心できる年金制度をしっかりと構築をしてまいります。(拍手)

 


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