日本共産党 田村智子
コラム

【13.07.02】生活保護の法案の問題点(その2)

家庭裁判所も活用して保護費の返還を家族に求める

生活保護法の一部を改正する法律案、扶養義務者に関する新しい条文が盛り込まれていたことも、制度を大きく変えるものだと、私は考えています。

法案によれば、
�保護の申請書を受け取った福祉事務所は、申請者の扶養義務者に申請書の内容についての報告を求めることができる。すでに生活保護を受けている人についても同様。
�保護を決定すると、扶養義務者に通知する(その内容は厚生労働省令で定める)。
�扶養義務者の収入や納税等の状況を把握するために、民間(勤務先や預金している銀行など)、官公署(自治体や税務署、年金機構など)に、報告や資料の提出を求めることができ、官公署は求めがあった場合は報告が義務づけられる。

実はこれが、今回の法案の「肝」ではないかと、私はにらんでいます。
家族からの仕送りや支援を、もっと強力に求めれば、生活保護費は抑えられる。
そのための手続きの根拠となる法改定を狙った。
申請書の提出を法律に書き込もうとしたのも、「水際作戦」を奨励するのではなく(違法ですから奨励できるはずがありません)、扶養義務者に報告を求めるために必要だからというのが、一番の狙いでは?

これまでの委員会審議では、扶養義務者に機械的に�〜�を行うのではなく、「家事審判にしたいと思うような場合」に「限定」するという答弁が繰り返されました。
扶養義務者(親、子ども、兄弟などが考えられますが、法律上は3親等までの親族)に、すでに支給した保護費の返還を求めて家庭裁判所に申し立てるような場合、ということです。

不正受給のケースは刑事事件ですから、ここで想定されているのは全く別のケースです。
「いくらなら仕送りができるのか」「これまで支給した保護費も返還可能な額はいくらか」などを、家庭裁判所で協議して決定するということです。

法案にもとづけば、このような流れが想定されるのでは…。
申請書には、生活保護を必要とする事由が記載事項の一つです。
福祉事務所は、扶養義務者に「こういう理由であなたからの援助は困難だと言っていますが本当でしょうか」など報告を求める。
同時に、扶養義務者の家族構成や、収入、納税額、資産などを調査する。
「仕送りは可能」と判断した場合、扶養義務者に通知し、そのなかで「扶養が可能である場合には、保護費返還を求めて家庭裁判所に調停を申し立てる場合がある」などの説明を付記する。
――こうした「マニュアル」が法案から見えてこないでしょうか。

家族が支えあう、困った時に頼れる、そういう関係であることは大切です。
しかし一方で、「扶養は生活保護受給の要件ではない」ことは明確なのです。
(言い換えれば、「仕送りが受けられない」「仕送りがあっても生活費が足りない」、こういう要件を満たさなければ生活保護を受けられない、ということではありません。)

家事審判の可能性まで示されて「扶養できないのか」と求められた場合、家族関係はどうなるのでしょうか。
家族は、申請者にどのような感情を持つでしょうか。
障害や難病をもちながら独立して生活する方々が、「実家に帰ってこい」「世間に迷惑かけても一人暮らしをするのか」等々の「説得」を受けることにならないか。

申請窓口はどうなるでしょう。
「家族があなたの面倒みられることがわかったら、家庭裁判所に保護費の返還を求めるかもしれませんよ」という説明をすることは違法ではありません。
法律にもとづいて制度を詳しく説明しただけ、ということになるでしょう。
まさに合法的「水際作戦」です。

そして福祉事務所の職員のみなさん、ケースワーカーさんの仕事に与える影響は?
扶養義務者と接触する事務、家事審判手続きの事務が増えることになります。
申請者・受給者本人と向き合い、相談にのり、本当の自立支援の仕事が、今以上に困難になるのでは。

これが制度の改正とはとても考えられません。
福祉事務所が福祉の最前線としてふさわしい仕事ができるような運用改善、職員体制の見直しこそ、切実に求められています。
第3回目には、そのことにもふれて、このテーマを終了しようと思います。