日本共産党 田村智子

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奨学金貸与倍増で学生の願いはどうなる

 99年度予算案で注目を集めている一つが、育英会奨学生の10万人増という計画である。概算要求の段階から一般新開も文部省の目玉施策として報道し、学生の学費負担軽減への期待がしめされていた。
 育英会奨学事業は国による奨学事業で、学校長の推薦を受けた出額者を学業成績、家庭の経済状況などの基準に照らして選考し、奨学生の採用がなされている。奨学金は毎月の貸与として学生に送金され、卒業後、およそ十数年をかけて返済をすることになる。貸与事業であるにもかかわらず、毎年採用をはるかに上回る出願者がおり、奨学生の大幅な増員は学生の切実な要求となってきた。
 来年度は、奨学生総数を10万人増やすという計画だが、現在の育英会奨学生が総数で約50万人、創立(1933年度)以来の増員数は最多年度で3万人強、ほとんどの年度で1万人に満たないことをみても、この増員がいかにきわだっているかがわかる。

学費負担は限界、大幅増員は当然

 かつてない規模での増員計画について、文部省は「昨今、教育費負担は非常に重いものとなっていることから、負担軽減策として奨学金の重要性が高まって」いると説明をしている。「高すぎる学費」を文部省自身が認めざるをえないのである。
 実際、長引く不況のもとで学費未納による中途退学という事態が広がりをみせ、大学が銀行と提携して「教育ローン」を斡旋するという事例まで生じている。奨学生の大幅増員は緊急に求められる施策である。
 98年3月、国会で日本育英合法の一部「改正」の論議がおこなわれたさいに、石井郁子衆院議員は、欧米の奨学金制度をしめし、「日本は世界最高の学費、最低の奨学金」であると指摘し、奨学金制度の大幅拡充を要求した。町村文部大臣(当時)も現状の不十分さを認め、拡充への努力を約束した。来年度の計画は、こうした議論が反映されたものといえる。
 しかし重大なことに、政府は「奨学金拡充」をいいながら、一方で、さらなる学費値上げ路線をおしすすめている。
国立大学の99年度授業料の値上げはすでに確定しており、在学中の授業料値上げを可能とする「スライド制」まで導入した。そのうえ2000年度の入学金を二千円値上げしようというのである。国立大学の入学金は、私立平均と同水準になりかねない(資料1)。
 「非常に重い」教育費負担そのものについては、なんらメスをいれず、「払えないなら、お金を貸しましょう」というのが、政府・文部省の方針である。

増員でも国庫負担は軽くなる

・有利子貸与が主流に

 奨学生を10万人ふやすためには、一千億円の予算増を必要とするが、文部省はこれを国の一般合計から出さず、郵便貯金などを活用する財政投融資からもってこようとしている。
 財政投融資を原資とする奨学金は、「第二種奨学金」として1984年に創設されたが、貸与総額に利子を上乗せして返還が必要となるため、「これが奨学金といえるのか」などの批判があいついだ。「第二種」創設を審議可決した国会でも、「育英会奨学事業は、無利子貸与制を根幹として・・・、有利子貸与制度は、補完措置とし財政が好転した場合には検討すること」という附帯決議があげられたほどである(衆議院文教委員会附帯決議84年7月4日)。
 今年度の大学・大学院の奨学生をみると、無利子貸与の「第一種」貸与者は約39万人、「第二種」貸与者は約10万人、育英奨学事業は不十分ながら無利子貸与を中心にしてきたといえる。
 ところが、来年度は「第一種」の増員は、大学学部の予約採用(高校3年時点での採用者)1600人、大学院で3000人、かたや「第二種」は10万人増がある。これは、国会審議や附帯決議に逆行し、育英奨学事業の主流を「第二種奨学金」にしていくものではないだろうか。文部省の説明によれば、来年度を皮切りに、数年のうちに「第二種」貸与者の50万人増を検討しているという。

・国の援助はないに等しい

 来年度以降の「第二種」は、「学生ローン」 への変質をともなっている。現行「第二種」は、奨学生にたいしてわずかでも国からの援助といえる要素がある。財政投融資を原資とすれば、資金運用上は、奨学金貸与がはじまったその月から貸与額に利子がつく。しかし現行では、在学中の利子分、また卒業後、就職できないなどの場合に適用される返還猶予期間(一年以内)の利子分も団の負担としている。利率についても上限を3%と定め、これを上回る場合は国の負担となる。この利子補給金は、年間約百億円であり、これが政府による援助分といえる。
 ところが来年度から新規に貸与する「第二種」については、「利子補給という考え方はなくなる」(文部省)というのである。貸与をはじめた月からの利子が返還総額に加算され、返還猶予中も利子は上乗せされていく。そのうえ、利率は財政投融資の金利に従って5年ごとに見直し、上限は設けない。国庫負担は軽減して、奨学金貸与者の枠を拡大しょうというのである。
 文部省の説明では、「ドライな関係」という言葉を使っている。徹底した貸与事業、国による比較的低利率の「学生ローン」であることを意味する言葉ではないだろうか。

若年破産の危険性さえ

 新「第二種」は、貸与月額も3、5、8、10万などから選択できる方向で検討されている。かりに10万円を選択し四年間貸与をうけると、利率2%として返還総額は五百八十万円をこえることになり、卒業直後の4月から、毎月3万円強の返済がせまられる(資料2)。しかも、現在の低金利がこのまま続くとはいえず、利率がはね上がれば返還総額も当然ふくらみ、月々の返済計画に変更を迫られる可能性もある。学生の就職難、若年失業者の問題が深刻なときだけに、これはあまりにリスクの大きい借金ではないだろうか。
 いま日本育英会には、「奨学金の返済ができない」あるいは「自己破産申告による返還免除」を伝える電話が連日のように入っているという。奨学金制度が、若年破産に追い打ちをかける危険性さえ生じるのではないだろうか。
 こうした案が周知されるにしたがい、学生のなかからは「不安で貸与を受ける気にならない」「有利子ばかり大幅増員するのはゆるせない」という声がひろがっている。来年度から10万人単位で奨学生が増えていくことになれば、「安心して受けられる奨学金制度」は、全国の学生の共通した要求へと発展していくだろう。

安心して受けられる奨学金を

 高すぎる学費はさらに引き上げ、「払えないなら借金しなさい」とばかりに、「学生ローン」化した「奨学金」を斡旋する、こうした教育政策が根本から問われるときがきている。学生はもちろん、労働者からも「賃上げしても学費値上げで帳消しになる」という声が出され、高学費負担の軽減をもとめる運動は幅広い国民の要求上して発展しつつある。
 国立大学学費は、深刻な不況への対策として、緊急に値上げをストップし、値下げすべきである。奨学金は欧米並に給与制を設け(資料3)、貸与についても無利子とすること、こうした政策的転換が求められる。これらの改善要求は、無理難題ではない。学生にたいして、なんらかの援助策を請じるのは当然の責務である。来年度予算に検討が加えられることを切望する。