「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」(女性活躍推進法案)が31日、参院本会議で審議入りし、日本共産党の田村智子議員が質問に立ちました。
田村氏は、安倍首相が、女性の力を活用して「強い日本経済を取り戻す」と主張していることについて、女性差別の解消、地位向上そのものに取り組むことが日本の経済や社会を豊かに発展させると主張し、賃金・昇格の男女格差をどう解消していくのか、具体的にただしました。
男女雇用機会均等法制定から30年が経過してなお、正規雇用に限定しても女性の賃金は男性の7割にすぎません。田村氏は、その要因として、コース別雇用管理等で女性の昇給を頭打ちにする間接差別が事実上容認されてきたと指摘。労働者300人超の企業に策定が義務づけられる「行動計画」に、男女賃金格差の実態把握と格差解消の目標を含めるべきと求めました。塩崎恭久厚労相は、衆議院の審議をふまえ、賃金格差の状況把握を任意項目として加えることを検討していると答弁しました。
田村氏は、第1子出産を機に6割の女性が離職し、その1割近くが「解雇・退職勧奨された」と回答していることをあげ、マタニティーハラスメントや不利益取り扱いについて、労働局の調査・指導を強めるべきだと求めました。
また、仕事と家庭の両立支援の最大の障壁は長時間労働だと指摘し、男女平等を理由に女性の深夜労働解禁まで行った自民党政治を厳しく批判。男女ともの深夜労働規制、時間外労働の規制、「残業代ゼロ法案」の撤回を求めました。有村治子男女共同参画担当相は、長時間労働是正の必要性を認めながら、「多様な働き方の選択」が必要だとして、労働時間規制を否定しました。
2015年8月1日(土) 赤旗
【 本会議 2015年07月31日 議事録 】
○田村智子君 私は、日本共産党を代表して、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案について質問いたします。
安倍内閣は、昨年、成長戦略の柱に女性の活躍促進を位置付け、本法案を提出しました。しかし、稼ぐ力を取り戻す、女性の力を活用することが日本の強い経済を取り戻すために不可欠という総理の言葉には、強い違和感を禁じ得ません。
社会の様々な分野で女性が力を発揮することは、結果として日本の経済や社会を豊かに発展させるでしょう。それは、女性差別の撤廃、地位向上に取り組んでこそ実現します。
有村大臣、女性の活躍促進とは、稼ぐ力を取り戻すための手段なのでしょうか。それとも、我が国における男女平等の立ち遅れを認め、全ての女性の権利尊重、社会的地位向上そのものに取り組むということでしょうか。
今や全就業者の四割以上が女性であり、女性たちは、現に日本の経済、産業を担っています。しかし、平均賃金は、正規雇用に限定しても男性の七割にすぎません。女性の管理職比率は、課長相当以上で民間七・五%、国家公務員三%にとどまり、欧米諸国はもとより、シンガポールやフィリピンなどアジア諸国と比較しても立ち遅れています。
今年は、男女雇用機会均等法制定から三十年です。私もいわゆる均等法世代の一人で、私の周りでも多くの女性たちが男女平等を期待しながら職業生活を送ってきました。しかし、大卒の五十代女性が今も二十代男性の賃金水準のままに据え置かれている、このような実態が、民間、公務を問わず、現にあるのです。
塩崎厚労大臣にお聞きします。
三十年が経過してなお、なぜ今も歴然とした男女の賃金格差があるのか、なぜこれほど女性の管理職が少ないのか。長時間労働や広域配転に応じるかどうかを昇進の踏み絵とするようなコース別雇用管理等で、女性への間接差別を事実上容認してきたことが大きな要因ではありませんか。
法案では、労働者数三百人超の企業に、女性の活躍推進の取組、達成目標などを行動計画として定め、公表すること、また、採用や管理職の女性比率、継続勤務年数の男女の差異などを把握することを義務付けていますが、どういうデータを公表するかは企業任せです。
その上、賃金の男女格差については実態把握の対象にもされていません。行動計画で管理職比率や勤続年数の格差が解消されれば賃金格差も解消されるとの答弁が衆議院の審議でありましたが、コース別雇用管理によって女性の昇給が頭打ちにされている事例は多々あります。
女性差別を解消するには、雇用形態別、コース別、年齢別に男女の賃金実態を把握、公表すること、賃金格差解消の目標を持つことが不可欠ではありませんか。
法案では、派遣労働者について、派遣先企業に何も義務付けていません。派遣で働く女性たちは、派遣先企業で正社員と変わらない仕事をしながら、ボーナスも退職金もないなどの格差に直面しているのです。
派遣元企業が行動計画を策定し、実態も把握するとしていますが、そもそも、女性の派遣労働者の七六%が登録型派遣です。登録型派遣について、一体どのような行動計画を策定するのでしょうか。育児休業法で派遣先企業の責任を明記していることに照らしても、派遣先企業に対して、実態把握、正社員での直接雇用の目標設定を義務付けるべきではありませんか。
第一子の出産を機に六割の女性が離職しています。離職の理由を見ると、正規雇用の女性の二六%が仕事を続けたかったが仕事と育児の両立が難しかった、一割近くが解雇された、退職勧奨されたと回答しています。
有村大臣、多くの女性たちが仕事か家庭かの二者択一を迫られている、その要因をどう分析されますか。
同僚の妊娠を素直に喜べない自分が嫌になる、ある女性労働者から寄せられた声です。慢性的な人手不足にメスを入れなければ、出産、育児への職場の理解は進みません。人件費抑制による利益追求、行き過ぎたリストラ、合理化などが仕事と家庭の両立支援を妨げているという認識はありますか。また、国家公務員の定員削減が両立支援に与えている影響を調査、分析すべきではありませんか。
深刻なのは、妊娠を知りながら長時間の立ち仕事に就かせる、うちには育児休業の規定はないと言われたなど、マタニティーハラスメントが社会問題になっていることです。マタニティーハラスメントゼロ社会の実現を政府として明確に掲げるときだと考えますが、有村大臣の見解を求めます。
退職勧奨に応じない子育て中の女性労働者に遠距離通勤を命じたルネサス、妊娠中の客室乗務員の地上勤務を認めず無給の自宅待機を命じた日本航空など、名立たる大企業でも両立支援に逆行する人事が横行しています。また、非正規雇用の女性は、妊娠が分かると契約期間満了で雇い止めという事例が多々あります。当事者が労働局に相談しても、企業への聞き取り程度で、まともな調査もされていないのが実態です。
出産、育児を理由とした不利益扱いを労働者が申し立てた場合、事業者の立証責任を明確にし、労働行政による調査、指導を強化することが必要ではありませんか。塩崎大臣の答弁を求めます。
仕事と家庭の両立にとって最も大きな障壁は、長時間労働です。
三十から四十代前半の男性の四人に一人が、過労死ラインを超える月八十時間以上の残業をしています。これでは、男性の育児休業取得も進むはずがありません。
労働基準法は、労働時間を一日八時間以内としながら、三十六条で、労使協定があれば残業を可能とし、大臣告示で、月四十五時間以内、年三百六十時間以内の時間外労働を認め、さらには、特別条項付きの協定であればこの基準を超えることをも認めています。事実、大企業の二割以上が年間八百時間超の時間外労働を届け出ています。この実態を放置して、どうして両立支援ができるでしょうか。せめて、大臣告示の特別条項をなくすべきではありませんか。塩崎大臣の決断を求めます。
長時間労働、深夜労働は、今や女性労働者の中にも蔓延しています。一九九九年、事もあろうに男女平等を理由に女性の深夜労働を解禁したことが、男女共に長時間労働を一層深刻にしているのです。
有村大臣は、衆議院の審議で、長時間労働の是正が本丸だと答弁されました。ならば、男女共の深夜労働の規制を検討すべきではありませんか。また、規制改革会議の担当大臣として、八時間労働制の根幹を掘り崩す残業代ゼロ法案の提出を促してきたことをどう認識されますか。長時間労働の是正に本気で取り組むには、この法案の撤回こそ求められているのではありませんか。両大臣にお聞きします。
戦後、男女平等が憲法にうたわれ、女性たちは、就職差別、若年退職制度などに立ち向かい、あからさまな女性差別を克服してきました。芝信用金庫の昇格差別裁判、パートの賃金差別を是正させた丸子警報器裁判など、安い労働力として女性を利用する企業とあまたの女性たちが自分の人生を懸けて闘い、一歩一歩女性の地位向上を実現させてきたのです。今も、新手の女性差別の仕組みを次々に編み出す経済界に女性たちは声を上げ続けています。
政治が女性たちの闘いから何を学ぶのかが問われています。経済界からの要望で、派遣労働法の改悪法案や残業代ゼロ法案を提出する安倍内閣には、女性活躍を口にする資格などないことを指摘し、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣有村治子君登壇、拍手〕
○国務大臣(有村治子君) 田村智子議員にお答えをいたします。
女性の活躍推進の目的についてお尋ねがありました。
安倍内閣は、全ての女性が輝く社会の実現を最重要課題の一つとしています。女性が、自らの希望に応じ、家庭、地域、職場といったそれぞれの場において、個性と能力を十分に発揮し、輝くことができる社会を目指してまいります。
女性の活躍を推進することは、男女共に仕事と家庭を両立でき、全ての人にとって暮らしやすい社会にもつながります。結果として、我が国の持続的成長の実現や社会の活力の維持につながると考えます。
本法案に基づく取組によって、働く場面での女性の活躍を推進するとともに、六月に決定した女性活躍加速のための重点方針二〇一五の着実な実行などにより、あらゆる分野における女性の活躍を更に推進してまいります。
女性の仕事と家庭の両立を妨げている要因についてお尋ねをいただきました。
御紹介をいただきましたように、厚生労働省の調査によると、妊娠、出産を機に退職した理由として、仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めたという理由が約三割となっています。その背景には、勤務時間が合いそうにもなかった、職場に両立を支援する雰囲気がなかった、育児休業を取れそうにもなかったという理由が挙げられています。
そのため、女性活躍加速のための重点方針二〇一五に基づき、長時間労働の削減等の働き方改革を進めるとともに、育児休業期間中の代替要員を確保した事業主への支援の拡充を図ってまいりたいと考えております。
国家公務員の定員削減が両立支援に与えている影響に関するお尋ねをいただきました。
国家公務員の定員については、厳しい財政状況の中、計画的に合理化を進めてきたところですが、定員を合理化するに当たっては、業務の見直しや働き方改革等を進めることにより、職員一人一人の業務負担が増加しないよう取り組んでいかなければなりません。
また、国家公務員の仕事と育児の両立支援を図るため、今年度から初めて、各府省の産前産後休暇等の取得実態等を踏まえて、休暇等の取得による人手不足を補うことができるよう、代替要員等を配置するために必要な定員措置を初めて行うことといたしました。
今後も、こうした取組により、国家公務員の仕事と家庭の両立に支障のないように努めてまいりたいと考えます。
いわゆるマタニティーハラスメントが起こらない社会の実現についてお尋ねがありました。
女性の活躍を推進するためには、御指摘のとおり、その大前提として、マタニティーハラスメントを始めとするあらゆるハラスメントを根絶することが必要不可欠であると考えます。このため、六月に決定した女性活躍加速のための重点方針二〇一五に基づき、マタニティーハラスメントの防止に向けた法的対応も含めた取組強化を進め、ハラスメントのない社会の実現を目指してまいります。
長時間労働や深夜労働の問題についてお尋ねをいただきました。
女性の活躍推進に向けた最大の障壁の一つが長時間労働であると認識をしております。御指摘の深夜労働の規制については、厚生労働省が所管となりますが、いずれにしても、長時間勤務の削減や、短時間勤務などの多様な働き方が選択できる環境の整備が重要だと認識をいたしております。
労働基準法等の改正案について、認識についてお尋ねをいただきました。
規制改革会議では、働く方々それぞれの健康を確保し、創造性と高い生産性を発揮できる柔軟な労働環境をつくることが必要との観点から議論を行ってきました。現在、国会に提出中の労働基準法の改正法案の所管は、第一義的には厚生労働省ですが、ワーク・ライフ・バランスの観点から、年次有給休暇を確実に取っていただくことなどの健康確保策を含む働き過ぎ是正措置を盛り込み、働く方々の多様なニーズに対応した新たな選択肢を設けたものと承知しており、時代の変化に即応したものと考えております。(拍手)
〔国務大臣塩崎恭久君登壇、拍手〕
○国務大臣(塩崎恭久君) 田村智子議員にお答えを申し上げます。
コース別雇用管理などの間接差別や男女間の賃金格差の解消についてのお尋ねがございました。
法で間接差別として禁止されている転勤要件等については、合理的な理由があれば差別には当たらないものであり、間接差別を容認してきたようなことはありません。御指摘の男女間賃金格差の是正や女性管理職の増加のためには、採用から登用に至る様々な側面における男女間の実質的格差を解消していくことこそ重要であると考えております。
このため、本法案では、男女間の実質的格差の縮小の契機となるよう、採用から登用に至る項目の状況把握、課題分析を行った上で行動計画策定を求めております。また、賃金格差については、様々な要素が関連するものであり、状況把握の必須項目とはしておりませんが、衆議院の附帯決議も踏まえ、まず状況把握の任意項目として加えることを検討し、検討結果に応じた対応を行ってまいります。
派遣労働者についての派遣元の行動計画、派遣先の実態把握などについてのお尋ねがございました。
派遣労働者につきましては、まず雇用主である派遣元が責任を持って状況把握、課題分析、行動計画策定等に取り組む必要があることから、登録型派遣労働者については、派遣元において、派遣就業をする際に、例えばキャリアアップのための教育訓練や継続就業に向けた取組などを行うような計画策定をすることが考えられます。
その一方、派遣労働者と雇用関係にない派遣先に対して目標設定などの義務付けを行うことは困難ですが、長時間労働や職場風土改革など、派遣元と派遣先が協力をしながら進めることが効果的と考えられる取組については、具体的な在り方について検討をしてまいります。
出産、育児を理由とする不利益取扱いに関する指導強化などについてのお尋ねがございました。
出産、育児を理由とする不利益取扱いについては、本年一月に、出産、育児等を契機として不利益取扱いを行った場合は、原則として、男女雇用機会均等法等に違反することを明確化する通達を発出したところでございます。これにより、事業主が客観的な資料を提出し、法違反に該当しないことを明らかにできない場合には法違反と判断をし、都道府県労働局において厳正に指導を行います。
時間外労働に関する大臣告示における特別条項の撤廃についてのお尋ねがございました。
特別条項を撤廃をし時間外労働の上限を設けることについては、働く方の健康確保のため必要という意見と、柔軟な事業運営に大きな影響を与えるため反対という意見の隔たりが大きく、労働政策審議会でも結論を得るには至りませんでした。
しかしながら、労働政策審議会の建議を踏まえ、労働時間等設定改善法に基づく指針に、著しい時間外労働の縮減に取り組むことが望ましい旨を明記し、労使の取組を促すこととしております。また、現在、長時間労働が疑われる企業等への監督指導を徹底するなど、長時間労働対策の強化を図っているところです。
こうした取組を通じて、働く方の長時間労働を是正し、健康の確保とワーク・ライフ・バランスの実現を図ってまいります。
深夜労働の規制についてのお尋ねがございました。
深夜労働は、長時間労働や過重労働につながりかねないものであり、その在り方については、働く方の健康や生活時間の確保とともに、事業活動の柔軟性の確保の観点も踏まえ、労使間で議論が尽くされるべき問題と考えております。
本年二月に取りまとめられました労働政策審議会の建議を踏まえ、労使が自主的に取り組むことが望ましい措置の一つとして、深夜業の回数制限を労働時間等設定改善法に基づく指針に位置付け、こうした取組を促進することとしております。
労働基準法改正法案の撤回についてのお尋ねがございました。
今国会に提出をいたしております労働基準法等の一部を改正する法律案は、ワーク・ライフ・バランスの観点から、働き過ぎを是正するとともに、多様で柔軟な働き方を進めるものです。この法案は、長時間労働の是正策として、中小企業における月六十時間を超える時間外労働に対する割増し賃金率の引上げ、年に五日の年次有給休暇を確実に取得できる仕組みの創設、長時間労働への労働基準監督署の対応の強化などが盛り込まれており、これらはいずれも実効性ある内容と考えております。
厚生労働省としては、この法案について是非早期に御審議をいただき、速やかに可決いただくことをお願いをしたいと考えております。
以上でございます。(拍手)